交流電力の基礎知識と電力測定器の仕組み

(月刊「トランジスタ技術」2005年2月号掲載)
横河M&C株式会社 MCC技術部 河崎 誠
通信測定器事業部第2開発PJTセンター 数見 昌弘

目次

 

概要

電力測定器は、電気機器や電力設備の消費電力を測定する装置であり、家電製品、照明器具、産業用機器などの研究開発、生産ライン、受配電設備などの分野で、幅広く使用されています。
近年の地球環境問題やエネルギー資源の有効活用の観点から電気機器の省エネルギー化の要求が高まっています。そのため、機器の高効率化、小型化が進められる中、高周波駆動の電力変換部を持つ機器が増えており、より広い周波数帯域、より高精度の電力計測が求められています。
さらに高効率化のために、電力変換器は複雑な電力制御を行っており、その電力変換回路内の変換過程ごとに消費される電力を細かく測定する必要性が高まってきています。
一方、環境マネージメントシステム(ISO14001)の認定企業や省エネルギー法の規定により、電力量の管理も必要になってきています。

 

電力測定原理

1. 交流信号の基本原理

●有効電力は瞬時電圧と瞬時電流の積の平均
交流の電力は、負荷が容量性(コンデンサ)の場合や誘導性(インダクタンス)の場合は電圧と電流の間に位相差が生じます。電圧の瞬時値u(t)および電流の瞬時値i(t)がそれぞれ正弦波形であり、式1 と表せる場合、交流の電力の瞬時値 p は、次のように表されます。
式2
U:電圧実効値 I:電流実効値 φは電圧と電流の位相差
pは時間に無関係の「UIcosφ」と、電圧や電流の2倍の周波数の交流分「-UIcos(2ωt-φ)」の和になります。負荷で消費される単位時間あたりの電力Pは、pの平均値であるため、pの交流分「-UIcos(2ωt-φ)」はゼロとなり、電力Pは、P=UIcosφ[W]になります。上記をまとめると、単位時間あたりの電力は以下の式になります。
式3

負荷の種類 回路 電圧・電流波形 ベクトル図
抵抗 R 電圧・電流波形_1 ベクトル図_1
インダクタンス L 電圧・電流波形_2 ベクトル図_2
キャパシタンス C 電圧・電流波形_3 ベクトル図_3
図1:負荷の種類と電圧、電流の位相差の関係

 

●有効電力、無効電力、皮相電力
交流では、電圧と電流の積UIすべてが負荷で消費される電力ではありません。同じ電圧と電流でも、その位相差φによって消費される電力が異なります。図1に負荷が抵抗、インダクタンス、キャパシタンスの場合の電圧と電流の関係を示します。電圧実効値と電流実効値の積UIは、皮相電力S(apparent power単位:VA)といわれ、見かけの電力を表します。皮相電力は、機器の電気容量を表すのに用いられます。皮相電力のうち、前述の負荷で消費される電力を有効電力P(active powerまたはeffective power 単位:W)、消費に寄与しない電力を無効Q(reactive power 単位:var)といいます。
皮相電力、有効電力、無効電力の関係は以下の式で表されます。

ここで、cosφは、皮相電力に対して実際に負荷で消費された電力の割合を示したもので、これを力率λ(power factor)といいます。

式4

皮相電力、有効電力、無効電力の関係

図2:皮相電力、有効電力、無効電力の関係

 

2. ひずみ波の電力 有効電力は各周波数成分ごとの電圧、電流、位相の積の総和

有効電力は、瞬時電圧と瞬時電流の積を電圧または電流の一周期の区間平均することで表されます。ひずみ波の電圧、電流および電力が含まれる場合には、電圧、電流、有効電力は、次の式で表されます。

式1

nは高調波成分の次数、U,Iはn次成分の電圧、電流実効値、φnはn次成分の電圧と電流間の位相差

ひずみ波電圧とひずみ波電流による有効電力は、同じ高調波成分(周波数)の電圧、電流と力率の積から得られる有効電力の総和であることが分かります。異なる周波数成分による電圧と電流の積の平均値はゼロ となり、有効電力にならないことを表しています。有効電力を測定する場合には、電圧あるいは電流の一方が高い周波数成分が含まれていたとしても、低い方の周波数帯域の特性をもつ測定器を使用すれば良いことになります。

3. 三相電力

●基本は各相の総和
三相の電力は、各相の電力を3台の電力計を用いて測定し、それぞれの電力を加算すれば求まります(図3参照)。しかし、実際の電力系統では図4のように、中線が存在しないことがあります。このような場合はブロンデルの定理より図4のように電力計を2台使用してその和から求めることができます。

3つの電力計を用いた三相電力測定方式
三相電力は各相の電力の和3箇所の負荷の電力を個別に測定していると考えればよい 矢印_下  
3つの電力計を用いた三相電力測定方式
図3:3つの電力計を用いた三相電力測定方式

 

2電力計法による三相3線結線
ブロンデルの定理
n相電力はn-1個の電力計で測定できる。
図4:2電力計法による三相3線結線

 

●ブロンデルの定理
「多相の電力は送っている電線の数がn本の時、n-1台の電力計で測定することができる」

3つの電力計による測定では、中線を基準にした各相電圧と各相電流から電力を測定しているのに対して、2電力計法の場合は、各線間電圧と関係する相電流から電力を測定することになります。理論上は、いずれの方法でも三相のトータル電力の値は同じになります。これをベクトル式(図5参照)を用いて以下に説明します。

式2

2電力計法の場合、線間電圧と相電流の位相差がそれぞれ異なるため、各々の電力計で表示される値は異なります。また、相電圧と相電流の位相関係により、線間電圧と相電流との位相差が90度以上になる場合もあるため、この場合は負の電力を表示することになります。よって電力の値は、あくまで三相電力のトータル値のみが意味を持つことになります。また、2電力計法を用いた場合、基本的には三相不平衡状態でも有効電力は正しく測定できますが、各相電流のベクトル和が零にならない状態(例えば、中線電流が流れる場合など)では、上記の式のUT×(IR+IS+IT)の項が零にならないため、この部分が電力計表示値に対して測定誤差となります。

三相電圧、電流ベクトル図
三相の電圧、電流をベクトル図で捉えると考えやすい。
図5:三相電圧、電流ベクトル図

 

電力測定器の仕組み

1. 電力計の種類 ベンチトップ型とポータブル型

電力計は一般的にポータブル型(携帯型)とベンチトップ型(ラックマウント型)に大別されます。ポータブル型は小形化、軽量化設計により携帯に適しており、クランプオンプローブを装着し、現場での活線状態での測定が可能となります(写真1参照)。特に、近年における省エネルギー政策や環境保全に関する国際規格ISO14000を推進していく上で、工場、オフィスサイドでの簡易的な電力量管理、及び電力ラインの品質管理にはこのタイプを使用すれば測定が可能です。
一方、ベンチトップ型では単相測定用の1チャネル入力モデルから、三相測定用の2または3チャネル用、さらには1台で三相2系統(最大6チャネル)を同時に測定できるモデルまで多数の機種が用意されています。こちらのタイプは、一般に電流が直接入力式になっているためにポータブル型よりも測定精度が良く、他の測定器類とともに計測しシステムとしてラックに組込まれて製品の評価試験などに使用される場合が多いようです。(写真2参照)

ポータブル型電力計 CW500
写真1:ポータブル型電力計(CW500
ベンチトップ型電力計 WT5000
写真2:ベンチトップ型電力計(WT5000
 

●電力計の構成
一般的なディジタル方式の回路をもった電力計の構成を図6に示します。電圧入力部(VOLTAGE INPUT)、電流入力部(CURRENT INPUT)、DSP部、CPU部、表示部、およびインタフェース部で構成されています。電圧入力回路では、入力電圧は分圧器とOPアンプで正規化された電圧になり、A/D変換器に入力されます。電流入力回路では、分流器により閉路になっており、分流器の両端電圧はOPアンプで増幅/正規化されてA/D変換器に入力されます。この方式により電流レンジを切り替えても電流入力回路は開路にならないので、通電したままでも安全にレンジ切り替えができ、通信によるリモート制御も可能となります。電圧回路と電流回路のA/D変換器の出力であるディジタルデータは、絶縁素子(ISOLATOR)を使って絶縁され、DSP(Digital Signal Processor)に送られます。 DSPでは、サンプリングしたディジタル値を電圧、電流、有効電力に変換処理したものを一定期間加算し、その加算値をサンプリング数で除して、電圧、電流、有効電力の測定値を求めています。
電圧入力方式には、図6に示した抵抗分圧方式の他にVT(変圧器)方式などがあります。測定対象に合わせて、適切な入力形式をもつ測定器を選択する必要があります。また、電流入力方式には、シャント入力方式、CT(変流器)方式などがあります。特にポータブルタイプの場合、電流入力方式はクランプオンプローブになります。VT方式、CT方式およびクランププローブでは、その入力部で一次側と絶縁されるため、電力計本体は絶縁素子を持ちません。

電力計の構成

図6:電力計の構成
 

2. 電圧入力回路の発熱と電圧係数に注意しなければならない大電圧測定

一般的な抵抗分圧方式の電圧入力部を図7に示します。入力電圧は内部で扱いやすい低電圧に分圧するための初段回路と正規化するためのレンジ切り替え回路で構成されます。電力計の入力精度は初段アンプの性能で大きく左右されます。初段アンプおよび入力抵抗はそれ自身の誤差だけでなく、1000Vまでという大電圧が直接入力されるため耐圧特性、自己発熱による温度ドリフトに影響する温度係数、電圧係数に注意して部品を選定する必要があります。また電圧回路を測定回路に接続すると、電源側から見れば電圧入力抵抗が負荷に見えてしまいます。そのため抵抗値はできるだけ大きな抵抗であることが望ましいと言えます。抵抗が大きくなる一方で、入力回路の周波数特性は悪くなる傾向になります。これは入力の抵抗と実装面との浮遊容量のため、あたかも入力抵抗と浮遊容量による微分回路が構成され、抵抗が大きいほど周波数特性に影響を与えてしまい低くなります。この影響を軽減させるためには、リファレンス抵抗(図7中R2,R3)にコンデンサ(図7中C2,C3)を挿入し周波数特性を補正します。安定した性能を得るには、入力抵抗と実装面との距離を離したり、入力抵抗に大きい容量や安定した容量結合させるためのシールドをあえて近くに実装するなどして、浮遊容量という不確定な要因を少なくすることが必要です。

電圧入力回路

図7:電圧入力回路(簡略図:抵抗分圧方式)

 

3. 電流入力回路 シャント抵抗、クランプセンサ、CTなどの電流センシング

電流入力回路は電流信号を扱いやすい信号に変換します。測定する電流値や目的により、シャント抵抗、CT、クランプオンセンサを使用します。以下にそれぞれの特徴を示します。

●シャント抵抗
シャント抵抗に電流を通電したときの両端電圧を検出します。抵抗体での測定は他の方法と比べて技術的に確立されており、部品も豊富なため高精度な測定ができます。しかし、抵抗に電流を流すため発熱によるドリフトが問題になります。発熱を抑えるためには抵抗値を小さくする必要があります。一方、低抵抗になったときには抵抗体内部のインダクタンス成分が相対的に大きく見えてくるため周波数特性の平坦度の維持が困難になります。また出力側の電圧が微小になるため、抵抗体内部の熱起電力に注意する必要があります。熱起電力は抵抗内部の抵抗体と導電部の接合点が異種金属であるために発生する起電力で、高精度な測定をするためには抵抗体と導体の材質の選定が重要になります。

●クランプオンプローブ
クランプオンプローブは活線状態のケーブルを断線することなくクランプし、一次側の電流を絶縁して、正確に二次側に信号を伝達する目的があります。基本的には、一次側が1ターンの変流器と考えられるため、回路図と等価回路は図8となります。この図では巻線数2000ターン、負荷抵抗10Ωですから、たとえば一次側が200Aの時に二次側に1Vの電圧が得られます。しかしこの値は変流器が理想的に動作した場合で、実際にはE0=K×I1/n×Rで示されます。ここでE0は二次側電圧、I1は一次電流、nは二次側巻線数、Rは負荷抵抗、Kは結合係数を表します。
結合係数は、鉄心材料(透磁率や磁束密度)、鉄心断面積、鉄心開閉部のギャップ、巻線数、線径、平均磁路長、負荷抵抗や構造などで決まります。一般的に鉄心は透磁率の高いパーマロイを使用する場合が多いようです。
一次電流と二次電圧、クランプする線径などから鉄心断面積、巻線数、平均磁路長、負荷抵抗を決めていきますが、巻線によるインダクタンスや抵抗は位相特性や周波数特性に影響を与えます。これらの影響を補正するために図8のようなC-R回路を追加する場合もあります。また、巻線数を調整したり、巻線抵抗を減らすために線径を太くする方法がありますが、クランプ部分が太くなり過ぎて実使用に耐えないものになってしまうため注意が必要です。
一方、隣接する銅線に流れる電流による磁界やクランプ内部の導線位置の影響を軽減するために、シールドを追加したり巻線の位置を極力均等にします。

クランプオンプローブの回路図例
クランプオンプローブの回路図例

クランプオンプローブの等価回路
クランプオンプローブの等価回路

L1:一次側の漏洩インダクタンス
L2:二次側の漏洩インダクタンス
R1:一次側の巻線抵抗
R2:二次側の巻線抵抗
LM:相互インダクタンス
RM:鉄損

図8:電流入力回路図と等価回路(クランプオンプローブ)

 

●CT
原理はクランプオンプローブと同じです。クランプオンプローブと大きく異なるのは測定対象に貫通させるなど活線状態のまま接続できない点です。一方で巻き線部が固定されているため特性が極めて安定しています。DCを測定するための回路が搭載されたものもあり、より高精度な大電流測定に適します。

4. 演算部

有効電力は電圧と電流の瞬時値の積を平均化することで求められます。
旧来のアナログタイプの電力測定器の場合は、電圧、電流をアナログ掛け算器で掛け算し、LPFで平均化して電力測定を実現していました。現在ではディジタルサンプリング、ディジタル平均方式の電力計が主流となっています。ディジタル方式のメリットは以下のとおりです。

 ・アナログ素子が少ないため高精度化が容易で製品ごとの個体差が少ない。
 ・測定、演算項目間の同時性がある。
 ・微小入力時での精度(直線性)が良く力率誤差が小さい。
 ・サンプルデータをディジタル的に処理できるので、波形表示、解析などが可能になる。

ディジタルサンプリング方式の電力計には平均化の手法上、
FIR 型(Finite Impulse Response : 有限長インパルス応答)ディジタルフィルタ方式と
IIR 型(Infinite Impulse Response : 無限長インパルス応答)ディジタルフィルタ方式があります。

●高速な応答を実現しやすいFIR型ディジタルフィルタ方式 
FIR 型ディジタルフィルタ方式ではサンプル区間中の全サンプルデータの総和を平均して電力値を算出します。正確に測定するためにはサンプル区間を入力周期の1周期または数周期と同じにする必要があります。そのため入力信号をコンパレータ回路で信号のゼロレベル(ゼロクロスポイント)を検出し入力周期に同期した有効サンプル区間を検出します。この有効サンプル区間にあるサンプルデータの総和をサンプル数Nで割ることで電力値を得ます。

式

この方式では原理的に1周期の結果を平均することで有効電力が算出できるため高速応答を実現できます。

●安定した測定値を得やすいIIR型ディジタルフィルタ方式
IIR 型デジタルフィルタ方式では算出した瞬時電力の結果をIIR 型デジタルフィルタにて平滑することで有効電力を求めています。入力の周期を検出する必要がなく、原理的には測定休止期間がありません。そのためより安定した測定値が得られるという特長があります。

式
式

5. 高調波測定機能 電力測定と電力品位の評価を実現するPLL回路とFFT演算

測定原理はFFTアナライザと同等です。FFTアナライザが周波数基準の解析を行うのに対して、電力計の高調波解析機能は基本波の倍数成分にある高調波次数の解析を行います。このために基本波周波数に同期したサンプルを実現する必要があります。この同期したサンプルを実現するのがPLL回路です。図9にPLL回路の概要を示します。

PLL回路による入力信号周期に周期下サンプルブロック生成

図9:PLL回路による入力信号周期に周期下サンプルブロック生成

 

位相コンパレータは2つの入力されたクロックの位相を比較し位相差信号をパルス出力します。電圧を印加することで発振周波数を変化させることが出来る電圧制御発信器(VCO)に位相差信号をループフィルタを通して直流化した信号を印加します。VCOの出力は位相比較器に入力されます。このときVCOの出力周波数を1/Nに分周して位相比較器に入力することで、VCOの出力は入力周波数のN倍の周波数になります。
これにより入力信号に同期したサンプルが可能になり、入力信号の基本波成分およびその整数倍成分が正確に測定することができる。以下に基本波成分の演算式を示します。

式

この演算式の特徴は無効電力Qを直接求めることが可能なことです。ひずみ波の皮相電力や無効電力は正確には定義されていませんが、各周波数成分においては有効電力、無効電力、皮相電力の関係は2.1項に示す基本的な定義を満たします。

 

実際の計測事例でのポイント インバータ消費電力測定

インバータとは電力変換器の一つで、簡単に言うと直流を交流に変換する装置です。直流信号を交流信号に変換する場合、スイッチング回路を用いてパルス幅を変化させて出力を擬似的な交流信号を作ります。このようにパルス幅を変化させる変調方式をPWM変調方式と呼びます。図10に変調のイメージを図示します。

インバータ変調イメージ図

図10:インバータ変調イメージ図

 

●インバータ測定で必要な測定帯域の考え方
インバータの用途でもっとも主流な対象はモータで、モータは抵抗とインダクタンスが直列につながった負荷です。R-L負荷の例としてR:1Ω、L:1mHに基本周波数30Hz、キャリア周波数10kHzのPWM電圧を印加した場合、R-L負荷の周波数特性、PWM電圧信号含有率と有効電力含有率のスペクトラムは図11のとおりです。
R-L負荷に高周波成分を有するPWM電圧を印加しても、高周波電流は負荷特性のためほとんど流れません。2.2項で述べたように有効電力測定には電圧あるいは電流のいずれか低い方の周波数帯域の特性をもつ測定器を使用すれば良いので、電圧PWM信号に極めて高い周波数成分が含まれていても電流信号には含まれないため、高い測定帯域が必ずしも必要とは言えません。図11の例から考えるとモータ駆動インバータの場合、ある程度の高精度測定を可能にするにはキャリア周波数の数倍までの測定帯域があればいいと言うことになります。

●最新のインバータ駆動モータでは電圧測定に注意
インバータモータを試験する場合、モータの駆動特性はインバータ出力電圧の基本波実効値に左右されると考えられています。また、正弦波制御PWMの基本波実効値は平均値整流実効値校正(電圧MEAN)で得られる測定値とほぼ一致するので、インバータの電圧測定は平均値整流実効値校正で測定することが一般化しているようです。ただし近年の可変調PWM制御など正弦波PWM以外の変調信号では平均値整流実効値校正が基本波とはかけ離れた測定値となる場合があります。このようなケースでは3.4項のとおり電力計では高調波測定という機能を使えば正確な基本波測定が可能です。従来の電力計では定常的に電力を測定する場合と高調波の測定をする場合で、測定はモードを切り替える必要があったが、最新の電力計では電圧、電流、電力と、高調波測定が同時におこなえるようになっております。そのため、測定が容易になっただけでなく、電力測定値と基本波測定値の時間的同時性が保たれます。インバータ駆動回路では時間経過とともに変化する発熱が機器の特性に大きく影響するので同時にデータが取れることは大変重要であると言えます。

 

RL負荷 FFT結果 インピーダンス実数部

RL負荷 FFT結果 インピーダンス実数部

モータはR-L負荷なので周波数が高いとインピーダンスが増える

 

PWM FFT結果 電圧 電力含有率

PWM FFT結果 電圧 電力含有率

電力のスペクトルは基本成分に対してキャリア成分は極めて少ない

図11:PWMインバータの電圧、電力含有率とR-L負荷の周波数特性例

 

まとめ

インバータや電源などのパワーエレクトロニクスでは大電圧、大電流で駆動することが多く動作時に発熱を伴うため、回路特性の変化や配線のロスが影響することもあります。また複雑な制御回路を構成し、測定状態は時間変動とともに変化してしまうので同じ状態を保つことが大変困難になってきています。したがって、測定対象をより正確に測定するには入出力間の同時測定や各測定項目を時間的に同時に測定するという基本的な測定手段が実は極めて重要です。扱う信号のレベルや周波数に応じた最適な結線方法、測定のための条件設定などが測定器の選定以上に重要であるケースもあるので注意が必要です。

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