エネルギースター対象機器の評価要求事項とそれに適合した電力測定のポイントについて

1.概要

地球温暖化は、毎日消費するエネルギーと密接な関係にあります。とくに近年は、長時間スイッチを入れた状態になりがちなオフィス機器のエネルギー消費が問題になっています。
「国際エネルギースタープログラム」は、これらの機器の消費電力を削減するために生まれた制度です。
国際エネルギースタープログラムは、1995年10月から日米両政府の合意のもとに実施されています。EU、カナダ、オーストラリア、台湾など世界7カ国で実施されているオフィス機器の国際省エネルギー制度です。
コンピュータ、ディスプレイおよびプリンター、スキャナ、ファクシミリ等の画像機器が対象になります。
製品の稼動、スリープ、オフ時の消費電力などについて、省エネ性能の優れた上位25%の製品が適合するように基準が設定されて、この基準を満たす製品にロゴの使用が認められます。

このプログラムでは、機器の種類によって試験方法および測定器の性能を細かく規定しています。また省エネを実現した機器では稼動状態とスリープ状態の消費電力の差が激しく測定が難しくなるため、測定器の使用方法および選別には注意が必要です。

2.エネルギースター対象機器の試験条件

対象機器によって適合基準と試験方法が決められています。

 2.1.コンピュータおよびディスプレイ
消費電力と低消費電力モードへの移行時間が決められています。

■ コンピュータ

  • 消費電力
    アイドル時、スリー-プ時およびオフ時消費電力(W)
  • スリープまたはオフモードへの移行時間
    コンピュータが無動作状態になってから15分以内(ディスプレイ)、30分以内(コンピュータ)

■ ディスプレイ

  • 消費電力
    稼働時、スリープ時およびオフ時消費電力(W)
  • スリープまたはオフモードへの移行時間
    ディスプレイが無動作状態になってから30分以内

 2.2.画像機器
機器の種類によって試験手順と適合基準が決められています。

2.2.1.Typical Electricity Consumption (TEC)試験手順

● 対象機器
 電子写真(EP)や固体インク(SI)などの技術を使用する標準サイズの画像機器(IE)製品
  (複写機、デジタル印刷機、ファクシミリ、複合機(MFD)、プリンターなど)

● 判定基準
 概念的1週間の消費電力量を基準とします。
 1日の稼動状態を以下のように規定しています。

TEC測定で規定する1日の稼動状態

図1:TEC測定で規定する1日の稼動状態

 1回の測定での消費電力は以下の手順で測定します。

TEC測定の手順

図2:TEC測定の手順

 測定結果を元に1日あたりのジョブに必要な消費電力量を算出します。

 ジョブに必要な平均消費電力量
     =(ジョブ2+ジョブ3+ジョブ4)/3

 1日あたりのジョブに必要な消費電力量
     =(ジョブ1×2)+[(1日あたりのジョブ数-2)×ジョブに必要な平均消費電力量)]

 TECは対象機器のよって計算方法が2通りあります。

● プリンタ, プリント機能付きデジタル印刷機, プリント機能付き複合機, およびファクシミリの場合

 1日あたりのスリープ時の消費電力量
     =[24時間-((1日あたりのジョブ数/4)+(最終時間×2))] ×スリープ時の消費電力

 1日あたりの消費電力量
    =1日あたりのジョブに必要な消費電力量+(2×最終時の消費電力量)
      +1日あたりのスリープ時の消費電力量

 TEC = (1日あたりの消費電力量×5)+(スリープ時の消費電力×48)

● 複写機, デジタル印刷機, プリント機能の無い複合機の場合

 1日あたりの自動オフ時の消費電力量
    =[24時間-((1日あたりのジョブ数/4)+(最終時間×2))] ×自動オフ時の消費電力

 1日あたりの消費電力量
    =1日あたりのジョブに必要な消費電力量+(2×最終時の消費電力量)
       +1日あたりの自動オフ時の消費電力量

 TEC = (1日あたりの消費電力量×5)+(自動オフ時の消費電力×48)

2.2.2.Operational Mode (OM)試験手順

以下対象機器に含まれる画像機器は、OM試験手順で決められた試験方法で
消費電力と低消費電力モードへの移行時間が評価されます。

● 対象機器
 インクジェット(IJ), ドットマトリックス, インパクト等のマーキング技術を使用する製品や
 スキャナ、すべての大判および小判機器
● 判定基準
 ・消費電力 : スリープ時および待機時の消費電力
 ・スリープ状態への移行時間 : 無動作状態になってから5~60分以内スリープ状態になること

Note : 参考文献
 “ENERGY STAR® Qualified Imaging Equipment Operational Mode (OM) Test Procedure”


 2.3.測定への要求事項

2.3.1.電源および周囲環境

・ 電源電圧
  北米/台湾 : 115V (±1%)  AC, 60 Hz (±1%)
  欧州/豪州/ニュージーランド : 230V(±1%) AC, 50 Hz (±1%)
  日本 : 100 V(±1%) AC, 50 Hz (±1%)/60 Hz (±1%)
  注:最大消費電力が1.5kWを超える製品に対して、電圧範囲は±4%である。

・ 全高調波歪み (THD)(電圧)< 2% THD
 (最大消費電力が1.5kWを超える製品に対しては、<5% THD)

・ 周囲温度 : 23℃ ± 5℃
・ 相対湿度 : 10 - 80 %

2.3.2.電力計への要求事項

・ 有効電力測定帯域
  有効電力測定帯域 3 kHz以上
  SW方式の電源を内蔵した機器を考慮する。

・ 有効電力測定分解能

  P≦10W 0.01W
  10W<P≦100W 0.1W
  100W<P≦1500W 1W
  1.5kW<P 10W

・ 積算消費電力量の測定値は、平均消費電力に変換された場合に、これらの値と一致する分解能でなくてはならい。
・ 精度  0.5%以内
・ 校正  12ヶ月ごとに校正を実施しなければならない。

Note : 参考文献
 “TEST CONDITIONS AND EQUIPMENT FOR ENERGY STAR® IMAGING EQUIPMENT PRODUCTS”

3.エネルギースター対象機器向けの電力計

3.1.積算機能

コピー機のようなOA機器では、感熱工程、紙送り工程などで大きなエネルギーを消費します。
省エネルギー化を実現している機器では、必要時のみエネルギーを消費し、必要以外のエネルギーを削減することで省エネを実現しています。そのため、稼動状態を測定する場合でも変動の激しい測定となります。
測定器の測定値表示をモニターしても値の変動が激しいため、平均的な稼動状態の電力を測定するのは困難です。
このため電力計の積算機能を使って測定します。
積算電力を時間換算することで稼動状態の平均的な電力を得ることができます。
式
   Pavg:稼動区間の平均的な電力(W)
   WP:稼動区間の積算電力(Wh)
   Ti:稼働時間(積算時間)(h)

変動する対象の積算で重要なことは、測定ギャップの有無です。
測定器によっては、データ更新区間中に有効データ区間と、測定していない無効データ区間(測定ギャップ)が存在するものがあるので注意が必要です。
測定ギャップがあるとその区間の変動を測定できないため、正しい結果が得られなくなります。
横河電機が現在販売しているWTシリーズは、すべてNo Gapで積算値を測定するので、安心して使用いただけます。

変動測定対象と測定器の測定区間

図3 変動測定対象と測定器の測定区間

電力計によっては、測定ギャップが生じるものがあるので注意が必要です。
WTシリーズでも積算ではない通常測定ではギャップが生じます。
有効電力の測定データを収集してPCで積算演算するような処理をすると、WTシリーズ本体で積算した結果と異なることがありますので注意が必要です。
さらに、WTシリーズは豊富な演算機能により、積算区間内の平均電力をリアルタイムに表示できます。


3.2.確度

エネルギースター対象機器は電力測定では、測定精度0.5%以内という規定があります。
電力計の測定確度は読み値誤差とレンジ誤差で表現されます。
以下に測定器の設定と測定誤差についての例を示します。

条件例
  レンジ設定: 100V/1A レンジ
  電力計確度: 仕様 0.1% of reading + 0.05% of range
例1
  入力の条件: 100V,1A 力率1 有効電力 100W
  トータルの誤差:  
  100W×(0.1% of reading)+100Wレンジ×(0.05% of range)
    =0.1W+0.05W  =0.15W (0.15% of reading)
例2
  入力の条件: 100V,0.5A 力率1 有効電力 50W
  トータルの誤差 :  
  50W×(0.1% of reading)+100Wレンジ×(0.05% of range)
  =0.05W+0.05W =0.1W (0.2% of reading)

このように同じ測定レンジでも、測定レンジに対して入力が小さいときの方が測定誤差が悪くなることがわかります。 適正レンジで測定することが重要です。
機器の省エネ化、待機電力の削減が進むことにより、よりワイドな電流レンジが必要になってきます。
コンピュータやディスプレイ、OM 試験手順が適応される画像機器では、待機状態の微小電流を測定ことが多いため、最適な微小電流レンジを有する測定器が必要です。
変動の激しい測定を行うときにはレンジを固定にして、積算で測定を行います。このとき測定レンジはオーバーレンジにならないように、測定期間中の最大の値に合わせてレンジを設定します。
測定期間中に測定対象の消費電力が小さくなると、レンジに対して小さい入力になります。
この期間の測定は、測定精度が悪くなってしまいます。
以下に積算電力から平均電力を求めるときの測定誤差の考え方を示します。

変動する電力の誤差考察の例

図4 変動する電力の誤差考察の例

積算電力:100W×15/60+10W×135/60=25+22.5=47.5 (Wh)
平均電力:47.5 Wh/150×60 = 19 (W)
100Wレンジで19Wを測定したときの確度:
  電力計の仕様 0.1% of reading + 0.05% of range
  19W×0.1%+100W×0.05%=0.019W+0.05W=0.069W
  測定値 19Wに対して 0.36%

一般的に、レンジに対して測定入力が小さい区間が多いほど測定誤差が大きくなります。
仮に積算中にレンジを変更できたとしても、レンジ変更には時間がかかり測定ギャップができてしまいます。変動が激しい測定をしていると、レンジが頻繁に変更されて、かえって誤差が大きくなってしまう可能性もあります。
TEC試験手順が適応される画像機器では、固定レンジでダイナミックレンジの広い測定を行うことになりますので、レンジ誤差の小さい測定器を選択することが重要になります。
測定器のレンジ誤差を左右するのは測定回路の直線性の性能です。
現在発売している横河電機の電力計は、すべてディジタルサンプリング方式を採用しているため、アナログ掛け算方式など他の方式の電力計に比べて優れた直線性を示します。
また、測定器によっては、電力測定値が小さいときには測定値を強制的にゼロにしてしまい電力値が測定できない測定器もありますので注意が必要です。

3.3.横河電機の測定器と要求事項との比較

横河電機の測定器と要求事項との比較

4.まとめ

エネルギースター対象機器の適合試験についてと、測定器に求められる性能について説明しました。
エネルギースター対象機器の測定における横河のWTシリーズの優位性は、以下のとおりです。

  • ディジタルサンプリング方式による優れた直線性
    測定レンジに対して小さい入力でも高精度な測定値を示します。
  • ギャップのない積算機能
    測定ギャップのない積算により変動の激しい測定対象の正確な積算値を得ることができます。
    さらに演算機能により積算区間内の平均電力をリアルタイムに表示できます。

その優れた直線性とワイドレンジで、デジタルパワーメータ WT1600が日本国内の画像機器業界各社で多く
採用されています。

また横河電機は世界最高精度の電力測定精度に加えて、高調波電流およびフリッカ等の低周波EMCに関する最新の規格試験に対応するフラグシップ製品のプレシジョンパワーアナライザWT3000を提供しており、
より高い要求に対応しています。

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