(月刊「トランジスタ技術」2005年7月号掲載)
通信・測定器事業部 第4開発センター 小島 学
近年、ADSLやCATV、FTTHなど、いわゆるブロードバンド・ネットワークによるインターネット接続が急激に増大しています。
その中でも特に、FTTH(Fiber To The Home)は、高速で大容量の通信手段として期待され、加入者数を増やしています。
本稿では、FTTHなどに代表される光データ通信の基礎について解説します。また、高速データ通信を実現するために光に求められている重要な性質である「光スペクトル」の基礎知識と、評価テクニックについて詳しく解説します。
YOKOGAWAの光スペクトラムアナライザの詳細はこちら
電話の発明(1876年)で有名なアレキサンダー・グラハム・ベルが、1880年に自然光(太陽光)を使った光電話で、声を光に変えて213m先まで伝送、再び音声に戻すという実験に成功しました。この実験は、図1に示すような装置で行われました。
しかし、この方式は途中の伝送路が空間であるため、光が広がったり拡散してしまうことから長距離の伝送は困難であるとともに、雨や霧あるいは障害物などの妨害を避けることができないので、当時実用化されることはありませんでした。この光通信が実用化されるのは1970年頃であり、光ファイバとレーザの発明を待つ必要がありました。
1960年代にレーザが発明され、1970年代に光ファイバが実用化されて、光通信は長足の進歩を遂げました。レーザは、数十万分の1平方ミリメートルという微小な半導体の窓から放射される安定していて指向性の優れた光線で、膨大な量の情報を担うことができます。
光ファイバは、人間の髪の毛ほどの細いガラスでできており、その中に光信号を閉じ込め、この光信号をそれほど減衰させずに遠方まで伝搬させることができる高性能の伝送媒体です。光通信を行う上で最も重要な要素として、光の減衰が極度に少ない伝送媒体と、小電流で動作する高安定・長寿命の光源が必要になります。 このような中で伝送媒体として光ファイバ、光源として半導体レーザが実用化されました。
図2に光ファイバ通信システムの基本構成を示します。
基本的には、従来のメタリックケーブルをそのまま光ファイバケーブルに置き換えたものとなります。まず、電話、パソコンなどの端末から送られる電気信号は、E/O変換器により光信号(ディジタル信号の'0'、'1' は、光の点滅に変換)に変換され、光ファイバに送り込まれます。光ファイバの中を伝搬した信号は、通信相手のO/E変換器へ届くと、その光信号が電気信号に変換され、各端末に送られます。E/O変換器には半導体レーザなどの発光素子、O/E変換器にはフォトダイオードなどの受光素子が用いられます。また、光ファイバの入出力部には、レンズなどの光学素子が用いられます。
しかし、半導体レーザの発光部の大きさはµmオーダ、フォトダイオードの受光部は100µmオーダ、光ファイバのコア径は10µm程度と小さいため、これらを正確に位置合わせするには高い技術が必要とされています。
光ファイバ通信は、従来のメタリックケーブルを用いた通信システムに比べ、光ファイバの特長である低損失、広帯域という利点を生かし、長距離・大容量通信を可能にします。
光ファイバ通信のメリットをまとめると次のようになります。
光ファイバの構造を図3に示します。
光ファイバは、光を伝搬する円筒形のコアと呼ばれる部分と、その周りを覆う同心円状のクラッドと呼ばれる部分から構成されています。クラッドの屈折率をコアの屈折率より少し小さくすることで、光をコアの中に閉じ込め、クラッドとの境界面で全反射を繰り返すことで光を伝搬させています。光ファイバは髪の毛のように細く、直径125µm、コアの部分は10~50µmで、通信に用いられている光ファイバの多くは石英ガラスで作られています。
光ファイバの中の光の伝わり方は、光ファイバのコアとクラッドの屈折率の差、コアの太さなどの関係から、ある特定の角度の反射だけが、反射を繰り返し伝わっていきます。この特別な角度を光ファイバの伝搬モードといいます。この角度が多数ある場合をマルチモード光ファイバ、ただ一つだけが許される場合をシングルモード光ファイバといいます。マルチモード光ファイバの中には、コアの屈折分布をゆるやかに変化させたグレーデッドインデックス光ファイバ(通常GI型光ファイバと呼ばれる)があります。
図4にそれぞれの光ファイバの光の伝わり方を示します。
マルチモード光ファイバ | シングルモード光ファイバ | |
GI型光ファイバ |
光通信で一般的に使用される光ファイバは、シングルモード(SM)型光ファイバとGI型光ファイバです。
表1に、それぞれの光ファイバの特長と用途をまとめます。
GI型光ファイバ | SM型光ファイバ | |
コア径 | 50、62.5µm | 9~10µm |
クラッド径 | 125µm | 125µm |
おもに使用される波長 | 0.85µm | 1.31µm、1.55µm |
伝送容量 | 中 | 大 |
用途 | 短距離 | 長距離 |
石英ファイバの中を通る光信号は、光の波長によって減衰する割合が異なります。図5に波長による光ファイバの損失を示します。
第2の帯域、第3の帯域と呼ばれる波長帯域1.3µmと1.55µmでは損失が小さいことから、現在はおもにこれらの波長帯が使われています。
光ファイバの改良により、光の強度が半分になる距離は、波長1.3µmの光で約10km、1.55µmの光で約20kmまで伸びてきています。電気信号を伝える同軸ケーブルでは、約1kmで半分の強度になってしまいます。
信号の伝送路は、損失が少ないことのほか、通信速度が速いことが望まれます。通信速度は、1秒間に送ることのできる信号の数(bps:bit per second)で表され、この値が大きいほど多くの情報を送ることができます。
データ通信では、通信速度が速いことを指して伝送帯域が広いという表現をします。同軸ケーブルの場合には、通信速度を速くすると信号の減衰が大きくなるため実用上限界がありますが、光ファイバでは通信速度を速くしても減衰は起きないため、多量の情報を送ることができます。
図6にメタリックケーブルと光ファイバケーブルの伝送特性の違いを示します。
電気信号から光信号への変換には、半導体レーザなどが用いられています。電気の'0'、'1'信号は、光の点滅信号に変換されます。これを強度変調と呼びます。
図7に変調の概念図を示します。半導体レーザは、高速に変調することが可能であるため、高速データ通信に適しています。また、光から電気への変換はフォトダイオードが用いられています。高速のものは1秒間に100億回(通信速度10Gbps)程度の点滅およびその検知が可能となっています。
光通信で現在使用されている半導体レーザの代表的なものとして、DFBレーザとFPレーザがあります。
それぞれ、表2に示すような特長があります。
項目 | FPレーザ | DFBレーザ |
光スペクトル | ||
伝送距離と伝送容量 | 近距離、中容量 | 長距離、大容量 |
コスト | 安い | 高い |
二つのレーザの違いはその光スペクトルにあります。DFBレーザは、1波長しか発光しないというのが特長で、長距離・大容量光ファイバ通信に適しています。
図8は、それぞれのレーザを使用して光ファイバ通信を行ったとき、送信したディジタル信号(点滅信号)が、光ファイバを経由して受信されたときの信号の様子を表したものです。
DFBレーザを使用した場合、送信されたディジタル信号の波形がほとんど変化することなく受信されるのに対し、FPレーザの場合は送信したディジタル信号が時間的に広がってしまい、最悪の場合ディジタル符号の誤りが発生します。この現象は光ファイバの中を進む光のスピードが、波長によって異なるために発生します(光ファイバの波長分散と呼ばれる)が、通信速度が速くなればなるほど送受信間での波形劣化が大きくなり、伝送距離が制限されてしまいます。長距離・大容量光ファイバ通信を実現するには、レーザの発光波長は少ないほど良いので、1波長しか発光しないDFBレーザが適しています。
FPレーザ | |
DFBレーザ |
いくら低損失な光ファイバといえども、光は減衰していずれ弱くなってしまいます。数十kmの伝送距離ならよいのですが、数百kmとか数千kmという距離では、何らかの方法で弱くなった光を十分な強さに戻してやらなければなりません。そこで開発されたのが「光ファイバアンプ(光増幅器)」です。光ファイバアンプとは、従来のような光→電変換を行わずに、光を直接(光のままで)増幅させることができる装置です。
図9に光ファイバアンプの構成を示します。エルビウムドープ光ファイバは、エルビウムという元素を光ファイバ中にドープ(添加)したものです。エルビウムは、励起用光源の光を吸収し、吸収した光エネルギーを光通信の波長で使用する1.5µm帯の光で、はき出してくれる性質を持ちます。エルビウムドープ光ファイバに弱まった光信号(1.5µm帯の信号)を通過させると、増幅された強い光信号となってエルビウムドープファイバから出力されます。
大量のデータを高速に伝送するためには、伝送速度を上げる方法と、伝送路を増やす方法があります。伝送速度を上げる方法は、ある程度までならば比較的コストのかからないよい手段といえますが、これが数十ギガビット以上の伝送速度になると、現在の電子回路ではついていけないレベルとなります。それならば光ファイバを100倍に、という考えがありますが、古くから敷設されていた光ファイバケーブルは、わずか数ペアの芯線しか入っていないものでした。そこで注目を浴びた技術が、少ない光ファイバで、大量のデータを高速に伝送させることのできるWDM(Wave Division Multiplexing:波長多重方式)という技術でした。
それまでの光通信は、一つの光ファイバに一つの光を通し、これを点滅させて信号を送っていました。WDMは、同じ光ファイバに別の光も一緒に入れて送ります。
もちろん、波長が同じであると識別できないので、別の波長の光を入れてやります。
図10にWDMのイメージ図を示します。
赤や青や緑(実際には可視光ではないのでこのような色はない)といった光を個別に点滅させ、これを1本の光ファイバで伝送します。こうすれば、光ファイバを増やさなくても容量を数倍、数十倍にできるという、画期的な技術です。
このWDM伝送方式は、先に説明した光ファイバアンプとの組み合わせにより、大容量・高速データ通信を実現しました。
WDM伝送方式は、1本の光ファイバに複数の波長の光を入れてやる必要があります。その働きをするのが光合波器、その逆の働きをするのが光分波器です。この部品は薄膜フィルタ (Thin Film Filter)を利用したものと、光導波路(Allayed Waveguide Grating)を利用したものがあります。両方式ともに優れた特長があり、システム構成によって選ばれることが多いようです。
図11に光ファイバ通信のネットワーク構成の概念図を示します。
ADSLやFTTHといった通信はアクセス回線と呼ばれています。先に説明したWDM伝送方式は、バックボーンと呼ばれるネットワークで使用されている技術です。これらのアクセス回線とバックボーンとを接続するのがメトロネットワークです。
DWDM(Dense WDM):
数十波、数百波の光を使用して、高密度(Dense)の波長間隔で多重化する波長分割多重(WDM)システム
CWDM(Coarse WDM):
20nm程度の粗い(Coarse)波長間隔で多重化する波長分割多重(WDM)システム
光を波と考えると、図12のように「振幅」と「波長 (周波数)」が重要な量になります。単位時間あたりの波の数を波数といいます。振幅は、光の強度に関係する量で、光パワーとして測定されます。光の基本測定では、電気測定での電圧計に相当するのが光パワーメータ、周波数カウンタに相当するのが光波長計です。また、電気測定のスペクトラムアナライザに相当するのが、光スペクトラムアナライザです。一般に「光スペアナ」 (日本語式略語)という名称で呼ばれています。光スペアナの場合は、スペクトルを周波数で区別するのではなく、波長で区別するのが一般的です。
太陽の光をプリズムに通すと、虹のような色の帯ができることをご存知の方は多いと思います。この色の帯を光スペクトルと呼びます。光ファイバ通信で評価される光スペクトルは、光が持つ成分を波長ごとに分解し、横軸を波長、縦軸をレベル(光パワー)としてグラフ化したものです。光ファイバ通信で使用されている光は、太陽光のような自然光ではなく、レーザのように人工的に作り出された光です。
図13に太陽光とレーザの光スペクトルの例を示します。
人工的に作り出された光のスペクトルは、光ファイバ通信において重要な意味をもつため正確な評価が必要です。波長領域で信号を多重するWDM伝送方式の普及が、光スペクトル解析を通信ネットワーク構築にとってのキー測定技術に押し上げました。
太陽光の光スペクトル
レーザの光スペクトル
・レーザ、発光ダイオードなどの発光素子(能動部品)のスペクトル
→発光波長やスペクトル幅がわかります。
・光ファイバや光フィルタなどの受動部品の入力と出力の関係
→減衰特性や透過特性、カットオフ波長などがわかります。
・波長測定確度
→波長測定(読み取り)精度の確かさ
・高分解能
→二つの近接した波長λとλ+Δλの2本のスペクトル線があるとき、どのくらい小さいΔλまでを2本のスペク
トルとして区別できるか、という能力
・高速性
→波長スイープ速度の速さ
・光学的ダイナミックレンジ(フィルタ特性のシャープさ)
→被測定光を波長ごとに分解する際に、隣接する波長の光パワーをどこまで抑圧して測定できるか、
という能力
・広帯域幅
→測定できる波長範囲の広さ
・高感度
→どれだけ小さい光パワーまで測定できるか、という能力
図14に電気スペアナ、図15に光スペアナの原理図を示します。
光スペアナは、 通常の(電気信号用の)スペアナの周波数スイープ回路を光学的なプリズムを使用したメカニカルな装置に、検波回路をフォトダイオード(O/E変換器)にそれぞれ置き換えたものと考えることができます。
回折格子は、いろいろな波長の混ざった光から特定の波長の光を取り出す光学素子のことです。プリズムと同じような働きをします。図16に示すような鏡の上に非常に細かい溝 (1mmあたり40~1200本)が切られています。
さまざまな波長が混ざった光が回折格子に入射すると、それぞれの波長によって決まった角度に回折(光の干渉により強め合った光が反射する)が起きます。
すなわち、回折格子から回折される方向(角度)がわかれば、その光の波長を特定できるということです。
モノクロメータは、入力された光を狭い波長スロットごとに分ける役割を果たすので、電気の中心周波数を可変できるバンドパスフィルタに相当します。モノクロメータには、先に説明した回折格子などの分散素子が利用されます。
代表的なモノクロメータの構成を図17に示します。
平面グレーティングのほかに、コリメーティングミラー、フォーカシングミラーとよばれる2枚の凹両鏡から構成されています。
光ファイバから入射した光は、コリメーティングミラーで平行光線となり、グレーティングに導かれます。グレーティングで回折された光は、フォーカシングミラーによって、スリットを中心に分散方向(図17において左右方向)にスペクトルを結像します。スペクトルの中でスリット上に集光した波長の光だけが出射されることになります。出射する光は、グレーティングを回転することによって、光の回折方向が変わるため、波長を変えることができるというしくみです。
先に説明したように、モノクロメータは光のバンドパスフィルタとして考えることができます。1段のバンドパスフィルタを通過したときのフィルタ特性は、図18(1)に示すように通過域、阻止域との差(光学的ダイナミックレンジ)が40dB程度です。この光のバンドパスフィルタの後に、もう1段バンドパスフィルタを接続することで、ダイナミックレンジを飛躍的に向上させることができます。
実際のモノクロメータでは、2種類のバンドパスフィルタを用意するのではなく、図18(2)に示すように1段目のバンドパスフィルタを通過した光を、もう一度同じバンドパスフィルタに折り返す(往復させる)ことで、2段フィルタを実現しています。このようなモノクロメータをダブルパス型モノクロメータと呼んでいます。後述するDFBレーザの単色性の評価には、光スペアナの光学的ダイナミックレンジが十分とれていることが重要になります。
(1)
(2)
”回折格子”のところで説明したとおり、回折格子から回折される方向(角度)がわかれば、その光の波長を特定することができます。実際のモノクロメータでは、回折格子を回転させることで波長掃引を行いますので、この回転角度が測定波長に相当することになります。回折格子を回転させ、その回転角度を制御する方式の一つとして、ステッピングモータを使用するものが考えられます。
図19にステッピングモータを使用したグレーティング制御の原理図を示します。
波長軸のサンプル分解能が、ステッピングモータの回転分解能で足りない場合は、減速器を介して分解能を稼ぎます。ただし、減速器には機構精度による誤差があるため、それが波長測定の誤差になって現れる場合があります。
上記のオープンループで構成されたステッピングモータを用いる方法とは別に、サーボモータとエンコーダを併用した方法があります。
図20にサーボモータを使用したグレーティング制御の原理図を示します。
回転角度を検出するエンコーダの併用で、角度制御サーボ回路が構成できます。また、高分解能光学式エンコーダを使用すれば、回転分解能を稼ぐことができますので、減速器を介すことなくグレーティングを高速に回転させることができるようになります。
モノクロメータ内部に搭載するグレーティングの回折効率、フォトダイオードの感度などには波長特性があります。
図21にモノクロメータで使用されるフォトダイオードの波長感度特性を示します。
光ファイバ通信用の光スペアナでは、InGaAsフォトダイオードが使用されていますが、モノクロメータ内部での測定感度が波長により変化してしまうと、各波長ごとの正しい光パワーが測定できません。この問題を解決するため、実際の光スペアナでは、あらかじめモノクロメータ内部での波長による感度差を補正する補正値を内部メモリに記憶させておきます。測定中は、得られた測定値を自動的に補正するので、レベル偏差のない光スペクトルが表示されるようになっています。
光ファイバ通信用の基本測定器として位置づけられる光スペアナですが、その使われ方の多くは、近年のFTTHサービスの普及より前から、光ファイバ通信用デバイスの研究・製造の場面で使用されてきました。電話線、同軸ケーブル、無線といったアクセス回線は、その形態は異なるものの、そのおおもとの回線をたどっていくと、必ず光ファイバのネットワークに接続されているのです。普及が進むFTTH回線は、おおもとの光ファイバネットワークをそのまま末端まで延長した通信手段といえます。
ここでは、光トランシーバや光ファイバアンプなど、光ファイバネットワークを構成する重要なデバイスについて、光スペアナを使用して測定した事例を紹介します。
また、WDM信号の測定のポイントについても解説します。
光ファイバネットワークの構築に不可欠な光送受信モジュールは、光トランシーバと呼ばれています。光トランシーバ内部の送信モジュールにはレーザが使用され、その光スペクトルの評価に光スペアナが使用されます。
図22、図23にそれぞれ光トランシーバのレーザの代表的なスペクトルを測定した結果を示します。
図22に示したレーザはおもに近距離の光ファイバ通信に使用されるレーザで、図23に示したレーザはおもに長距離通信に使用されるレーザです。明らかにスペクトルの形状が異なることがわかると思います。
図8で示したように、光ファイバ通信システムにおいて、ディジタル信号のパルスの広がりは光源スペクトルの関数となっています。すなわち、レーザのスペクトルの広がりが小さいほど、ディジタル信号のパルスの広がりは小さく抑えられ、より高速で長距離の通信が可能となります。
図22に示した近距離用レーザは、光スペアナを使用して光スペクトルの広がり幅を測定します。
図23に示した長距離用レーザは、光スペクトルが単一性に優れているため、評価指標としては光スペクトルのピークレベルに対してセカンドピークがどれだけ抑圧されているかを測定します。
光ファイバケーブルの損失はゼロではないので、光も長距離の伝送をすると減衰していきます。そこで、図9で説明した光ファイバアンプを使用して、信号を増幅しながら長距離通信を実現します。
光ファイバアンプの重要な評価項目として利得の評価があります。光ファイバアンプの入出力信号の光スペクトルをそれぞれ測定することで、次式により利得G(倍)を求めることができます。
G= (Pout-PASE) / Pin
Pout:光ファイバアンプの出力光
PASE:光ファイバアンプのASE光
Pin:光ファイバアンプへの入力光
図24に光ファイバアンプの利得測定の一例を示します。
ここでは1波長の信号を増幅する例を挙げましたが、光ファイバアンプは、WDM信号を一括して増幅することが可能です。
図10で説明したWDM伝送方式において、その信号品質の評価にも光スペアナが使用されます。信号品質の評価は、多重された信号それぞれの波長、光パワー、信号対雑音比(SNR)の項目で測定が行われます。WDM伝送方式で使用される信号の波長は、ITU-T(国際電気通信連合・電気通信標準化セクタ)で定められたものだけです。
しかし、レーザの波長は周囲環境などによって変動する場合があるため、通信システムの安定度を維持するためにも信号波長の測定は重要です。また、前項で説明したように、光ファイバアンプによって増幅を繰り返しながら伝送されてきた信号は、SNが劣化します。 このため、信号対雑音比(SNR)の測定も通信システムの品質維持には重要です。
図25に8チャネルの光信号を多重化したWDM信号の光スペクトルを測定した結果を示します。
光スペアナを使用すれば、通信システムの評価に重要とされるパラメータを一度に解析することができます。
写真1は、大都市間における基幹系の通信網で使用されるWDM信号を擬似的に再現して、その信号を光スペアナで測定している様子です。8チャネルの光信号(DFBレーザ)を光合波器で多重し、光ファイバアンプにより信号を増幅させ、その信号を光スペアナに接続しています。
光スペアナには、AQ6319光スペクトラムアナライザを使用しました。
図26には測定画面の表示結果を示します。
この例では、8チャネルの光信号は約1.6nmの波長間隔で多重されていることがわかります。また、各チャネルの信号対雑音比(SNR)は、約33dBという結果が得られています。
写真1に示したAQ6319光スペクトラムアナライザでは、波長分解能0.01nm、波長確度±0.01nm、光学的ダイナミックレンジ70dB以上という高性能なモノクロメータを搭載しています。内部に搭載されているモノクロメータは、複数段の光バンドパスフィルタ構造となっており、シャープなフィルタリング特性を実現しています。これにより、長距離・大容量光ファイバ通信を実現させるための高性能、高機能な光デバイスや伝送システムの評価に使用されています。また、掃引速度も速く、豊富な解析機能を搭載していますので、LAN、GP-IBなどの各種外部インターフェースへの対応など、研究開発から評価、製造ラインまで幅広い用途で使用できます。
■ 参考・引用 *文献■
(1) *西村憲一・白川英俊;やさしい光ファイバ通信,平成5年9月,(株)オーム社
(2) *黒沢宏・横田光広;ファイバー光学の基礎,平成15年1月,(株)オプトロニクス社
(3) 島田禎晋・山下一郎・太田紀久;マルチメディアネットワークシリーズ光アクセス方式,平成5年10月,(株)オーム社
(4) 加島宜雄;光通信ネットワーク入門,平成13年4月,(株)オプトロニクス社
(5) 田幸敏治・本田辰篤 編;ユーザエンジニアのための光測定器ガイド,平成10年5月,(株)オプトロニクス社
(6) ANDO技報 Vol.71(光特集号)2001年7月
(7) 百目鬼英雄;ステッピングモータの使い方,1993年6月,(株)工業調査会
(8) *富士通研究所ホームページ
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