EV⽤充電設備の⾼精度電⼒計測

EV用充電設備の高精度電力計測

1.背景

SDGs の取り組みの推進や環境保全の観点から自動車の電動化(EV化)が加速しており、そのインフラ向けとして急速充電器の設置台数が急増している。

EV 用の充電器は、大きく分けて普通充電と急速充電の 2 種類がある。普通充電は家庭などの単相 AC100 V 240 V により充電する方法であり、交流は EV 内部の AC/DC 変換器(オンボードチャージャー)で直流に変換して車載されているバッテリを充電する。一般に充電時間は長く、完了するまでには数時間以上が必要になる。一方、急速充電は系統に接続された充電ステーション(オフボードチャージャー)を設置することで大電流出力に対応でき、短時間で車載バッテリを充電できる。さらに、EV  用の電池は大容量化が進んでいることから、普通充電による充電ではより長い時間を要する。

そのため、短時間でフル充電できる急速充電器の設置ニーズが高まっており、充電ステーションの設置台数も急増している。そして充電時間の短縮化のため、高電圧で大電流の製品が開発されている。

*On Board ChargerOBC): AC 電源からバッテリを充電するために xEVに搭載されているシステム。

*Off Board Charger:充電ステーション。EVSEElectric Vehicle Service Equipment ) とも呼ぶ。

 

2.課題

普通充電器は単相 AC100 V 240 V のタイプであり、最大電流・電力も比較的小さい。
一方、最近の急速充電器は、電圧
500 Vdc 1000 Vdc、電流 100 Adc から数百 Adc クラスのものが開発されておりその能力を評価するために、高電圧・大電流を精度良く測定したいとの要望がある。また、充電容量(WhAh)も正確に測定することが求められている。これは EV 用バッテリへの供給電力は電気料金に関係することが背景にあるためと考えられる。
電力を効率的に供給するため、急速充電器には力率改善回路(
Power Factor CorrectionPFC)が搭載されている。力率を良くすることで EV に効率よく電力を供給することができる。また、充電器内部には変換回路があるため、変換に伴う損失を抑えることも重要になる。さらに、系統からの大電流を急速充電器内に取り込んでいるため、電流の高調波成分も抑えなければならない。そのため高調波電流の各次数ごとのひずみ率や全高調波ひずみ率(THD)を確認することも必要となる。
EV 用充電器の需要はそ の普及に伴い増えており、開発現場では高精度な電力および電流測定が不可欠である。

 

3. WT5000による課題解決

電力基本確度±0.03%の高精度電力測定
1500 Vdc2000 Armsまでの高電圧・大電流測定
力率および他の電力項目の高精度測定
AC/DC 変換、DC/AC 変換の高精度効率測定
積算電力量、積算電流量の測定
次数ごとの高調波データとTHD測定
電力値と波形データの連続測定による異常確認
その他の計測器による充電器の開発支援
 

4. WT5000による提案

4.1 電力基本確度±0.03%の高精度電力測定

WT5000 は世界最高クラスの測定確度となるトータル±0.03%50/60 Hz)を実現している。EV 用充電器の変換効率をより高精度に測定できる。
電力入力エレメントはモジュラー構造を採用し、最大
7 入力できる。YOKOGAWA が長年蓄積してきた設計技術により、極めて高精度な測定回路をコンパクトな入力エレメント内部に収めた。また、3 種類のエレメント(定格入力 30 A、定格入力 5 A、電流センサー入力専用)から用途に合わせて選択することができ、お客様自ら入れ替えや増設ができる。

図1 プレシジョンパワーアナライザ WT5000

図1 プレシジョンパワーアナライザ WT5000

図2 WT5000 と AC/DC 電流センサー CT1000A

2 WT5000 AC/DC 電流センサー CT1000A

電力基本確度±0.03%の高精度電力測定

 

4.2 1500 Vdc2000 Armsまでの高電圧・大電流測定

EV用急速充電器では短時間での充電を行うため、出力電力が年々大きくなっている。最近では数百 kW クラスのものもあり、高電圧化および大電流化が進んでいる。
WT5000 は最大電圧入力 1500 Vdc で、AC/DC 電流センサーを利用することにより最大 2000 Arms3000 Apeak)までの電流測定を 1 台の電力計で測定できる。また、最大 7 電力モジュールを搭載することで、単相×7 システム、あるいは、単相・三相電力の複数システムを同時に測定し、直流電圧、交流電圧、力率、THD、入出力間効率などを高精度に測定できる。

図3 AC/DC 電流センサー CT1000A(左)とCT2000A(右)

3 AC/DC 電流センサー CT1000A(左)とCT2000A(右)

 

4.3 力率および他の電力項目の高精度測定

EV 用急速充電器は電力系統の50 Hz/60 Hzの交流電力を直流に変換して EV のバッテリに電力を供給する。交流電力は電圧と電流、および位相差により電力値が変わるため、電力供給量を増加させるためには位相差を極力なくし、また高調波を抑制することで力率を1に近づけることが重要となる。
WT5000 は、PFC回路を介した電力値を測定し力率を演算する。力率以外の項目となる電圧・電流・有効電力・皮相電力・無効電力も同時に測定、表示できるため、各項目の変化を同時に確認できる。

図4 電圧、電流、力率、THDなどの表示例

4 電圧、電流、力率、THDなどの表示例

 

4.4 AC/DC 変換、DC/AC 変換の高精度効率測定

EV 用の普通充電器は内部にいくつかの変換回路が搭載されている。オンボードチャージャーは通常商用電源に接続するため高調波の抑制が重要となり、PFC回路が搭載されている。また、DC 電圧レベルをコントロールする DC/DC コンバータなどが内蔵されている。一方のオフボードチャージャーで急速充電器場合、AC/DC 変換、DC/AC 変換などいくつかの変換回路を経て直流電力をバッテリに供給している。これらの回路に関しては、電力損失を極力減らすための設計極めて重要となる。多チャネル入力を特長とするWT5000を用いることで、各回路ごとの効率を高精度に測定できる。

図5 オンボードチャージャー の概要

5 オンボードチャージャー の概要

図6 オフボードチャージャー の概要

6 オフボードチャージャー の概要

 

4.5 次数ごとの高調波データとTHD測定

WT5000は、各次数ごとの高調波を最大 500 次まで測定できる。また、THDも測定でき、規格などに定められた限度値未満かどうかを簡単に確認できる。ひずみ率の次数上限(13 次、40 次、100 次など)も自由に設定ができるので多くの規格試験に対応できる。

図7 各次数ごとの高調波とTHD測定

7 各次数ごとの高調波とTHD測定

 

4.6 積算電力量、積算電流量の測定

WT5000 は、長時間の消費電力量Wh)や消費電流量(Ah)を測定する積算機能を搭載している。
積算機能は、有効電力の積算(電力量)、電流の積算(電流量)、皮相電力の積算(皮相電力量)、および無効電力の積算(無効電力量)がある。
また積算機能には
2 種類のモードが搭載されており、バッテリなどの充放電を測定するモード、交流電力の売電、買電を測定するためのモードがある。

図8 積算電力、積算電流の測定画面例

8 積算電力、積算電流の測定画面例

積算機能の解説

充放電モード (Charge/Discharge)

直流(サンプルデータごと)の極性別電力量を測定

売買電モード (Sold/Bought)

交流(データ更新周期ごと)の極性別電力量を測定

積算機能に関係する測定項目

ITime

積算時間

WP

正負両方向の電力量の和

WP+

正方向のP の和(消費した電力量)

WP-

負方向のP の和(電源側に戻した電力量)

q

正負両方向の電流量の和

q+

正方向のI の和(電流量)

q-

負方向のI の和(電流量)

WS

皮相電力量

WQ

無効電力量

4.7 電力値波形データの連続測定による異常確認

電圧・電流・電力などのデータを長時間連続で測定する必要がある場合、PC アプリケーションソフトウェアとなる統合計測ソフトウェアプラットフォーム IS8000 を利用することで、リアルタイムに電力パラメータのトレンドを確認し保存することができる。さらに、WT5000 /DS (データストリーミング)オプションを用いることで、電力の数値データだけでなく、波形データも同時に観測し保存できる。
たとえば、電力値で異常があった箇所を拡大することで、その時点の波形データを観測でき、
WT5000 1 台あればその状況を確認できる。

図9 IS8000 による電圧・電流・電力トレンド表示

9 IS8000 による電圧・電流・電力トレンド表示

図10 電力値の低下部分の 拡大による異常波形確認

10 電力値の低下部分の 拡大によ異常波形確認

 

4.8 その他計測器による充電器の開発支援

DL950 長時間データ記録と信号異常時の高速測定
多チャネル絶縁型波形観測器となるスコープコーダ DL950 のデュアルキャプチャー機能は、異なるサンプルレートで波形を捉えられる。長時間のトレンドを把握するために低速サンプリングでデータ収集を行いながら、突発的な過渡現象を高速サンプリングで波形捕捉できる。さらに、IS8000を利用することで、得られた波形データを WT5000 の電力の数値データと IEEE1588 で同期させて表示でき、電力変動時におけるより詳細な波形観測に可能となる。

図11 DL950 デュアルキャプチャー機能による測定例

11 DL950 デュアルキャプチャー機能による測定例

 

DLM3000/DLM5000 PFC回路の波形観測
PFC回路の動作確認には、波形観測用としての性能と操作性に優れたミックスドシグナルオシロスコープDLM3000 8チャネル入力のDLM5000 が活用できる。

DLM3000/DLM5000 PFC回路の波形観測

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