波形データ異常時の電力データ検証

統合計測ソフトウェアプラットフォーム IS8000

統合計測ソフトウェアプラットフォーム IS8000 

1背景Introduction
異常信号はいつどこで起こるか分からないことが多い。モーターインバータの連続試験などでは何かしらの原因で瞬時的に振幅が小さい波形や、正確に制御された通常の波形とは異なる信号が発生することがある。オシロスコープの重ね書き機能、あるいはヒストリ機能*を使うことで異常波形を観測することが可能となるが、どのような異常波形なのか事前にわかっていない場合はトリガで捉えられないケースも多い。
また、この異常波形の信号変化はごくわずかなこともある。原因を追究したいため波形だけでなく瞬時における電圧値、電流値、有効電力値、ピーク値、力率、周波数などの測定値に影響があるかどうかを観測したいケースがある。高精度な電力データを確認することで様々な判断材料につながることがある。
*ヒストリ機能:一般的にオシロスコープはトリガがかかった最新の画面を表示するため過去の波形データは失われ。 横河計測のオシロスコープは設定無しに自動的に過去に取り込んだ波形を内部メモリに保持できる。

2課題Challenges
異常波形は稀にしか発生しないことも多く、その波形を捉えるために膨大な時間がかかることがある。また、その信号変化が小さければ小さいほど目視では認識できない。発生するタイミングも特定できず、トリガ条件の設定により波形を捉えることも困難である。異常波形を捉えたとしてもオシロスコープでは観測する時間が非常に短いことが多い。たとえば、インバータにおけるPWM信号では高速にスイッチングする電圧波形を、より正確に捉えようとすれば高速サンプリングが必要となる。オシロスコープは高速サンプリングで波形を捉えても内蔵メモリ(アクイジションメモリ)の制限があるため比較的短い期間しか測定できず、波形全体あるいは長い時間にわたって波形を観測できない。したがって、PWM波形の基本波信号をもとに演算される電圧、電流、電力などの電力パラメータを算出することが困難な場合もある。
たとえば、PWM波形の基本波信号が10Hzであれば最低100msの観測時間が必要となり、上記のようにオシロスコープでこの信号全体を観測するためにはメモリ長を長く設定しなければならないがメモリ長にも上限がある。そこで、サンプリングしたデータを直接PCなどの外部機器に直接保存すればよいが、10MS/sなどサンプリングデータをリアルタイムにPC転送することは通信インタフェースの制限により厳しいことが多い。
このような方法で1周期以上の信号全体を観測できたとしてもオシロスコープではトレーサビリティの取れた測定値ではないため、このデータの正確性を証明すること難しい。
このようなケースでは電力計を使って同時に測定することが求められるが、波形データと同じタイミングで電力データ収集することは簡単ではない。PCから長時間にわたり連続して複数の波形データと電力計データ同期させながらデータ取得することは課題となっている。

3IS8000による課題解決Solution

DL950 10Gbit高速データ転送による作業効率向上
DLソフトウェアとWTソフトウェアの統合
IEEE1588によるWT/DL時刻同期表示
オンラインモニターによるデータ確認と操作
連続波形保存中のファイル分割とプロジェクトファイル
確度保証された信頼性の高い電力データの活用

4.IS8000による提案Detailed description

4.1 DL950 10Gbit高速転送による作業効率向上
スコープコーダDL95010Gイーサネットインタフェースオプション(/C60)により10Gbpsの高速データ転送*を実現した。従来機種DL850Eでは100kS/s16ch)でのPCストリーミングであったが、DL950100倍の20MS/s8ch)の高速データ転送*が可能になり、PCソフトウェア上にリアルタイムに測定データを表示できる。特にインバータ測定においてはスイッチング周波数が高速な信号であるため早いサンプルレートでデータ取得する必要がある。最速20MS/sPC連続データ転送の性能は、試験を中断することなくデータ出力ができる。データ転送のためだけに何分間も待つ必要はない。さらに、高精度電力計WT5000と組み合わせることで高速波形データと電力データを同期させて電力のトレーサビリティの取れた高精度電力計測を実現できる業界初の性能・機能を実現できる。

*HiSLIP通信 :High-Speed LAN Instrument Protocol
 1000BASE-T1Gbps)に比べて理論上10倍高速なデータ転送が可能。
* DL950 10Gbpsイーサネット(/C60オプション)が必要。オプションがない場合、200kS/s(16ch)
*USB3.0通信での転送レートは64MB/

図1 DL850EとDL950のデータ転送比較

1 DL850EDL950のデータ転送比較

図2 DL950とPCとの接続図

2 DL950PCとの接続図

4.2  DLソフトウェアとWTソフトウェアの統合
オシロスコープと電力計のソフトウェアは別々のソフトウェアでデータ収集を行うため一般的にファイル形式が異なる。今回、新たに開発した統合計測ソフトウェアプラットフォームIS8000波形データと電力計データの同期測定という測定ニーズに合わせて1つの統合計測ソフトウェアとして使用できる。データ収集ソフトウェアを統一することでオシロスコープと電力計の設定方法を可能な限り同じ操作にしている。今までは別々に測定して保存していた方法に比べてファイルの整理や管理の業務を大幅に削減することが可能となる。

図3 波形チャネルと電力データの表示&保存設定

3 波形チャネルと電力データの表示&保存設定

図4 DL950とWT5000の複合測定データ表示例

4 DL950WT5000の複合測定データ表示例

4.3  IEEE1588規格*WT/DL時刻同期表示
波形測定器の波形演算機能を使って電力値を表示させる方法により電力値の検証を行うケースがあるが、測定波形とトレーサビリティのとれた高精度な電力値としての結果を得ることはできない。IS8000統合計測ソフトウェアプラットフォームはIEEE1588時刻同期を使いDL950WT5000を同時に接続*することで同期測定が簡単に可能になる。DL950WT5000の同期誤差10μs*である。
DL950で取得できる最速20MS/s8ch同時の連続波形データとともにWT5000の電力データをPCの同一時間軸上に表示できる。そのため、電力計データは波形データとともに時系列のトレンド表示ができるので微妙な電力変動を確認できる。
たとえば実際に起こっている電力変動から異常波形データを確認し問題を発見することも可能になる。

* IEEE1588規格:ネットワーク上でつながる機器間の時刻同期に使用される高精度
 時間プロトコル(PTP)。PTP=Precision Time Protocol
* DL950 IEEE1588マスター機能(時刻同期)(/C40オプション)が必要
* DL950 2台のIEEE1588同期の誤差は±150ns
* DL950 10Gbpsイーサネット(/C60オプション)が必要
* 2台の同期計測はIS8000 複数台同期オプション(/SY1)が必要

図5 波形データ異常時の電力データ確認画面例1

5 波形データ異常時の電力データ確認画面例1

図6 波形データ異常時の電力データ確認画面例2

6 波形データ異常時の電力データ確認画面例2

4.4 オンラインモニターによるデータ確認と操作
オンラインモニター操作は、通信インタフェース経由で計測器をPCからリモートコントロールできる。
スコープコーダDL950あるいは電力計WT5000本体のタッチパネルスクリーン(コントロール画面)がPC画面に表示される。計測器本体の操作と同じように離れた場所にあるPC上で設定を自由に変更でき、測定波形や電力計データも確認できる。したがって、製品本体と異なるソフトウェアの操作を新たに覚える必要はない*
2台接続したときも同時に2画面、PC上に表示できる。設定に問題がないようであれば、その後、波形データあるいは電力計データを収集できる。
コントロール室から離れた場所にあるDL950の波形をPC上で確認できるので、実験室とコントロール室を往復しながら波形データの保存や設定条件を変更するなどの手間を減らすことができ、効率的データ収集が可能になる。
*本体のハードキー操作は除く

図7 DL950のリモートコントロール画面(2台表示可)

7 DL950のリモートコントロール画面2台表示可)

図8 WT5000のリモートコントロール画面(2台表示可)

8 WT5000のリモートコントロール画面(2台表示可)

4.5  連続波形保存中のファイル分割とプロジェクトファイル
一般的に波形データ記録中は連続してファイル書き込みを行っているが、長時間の試験を継続したまま測定が終わった波形を画面に表示させたいことがある。データの信頼性やデータ解析を並行して進めたいことがあるが、試験終了まで待たなければならないこともあり業務効率が悪い。
統合計測ソフトウェアプラットフォームIS8000はこのような不便さを解消している。通常、1つのファイルとして測定データを格納するが、IS8000は測定を継続しながらデータファイルを分割して保存できる。そのため、測定中でも分割されたファイルをオフライン解析として確認ができ、測定後は1つのリンクファイルとしてデータを扱える。リンクファイルの優れている点は、ファイルを分割する時間を設定、あるいは手動で分割することができるので測定の途中で解析したい場合はその時点でファイルを分割できる。測定終了後は分割ファイルのみでは扱いにくいため、全ファイルを1つの統合ファイルとして管理できる。DL9502台使った場合やDL950WT5000を組み合わせた測定においても同様に1つのファイルとして管理できるため大変便利である。
また、便利なプロジェクトファイル機能も搭載している。一般的に波形測定器と電力計のデータ収集を行う場合はそれぞれのファイル形式で測定データを保有する。そのため、別々に保存したデータを表示したい場合、時刻や時間軸情報を合わせて表示することは簡単ではない。IS8000統合計測ソフトウェアプラットフォームは個々のファイルを持ちながら1つのプロジェクトファイルとして管理できる。したがって、波形データファイルと電力データファイルを関連づけるために同じ名前をつけて保存する、あるいは測定データごとにフォルダを作成しその中に波形ファイルと電力データファイルを入れて管理するなどの作業が不要となる。

図9 リンクファイルと分割ファイルの統合イメージ

9 リンクファイルと分割ファイルの統合イメージ

4.6 確度保証された信頼性の高い電力データの活用
波形測定器の中に電力計データを演算する機能を搭載する機器が増えている。過渡的な現象においてもデータの同時性を確保できるため波形測定器で電力演算できることは大変便利であるが気をつけなければならない点がある。それは国家標準につながった電力データの確度保証である。
波形測定器は電圧プローブ、電流プローブを使って高帯域・高サンプルレートにより測定信号の形状を、より正確に捉えることが主な目的となっている。したがって、波形測定器を使って電力演算した結果は電力計で測定したデータとは異なり確度保証がなく信頼性については慎重に検証する必要がある。一方、横河の電力計は国家標準につながる計測標準高い精度で確立・維持しており、電力計データの電圧、電流、有効電力などにおいて信頼性の高いデータを提供している。
IS8000は、電力トレーサビリティ*の取れたWT5000による電力計測とともにDL950による最速20MS/s8chのデータ転送を可能としており、信頼性の高い電力計データと波形データを同一時間軸上に同時表示できる。
*電力のトレーサビリティ:高精度電力計WT5000の性能を支える校正技術について
高精度電力計を支える横河電機の電力校正技術

図10 新電力校正システムのトレーサビリティ体系図

10 新電力校正システムのトレーサビリティ体系図

*掲載されている画像等は実際の製品とは一部異なる場合があります。
*本アプリケーションの仕様は測定チャネル数や測定条件などにより制限されることがあります。
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