待機電力の高精度測定

待機電力の高精度測定

概要

待機電力とは、冷蔵庫や給湯器、テレビやエアコン、電話機などの電子機器が電源オフまたは待機モードになっている状態で消費される電力のことです。個々の電気製品の待機電力は小さいですが、一家庭の待機電力を合計するとその家庭の全消費電力の数%になると言われています。家庭やオフィス、工場等、社会全体で合計すると、非常に大きくかつ無駄な電力になります。

電力削減のための規格に、国際規格 IEC623012011 (Ed.2.0)* ErP指令**Energy Starがあります。これらの規格では、低電力モードでの消費電力の測定方法を規定しており、高精度な電力測定が求められています。

本書では、待機電力を抑える4つの方法と課題、高精度に待機電力の測定を行う手法を紹介します。

* IEC 62301 Ed2.0は、EN 50564:2011指令における参照規格となっています。対応する日本工業規格は、 JIS C 62301です。

** 消費電力の測定方法は、IEC62301:家電製品待機時消費電力の測定(Household Electrical Appliances - Measurement of Standby Power)を使用しています。

課題

待機電力を抑える方法には、① 純粋に電流を減らす方法、② 電流の流れる時間を短くする方法、③ 電流を間欠的に流す方法、④ 電圧と電流間の位相をずらす方法などがあります。

待機電力を高精度に計測する上で、それぞれの方法で次の課題があります。

① 電力、電流を減らす方法

微小電力、微小電流を計測することになり、使用する電力計の電力分解能や最小電流レンジ、ノイズの入らないような結線に十分に注意を払う必要があります。

② 電流の流れる時間を短くする方法

負荷が小さいために電流波形は歪み、短いパルス状になります。波形の波高値(ピーク値)と実効値の比をクレストファクター(CF、波高率)と呼び、電力計では測定レンジの何倍までの波高値を入力できるかを示します。オーバーロードにならないように、電力計の測定レンジとクレストファクターを選択する必要があります。

IEC 62301などではクレストファクターが3以上の測定条件が求められています。

③ 電流を間欠的に流す方法

この場合、電圧の周期で瞬時電力を平均化しても、平均化区間によって有効電力の測定値がばらついてしまうことがあります。このような場合、電力計の電力積算機能を利用する方法が有効です。

④ 電圧と電流間の位相をずらす方法

電圧と電流間の位相をずらし、意図的に低力率にして待機電力を小さくする方法です。電圧と電流の位相差が90°すなわち力率が0に近い状態であり、わずかな位相の違いが大きく測定確度に影響するため、0からの有効入力範囲を保証する力率誤差の影響が小さい高精度電力計を使うが必要があります。

ソリューション

横河計測のWTシリーズは、待機電力の計測においても最適な計測ソリューションを提供します。

クレストファクターと電流レンジの選択

次の手順でクレストファクターと電流レンジを選択します。

電流レンジをオートレンジに設定して測定します。
電圧レンジは入力する電圧のレンジを選択します。
電流のピーク値と実効値を確認し、その比からクレストファクターをCF3CF6CF6A*から選択します。
次の式を使い、電流ピーク値と選択したクレストファクターから電流レンジを選択します。

クレストファクターと電流レンジの選択

*CF6ACF6よりレンジアップの条件を次のように変更しています。これによりオートレンジで歪み波形を測定中に、レンジ変更が頻発するのを抑えています。

オートレンジのレンジアップの条件

電圧または電流の実効値が、測定レンジの220%**を超える。

オーバーロード表示(“- - O L - -”) となる条件

電圧測定値や電流測定値が測定レンジの280%**を超える。

** WT310Eは、それぞれ260%600%

平均電力の算出

IEC62301では、機器を30分ウォームアップ後、隣接した2つの測定期間の平均電力の差が次の場合、安定性が確立されているとして、2つの測定値の平均として電力を決定します。

入力電力が1W以下の製品:10mW/h
入力電力が1Wを超える製品:測定された1時間当たりの入力電力の1%

平均電力の算出方法には、測定値の単純平均をとる電力平均法(電力計のアベレージ機能)と積算電力量を積算時間で割って求める電力積算法(電力計の積算機能、平均有効電力機能)があります。

電力積算法は電力平均法に比べ、ばらつきが抑えられた有効電力を得ることができます。

平均電力の算出

低力率の機器の測定

電力計の誤差は、読み値誤差+レンジ誤差+位相誤差に分解されます。第3項の位相誤差は「電力読み値W tan(電圧-電流間位相差degx λ=0時の影響%)」で表され、電圧・電流間の位相差が大きくなる、すなわち低力率になると、影響度が三角関数tanで大きく影響することを意味します。

そのため、0%からの有効入力範囲を保証する力率誤差の影響が小さい電力計の使用が望ましいです。

WT5000は有効入力範囲が0%±130%で、低力率の機器の待機電力を測定する場合でも誤差が小さく、高精度の測定が可能です。

WT5000 ゼロ力率での周波数・電力測定誤差特性例

WT5000 ゼロ力率での周波数・電力測定誤差特性例

電力計との接続

微小電流を測定する場合、電流クランプや電流センサーは使えないため、電力計に直接入力します。

結線を簡単にするためのアダプタが紹介される場合がありますが、アダプタによる測定誤差が入ってくるため、お勧めできません。

消費電力測定ソフトウェア(無償)を使えば、規格に準拠した待機電力測定が簡単に行えます。

電力計との接続

外来ノイズの排除

電力計に直接入力するために被測定物から結線する場合、結線には安全端子などを利用し、感電や機器の損傷に十分ご注意ください。

その際、外来ノイズによるノイズ電流の比率が相対的に大きくなるので、ノイズの影響を受けにくい配線をする必要があります。

ノイズを発生している機器から測定対象、配線ケーブル、電力計を離す。
配線長をできるだけ短くする。
配線ケーブルで作られる電流ループの面積を小さくする。配線ケーブルをツイストペアにする。

外来ノイズの排除

電圧入力と電流入力の接続位置

(a)のように電圧測定端子を電流測定端子より負荷側に接続した場合、電流測定回路には負荷に流れる電流と電圧測定回路の入力抵抗に流れる電流の加算電流が流れ、電流測定値の誤差が大きくなります。

微小電流を測定する場合、図(b)のように接続すると電流測定回路には負荷に流れる電流のみが流れ、電圧測定回路に流れる電流の影響がなくなります。ただし、逆に電流が大きい場合に図(b)の接続を行うと、電流測定回路のシャント抵抗に流れる電流による電圧降下分が負荷にかかる電圧に加算されて電圧測定回路に入力されるため、電圧測定値の誤差が大きくなります。

電圧入力と電流入力の接続位置

ソフトウェア

消費電力測定ソフトウェア(無償)は、横河計測のWTシリーズ電力計/パワーアナライザを接続することで、IEC 62301 Ed2.02011)およびErP指令Lot6の試験方法に準拠した測定が簡単にできるソフトウェアです。

l測定条件を切り替えることで、IEC 62301 Ed1.0Ed2.0に対応した測定ができます。

※IEC62301 Ed2.02011)では、安定した測定結果を得るためのアルゴリズムと測定パターンがEd1.0から大きく変更されています。

l必要な情報入力することで、電力測定ができます。
l測定結果のレポート作成、出力ができます。

ソフトウェア

lIEC62301 Ed2.0Auto)設定 の場合には、測定画面に測定データ、判定データのトレンドグラフ表示ができます。

トレンドグラフ

高精度な待機電力測定

WTシリーズは、待機電力の測定規格 IEC62301ErP指令、Energy Starなどの規格に対応、高精度な待機電力測定を提供します。

高精度な待機電力測定

WT5000でのブルーレイレコーダの待機電力測定例

WT5000でのブルーレイレコーダの待機電力測定例

電力パラメータと電圧・電流波形を表示します
電流波形(緑色)で振幅のばらつきが把握できます

WTシリーズ ラインアップ

WTシリーズ ラインアップ

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