統合計測ソフトウェアプラットフォーム IS8000
1.背景(Introduction)
モーター・インバータ評価ベンチシステムは、電力計、波形測定器などの計測器等が組み込まれている。一般的に評価データを取得する場合はそれぞれの機器からのデータ収集が必要であり、お客様のご要望に沿ったデータ収集システムを構築しているケースが多い。たとえば、電力計はデータ更新周期1sの頻度で、バッテリからインバータへ入力される直流電圧、直流電流、直流電力、および、インバータからモーターに出力される三相の交流電圧、交流電流、有効電力、周波数、力率等の測定データを収集する。また、オシロスコープなどの波形測定器ではインバータのキャリア周波数をより正確に捉えるため、たとえば10MS/sでの高速データ収集を行い、電力データと波形データの両方を一連の評価データとして保存しておき、評価結果によるレポート作成を効率良く短時間で完了できるように作業を行っている。
2.課題(Challenges)
電力計ではデータ更新周期1秒あるいは1秒間に数回程度で電力データをPCに転送して保存しておくことがあるが、数値データ1個のデータ量は4バイトであり、インバータ入出力電圧、電流、電力などを32個、PCで取得したい場合でもデータ容量は少なく、PCへの転送時間が問題になることはまずない。一方、波形測定器は10MS/sのサンプルレートで三相インバータ波形をPCに保存したい時、電圧電流信号は6波形あり1秒間に60Mデータの膨大なデータ量の転送が必要となる。データ量が多い場合、PCへのデータ転送は間に合わないため波形データは波形測定器内に保存し、測定後にPCにデータ転送して評価試験を続けるケースがある。ところが、そのデータ転送時間は数秒ではなく数分程度かかることもあり、その間は評価試験を中断せざるを得ない。
また、電力計と波形測定器は別々の機器でのデータ取得となっているため波形のサンプルレートと電力計の電力値や演算値を同期するためには、少なくとも波形測定器の観測スタート時刻と電力計のスタート時刻(データ更新周期の位置)を合わせる必要がある。1秒単位で時刻を合わせること(同期)は現実として可能であるが、100ms以内の時刻同期を手動で合わせることはかなり難しい。波形データ、電力データを同時に取得したい試験も増えているが、データの同時性を確保することは大きな課題となっている。
3.IS8000による課題解決(Solution)
4.IS8000による提案(Detailed description)
4.1 DL950 10Gbit高速転送による作業効率向上
スコープコーダDL950は10Gイーサネットインタフェースオプション(/C60)により10Gbpsの高速データ転送*を実現した。従来機種DL850Eでは100kS/s(16ch)でのPCストリーミングであったが、DL950は100倍の20MS/s(8ch)の高速データ転送*が可能になり、PCソフトウェア上にリアルタイムに測定データを表示できる。特にインバータ測定においてはスイッチング周波数が高速な信号であるため早いサンプルレートでデータ取得する必要がある。最速20MS/sのPC連続データ転送の性能は、試験を中断することなくデータ出力ができる。データ転送のためだけに何分間も待つ必要はない。さらに、高精度電力計WT5000と組み合わせることで高速波形データと電力データを同期させて電力のトレーサビリティの取れた高精度電力計測を実現できる業界初の性能・機能を実現できる。
*HiSLIP通信 :High-Speed LAN Instrument Protocol
1000BASE-T(1Gbps)に比べて理論上10倍高速なデータ転送が可能。
* DL950 10Gbpsイーサネット(/C60オプション)が必要。オプションがない場合、200kS/s(16ch)
*USB3.0通信での転送レートは64MB/s
図1 DL850EとDL950のデータ転送比較
図2 DL950とPCとの接続図
図3 DL950 10MS/sデータの波形確認例
4.2 IEEE1588規格*によるDL/WT時刻同期
波形測定器の波形演算機能を使って電力値を表示させる方法により電力値の検証を行うケースがあるが、測定波形とトレーサビリティのとれた高精度な電力値としての結果を得ることはできない。IS8000統合計測ソフトウェアプラットフォームは、IEEE1588時刻同期を使いDL950とWT5000を同時に接続*することで同期測定が簡単に可能になる。DL950とWT5000の同期誤差は約10μs*である。
DL950で取得できる最速20MS/s、8ch同時の連続波形データとともにWT5000の電力データをPCの同一時間軸上に表示できる。そのため、電力計データは波形データとともに時系列のトレンド表示ができるので微妙な電力変動を確認できる。
たとえば実際に起こっている電力変動から異常波形データを確認し問題を発見することも可能になる。
* IEEE1588規格:ネットワーク上でつながる機器間の時刻同期に使用される高精度
時間プロトコル(PTP)。PTP=Precision Time Protocol
* DL950 IEEE1588マスター機能(時刻同期)(/C40オプション)が必要
* DL950 2台のIEEE1588同期の誤差は±150ns
* DL950 10Gbpsイーサネット(/C60オプション)が必要
* 2台の同期計測はIS8000 複数台同期オプション(/SY1)が必要
図4 波形データと電力データのモニター画面
図5 電力データと波形データの同期測定画面
図6 電力データと波形データの同時カーソル測定例
4.3 リンクファイル/分割ファイルによるデータ管理
統合計測ソフトウェアプラットフォームIS8000は、測定したデータを1つのリンクファイルとして管理できる。従来のように別々に測定した波形データファイルと電力データファイルを関連づけるために同じ名前をつけて保存する、あるいは測定データごとにフォルダを作成し、その中に波形ファイルと電力データファイルを入れて管理するなどの作業は不要となる。IS8000を使って同時に測定することで波形データも電力データも1つの統合ファイルとして管理できる。
また、便利なファイル分割機能もある。ファイルを分割する時間やサイズを設定することで、分割ファイルを作りながら全時間のデータファイルを一元管理できる。測定の途中で解析をしたい場合は、分割ボタンを押すことでファイルを分割させて解析することもできる。たとえば、24時間の測定を行っているときに1時間ごとのファイル分割時間を設定することで測定しながら測定終了した時間分のデータを解析できる。測定終了後は分割ファイルのみでは扱いにくいため、1つのリンクファイルとして管理することができる。
図7 リンクファイルと分割ファイルの統合イメージ
図8 リンクファイルの表示例(画面左側)
4.4 確度保証された信頼性の高い電力データの活用
波形測定器の中に電力計データを演算する機能を搭載する機器が増えている。過渡的な現象においてもデータの同時性を確保できるため波形測定器で電力演算できることは大変便利であるが気をつけなければならない点がある。それは国家標準につながった電力データの確度保証である。
波形測定器は電圧プローブ、電流プローブを使って高帯域・高サンプルレートにより測定信号の形状を、より正確に捉えることが主な目的となっている。したがって、波形測定器を使って電力演算した結果は電力計で測定したデータとは異なり、確度保証がなく信頼性については慎重に検証する必要がある。一方、横河の電力計は国家標準につながる計測標準を高い精度で確立・維持しており、電力計データの電圧、電流、有効電力などにおいて信頼性の高いデータを提供している。
統合計測ソフトウェアプラットフォームIS8000は、電力トレーサビリティ*の取れたWT5000による電力計測とともにDL950による最速20MS/s、8chのデータ転送を可能としており、信頼性の高い電力計データと波形データを、同一時間軸上に同時表示できる。
*電力のトレーサビリティ:高精度電力計WT5000の性能を支える校正技術について
「高精度電力計を支える横河電機の電力校正技術」
図9 新電力校正システムのトレーサビリティ体系図
4.5 波形と電力計データを使って自動レポート作成
自動レポート作成オプション(/RP1)を組み込むことによりPC上でレポートを作成し出力できる。レポートの構成は、レポート作成ウィザード機能を使うことで、レイアウト設定(イメージ表示付き)ができ簡単にレポートが作成できる。スコープコーダDL950あるいはプレシジョンパワーアナライザWT5000で測定、および保存したファイルをもとに、測定条件、波形出力や測定結果などを選択し、報告書をPDFやEXCELに出力することができる。
図10 レポートのテンプレート作成画面
図11 レポート作成中の波形画像の挿入イメージ
*掲載されている画像等は実際の製品とは一部異なる場合があります。
*本アプリケーションの仕様は測定チャネル数や測定条件などにより制限されることがあります。
詳細についてはお問い合わせください。
DL950は、DL850E/EVの機能・仕様を大幅に改善し、タッチパネルによる直観的操作を可能した新時代のスコープコーダです。
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