1. はじめに
モーターの高精度な回転制御が必要とされる場合、回転軸の角度や速度を正確に知るためにロータリーエンコーダが使われます。
光学式ロータリーエンコーダは、スリットつきの円盤の回転による光量変化を電気信号に変換し、パルス信号を出力します。近年では、この小型・高速・高精度化がすすんでいます。
そのため精度評価のためのパルス信号観測では、以下に挙げるような測定器の精度向上や作業の効率化が求められています。
図1 光学式ロータリーエンコーダ
(インクリメンタル方式)
光学式ロータリーエンコーダは回転の速さを出力パルスの周波数から、回転方向をA、B相の位相のずれから求めます。エンコーダの評価ではスリット形状の精度等を求めるために位相差やパルス周期等のデータを測定します。以下に測定項目例を示します。
エンコーダの測定項目例
エンコーダパルス各相の周期、デューティー、 各相間の位相差 (A↑-B↑, B↑-A↓, A↓-B↓, B↓-A↑) |
複数回測定し、平均、最大、最小等を確認 |
軸の回転角度 |
エンコーダ出力からの直接変換 |
2. ポイント
ロータリーエンコーダ開発においてDLM3000/DLM5000をお使いいただくことで、ロータリーエンコーダ評価の質を向上させ、作業を効率化できます。
DLM3000/DLM5000は最大2.5GS/s(全ch)のサンプルレートを持つため、0.4nsecの高分解能でエンコーダパルスの周期を測定でき、波形パラメータの自動測定機能により、エンコーダ出力波形の周期、パルス幅、パルス間位相差の自動測定もできます。最大、最小、平均、標準偏差等の統計演算に加え、トレンドやヒストグラム表示により視覚的に確認できます。
エンコーダ専用のパルスカウント機能である「ロータリーカウント機能」により、方向含めパルス数積算を行い、回転の状態を直接確認できます。
3. 特長
4. ソリューション
4.1 波形パラメータの自動測定
ロータリーエンコーダの評価では、出力パルスのA相またはB相の周期やA相とB相間の位相差等が必要です。
A相、B相の周期については、DLM3000/DLM5000の29種類の自動測定項目から“Period”を選択(図2)するだけで、波形更新に合わせて設定した位置のパルスの周期が表示されます。
図2 波形パラメータ測定項目選択画面
また、 A相、B相の各位相差については、図3のようにA相からB相を引いた波形を演算チャネル(MATH)により作成し、そのパルス上部の凸部の時間幅をパラメータ自動測定項目の“+Width”により測定することで求められます。
図3 演算によるA相B相間時間差の可視化
4.2 ロータリーカウント演算による回転量モニター
回転軸の角度をリアルタイムに把握することで、ロータリーエンコーダ評価の作業効率を向上できます。
DLM3000/DLM5000のロータリーカウント演算は、A相とB相のパルスエッジが正方向に入力されると“+1”、逆方向(エッジ入力順が逆)に入ると“-1”としてカウントし、演算結果をリアルタイムに表示します。(図4)
図4 ロータリーカウントの概念
回転方向とパルス入力個数に応じて、ロータリーカウントの演算波形が変動を表示します。(図5)
画面下部の階段波形は回転方向と回転量を表します。正回転(CW: clockwise)の場合はレベルが上昇し、逆回転(CCW: Counter clockwise)では降下します。
DLM3000/DLM5000ではZ相信号入力によるカウント値のリセットにも対応しています。
図5 ロータリーカウントの演算波形例
4.3 波形パラメータ測定値の統計処理
エンコーダの評価では、各パルスに対して周期や位相差等の最大値や標準偏差等を求めることも必要です。
DLM3000/DLM5000は、取り込んだ波形に対して波形パラメータの統計処理もできるため、これらを求めることが出来ます。
エンコーダ評価では連続した複数のパルスに関するデータが必要なため、指定した範囲の1周期ごとのパラメータ測定結果を元に統計処理を行うサイクル統計処理が有効です。演算結果は最大値、最小値、平均値、標準偏差を表示できます。(図6)
DLM3000/DLM5000では、データ捕捉後のサイクル統計処理を高速に解析できます。以下は波形に対する演算時間の例です。
(12.5Mポイント、パルス数40個の場合)
A相B相+Width測定:約2秒以内
A相B相間位相差(演算波形の+Width):
約1秒以内
図6 エンコーダパルスの波形パラメータ測定
4.4 統計処理結果の視覚化
DLM3000/DLM5000は、測定したパルスの周期や位相差のパラメータを最大10万個内部に保持できます。
測定結果は、解析ウィンドウ機能を使うことで、リスト表示(結果を並べて表示)、トレンド表示(結果のグラフ化)、ヒストグラム表示できます。
図7では解析ウィンドウにA相B相の位相差のヒストグラム表示をさせています。
ヒストグラムの形状を見ることで、データが離散的に周期変動しているのかなどを確認できます。
図7 サイクル統計処理のヒストグラム表示
5. まとめ
小型、高速、高精度化するエンコーダの効率的評価には、周期時間差などの複数の測定項目を短時間で評価する必要があります。
DLM3000/DLM5000は、チャネル間演算や波形パラメータの統計解析などの豊富な解析機能を搭載しており、大容量メモリーに保存したデータを高速に演算処理することができます。波形観測だけでなく、時間軸の解析機能も充実していますので、エンコーダ評価の生産性を向上することができます。
補足:さらなる高度なテクニック
回転速度変動を考慮したエンコーダ評価
エンコーダ評価では、エンコーダ精度の評価のために以下に示すようなパラメータ「R」がよく使われます。Rはエンコーダの全パルスについて求めます。
R=(A相とB相の位相差)/A相周期×100 [%]
A相周期を一定と考え、簡易的にRを求める場合もありますが、回転速度の変動が無視できないときは、A相周期の値も1パルスごとの値を使う必要があります。
DLM3000/DLM5000は、測定項目に計算式を設定することで、 1回の測定と統計処理により上記のRをエンコーダ全パルスについて求めることができ、画面上でグラフ表示できます。以下に測定手順の概要を述べます。
1. サイクル統計の範囲とスレショルドレベル設定
図8 スレショルドレベル、統計処理範囲の設定
2. 波形パラメータ間演算の設定
波形パラメータの自動測定値を使い、さらに演算式を設定することでRを求めます。測定項目でCalcを選択し、演算式入力ダイアログに数式を入力します。(図9)
図9 計算式入力ダイアログ
3. サイクル統計処理の実行と結果の表示
統計処理を実行します。最大値、最小値、平均値、標準偏差等の結果が図10のように表示されます。
リスト表示(1パルスごとの計測結果数値)とトレンド表示(計測結果のグラフ)を行うことができます。
DLM3000/DLM5000は、1回の統計処理で最大9パラメータまで同時測定できます。
図10 統計処理結果の表示例
4. 測定結果および統計処理結果の保存
測定結果および統計処理結果は、内蔵ストレージ、USBストレージまたはネットワークストレージに保存できます。
また、全ての測定結果をCSVファイルとして保存できるので、PCによるさらなる詳細解析を素早く行うことがます。
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