太陽光発電や風力発電では直流電力が生成されますが、一般家庭で使用する交流電力に変換するためには、インバータが必要不可欠です。インバータの連続試験などでは、何かしらの原因で瞬時的に振幅が小さい波形や、正確に制御された通常の波形とは異なる信号が発生することがあります。オシロスコープの重ね書き機能、あるいはヒストリ機能*を使うことで異常波形を観測することが可能ですが、どのような異常波形なのか事前にわかっていない場合は、トリガで捉えられないケースも多くあります。
また、この異常波形の信号変化はごくわずかなこともあります。
原因を追究するため、波形だけでなく瞬時における電圧値、電流値、有効電力値、ピーク値、力率、周波数などの測定値にどの程度影響があるかどうかを観測したいケースがあります。これらのデータは高精度な電力計データを確認することでさまざまな判断ができる材料となります。
* ヒストリ機能:一般的にオシロスコープはトリガがかかった最新の画面を表示するため過去の波形データは失われます。横河計測のオシロスコープは設定無しに自動的に過去に取り込んだ波形を内部メモリーに保持できます。
異常波形は稀にしか発生しないことも多く、その波形を捉えるために膨大な時間がかかることがあります。また、その信号変化が小さければ小さいほど目視では認識できません。発生するタイミングも特定できず、トリガ条件の設定により波形を捉えることも困難です。
異常波形を捉えたい場合、オシロスコープでは観測する時間が非常に短いことが多いです。たとえば、基本波信号が50 Hzの信号を、オシロスコープで10分間観測するとメモリー長の影響でサンプルレートが低くなってしまい正しい波形の捕捉ができなくなります。また、別の方法として、サンプリングしたデータを直接PCなどの外部機器に直接保存すればよいですが、比較的早いサンプリングで取得したデータをリアルタイムにPC転送しようとすると通信インタフェースの制限により必要なサンプルレートが保てないこともあります。
波形データと同じタイミングで電力データを収集したい要望も増えていますが、同一時間軸上に表示させることは簡単ではないため、課題となっています。
スコープコーダDL950は10 Gbpsイーサネットインタフェースオプション(/C60)により10 Gbpsの高速データ転送*を実現しました。従来機種DL850Eでは100 kS/s(16 ch)でのPCストリーミングでしたが、DL950は100 倍の20 MS/s(8 ch)の高速データ転送が可能になり、PCソフトウェア上でリアルタイムに測定データを表示できます。特にインバータ測定においてはスイッチング周波数が高速な信号であるため、早いサンプルレートでデータ取得する必要があります。最速20 MS/sのPC連続データ転送の性能は、試験を中断することなくデータ出力ができます。データ転送のためだけに何分間も待つ必要はありません。
さらに、高精度電力計WT5000と組み合わせることで高速波形データと電力データを同期させて電力のトレーサビリティの取れた高精度電力計測を実現できる業界初の性能・機能を提供しています。
* HiSLIP 通信:High-Speed LAN Instrument Protocol
1000BASE-T(1Gbps)に比べて理論上10 倍高速なデータ転送が可能
* DL950 10 Gbpsイーサネットインタフェース(/C60オプション)が必要
オプションがない場合、200 kS/s(16 ch)
*USB3.0 通信での転送レートは64 MB/s
図1 DL850EとDL950のデータ転送比較
図2 DL950とPCとの接続図
オシロスコープと電力計のソフトウェアは別々のソフトウェアでデータ収集を行うため、一般的にファイル形式が異なります。
しかし、統合計測ソフトウェアプラットフォームIS8000は、波形データと電力計データの同期測定という測定ニーズに合わせて、1つの統合計測ソフトウェアとして使用できます。
データ収集ソフトウェアを統一することでオシロスコープと電力計の設定方法を可能な限り同じ操作にて行うことが可能です。
これにより、従来別々に測定して保存していた方法に比べて、ファイルの整理や管理の業務を大幅に削減することが可能です。
また、電力計と波形測定器を同期して使用できるので、たとえば、異常データを検出する場合、図3に示す通り、電圧実効値、電流実効値が変化している部分を拡大することで波形データの異常を確認することができます。
図3 電圧波形変動時の電圧・電力値変動の確認例
図4 DL950/WT5000を使った波形解析と電力計測
波形測定器の波形演算機能を使って電力値を表示させる方法により電力値の検証を行うケースがありますが、トレーサビリティの取れた高精度な電力値としての結果を得ることはできません。IS8000 統合計測ソフトウェアプラットフォームは、IEEE1588時刻同期を使いDL950とWT5000を同時に接続*2することで同期測定を可能にします。DL950とWT5000の同期誤差は約10 μs*3です。
DL950で取得できる最速20 MS/s*4、8 ch同時の連続波形データとともにWT5000の電力データをPCの同一時間軸上に表示できます*5。そのため、電力計データは波形データとともに時系列のトレンド表示ができ、微妙な電力変動を確認できます。
たとえば、実際に起こっている電力変動から異常波形データを確認し、問題を発見することも可能になります。
*1: ネットワーク上でつながる機器間の時刻同期に使用される高精度時間プロトコル(PTP)。PTP = Precision Time Protocol
*2: DL950 IEEE1588マスター機能(時刻同期)(/C40オプション)が必要
*3:DL950 2 台のIEEE1588同期の誤差は±150 ns
*4: DL950 10 Gbpsイーサネットインタフェース(/C60オプション)が必要
*5: 2 台の同期計測はIS8000 計測器複数台同期オプション(/SY1)が必要
図5 波形データ異常時の電力データ確認画面例1
図6 波形データ異常時の電力データ確認画面例2
オンラインモニター操作は、通信インタフェース経由で測定器をPCからリモートコントロールできます。
スコープコーダDL950あるいは電力計WT5000本体のタッチパネルスクリーン(コントロール画面)がPC画面に表示されます。測定器本体の操作と同じように離れた場所にあるPC上で設定を自由に変更でき、測定波形や電力計データも確認できます。したがって、製品本体と異なるソフトウェアの操作を新たに覚える必要はありません*。
2台接続したときも同時に2画面をPC上に表示できます。設定に問題がないようであれば、その後、波形データあるいは電力計データを収集できます。
コントロール室から離れた場所にあるDL950の波形をPC上で確認できるので、実験室とコントロール室を往復しながら波形データの保存や設定条件を変更するなどの手間を減らすことができ、効率的なデータ収集が可能になります。
*本体のハードキー操作は除く
図7 DL950のリモートコントロール画面(2 台表示可)
図8 WT5000のリモートコントロール画面(2 台表示可)
一般的に波形データ記録中は連続してファイル書き込みを行いますが、長時間の試験を継続したまま測定が終わった波形を画面に表示させたいことがあります。データの信頼性やデータ解析を並行して進めたい場合、試験終了まで待たなければならないこともあり、業務効率が悪くなります。
統合計測ソフトウェアプラットフォームIS8000はこのような不便さを解消しています。通常、1つのファイルとして測定データを格納しますが、IS8000は測定を継続しながらデータファイルを分割して保存できます。そのため、測定中でも分割されたファイルをオフライン解析として確認でき、測定後は1つのリンクファイルとしてデータを扱うことができます。
リンクファイルの優れている点は、ファイルを分割する時間を設定、あるいは手動で分割することができるので、測定の途中で解析したい場合はその時点でファイルを分割できます。測定終了後は分割ファイルのみでは扱いにくいため、全ファイルを1つの統合ファイルとして管理できます。DL950を2台使った場合やDL950とWT5000を組み合わせた測定においても同様に1つのファイルとして管理できるため、大変便利です。
また、便利なプロジェクトファイル機能も搭載しています。一般的に波形測定器と電力計のデータ収集を行う場合はそれぞれのファイル形式で測定データを保有します。そのため、別々に保存したデータを表示したい場合、時刻や時間軸情報を合わせて表示することは簡単ではありません。IS8000は個々のファイルを持ちながら1つのプロジェクトファイルとして管理できます。したがって、波形データファイルと電力データファイルを関連づけるために同じ名前をつけて保存する、あるいは測定データごとにフォルダーを作成し、その中に波形ファイルと電力データファイルを入れて管理するなどの作業が不要となります。
図9 リンクファイルと分割ファイルの統合イメージ
波形測定器に電力計データを演算する機能を搭載する機器が増えています。過渡的な現象においてもデータの同時性を確保できるため、波形測定器で電力演算できることは大変便利ですが気をつけなければならない点があります。それは国家標準につながった電力データの確度保証です。
波形測定器は電圧プローブ、電流プローブを使って高帯域・高サンプルレートにより測定信号の形状を、より正確に捉えることが主な目的となっています。したがって、波形測定器を使って電力演算した結果は電力計で測定したデータとは異なり、確度保証がなく信頼性については慎重に検証する必要があります。
一方、横河計測の電力計は国家標準につながる計測標準を高い精度で確立・維持しており、電力計データの電圧、電流、有効電力などにおいて信頼性の高いデータを提供しています。
IS8000は、電力トレーサビリティ*の取れたWT5000による電力計測とともに、DL950による最速20 MS/s、8 chのデータ転送を可能としており、信頼性の高い電力計データと波形データを同一時間軸上に同時表示できます。
* 電力のトレーサビリティ:高精度電力計WT5000の性能を支える校正技術について
「高精度電力計を支える横河電機の電力校正技術」
図10 新電力校正システムのトレーサビリティ体系図
※掲載されている画像などは実際の製品とは一部異なる場合があります。
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