エアコン・家電向け小型モーター制御時の過渡解析

エアコン・家電向け小型モーター制御時の過渡解析

背景

空調業界は汎用的なインフラ設備の代表例として、昨今の脱炭素化に向けた社会形成において効率向上が重要な課題とされています。空調は主に室内機と室外機に分かれており、特に室内機には小型のモーターが多く使用されています。空調メーカーは、最も電力効率に影響を及ぼす圧縮機を中心に電力効率改善を図っていますが、多くの可動部を持つ室内機に搭載された小型モーターの制御も重要と考えられています。室内機の小型モーター制御はエアコンの空調効果向上に直接寄与し、低いエネルギーで稼働させることができるため、電力効率向上に繋がります。
また、近年では空調に求められる性能は単純な温度調整だけでなく、室内中の酸素や二酸化炭素などの濃度調整や空気清浄効果も同時に求められる傾向にあります。このため、これらに関してもモーター制御が重要で、dq軸パラメータを用いたモーター制御が積極的に活用されています。
さらに、空調にはコンプレッサ駆動用インバータなどにパワーデバイスが採用されており、SiCパワーデバイスなどの新技術採用を目指した進化が図られています。それにより、電源ノイズの影響を考慮したモーター制御の過渡的な解析もデバイスの進化に応じて重要性を増しています。

 

課題

空調や家電の電力効率測定は、その稼働条件によって消費電流が大きく異なるため、高精度な測定を行うには広いダイナミックレンジを持つ測定器が求められます。さらに、製品の評価ではモーターの温度や振動など、電圧と電流以外のパラメータとの相関の確認が必要ですが、複数の測定器を同期させて測定することは容易ではありません。
小型モーター制御に必要なdq軸パラメータの解析を行う際、モーターに流れる電圧と電流、ロータリエンコーダなどの位置センサーの信号からdq軸パラメータに換算するには、大容量の測定データと複雑な換算式を用いる必要があるため、モーターの専門知識の理解に加えてデータ保存と演算に手間がかかります。そのため、モーターの開発や評価の効率を向上させるために、モーター解析機能を備えた測定器が重要な役割を果たします。
モーターの効率の向上には、モーターの始動時や停止時の過渡状態の制御も重要です。過渡状態の測定には、比較的早いサンプルレートで長時間記録できる波形測定器が必要になります。また、モーターは電源ノイズにより正常な制御ができなくなる場合もあります。ノイズの影響の確認にも、周波数解析が可能な波形測定器が有効となります。

 

WT1800R・DL950による課題解決

  • 多チャネル・高精度かつ広いダイナミックレンジをもつ電力測定
  • 電力とモーター出力の高精度同時測定
  • 制御パラメータ測定に役立つ解析機能
  • 多彩なプラグインモジュールによる波形測定
  • 波形測定器によるベクトル制御信号の高速過渡解析

 

WT1800Rによる提案

多チャネル・高精度かつ広いダイナミックレンジをもつ電力測定

WT1800Rは、電力基本確度±0.1%というクラストップレベルの高精度を誇るパワーアナライザです。5A入力エレメントと50A入力エレメントの2 種類のエレメントを、最大6エレメントまで搭載可能で、広範囲の電流振幅に対応する柔軟な構成が選択できます。これにより、1 台のWT1800Rで待機電力から稼働時の電力まで広いダイナミックレンジを活用した高精度な測定が可能です。
小型モーターは流れる電流が小さいため、5 Aエレメントが最適です。三相モーターの入出力電力を測定することで、高精度なモーター効率の測定が実現し、より高効率なモーターの開発に貢献できます。一方でパワーデバイスを同時に測定する場合は電流センサーが必要となる場合もあります。WT1800Rは電流センサーCTシリーズ用DC電源(/PD2オプション)を搭載可能なため、パワーアナライザ本体と電源、および電流センサーを一体化させた低ノイズな電力測定を実現することが可能です。

図1 WT1800R 外観

図1 WT1800R 外観

図2 AC/DC 電流センサーCT1000の接続例

図2 AC/DC 電流センサーCT1000の接続例

 

電力とモーター出力の高精度同時測定

WT1800Rはモーター評価機能(/MTRオプション)により、回転センサー信号とトルクメーター信号から、モーターの回転速度、トルクおよびモーター出力(メカニカルパワー)を測定できます。回転センサーやトルクメーターはアナログ信号またはパルス信号から選択可能です。
また、A 相、B 相、Z 相入力端子の搭載により、A 相、B相を使うことでモーターの回転方向を検出でき、さらにZ相信号を使って電気角を測定できます(電気角測定時には/G5または/G6オプションが必要です)。これにより、高精度な電力効率測定とモーターパラメータの同時測定が実現します。

図3 トルク&回転信号入力端子

図3 トルク&回転信号入力端子

 

制御パラメータ測定に役立つ解析機能

WT1800Rはハイエンドモデルと同等のモーター解析機能を搭載しています。これにより、高効率モーターとして注目されている永久磁石同期モーター(PMSM)のように、回転座標系であるdq軸パラメータを用いて制御されるモーターの測定を支援します。
これらのモーターは制御値であるdqパラメータを入力し、必要な出力(たとえば負荷に応じたトルクなど)を確認することで、制御に問題がないかどうかを確認します。WT1800Rは測定した値からdqパラメータを演算して求めることが可能なため、制御値のdqパラメータと出力から換算されるdqパラメータを比較することができます。
WT1800Rは従来機種と異なり、idやiq、vdやvqだけでなく、LdやLqも演算することが可能です。プリセット機能やユーザー定義演算の式を保存する機能や読み込む機能が追加されており、これらの機能強化がdq軸パラメータによるモーター測定を強力にサポートします。

 

DL950による提案

多彩なプラグインモジュールによる波形測定

電力計の電力やdq 軸パラメータ演算の結果は周期ごとの平均値となるため、モーターの始動や停止時の過渡的な現象やノイズ成分の解析には不向きです。これらを解析するためには波形測定器を使用します。
DL950はモジュラー構造の波形測定器で、多種多様なモジュールから最大8枚のモジュールを選択して使用することが可能です。温度/ 高精度電圧モジュール 701265や、16 CH 温度/ 電圧入力モジュール 720221による温度測定、加速度/電圧モジュール 701275による振動測定など、DL950 1 台で多くの物理量を測定することができ、モーターの制御パラメータと振動、温度などを同時に測ることが可能です。
さらに最大で8 Gポイント(/M2オプション)の大容量内蔵メモリーや512 GBの内蔵SSD(/ST1または/ST2オプション)を搭載することで長時間の測定が可能となり、連続動作の試験にも使用できます。

図4 DL950 外観

図4 DL950 外観

 

波形測定器によるベクトル制御信号の高速過渡解析

DL950のモーターdq解析(/MT1オプション)を使用することで、モーターの制御に必要なパラメータをリアルタイムに演算し、波形として測定することができます。
モーターに流れる電圧と電流に加え、ロータリエンコーダやレゾルバなどの回転センサーの信号をDL950に入力することで、回転角度やdq軸電圧とdq 軸電流を演算できます。
入力波形に加えて、演算結果はFFTによる周波数解析が可能なので、ノイズ成分の解析も行えます。モーターの制御に使用されるdq 軸パラメータはマイコン内部で計算されるため、その結果を確認することが難しい場合や、結果が取得できてもサンプルレートが遅い場合が多くあります。
DL950は10 MS/sで高速に演算ができるため、dq 軸パラメータの値の変化やノイズの状況を確認することができます。

図5 dq 軸電圧とdq 軸電流の演算結果例

図5 dq 軸電圧とdq 軸電流の演算結果例

 

さらに、電力やdq軸のインダクタンス、トルク、モーター効率など、最大118 項目のモーターに関するパラメータを周期ごとに演算することができます。周期の切り出しは、入力電圧、入力電流、または回転角度演算結果のいずれかのゼロクロスエッジから選択することができます。エッジ検出できない場合は指定時間で、エッジ検出ができる場合はエッジ間で周期を切り出して周期演算を行う機能があります。この自動切換えの機能を使用して、モーターの起動時や停止時などの過渡状態の測定を行うことができます。
DL950は波形を取得すると同時に演算が実行されて結果が表示されるので、波形測定後すぐにデータの解析に移行することができ、モーターの開発や評価の効率化にも貢献できます。

図6 モーターパラメータの周期演算例

図6 モーターパラメータの周期演算例

 

関連業種

関連製品とソリューション

スコープコーダ DL950

DL950は、DL850E/EVの機能・仕様を大幅に改善し、タッチパネルによる直観的操作を可能した新時代のスコープコーダです。
200MS/s高速サンプルレート、最大8Gポイントメモリー、複数台同期で最大160CHが可能で、お客様の様々なニーズにお応えします。

プレシジョンパワーアナライザ WT1800R

WT1800Rプレシジョンパワーアナライザは、最先端の研究開発で求められる高い性能と豊富な機能、拡張性を兼ね備えたモデルです。EV/PHV/FCVなど自動車の電動化や再生可能エネルギー向けパワーコンディショナなどの技術開発や各種規格試験など、パワーエレクトロニクスに関わる幅広いアプリケーションにお使いいただけます。

Precision Making

トップ