エアコン・家電・OA機器・電源向け省エネ規制・規格に沿った高精度電力測定

エアコン・家電・OA機器・電源向け省エネ規制・規格に沿った高精度電力測定

背景

化石燃料の枯渇や環境問題を背景に、再生可能エネルギーへの移行や省エネルギー化の推進が求められています。国内ではトップランナー制度が制定され、北米ではエネルギースタープログラム、欧州ではエコデザイン(ErP)指令などが制定されています。これらの制度では、省エネルギー製品の開発とその普及を目指しており、製品の稼働時の消費電力の削減によるエネルギー消費効率の向上とともに、製品が使われていない期間の待機電力の削減も同時に求めています。
待機電力とは、エアコンや給湯器、テレビ、AV機器などの電気電子製品が電源オフまたは待機モードになっている状態で消費される電力のことを指します。製品個々の待機電力は稼働時に比べて小さいものの、使用されていない時間が相対的に長いため、一般家庭にある製品の待機電力量を合計すると、その家庭の全消費電力量の数%に達すことがあります。さらに、家庭、オフィス、工場など社会全体で待機電力量を合計すると、常に大きく無駄な電力消費となります。

 

課題

製品の稼働時の消費電力の測定方法は、各規制・規格において製品のカテゴリごとに細かく条件が定められており、プリンタや複合機のようにTEC(Typical Electricity Consumption)といった専用の測定および演算方法によるパラメータを規定されているケースもあります。したがって、それらに沿った測定と評価が不可欠となります。
一方、待機電力に関しては、国際規格 IEC62301:2011(Ed.2.0)が規定されており、その規格に沿った測定が求められることが多いです。待機電力は測定方法にノウハウが必要であり、以下のようなポイントが重要となります。

  1. 小さいレンジによる微小電流の高精度測定
  2. ピーク電流を正確に測定するためのレンジ設定とクレストファクター(CF)設定
  3. 常に電流が変化する機器の平均電力値を測定
  4. 低力率時における高精度な電力測定

さらに、国際規格の場合には測定精度ではなく不確かさで規定されていることがあるため、不確かさの知識とその対応が必要となります。

 

WTシリーズ、対応ソフトウェアによる課題解決

  • 電流直接入力による微小電流からの高精度測定
  • 実効値に対してピーク値が高い電流入力でも高精度に測定可能
  • 積算機能を用いた電力量の測定と有効平均電力値の演算
  • 低力率時でも高精度測定可能な入力エレメント設計
  • トレーサビリティが取れている高精度電力校正
  • IEC規格に対応したソフトウェアを利用した簡単測定

 

クレストファクターと電流レンジの選択

次の手順でクレストファクターと電流レンジを選択します。

  1. 電流レンジをオートレンジに設定して測定します。電圧レンジは入力する電圧のレンジを選択します。
  2. 電流のピーク値と実効値を確認し、その比からクレストファクターをCF3、CF6、CF6 A*から選択します。
  3. 次の式を使い、電流ピーク値と選択したクレストファクターから電流レンジを選択します。

クレストファクターと電流レンジの選択

* CF6 A:CF = 6の設定に対し、レンジアップの条件を変更して、オートレンジにてひずみ波形を測定する際に、レンジ変更が頻発するのを抑えた設定

 

平均有効電力の算出

IEC62301では、機器を30 分ウォームアップ後、隣接した2つの測定期間の平均電力の差が次の場合、安定性が確立されているとして、2つの測定値の平均として電力を決定します。

  • 入力電力が1W以下の製品:10 mW/h
  • 入力電力が1Wを超える製品:測定された1時間当たりの入力電力の1%

平均有効電力の算出方法には、測定値の単純平均を取る電力平均法(電力計のアベレージ機能)と積算電力量を積算時間で割って求める電力積算法(電力計の積算機能、平均有効電力機能)があります。
電力積算法は電力平均法に比べ、ばらつきが抑えられた有効電力値を得ることができます。

図1 平均有効電力測定の概念図

図1 平均有効電力測定の概念図

 

電圧入力と電流入力の接続位置

図2(a)のように電圧測定端子を電流測定端子より負荷側に接続した場合、電流測定回路には負荷に流れる電流と電圧測定回路の入力抵抗に流れる電流の加算電流が流れ、電流測定値の誤差が大きくなります。
微小電流を測定する場合、図2(b)のように接続すると電流測定回路には負荷に流れる電流のみが流れ、電圧測定回路に流れる電流の影響がなくなります。ただし、逆に電流が大きい場合に図2(b)の接続を行うと、電流測定回路のシャント抵抗に流れる電流による電圧降下分が負荷にかかる電圧に加算されて電圧測定回路に入力されるため、電圧測定値の誤差が大きくなります。

図2 結線方法の違いによる測定精度への影響

図2 結線方法の違いによる測定精度への影響

 

低力率の機器の測定

電力計の誤差は一般に以下のように分解されます。
読み値誤差 + レンジ誤差 + 位相誤差
第3項の位相誤差は以下にて表されます。
位相誤差=電力読み値 × tan(電圧、電流間位相差)
×(λ = 0 時の影響%)
上記より、電圧と電流間の位相差が大きくなる、すなわち低力率になると、影響度が三角関数tanにより影響が大きくなることを意味します。そのため、0%からの有効入力範囲を保証する力率誤差の影響が極力小さい電力計を使用されることが望ましいです。
以下は横河計測の電力計WTシリーズ、PX8000の特性例となります。

図3 任意の力率における電力測定誤差演算例

図3 任意の力率における電力測定誤差演算例

 

不確かさへの対応

国際規格や規制の中では、測定精度に関していわゆる確度ではなく、不確かさに規定されている場合が多いです。
不確かさの理論については、Webや書籍などが多数出版されていますので、本アプリケーションノートでは割愛します。その中で、測定の確度として測定器(電力計)の仕様をそのまま用いる方法もあることから、単なる一例ではありますが、バジェットシートの例を表1に示します。この中では、測定のばらつきは実際に測定した結果を入力します。測定確度に電力計の仕様を入力します。計器損失は先の結線方式を選定することで最小限にします。さらに温度依存性に関しては、測定器が規定している温度範囲内で実施することで不確かさを最小限に抑えます。

表1 測定器の仕様を利用したバジェットシート例

表1 測定器の仕様を利用したバジェットシート例

 

表1のバジェットシートを活用するために、測定器の仕様で規定されている環境条件をチェックすることを推奨します。
表2を参照してください。

表2 測定器の仕様を満足するかのチェックシート例

表2 測定器の仕様を満足するかのチェックシート例

 

国家国際標準に裏付けされた電力の校正体系

横河計測の電力計は、国家標準につながる計測標準を高い精度で確立、維持しており、電圧、電流、有効電力などのデータにおいて信頼性の高い測定を提供しています。この校正体系に基づき、販売する全ての電力計の校正を実施しています。
* 電力のトレーサビリティ:高精度電力計WT5000の性能を支える校正技術について
「高精度電力計を支える横河電機の電力校正技術」

図4 電力計の校正体系

図4 電力計の校正体系

 

ソフトウェアによる簡単測定

消費電力測定ソフトウェア(無償)は、横河計測のWTシリーズ電力計を接続することで、IEC62301 Ed2.0(2011)およびErP指令Lot 6の試験方法に準拠した測定を簡単に行えるソフトウェアです。

  • 測定条件を切り替えることで、IEC62301 Ed1.0とEd2.0に対応した測定ができます。
  • 必要な情報入力することで、電力測定ができます。
  • 測定結果のレポート作成、出力ができます。

図5 消費電力測定ソフトウェアの画面例

図5 消費電力測定ソフトウェアの画面例

図6 IEC62301 Ed2.0のTest Reportの例

図6 IEC62301 Ed2.0のTest Reportの例

  • IEC62301 Ed2.0(Auto)設定の場合には、測定画面に測定データ、判定データのトレンドグラフ表示ができます。

図7 消費電力測定ソフトウェアの画面例

図7 消費電力測定ソフトウェアの画面例

 

まとめ

横河計測のWTシリーズは、待機電力の測定規格 IEC62301、エネルギースタープログラム、エコデザイン(ErP)指令などの規格に対応し、高精度な待機電力測定を提供します。

表3 IEC62301 Ed2.0とWTシリーズの対応

表3 IEC62301 Ed2.0とWTシリーズの対応

図8 WT5000を用いた待機電力測定の画面例

図8 WT5000を用いた待機電力測定の画面例

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