カーボンニュートラル社会の実現に向けた EV用急速充電設備の開発評価

カーボンニュートラル社会の実現に向けた EV用急速充電設備の開発評価

背景

カーボンニュートラル社会の実現に向けて自動車の電動化(EV化)が加速しており、そのインフラとして再生可能エネルギー由来の電力のみを利用する急速充電器の設置が進んでいます。 急速充電は系統に接続された充電ステーション(Off Board Charger)を設置することで大電流出力に対応でき、短時間で車載バッテリを充電できます。EV 用の電池は大容量化が進んでいることから、短時間でフル充電できる急速充電器の設置ニーズが高まっております。特にサステナビリティの観点から、太陽光発電などで日中発電されて余剰となる再生可能エネルギーの有効活用として、ESSなどを組み合わせた充電ステーションの設置台数が増加しています。そして充電装置としては、充電時間の短縮化のため、高電圧かつ大電流の製品が開発されています。

*Off Board Charger:
充電ステーション。EVSE(Electric Vehicle Service Equipment)とも呼びます。

課題

最近の急速充電器は、電圧500Vdc~1000Vdc、電流100Adcから数百Adcクラスのものが開発されており、その能力を評価するために、高電圧・大電流を精度良く測定したいとの要望があります。また、充電容量(Wh、Ah)も正確に測定することが求められています。これはEV 用バッテリへの供給電力は電気料金に関係することが背景にあるためと考えられます。
充電器内部には数種類の変換回路があるため、変換に伴う損失を抑えることが重要になります。さらに、系統からの大電流を急速充電器内に取り込んでいることから、電流の高調波成分も抑えなければなりません。そのため各次数ごとの高調波電流や全高調波ひずみ率(THD)を確認することも必要となります。

WT5000 による課題解決

  • 電力基本確度±0.03%の高精度電力測定
  • 1500 Vdc、2000 Armsまでの高電圧・大電流測定
  • 力率および他の電力項目の高精度測定
  • AC/DC変換、DC/AC変換の高精度効率 測定
  • 積算電力量、積算電流量の測定
  • 電力値と波形データの連続測定による異常確認
  • その他の計測器による充電器の開発支援

図1 プレシジョンパワーアナライザWT5000

図1 プレシジョンパワーアナライザWT5000

WT5000 による提案

電力基本確度±0.03%の高精度電力測定

WT5000は世界最高クラスの測定確度となるトータル±0.03% (50/60 Hz)を実現しています。EV 用充電器の変換効率をより高精度に測定できます。
電力入力エレメントはモジュラー構造を採用し、最大7 入力できます。YOKOGAWA が長年蓄積してきた設計技術により、極めて高精度な測定回路をコンパクトな入力エレメント内部に収めました。また、3 種類のエレメント(定格入力30 A、定格入力5 A、電流センサー入力専用)から用途に合わせて選択でき、お客様自ら入れ替えや増設が可能です。

1500Vdc2000Armsまでの高電圧・大電流測定

EV用急速充電器では短時間での充電を行うため、出力電力が年々大きくなっています。最近では数百kWクラスのものもあり、高電圧化および大電流化が進んでいます。WT5000は最大電圧入力1500 Vdcで、AC/DC電流センサーを利用することにより最大2000 Arms(3000 Apeak)までの電流測定を 1 台で測定できます。また、最大7 電力モジュールを搭載することで、単相×7システム、あるいは、単相・三相電力の複数システムを同時に測定し、直流電圧、交流電圧、力率、THD、入出力間効率などを高精度に測定できます。
特にセンサーに関しては、コア部分を分割できる大容量のスプリットコア電流センサーも用意しており、開発時だけなくフィールドに設置してからの保守の際にも、必要な配線に接続して測定が可能なので、用途に合わせて使い分けることができます。

図2 AC/DC電流センサーCT1000A(左)とCT2000A(右)

図2 AC/DC電流センサーCT1000A(左)とCT2000A(右)

図3   WT5000とAC/DC電流センサーCT1000A

図3 WT5000とAC/DC電流センサーCT1000A

図4 AC/DCスプリットコア電流センサーCT1000S

図4 AC/DCスプリットコア電流センサーCT1000S

力率および他の電力項目の高精度測定

EV用オフボードチャージャーは電力系統の50 Hz/60 Hzの交流電力を直流に変換してEVのバッテリに電力を供給します。交流電力は電圧と電流、および位相差により電力値が変わるため、電力供給量を増加させるには位相差を極力なくし、また高調波を抑制して力率を1に近づけることが重要です。 WT5000は、PFC回路を介した電力値を測定し力率を演算できます。力率以外に電圧・電流・有効電力・皮相電力・無効電力・高調波・THDも同時に測定、表示できるため、各項目の変化を同時に確認できます。

図5   電圧、電流、力率、THDなどの表示例

図5 電圧、電流、力率、THDなどの表示例

AC/DC変換、DC/AC変換の高精度効率測定

EV用の急速充電器では、AC/DC変換、DC/AC変換などいくつかの変換回路を経て直流電力をバッテリに供給しています。これらの回路に関しては、電力損失を極力減らす設計が極めて重要となります。そのため、多チャネル入力を特長とする WT5000を用いることで、各回路ごとの効率を高精度に測定できます。

図6   オフボードチャージャーの概要

図6 オフボードチャージャーの概要

積算電力量、積算電流量の測定

WT5000は、長時間の消費電力量(Wh)や消費電流量(Ah)を測定する積算機能を搭載しています。 積算機能は、有効電力の積算(電力量)、電流の積算(電流量)、皮相電力の積算(皮相電力量)、および無効電力の積算(無効電力量)があります。
また積算機能には2 種類のモードが搭載されており、バッテリなどの充放電を測定するモード、交流電力の売電、買電を測定するためのモードがあります。

図7    積算電力、積算電流の測 定画面例

図7 積算電力、積算電流の測 定画面例

【積算機能の解説】

充放電モード(Charge/Discharge)

直流サンプルデータごとの極性別電力量を測定

売買電モード(Sold/Bought)

交流データ更新周期ごとの極性別電力量を測定

積算機能に関係する測定項目

ITime

積算時間

WP

正負両方向の電力量の和

WP+

正方向のPの和消費した電力量

WP-

負方向のPの和電源側に戻した電力量

q

正負両方向の電流量の和

q+

正方向のIの和(電流量

q-

負方向のIの和(電流量

WS

皮相電力量

WQ

無効電力量

電力値と波形データの連続測定による異常確認

電圧・電流・電力などのデータを長時間連続で測定する必要がある場合、PCアプリケーションソフトウェアである統合計測ソフトウェアプラットフォームIS8000を利用することで、リアルタイムに電力パラメータのトレンドを確認し保存できます。さらに WT5000の/DS(データストリーミング)オプションを用いると、電力の数値データだけでなく、波形データも同時に観測し保存できます。
たとえば、電力値で異常があった箇所を拡大することで、その時点の波形データをWT5000 1台で確認できます。

図8   IS8000による電圧・電流・電力トレンド表示

図8 IS8000による電圧・電流・電力トレンド表示

図9    電力値の低下部分の拡大による異常電圧波形確認

図9 電力値の低下部分の拡大による異常電圧波形確認

また、先に説明したスプリットコア電流センサーを用いることで、測定箇所を容易に変更でき、不具合が発生している部分を特定するのにも有効な手段となります。

関連業種

関連製品とソリューション

プレシジョンパワーアナライザ WT5000

持続可能な社会の実現に向けて、COP21におけるパリ協定の採択、既存エンジン車の販売停止計画発表など、グローバルで太陽光/風力発電に代表される再生可能エネルギーへのシフトと、EVやPHVおよびそのインフラ網の開発が加速しています。それらの更なる省電力化と高効率化を支援するために、従来機種の性能と機能を格段に向上させた高精度電力計です。

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