近年、エアコン、家電、照明器具、PC、モニター、複合機など、高効率なスイッチング電源を搭載した機器の大幅な普及により、電力系統に流れる電流波形にひずみが生じることにより、高圧系統システムでの障害が発生することが稀にあります。そのような障害の防止するために、電気電子機器には厳しい高調波電流の規制が課せられています。また、白熱電球のちらつき、コンピュータ応用機器の誤動作、さらに機器の突入電流の抑制を目的とした電圧変動やフリッカに関する規制が課されています。これらの規制は、欧州へ輸出する際に不可欠なCEマーキング認証の必須項目となっております。
これらの規制は、数年ごとに改訂されるため、対応するためには常に新しい規格の情報を入手し、その発効タイミングに合わせて追従するように、ソフトウェアや場合によってはハードウェアを新しいバージョンにアップグレードする必要があります。
高調波電流の国際規格には、相あたり16 A以下の機器を対象としたIEC61000-3-2と、16 Aを超え75 A 以下を対象としたIEC61000-3-12があります。IEC61000-3-2では、高調波電流の規制の対象となる機器カテゴリ(クラス)を4つに分け、高調波レベルの限度値が規定されています。IEC61000-3-12では、平衡三相機器以外の機器、平衡三相機器、ある条件を満たす平衡三相機器、別の条件を満たす平衡三相機器の4つに分けられ、それぞれで限度値が規定されています。
一方、電圧変動・フリッカに関しては、国際規格IEC61000-3-3およびIEC61000-3-11(大電流機器側)にて、系統電源に接続される電気電子機器の電圧変動・フリッカの限度値が規定されています。
● 世界最高レベルの精度による電力測定(限度値に関連)
● IEC規格に合致した高調波と電圧変動・フリッカ測定
● 次数ごとの高調波測定とTHD演算
● CT200特注モデルを用いた16 A/相を超え75 Aまでの大電流機器の高調波電流測定とその判定
図1 高調波、電圧変動・フリッカ測定システム
高調波とは、商用周波数50/60 Hzの正弦波を基本波とし、その整数倍の周波数をもつ正弦波を指します。基本波以外の次数成分を高調波と呼びます。たとえば、基本波(1次成分)が50 Hzの場合、3次成分は150 Hz、5次成分は250 Hzとなります。これらの高調波成分が重ね合わさり、一般的なひずみ波となります(図2 参照)。
図2 高調波の原理
高調波電流規制の国際規格は、電流が相当たり16 A以下の機器では、機器によってA、B、C、Dのクラスに分けて、最高40次までの高調波電流の限度値が規定されています。
図3 IEC61000-3-2のクラス分類
表1 限度値の例 クラスDの限度値
IEC61000-3-12は大電流機器に関して定められており、その限度値を表2に示します。
表2 IEC61000-3-12の限度値例
平衡三相機器以外の機器の限度値
IEC61000-3-3は、相あたり16 A 以下の電気電子機器に対する電圧変動・フリッカの限度値を規定した国際規格です。この規格の限度値を満たす機器は系統電源に無条件で接続することが可能となります。
表3にIEC61000-3-3で規定されている測定パラメータと限度値、図4に波形と測定パラメータの関係を示します。
表3 IEC61000-3-3の測定パラメータと限度値
図4 波形と測定パラメータ
IEC61000-3-11は、電圧変動・フリッカの限度値を規定した国際規格で、相あたり16 Aを超え75 A以下の電気電子機器と16 A 以下でIEC61000-3-3の限度値を満たさない電気電子機器を対象としています。この規格の限度値はIEC6100-3-3と同じで表4の通りとなります。
表4 IEC61000-3-11の接続条件と要求事項
プレシジョンパワーアナライザWT5000では従来の50 Hz~2.5 kHzまでの高調波測定に加え、2 kHz~9 kHzの高調波測定にも対応できるようになり、結果として50 Hz~10 kHzまでの範囲で高調波測定が可能になっています。そのことにより、測定できる最大次数を従来の50次(50 Hz × 50次 = 2.5 kHz)までから最大200 次(50 Hz × 200次 = 10 kHz)とし、高調波測定用のサンプリング周波数を上げ、1ウィンドウ(基本波10 波)あたりのサンプル数を32,768 点としました。
2 kHzから9 kHzの高調波については、IEC国際規格以外の規制の要求もあり、そのグルーピングに関して他の場合とは一部異なります。その内容を図5にて紹介します。グルーピングOFFと高調波サブグループは他の場合と同じですが、高調波グループが少し異なります。図5の例では2100 Hzのグルーピングで表しており、2000 Hzの成分を除き、それ以降の中間高調波を含み2200 Hzの成分を含めて2100 Hzの成分として算出します。
図5 2 kHz~9 kHzのグルーピング(2100 Hzの例)
中間高調波に関しては、中間高調波中心グループと中間高調波中心サブグループの2つがありますので、図6と図7にて示します。
図7 中間高調波中心サブグループ(50 Hzの場合)
上記でグルーピングを紹介した2 kHz~9 kHzの高調波/中間高調波の測定例を統合計測ソフトウェアプラットフォームIS8000によるPCモニター上の画面例を以下に示します。
図8 2 kHz~9 kHz 高調波測定(Type2)
限度値に関しては、前述にて紹介していますが、電流値が16 A/相を超えて75 Aまでの大電流機器の国際規格となるIEC61000-3-11、IEC61000-3-12の測定システムをご紹介します。WT5000の電流直接入力エレメント760901(定格30 A)では75 Aまでの測定はできませんので、AC/DC 電流センサーCT200と外部シャント抵抗を組み合わせた特別仕様モデルを組み合わせて2.5 kHzまでの帯域で精度良く測定します。
その概要を図9、図10に示します。
図9 CT200を利用した大電流の高調波測定の概要
図10 CT200 特別仕様モデル
CT200 単体の性能はDCおよび50/60 Hzのみでの確度保証となりますが、外部のシャント抵抗との組み合わせにより、2.5 kHzまでの電流測定の確度を規定することが可能となりました。このことで、IEC61000-3-12を満足した高調波電流の測定を可能にしております。
国際規格IEC61000に限らず、技術動向に合わせて規格は常にバージョンアップされています。これは、技術革新により新しい製品や技術が登場し、これまで十分に検討されていなかった分野や範囲での規制が必要となるためです。4.3項で説明した2 kHz~9 kHzの高調波はその例です。
このような規格の改訂に追従するため、特にIS8000側は常にバージョンアップして対応しております。表5にIS8000の高調波、電圧変動・フリッカ測定の更新履歴を示します。
表5 IS8000の高調波、電圧変動・フリッカ測定に関連する更新履歴
横河計測は、1982年に制定された国際規格IEC555-2に対応するため、当時の高精度電力計WT2000の測定データを使った対応ソフトウェアを開発し、市場に投入しました。現在は規格番号がIEC61000-3-2となっていますが、今後もIEC国際規格に合致した高調波と電圧変動フリッカ測定および判定システムを提供するために、その規格のみならず、各種規制の内容を取り込み、お客様の要望に応じたソリューションを提供してまいります。
持続可能な社会の実現に向けて、COP21におけるパリ協定の採択、既存エンジン車の販売停止計画発表など、グローバルで太陽光/風力発電に代表される再生可能エネルギーへのシフトと、EVやPHVおよびそのインフラ網の開発が加速しています。それらの更なる省電力化と高効率化を支援するために、従来機種の性能と機能を格段に向上させた高精度電力計です。