【インタビュー】横河計測のスコープコーダ事業の取組みと展望

目次

スコープコーダの基礎知識 第1回

スコープコーダの基礎知識 第2回

スコープコーダの基礎知識 第3回

スコープコーダの基礎知識 第4回

【インタビュー】横河計測のスコープコーダ事業の取組みと展望

 

【インタビュー】
横河計測のスコープコーダ事業の取組みと展望

弊社メールマガジン「測友」のコラム「とも通信」担当の矢野が、スコープコーダDL950を担当する脱炭素ビジネス本部 技術部の岩野研二さんとマーケティング部の大越祐輔さんに、DL950を取巻く環境やスコープコーダの強み、新しい取り組みについてお聞きしました。

図84.お話しいただいた岩野研二さんと大越祐輔さん

図84.お話しいただいた岩野研二さんと大越祐輔さん

最初に、スコープコーダが生まれた背景を教えてください。
大越: スコープコーダは、横河電機が1924年に初めて市場に出した電磁オシログラフから続く約100年の歴史を持ちます。横河計測は、横河電機で長い歴史をもつ計測器事業を引き継ぐ計測器メーカーです。私たち人類が今後も地球上で生活していくために、脱炭素ビジネス本部は、SDGs、脱炭素化に向けた活動に貢献し、高エネルギー効率化、電動化が進む産業からの計測の要求に対応する高精度計測器や計測ソリューションを提供しています。私たちの計測器は主にメカトロニクスやパワーエレクトロニクスの分野で活躍しています。これは電磁オシログラフの時から電力や機械制御の分野で我々の計測器が多く使われてきたためです。この分野は、1970年代までは比較的簡単な仕組みで機器や装置が制御されていたので、計測器への要求は電気現象や物理現象の可視化だけでした。

1980年代以降になると、トランジスタの置き換えとなるパワーMOSFETやモーターの制御方法にPWM制御が登場し、広く普及し始めました。多くの家電製品や産業機器はアナログ制御からディジタル制御に移行が始まりました。モーターを始めとする電子制御は、多くのセンサーを使って機器や装置の現象を取り込み、マイクロプロセッサで演算を行い、精密な制御を行うようになっています。

最近では、さらなる高エネルギー効率化に向けた製品開発が活発となり、自動車などの電動化、SiCやIGBTなどの新しいデバイスを使った機器の開発が進み、複数のマイクロプロセッサ間を通信でつないだ高度な制御を行うようになってきました。

そのような技術変革の中で、スコープコーダへのニーズはどう変わってきたのでしょうか。
大越:
高度化と複雑化が進むメカトロニクス機器やパワーエレクトロニクス機器を短期間に開発、評価するため、スコープコーダには、絶縁高電圧入力、多チャネル化、電圧・電流に加え温度やひずみ、加速度など多様な信号の同時測定、A/D変換器の高速化と高分解能化、増大するデータの取り扱い、解析機能が求められるようになりました。

特にメカトロニクス分野、パワーエレクトロニクス分野では、短時間に変化する現象から数時間、数週間の長時間の変動を見るニーズがあり、これまではオシロスコープとデータロガーを組み合わせて使う必要がありました。しかし、2台の計測器の時刻同期の問題があり、1台の計測器で電気信号から温度や振動・ひずみなど物理信号を同時に長時間計測できる「スコープコーダ」が開発されました。入力信号の種類ごとに入力部分がプラグインモジュール形式になっており、ニーズに応じて柔軟なシステム構成や拡張を行うことができます。これらのプラグインモジュールは、一部を除きスコープコーダシリーズで共通して使用でき、購入した資産を有効活用できます。「スコープコーダ」という製品名は2002年から統一し、製品ラインアップを強化し続けています。

最新のスコープコーダDL950の強みは何ですか。
岩野:
DL950は市場のニーズに応えるため、DL850シリーズの計測ノウハウを継承した後継機種として、2021年2月に発表しました。DL950は、取り込んだ膨大な波形データをリアルタイムに表示するための高速演算が可能です。スコープコーダ開発当初は自社で専用ASICを開発しました。現在はFPGAに置き換わり、大容量のデータを高速かつリアルタイムに演算しています。2か所の波形の高速ズーム表示を行うGiGAZoom ENGINE 3は良い例です。

図85.高速波形処理を実現するGiGAZoom ENGINE 3

図85.高速波形処理を実現するGiGAZoom ENGINE 3

また、取り込んだ波形データを高速かつリアルタイムに演算することで、トルクや回転角度など希望する単位に変換し入力信号と並べて表示でき、演算結果でトリガが可能な点もDL950の強みです。他にも、低速サンプルしながらトリガ発生時に高速サンプルを行うデュアルキャプチャーや、交流電源ラインの異常を簡単に捕捉できるウェーブウィンドウトリガなどがありますね。

メカトロニクス機器やパワーエレクトロニクス機器では、不具合が起きた際の現状把握にさまざまな信号の波形観測が有効な手段です。現場での不具合解析用に持ち運び可能な小型でバッテリ駆動の計測器が求められ、スコープコーダシリーズと同じ計測精度、特性を継承したポータブルスコープコーダDL350を2017年に発表しました。

また、横河計測の製品を使用するお客様には、日本国内だけでなく海外へも事業展開をしている企業や、さまざまな国の企業があります。横河計測は、日本以外の国でも現地語での問合せや修理校正が可能なグローバルなサポート体制を構築しているのも強みです。

スコープコーダDL950はノイズに強い設計とお聞きしました。
岩野:
はい、ノイズに強いのもスコープコーダシリーズの強みのひとつです。メカトロニクス機器やパワーエレクトロニクス機器の評価では、インバータなど周辺ノイズレベルが大きい環境下で計測器が使用される場面が多いです。計測器には正しい値、現象を把握するため、誤検知、誤動作は許されません。DL950とプラグインモジュールはノイズの影響を受けづらい構造になっています。これは耐ノイズ特性として現れ、製品仕様にコモンモード除去比(CMRR)として表現しています。数値が低くなるほど特性が良いことを示します。

図86.高速100 MS/s 12ビット 絶縁モジュール(720211)のCMRR特性(実測値)

図86.高速100 MS/s 12ビット 絶縁モジュール(720211)のCMRR特性(実測値)

我々は、長年に渡ってオシロスコープやデータロガー、スコープコーダを開発してきたため、多くの経験から得たノイズ対策のノウハウを社内に蓄積しています。これらを活用して、耐ノイズ性能のよいスコープコーダを開発しています。

最後に、スコープコーダDL950の新しい取り組みを教えてください。
大越:
メカトロニクス機器やパワーエレクトロニクス機器が高度化・複雑化し搭載されるソフトウェアが大きくなると、計測器による計測だけでなく、異なる計測器と同期した計測、さらなる解析、性能や特性の可視化、レポート作成を行うソフトウェアが求められるようになってきました。

例えば、今までは複数のセンサーからの信号を取り込んで波形表示するだけでしたが、電力や変換効率を高精度で測定する電力計の電力パラメータや観測対象の状態を高速度カメラや赤外線カメラで撮影した映像をセンサー出力信号と同期して表示し、現象を観測するニーズがあります。
また、制御システムの指令データと制御対象であるインバータやモーターなどの実際の応答をみるため、制御ソフト検証ツールとDL950を組み合わせた評価環境が求められます。

横河計測は、これらのニーズに対応する「統合計測ソフトウェアプラットフォーム IS8000」を開発しました。業界トップクラスの高精度電力計、高速度カメラ、制御ソフト検証ツールと時刻同期して測定することで、複数の計測器の測定結果を1つの画面に表示し、相関や応答性、過渡現象の把握などこれまでに把握できなかった解析を通して開発効率向上に貢献します。
また、最近発売したIS8000 API(Application Programming Interface)を利用すれば、標準でサポートしていない計測器との通信、ファイルの読み込み、お客様が開発されたソフトウェアとの通信が可能になります。
横河計測は、自社製品にとどまらず、お客様のソフトウェアや他社製品を含めた統合計測ソリューションを推進していく計画です。

図87.IS8000 統合計測ソフトウェアプラットフォーム

図87.IS8000 統合計測ソフトウェアプラットフォーム

地球環境への関心の高まりによって、メカトロニクスやパワーエレクトロニクスの分野をはじめエネルギー効率を高めるための開発が加速しています。お客様の開発効率を高めるために、横河計測は引き続き市場ニーズを反映した、技術者にとって魅力的な計測ソリューションの開発を続けていきます。

関連業種

関連製品とソリューション

スコープコーダ DL350

DL350は、耐振動性規格JIS D1601準拠の小型軽量ボディーにスコープコーダシリーズと共通の18種類のプラグインモジュールから2つを搭載可能で、電圧、電流、加速度、ひずみ、温度、周波数、ロジックからCAN/ CAN FD/ LIN/ SENT通信データのトレンド計測までの複合計測を一台で行うことができます。

スコープコーダ DL950

DL950は、DL850E/EVの機能・仕様を大幅に改善し、タッチパネルによる直観的操作を可能した新時代のスコープコーダです。
200MS/s高速サンプルレート、最大8Gポイントメモリー、複数台同期で最大160CHが可能で、お客様の様々なニーズにお応えします。

スコープコーダ/スコープコーダビークルエディション DL850E/DL850EVシリーズ

スコープコーダ DL850E/DL850EVは、高速波形測定に適したオシロスコープの機能と、多チャネル長時間記録に適したデータロガーの機能を兼ね備え、測定対象に応じた20種類のプラグインモジュールで幅広い測定ニーズにお応えします。

高速データアクイジションユニット SL1000

データアクイジションユニットSL1000は、多チャネル・長時間記録のオシロスコープおよび高速スキャン・ハードディスク記録のデータロガーという2つの要素を兼ね備えています。絶縁100MS/sの測定やマルチチャネル(最大128ch)といった、従来のデータロガーやオシロスコープでは実現できない測定が可能です。

高速データロガー|スコープコーダ

スコープコーダは、オシロスコープの使い易さと多チャネルデータ収集するデータロガーを融合した統合型計測器です。
スコープコーダ一台で、信号を同時にデータ収録し、オシロスコープと同様のトリガ機能を揃え、データ表示、分析ができ、様々な用途にお使いいただけます。

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