背景
SDGsの取り組みの推進や環境保全の観点から自動車の電動化(EV化)が普及しており、カーボンニュートラルの目標達成への貢献が期待されています。
EV化を進めるための評価試験では、電力測定による電力効率評価をはじめとして、波形測定、振動などの物理信号など様々なパラメータ測定が必要になります。特に高効率化を目指すための計測において、電力測定器と多彩な解析ができる波形測定器による評価試験は重要なファクターとなります。
課題
電動化機器の電力効率をさらに改善するために、高周波動作を行う機器が増えており、EVで使用されるインバータも例外ではありません。したがって、EV開発の評価においては、低周波から高周波まで広帯域かつ高精度に測定ができる計測器が必要になります。さらにモーターの駆動電流の大電流化に伴い、評価には電流センサーの使用が欠かせません。
高確度での測定には貫通型電流センサーが最適ですが、大電流ケーブルの取り外しができない、あるいは取り外すためには多くの時間と労力がかかるため、状況に応じて開閉型の電流センサーを選択せざるを得ない場合があります。
一方、スプリットコア型(クランプ型)の電流センサーでは、一般的にばらつきが大きい、誤差が大きいなどのデメリットがあります。つまり、高精度な測定器を使用しても、測定値のばらつきが多ければ評価自体の信頼性に欠けてしまいます。測定データの再現を向上させて測定値のばらつきを抑えることも評価の上では重要となります。
さらに厳しいノイズ環境下での測定となるため使用する測定器、および測定用センサーには優れたノイズ耐性が求められます。
AC/DCスプリットコア電流センサー による課題解決
* 動作環境温度 MAX+40℃ではDC1500 A(連続)
大電流センサーでの電力、波形測定
高利便性&高精度なAC/DC電流センサー 電力計、波形測定器に簡単接続&測定
AC/DCスプリットコア電流センサーCT1000Sは、電流確度 (50/60 Hz):±(0.2% of reading+ 0.01% of full scale)、最大AC1000A/DC1500A*までの大電流が測定できます。開閉型の形状を採用しており被測定ケーブルを取り外すことなく大電流測定が可能です。
また、電流センサーは電力計用、波形測定器用で別々のセンサーを用意するのが一般的ですが、AC/DCスプリットコア電流センサーは電力計、波形測定器のどちらにもお使いいただけます。
* 動作環境温度 MAX+40℃ではDC1500A(連続)
図1 CT1000Sと測定器接続イメージ
300 kHz(-3 dB)高帯域でキャリア周波数測定
インバータ・モーター開発の評価では、基本周波数成分だけでなくキャリア周波数成分(一般的に数kHz~100 kHz程度)の測定が必要となるため、広帯域測定に適した電流センサーが必要です。CT1000Sは300 kHz(-3 dB)の測定帯域に加えて100 kHzまでフラットな優れた周波数特性を有しています。
図2 CT1000S周波数特性例
測定の再現性を向上する機能
AC/DCスプリットコア電流センサーは貫通型電流センサーの形状を踏襲しており、センサー自身の安定性を確保した床置きが可能です。
またAC/DCスプリットコア電流センサーは、メインユニットにねじ穴(M4)が計6か所あることで、センサー本体の固定ができます。電流センサー自身の動きを制限し再現性の高い測定をサポートします。また、被測定ケーブルへ電流センサーをぶら下げてしまうと電流センサーが不安定な状況となり再現性が低くなる可能性がありますが、この状態を改善できます。
図3 ネジによる固定イメージ
被測定ケーブルの軸位置の影響を軽減
A電流センサーの原理上、被測定ケーブルが電流センサーの1次穴の中心を通っていることが理想となります。しかし、実際の測定では常に中心を通すことは難しく、ケーブルの位置による影響が測定値へ現れます。AC/DCスプリットコア電流センサーでは導体位置アジャスタを取り付けることにより、被測定ケーブルの軸位置を制限し、軸位置のずれによる影響を軽減します。
図4 導体位置アジャスタ(左)と取付イメージ(右)
優れたCMRR特性
CT1000Sは、優れた耐ノイズ性により厳しいノイズ環境下でもノイズの少ない高精度な測定を実現できます。
コモンモード除去比(CMRR)は、DC~1 kHzで150 dB以上 (0.0016% of full scale以下)であり、非常に優れた特性を実現しています。
電力測定とモーター解析
世界最高クラスの確度WT5000との電力測定
WT5000は世界最高クラスの測定確度となるトータル ±0.03%(50/60 Hz)を実現しています。インバータの変換効率をより高精度に測定できます。
図5 プレシジョンパワーアナライザWT5000
モジュールから電源供給可能
電力入力エレメントはモジュラー構造を採用し、最大7入力できます。YOKOGAWAが長年蓄積してきた設計技術により、極めて高精度な測定回路をコンパクトな入力エレメント内部に収めました。
また、電流センサー入力専用エレメントには電流センサーの駆動用電源が内蔵されており、電源を別途用意することなく大電流測定を行えます。
図6 WT5000 背面
図7 電流センサーエレメント760903
最大4 モーターを同時解析
WT5000にモーター解析オプション(/MTR1、/MTR2)を搭載することで、1台で4モーターの同時評価が可能です。
また、これらオプションは2つのモーターのA、BおよびZ相信号の入力による回転速度、回転方向、電気角の測定にも使用可能です。
トルク、回転速度、電気角、回転方向
トルク、回転速度
図8 モーター入力端子
AC/DC電流センサーや電流クランププローブを用いる場合、電流信号の位相のずれを補正することで、より正確な電力測定が可能になります。WT5000ではセンサー/プローブを精度よく活用いただくために、1nsの分解能で電圧と電流入力間の位相差を補正できます。また、振幅補正(ゲイン補正)にも対応しており、高周波信号におけるゲイン調整が可能です。
図9 位相補正イメージ
スコープコーダDL950 による長時間複合測定
DL950は、制御信号をロギングするために用いられるモジュール式の高速データロガーです。最速200 MS/sの高速サンプルレート、最大16ビットの高分解能ADコンバータ、長時間および多チャネル測定を実現します。また各入力チャネルが絶縁されているため、グランドレベルの異なる複数の信号を入力することが可能な上に、耐ノイズ性も高く、現場での配線を簡単にします。
図10 スコープコーダDL950
多種多様な物理信号測定
入力モジュールには、熱電対、加速度センサー、ひずみセンサーなどに対応したものもあり、これらを最大8つ装着できます。多種多様な物理パラメータを、電気信号と同時に取り込むことが可能です。
図11 DL950 側面(左)、モジュール一覧(右)
また、さらに多くのパラメータを同時に捕捉したい場合は、最大5台のDL950を接続するオプション機能により、入力チャネル数を最大160チャネルまで拡張することも可能です。
図12 複数台接続
リアルタイム演算
リアルタイム演算機能を使うことで、取り込んだ信号にさまざまな演算を施し、結果を瞬時に遅延なく画面表示します。
演算結果に対してトリガをかけたり、波形パラメータの自動測定、カーソル測定をすることも可能です。入力モジュールの入力端子とは独立しているので、入力32チャネル+16チャネルのリアルタイム演算結果を同時に表示・解析できます。
モーターパラメータ・CAN の実測値をリアルタイム比較
リアルタイム演算機能を活かし、dq軸電圧、電流や回転位置などのモーターパラメータを演算、波形表⽰ができます。起動時の有効電力、dq軸電流電圧などの変動を、1周期ごとに平均/実効値解析ができます。また、モーターパラメータだけでなくCANなどの他の信号も同時に1画面上に表⽰でき、リアルタイムでの比較が可能です。
図13 リアルタイム演算モーター解析イメージ