低電費EV用レゾルバ開発環境の構築

低電費EV用レゾルバ開発環境の構築

背景

レゾルバはモーターなどに用いる回転角度センサーの1種で、耐環境性の高さなどからHEVやEV用モーター試験で多く採用されています。モーターを高効率に回転させるためには正確な角度測定が必要不可欠であり、制御信号との同期性も含めて重要な測定ツールとなっています。このレゾルバ単体製品の開発環境では、その測定は小さな不便や僅かな状況の変化に悩まされることが多くあります。
たとえば、試作フェーズではレゾルバを駆動する励磁用の電源を調達せねばならず、その波形は理想的な物からあえて歪ませることも可能な柔軟性を求められます。フェーズが進んでいきますと、励磁電源は基板上に移り基板上の信号測定が優位になり、さまざまな物理量測定を行う必要に迫られます。これは、レゾルバ専用の角度測定器だけで対応できない範囲まで広がっていくものです。さらに、デバッグ時にすべての測定は同期性があることで有効となることがほとんどですが、手動での同期は困難を極め、高い精度を保てません。
しかしながら、レゾルバ開発においてDL950とFG420を用いることで、試作当初から実使用条件下での測定に至るまで、フレキシブルな環境構築を実現可能です。

課題

レゾルバ開発における初期段階での課題は、励磁電源の入手です。一般的な基板上のDC電源と異なり、励磁電源は試作段階でもパラメトリックに可変可能な波形を発生できることが好ましいです。測定は駆動されたレゾルバのsin相・cos相・励磁信号を取得し、角度値に換算します。この換算は複雑な計算式を伴うため、リアルタイムな波形ではなく表計算ソフトなどにより結果をプロットして確認する必要があります。
あるいは、これらを解決する別の手段として、電源を搭載したレゾルバ専用の角度測定器もあります。しかし、これは非常に高価かつ、多様な同期測定には不向きのため開発フェーズによっては不便に感じる場面が発生してしまいます。

DL950、FG420による課題解決

  • 多彩な波形形成機能のある励磁電源
  • リアルタイム演算機能
  • 多様な物理量の多チャネル同期測定
  • マルチサンプリングによるデータ量の抑制
  • モーター・インバータとの組合せ測定
  • 耐ノイズ性能が高く、雑音環境を見越した仕様
  • IS8000を用いた統合計測

DL950、FG420による課題解決

DL950、FG420による提案

1. 多彩な波形形成機能のある励磁電源

FG420は多彩なスイープ・変調機能を備えた、最大20 Vp-p、周波数0.01 μHz〜30 MHzまでの広帯域な出力が可能なファンクションジェネレータです。
波形として取り込み作成する任意波形や、パラメタ可変波形の出力が可能のため、不安視するレゾルバ励磁電源条件の切り分けを実験的に行うことが可能です。
電圧振幅が足りない場合は、高速バイポーラ電源(例:株式会社エヌエフ回路設計ブロック社製 HSAシリーズ)などを使用することで足りない振幅を補強することができます。

図1 パラメタ可変波形の例

図1 パラメタ可変波形の例

2. リアルタイム演算機能

DL950(/G3オプション)は高速サンプリング中の波形を使用した演算を、測定波形と同時(リアルタイム)に波形として表示する機能です。
この機能により、測定値をもとに自ら波形作成する必要がなくなり、リアルタイムに測定結果を波形で観測することが可能となります。試作フェーズのようにイレギュラーな動作が頻発する状況においては、リアルタイム演算機能が、測定・デバッグ効率の改善に大きく寄与します。さらに、リアルタイム演算機能にはレゾルバ測定が演算の種類の1つとして備えられています。
sin相、cos相の電圧および励磁信号の測定結果から、逓倍率やフィルターの適切な設定を行うだけで角度測定値への演算が行われ、波形として表示されます。
これらの機能により、DL950は波形測定器の「リアルタイム性」や「同時複数波形の同期」といった性質を活用した、直感的なレゾルバ開発環境を実現します。不確定要素の多い試作フェーズにおいて、強力なツールとしてご活用いただけます。

図2 DL950によるレゾルバ測定結果例

図2 DL950によるレゾルバ測定結果例

3. 多様な物理量の多チャネル同期測定

開発フェーズによってはレゾルバ信号以外に、たとえば電源フィルタ回路などの回路電圧や電流、コイル温度など付随する評価のための測定機会が多々発生します。
DL950は20 種ものモジュールが展開されており、1台当たり8モジュールの使用(アナログ最大32チャネル入力)が可能となっています。そのため、試作フェーズにおいて生じたほとんどの追加測定要素を1台でカバーできます。対応可能な物理量は電圧・電流以外にも、温度・ひずみ・加速度・周波数など多岐に渡ります。また、チャネル間および接地間が絶縁(一部モジュールを除く)されているため電圧測定点を増やす際にプローブの追加などを最小限で済ませることができます。
リスク・不確定要素の多い開発フェーズにおいて、DL950は大きく貢献できます。

図3 DL950 側面とモジュール一覧

図3 DL950 側面とモジュール一覧

4. マルチサンプリングによるデータ量の抑制

DL950はマルチサンプリング機能を持ち、サンプルレートの異なるモジュールを挿入した時、遅いサンプルレートのデータ量を抑制することで保存や転送速度、占有メモリー量を大きく改善しています。
3.で述べたように複数の物理量を同時に取得しようとする場合、温度モジュールなどの遅い信号測定用モジュールのデータ量が大きく増えてしまいます。これは、最速で動作しているサンプルレートを持つモジュールに合わせて遅いモジュールのサンプル点も補完されてしまい、最速サンプリングのデータ × 全チャネル分のデータが発生してしまうためです。しかし、DL950は実際のサンプルデータのみ保存することができるので、膨大なデータ量にならずに測定結果を取り扱うことが可能です。
また、この機能はCSV出力を行う場合でも有効です。実サンプルデータ以外をスペースとして保存することでデータ量を少なく扱うことができ、かつ、保存時間を大きく短縮できます。

図4 マルチサンプリングのメリット

図4 マルチサンプリングのメリット

5. モーター・インバータとの組合せ測定

社内製レゾルバを開発している次のプロセスでは、モーター・インバータと組合せて評価をすることになりますが、この段階になると複数信号の同期測定が肝要となります。この評価においては、DL950が最もポテンシャルを発揮できる状況です。
たとえば電気角演算は位置センサーの電気角ゼロ位置オフセットを演算する機能を備えています。これは2.までに述べたレゾルバ演算やエンコーダ演算の結果を用いて、対象とする電圧・電流波形の基本波成分とモーター電気角との位相差をリアルタイム演算することを可能としています。
さらに3.で述べた内容全てがこの状況に寄与するため、入力信号に応じたプローブ・センサー類を揃えるだけで、たとえばレゾルバ信号 + 三相電圧・電流 + モーター速度・トルクなどの同期波形観測が実現します。
波形で電力値を観測できる電力解析オプション(/G05)、三相モーターのdq軸電流・電圧の同期解析を実現するモーター解析オプション(/MT1)など、豊富な解析機能がお客様の測定をサポートします。

図5 モーター・インバータ接続例

図5 モーター・インバータ接続例

6. 耐ノイズ性能が高く、雑音環境を見越した仕様

レゾルバと同時に測定される機器(特にインバータ)は多くの外乱ノイズを発生しているため、測定器本体に大きく影響を及ぼします。DL950を含む横河計測の測定器は、過酷な測定環境を想定した耐ノイズ性能を備えていることが非常に重要になります。
ノイズ耐性に対する指標として、たとえばCMRR性能があります。これは測定信号に対する基準(コモンと呼ばれ、接地からは絶縁されている)が揺れてしまい、測定結果に影響を与えるコモンモードノイズをどの程度除けるかの指標です。DL950のCMRRは、モジュールごとに50/60 Hzに対して記載されていますが、インバータのような高周波スイッチングデバイスを測定する際には、より高周波でのCMRRも重要です。
DL950では実際に高周波・大振幅で駆動しているインバータのハイサイドゲート信号などでもより正しく測定できるように、高周波側まで含めて強固なノイズ対策を施しています。これにより、他社同等製品と比較して優れた波形再現性を得ることが可能となっています。

7. IS8000を用いた統合計測

統合計測ソフトウェアプラットフォームIS8000は、横河計測のプレシジョンパワーアナライザWT5000、DL950などを接続してPCにデータを集約し、同一画面上・リアルタイムでの同期測定を可能にするソフトウェアです。
RAMScope(株式会社DTSインサイト社製)や高速度カメラ(株式会社フォトロン社製)などを組み合わせることも可能で、これまで難しかった高精度かつ多様な同期測定を実現します。

図6 IS8000イメージ

図6 IS8000イメージ

レゾルバ開発において、高速度カメラが同期できることは大きな武器となります。たとえば試作の最初期、分度器のようなアナログな測定器を用いて角度を測定しなければならない状況もあります。この測定結果を高速に同期させることは至難の業ですが、DL950 + 高速度カメラ + IS8000ならば全て同期させることが可能です。
この構成の優れた点は、レゾルバ開発の最終フェーズに近い実使用条件での測定に至るまで、新たな構成品が不要になることです。モーター解析が主軸となっても、高速度カメラとDL950による豊富なモーター解析機能の組合せは非常に有効に機能します。高速回転体に対する目視監視を同時に行うことのできるこの構成は、難解なデバッグを容易にします。
また、リアルタイムにはならないもののサーモカメラや、より高速なオシロスコープ(DLMシリーズなど)の測定結果も容易に同期することが可能です。これらのオプションは発生した現象の要因追及や、難解なプログラムを構築した解析を簡単な測定へと変貌させます。

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