背景
xEV(電動⾞)のパワーを最適に制御するために開発されたPCU*は、バッテリ電圧を変換するDCDCコンバータと直流電圧を交流電圧に変換するインバータなどで構成されています。モーターはインバータ信号により駆動されますが、発進時における加速性能、あるいはブレーキ時における回⽣制御などの⾞両性能は、PCUが重要な役割を果たしています。PCUを制御するためのECU*には専⽤マイコンであるMPU*が内蔵されており、⾞載ネットワークであるCAN*/CAN FD*通信経由で⾞両に搭載されている多数のECUから⾞両速度、アクセル開度、バッテリ残量、モーター回転⾓(レゾルバ)などの各種情報を収集しています。これらのパラメータからMPU内で演算した指令速度であるRAM値によりパワーデバイスを動作させて、⽬標電流値になるように三相インバータ信号をPWM制御しモーターを駆動しています。EV/HEV⾃動⾞の⾞載駆動システムは、地球環境問題の観点からも年々進化を続けています。⼩型・軽量化、バッテリ容量の増加、⾛⾏距離を延ばすためのシステム⾼効率化、インバータの厳しいノイズ環境下での信頼性などが重要となります。
※RAMモニター:MCUに書き込まれる制御変数の計測。波形と⼀緒にリアルタイムにモニターすることで制御の確からしさを検証できます。
*PCU:Power Control Unit
ECU:Electric Control Unit
MPU:Micro Processor Unit
CAN:Controller Area Network
CAN FD:CAN with Flexible Data rate
課題
⾃動⾞の電子化が進むに従い、ECUやセンサー、制御デバイスの数は飛躍的に増大し、それらを繋ぐ⾞載LANは多種存在かつ⾼速化しています。⾞載LANの物理層レベルの解析からサブシステムや完成⾞における振動などの物理信号を含めた総合評価まで⾏うことが求められています。
現在、⾃動⾞の電動化、インテリジェンス化に伴い、要求される制御や通信速度、データサイズ、セキュリティレベルなどにあわせて、様々な⾞載バスが採⽤されています。異なる規格のシリアルバスを⼀度に解析することは、システムの開発・評価において重要になっています。
DLM3000/DLM5000/IS8000による課題解決
DLM3000/DLM5000による提案
最大4系統のバス信号波形観測とプロトコル解析
トリガで捕捉した複数バスの物理層電圧波形を表示しながら、プロトコル解析結果をリアルタイム表示します。UART/I2C/SPI/CAN/CAN FD/LIN/FlexRay/SENT/CXPIの9種のシリアルバスの中から、最大4系統のシリアルバスの同時解析が可能です。異なるバス規格を使⽤する複雑なシステムを1台で解析可能です。
またロジック入力はデータ信号/制御信号の観測やトリガソースとして使⽤できるだけでなく、I2CバスやSPIバスなどのシリアルバス解析にも使⽤できます。
※I2C/SPI/UART/SENTは、ロジック入力も利⽤可能
図1 4バス同時解析とリスト表示
シリアルバスのオートセットアップ
解析するバスのビットレートや電圧レベルを設定するのは大変な作業です。DLMシリーズは独⾃のオートセットアップ機能で、入力信号を解析し⾃動で設定します。あらかじめビットレートやビット情報が不明であっても、オートセットアップ機能による時間節約が可能となります。
図2 オートセットアップ例
さらにDLM5000HDでは、取り込み済みの波形データに対して、オートセットアップを設定することが可能です。それにより、設定時間を大幅に短縮するだけでなく、設定ミスを防ぐこともできます。
図3 DLM5000HD(12 bit)
最⼤1Gポイント
ロングメモリーによる⻑時間捕捉
サンプルレート2.5GS/sで最大0.2秒、50MS/sで最大10秒の波形を捕捉できます(DLM3000/DLM5000)。
サンプルレート2.5GS/sで最大0.2秒、50MS/sで最大20秒の波形を捕捉できます(DLM5000HD)。
※DLM3000/DLM5000では、オプション付加により最大メモリー500Mポイント
DLM5000HDでは、オプション付加により最大メモリー1Gポイント
ヒストリ機能
過去に取り込んだ波形を最大100,000個、アクイジションメモリーに⾃動で保持します。後から抽出して解析が可能です (DLM5000HDでは、最大200,000個)。取り込んだ波形は、指定した1波形を画面に表示またはすべての波形を⼀括表示が可能です。ヒストリ波形に対しては、カーソル測定、演算などができます。ヒストリ機能により、トリガで捕捉しにくい波形に対しても、さかのぼって波形を確認できます。
また膨大なヒストリ波形から、条件に合う波形を呼び出すために、強力なヒストリリサーチ機能があります。
画面上に注⽬する波形の⼀部を捕らえる四⾓いゾーンを指定する方法、測定した波形全体を取り囲むようなゾーンを指定する方法、多⾓形(ポリゴン)のゾーン指定など、直観的で簡単な波形サーチ機能が⽤意されています。また、電圧やパルス幅の異常値など注⽬する値が分かっているときは、波形パラメータでのサーチも可能です。
図4 ヒストリリサーチ機能
2か所ズーム機能で異なる箇所を同時表⽰
ロングメモリーに取込んだ多チャネルの波形は、横軸にも縦軸にも拡大して詳細を観測する必要があります。DLMシリーズではズーム専⽤のキーと拡大縮⼩のノブがあるので、見たい箇所をすぐにズームアップできます。また、タッチスクリーンを使ってスクリーン上で拡大したい領域を指定することでズームアップも可能です。
時間軸スケールの違う拡大波形を2か所同時に表示することができます。また、AutoScroll機能で、ズーム表示位置を、⾃動的にスクロールさせることができます。ある現象の「原因」と「結果」といったように離れた個所を同時に拡大したり、拡大率を変えて表示できるので、ソフトウェアのデバッグには大変有効です。
図5 2か所同時ズーム
IS8000 による提案
IS8000でのCANバス通信の解析
測定ファイル内のCANバス通信信号波形に対し、通信内容のデコード、フレーム表示や検索が可能です。
また、オシロスコープだけでなく、スコープコーダシリーズやIS8000で取得した信号波形の解析も可能です。
過去に測定した通信信号波形の再解析や、他の物理量測定との比較・分析に効果を発揮します。
図6 IS8000によるCAN通信のデコード
測定ファイルのCANバス信号波形から通信内容のデコード、リスト表示および検索が可能です(CAN FD未対応)。オシロスコープだけでなく、スコープコーダシリーズやIS8000で記録したCANバス信号波形のデコード、検索も可能です。
その他のシリアルバス解析関連製品
スコープコーダ DL950 の特長
図7 スコープコーダ DL950
関連アクセサリ(オシロスコープ用)
周波数帯域:DC~1GHz
減衰比:50:1
最大入力電圧:±35V(DC+ACpk)
差動入力電圧:±25V(DC+ACpk)
※701925は周波数帯域 DC~500 MHz
図8 差動プローブと先端のアタッチメント
オシロスコープとスコープコーダの車載バス解析の違い
⾞載バスの解析には、デコード表示とトレンド表示の2つの種類があります。
⽬的:波形品質およびデコードによる伝送データの確認
対応:UART/I²C/SPI/CAN/CAN FD/LIN/FlexRay/SENT/CXPIの9種
図9 CAN FD 信号波形とデコード表示例
■スコープコーダ
⽬的:指令と応答など様々なデータの時間変化、応答性の 確認
備考:電圧・電流、温度、加速度、ひずみやトルクなども 同時計測可能
対応:CAN/CAN FD/LIN/SENTの4 種類
図10 CANデータのトレンド表示例
DLM3000シリーズは、小型軽量コンパクトながら大容量ロングメモリーと豊富な解析機能で好評いただいてきたDLM2000シリーズに、直観的操作が可能なタッチスクリーンを搭載、メモリーを最大500Mポイント(/M2オプション)まで拡張、入力感度やアクイジションレートなど様々な改善を施した、新設計の2/4チャネルミックスドシグナルオシロスコープです。
DLM5000シリーズは、DLM4000シリーズの機能・操作性を継承しつつ、タッチパネル搭載により使いやすさに磨きをかけた新設計の大画面アナログ 8ch 入力 オシロスコープです。新たに4chモデルも追加されました。2台連結同期により、最大16chの測定が可能で、高度化・高速化するパワーエレクトロニクス、カーエレクトロニクス、メカトロニクス開発に最適です。