メガソーラーを含む太陽光発電システム、あるいは風力発電システムなどの再生可能エネルギーを利用した発電システムでは、パワーコンディショナ(インバータ、PCS、あるいはパワコンとも呼ぶ)を使って、太陽光モジュールや風車により発電された直流電力を交流電力に変換します。この変換効率は年々向上しており、変換ロスの低減が市場での競争力を高める1つの指標となっています。
太陽光発電用パワーコンディショナの効率測定方法については、日本ではJIS C 8961、国際規格ではIEC 61683などで規定されています。また、効率測定においても、最大効率だけではなく、欧州効率、あるいは米国のCEC効率が規定されている場合があり、各国でそれぞれの規制があることも多々あります。
一般的に、最大効率は効率が最大となる特定条件における評価データですが、たとえば欧州効率やCEC効率は、軽負荷時から定格負荷時までの複数点における効率を測定し、負荷率に応じて重み付けをして算出しています。
系統連系においてもさまざまな問題を抱えており、たとえば太陽光発電、風力発電などの出力が大量に電力系統に連系された場合、電力系統の擾乱により一斉に解列(切り離し)すると電力品質に大きな影響を与えてしまいます。このような一斉解列などによる問題を防止するため、瞬時的な電圧低下が起こっても運転を継続する運転継続性能が重要となっています。
また、系統擾乱時においても電力品質を確保するために必要となる分散電源の運転継続性能要件の整備が引き続き進められています。これらの効率評価では、電圧変動、周波数変動試験、温度上昇試験などがあり、電力計を使った電力計測、および波形測定器を使った瞬時波形変動の確認や、温度の測定などの試験が世界各国で行われています。
再生可能エネルギーの発電量は、自然の状況により変動するケースが多いため、発電容量の急増により電力系統が不安定になることがあります。また、系統に落雷があり発電システム側が一斉に解列する場合なども電力系統に影響を与えます。このような現象が起こったときの有効電力、無効電力、電圧値、周波数、力率、効率などの変動を捉えて詳細に確認したい要望があります。
また、波形測定器は系統を長時間連続監視して異常な波形データを捉えることが主な目的でありますが、長時間にわたった波形観測ではデータ量が多くなってしまい、気になる波形や異常データを探しにくくなる問題もあります。
このような問題を解決したいため、電力計の数値データと波形データを長時間、同一時間軸上で測定して異常データなどを確認・監視をしたいケースが増えてきています。
オンラインモニター操作は、通信インタフェース経由で測定器をPCからリモートコントロールできます。
スコープコーダDL950あるいは電力計WT5000 本体のタッチパネルスクリーン(コントロール画面)がPC画面に表示されます。測定器本体の操作と同じように離れた場所にあるPC上で設定を自由に変更でき、測定波形や電力計データも確認できます。したがって、製品本体と異なるソフトウェアの操作を新たに覚える必要はありません*。
2台接続したときも同時に2画面をPC上に表示できます。設定に問題がないようであれば、その後、波形データあるいは電力計データを収集できます。
コントロール室から離れた場所にあるDL950の波形をPC上で確認できるので、実験室とコントロール室を往復しながら波形データの保存や設定条件を変更するなどの手間を減らすことができ、効率的なデータ収集を実現します。
* 本体のタッチパネル操作と一部機能のみ。ハードキー操作は除く
図1 DL950のリモートコントロール画面
図2 WT5000のリモートコントロール画面
オシロスコープと電力計のソフトウェアは別々のソフトウェアでデータ収集を行うため、一般的にファイル形式が異なります。
しかし、統合計測ソフトウェアプラットフォームIS8000は、波形データと電力計データの同期測定という測定ニーズに合わせて、1つの統合計測ソフトウェアとして使用できます。
データ収集ソフトウェアを統一することでオシロスコープと電力計の設定方法を可能な限り同じ操作にて行うことが可能です。これにより、従来別々に測定して保存していた方法に比べて、ファイルの整理や管理の業務を大幅に削減することが可能です。
また、電力計と波形測定器を同期して使用できるので、たとえば、異常データを検出する場合、図3に示す通り、電圧実効値、電流実効値が変化している部分を拡大することで波形データの異常を確認することができます。
図3 電圧波形変動時の電圧・電力値変動の確認例
図4 DL950/WT5000を使った波形解析と電力計測
波形測定器の波形演算機能を使って電力値を表示させる方法により電力値の検証を行うケースがありますが、トレーサビリティの取れた高精度な電力値としての結果を得ることはできません。IS8000 統合計測ソフトウェアプラットフォームは、IEEE1588時刻同期を使いDL950とWT5000を同時に接続*2することで同期測定を可能にします。なお、DL950とWT5000の同期誤差は約10 μs*3となります。
DL950で取得できる最速20 MS/s*4、8 ch同時の連続波形データとともにWT5000の電力データをPCの同一時間軸上に表示できます*5。そのため、電力計データは波形データとともに時系列のトレンド表示ができ、微妙な電力変動を確認できます。たとえば、実際に起こっている電力変動から異常波形データを確認し、問題を発見することも可能になります。
*1: ネットワーク上でつながる機器間の時刻同期に使用される高精度時間プロトコル(PTP)。PTP = Precision Time Protocol
*2:DL950 IEEE1588マスター機能(時刻同期)(/C40オプション)が必要
*3:DL950 2 台のIEEE1588同期の誤差は±150 ns
*4:DL950 10 Gbpsイーサネットインタフェース(/C60オプション)が必要
*5:2台の同期計測はIS8000 計測器複数台同期オプション(/SY1)が必要
図5 波形と電力値の同期測定データの解析
IS8000は、測定したデータを1つのリンクファイルとして管理できます。従来のように別々に測定した波形データファイルと電力データファイルを関連づけるために同じ名前をつけて保存する、あるいは測定データごとにフォルダーを作成し、その中に波形ファイルと電力データファイルを入れて管理するなどの作業は不要となります。IS8000を使って同時に測定することで波形データも電力データも1つの統合ファイルとして管理することが可能です。
また、ファイル分割機能も便利です。ファイルを分割する時間やサイズを設定することで、分割ファイルを作りながら全時間のデータファイルを一元管理できます。測定の途中で解析をしたい場合は、分割ボタンを押すことでファイルを分割させて解析することもできます。たとえば、24 時間の測定を行っているときに1時間ごとのファイル分割時間を設定することで測定しながら測定終了した時間分のデータを解析可能です。測定終了後は分割ファイルのみでは扱いにくいため、1つのリンクファイルとして管理することができます。
図6 リンクファイルと分割ファイルの統合イメージ
波形測定器に電力計データを演算する機能を搭載する機器が増えています。過渡的な現象においてもデータの同時性を確保できるため波形測定器で電力演算できることは大変便利ですが、注意すべき点があります。それは国家標準につながった電力データの確度保証です。
波形測定器は電圧プローブ、電流プローブを使って高帯域・高サンプルレートにより測定信号の形状を、より正確に捉えることが主な目的となっています。したがって、波形測定器を使って電力演算した結果は電力計で測定したデータとは異なり、確度保証がなく信頼性については慎重に検証する必要があります。
一方、横河計測の電力計は国家標準につながる計測標準を高い精度で確立・維持しており、電力計データの電圧、電流、有効電力などにおいて信頼性の高いデータを提供しています。
IS8000は、電力トレーサビリティ*の取れたWT5000による電力計測とともにDL950による最速20 MS/s、8 chのデータ 転送を可能としており、信頼性の高い電力計データと波形データを、同一時間軸上に同時表示できます。
* 電力のトレーサビリティ:高精度電力計WT5000の性能を支える校正技術について
「高精度電力計を支える横河電機の電力校正技術」
図7 新電力校正システムのトレーサビリティ体系図