統合計測ソフトウェアプラットフォーム IS8000
1. 背景(Introduction)
xEV(電動車)のパワーを最適に制御するために開発されたPCU*は、バッテリー電圧を変換するDCDCコンバータと直流電圧を交流電圧に変換するインバータなどで構成されている。モーターはインバータ信号により駆動されるが、発進時における加速性能、あるいはブレーキ時における回生制御などの車両性能はPCUが重要な役割を果たしている。PCUを制御するためのECU*には専用マイコンであるMPU*が内蔵されており、車載ネットワークであるCAN*/CAN FD*通信経由で車両に搭載されている多数のECUから車両速度、アクセル開度、バッテリー残量、モーター回転角(レゾルバ)などの各種情報を収集している。これらのパラメータからMPU内で演算した指令速度であるRAM値によりパワーデバイスを動作させて、目標電流値になるように三相インバータ信号をPWM制御しモーターを駆動している。
EV/HEV自動車の車載駆動システムは、地球環境問題の観点からも年々進化を続けている。小型・軽量化、バッテリー容量の増加、走行距離を延ばすためのシステム高効率化、インバータの厳しいノイズ環境下での信頼性などが重要となっている。
*RAMモニタ:MCUに書き込まれる制御変数の計測。波形と一緒にリアルタイムにモニタすることで制御の確からしさを検証できる
*PCU:Power Control Unit
ECU:Electric Control unit
MPU:Micro Processor Unit
CAN:Controller Area Network
CAN FD:CAN with Flexible Data rate
2. 課題(Challenges)
インバータの出力電圧/電流はMPUにより制御された出力信号となるので制御信号と実際のインバータ出力が遅れなく正しく応答しているかどうかを検証する必要があるが、厳しい環境下での測定となるため電圧・電流波形にはノイズが混入してしまう。
より正確に測定するためには、対ノイズ性の高い波形測定器、および高調波を除去するためのフレキシブルなフィルタリングが重要となる。
また、高速スイッチングを行うPWM制御された三相電圧・電流波形とともにCANデータ、RAM値データをリアルタイムに同一時間軸上に表示し解析する機器がないため、検証までに多くの作業工数が発生し時間がかかる。さらに、レゾルバの励磁信号、cosθ出力、sinθ出力、レゾルバ回転角を確認し、モーター制御信号と実際のモーターの回転位置の比較も行いたい。これらの信号を同時にすべて測定できれば作業工数を削減できる。
最終的には多くの評価試験を実施して測定結果を報告書としてまとめるが、測定データのファイルフォーマットは統一されておらずファイルの紐づけや管理が大変である。
3. IS8000による課題解決(Solution)
4. IS8000による提案(Detailed description)
4.1 DL950とRAMScope*の同期測定
DL950のサンプルクロック出力端子から出力される外部クロック信号を使うことで、RAMScopeに同期信号を入力できる。これにより波形データとRAM値の同期測定が可能となる。同期された各データはPC上のIS8000ソフトウェアにリアルタイムに転送される。
また、RAM値によるトリガ同期計測も可能である。RAMScopeのトリガ出力をDL950に入力することで、IS8000上でオフライン同期表示ができる。
図1 DL950とRAMScope同期の概要
* RAMScope:制御アルゴリズム変数の変化をリアルタイムに計測する計測器。制御関数の入力変数と処理出力の変数変化を測定し、内部処理のふるまいや状態遷移の視覚化が可能となる。RAMScopeは株式会社DTSインサイト社製
*対象機種:RAMScope GT170、GT150、GT122
*ECUモニターはIS8000 ECUモニター同期オプション(/EM1)が必要
4.2 波形データとRAM値のオンラインモニタ
従来機種ではオフライン解析のみの仕様であったため、PC上で波形データとRAM値データ(mdf形式)を読み込む作業が必要だった。IS8000はこの問題を解決し、DL950で取得したインバータ波形データ、CANデータ、およびRAMScopeのRAM値データを同一時間軸上にリアルタイムで画面上に表示できるため、開発効率の向上を支援する。
図2 波形データとRAM値の同期解析例(オフライン)
4.3 測定データのオフライン解析
DL950およびRAMScopeからオンラインでデータ収集した後、すぐに測定データをオフライン解析できる。
波形のズーム表示やX-Y表示にも対応している。また、同一時間軸上にアナログ波形データ、CANデータ、RAM値を表示できるので、実際に出力されている電流値と指令電流値の制御パラメータであるRAM値を簡単に比較できる。
さらに、ユーザ定義演算のディジタルフィルタを使うことで波形ノイズの減衰処理ができる。ノイズを取り除くことでノイズを取り除いたアナログ波形とRAM値のタイミングを詳細に確認できる。さらに、RAM値のFFT演算やDuty演算もできる。
図3 指令電流(RAM値)とフィルタON/OFF電流波形
*画像はXviewerによる測定画面例
4.4 プロジェクトファイル保存による統合ファイル管理
IS8000は測定データを統合管理できる便利な機能がある。波形データとRAMScopeデータは通常別々のファイルとなっているが、IS8000では1つのデータとして波形確認ができる。また、ファイル分割機能を使えば測定中でも測定完了したデータをオフライン解析できる。
図4 プロジェクトファイルと分割ファイルの統合イメージ
*掲載されている画像等は実際の製品とは一部異なる場合があります。
*本アプリケーションの仕様は測定チャネル数や測定条件などにより制限されることがあります。
詳細についてはお問い合わせください。
*本文中に使われている会社名および商品名称は各社の登録商標または商標です。
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