統合計測ソフトウェアプラットフォーム IS8000
1.背景(Introduction)
産業用ロボット市場は自動車や半導体産業向けなどを中心に発展してきた。新興国での生産が拡大する中で産業用ロボットの市場も新興国で拡大している。市場の拡大とともに参入する企業も増え、価格競争も激しくなっている。一方、ロボットには生産能力に直結するため高い品質も求められる。
ロボットはサーボモーターの回転を用いて所望の動作を得ている。動きの幅を広げるため、モーター数を増やすことでロボットを多軸化し、周辺装置の動作と協調したプログラム制御による複雑な動きを実現している。
工場内の電力消費低減の面では、ロボットの消費電力も重要な要素となる。損失を減らしロボット自身のエネルギー効率を上げると同時に減速、停止時の回生エネルギーを再利用できるものも登場している。このような回生システムはスポット溶接などの小刻みに動作するロボットで特に効果的となる。
2.課題(Challenges)
多軸ロボットの各サーボモーターを複雑なシーケンスで制御するためにプログラム規模は大きくなり、デバッグ作業に多くの工数を必要としている。デバッグでは実機を用いて各信号のタイミングを確認する必要がある。制御用電気信号の測定には十分なサンプリング速度が必要になり、機械的な状態を示すセンサー信号では振幅軸の精度がより要求されるため、高分解能で測定することが重要となる。
加えてロボットは周辺機器と協調した動きが求められるため、連動する周辺機器を含めて動作を最適化する必要がある。そうしたロボットと周辺機器の一連の動作を観測するにはロングメモリーかつ多チャネルの測定器が必要となる。
測定信号は低速信号だけでなく高速信号が混在するが、一般的に測定器のサンプルレートと分解能はトレードオフの関係となるため、各測定信号にあわせて異なるサンプルレートを用いる必要がある。また、比較的多くのメモリーを搭載した波形測定器であっても高速サンプリングで多チャネルの測定を行うと、十分な観測時間を確保できなくなる。測定器の内部メモリーにデータを保存するのではなく、PC側にデータ転送することで、より長時間の測定が実現するがPCへのデータ転送速度によってサンプルレートが制限される。
動作シーケンスのデバッグでは波形測定器を用いることになるが、正確な電力測定は電力計が必要となる。
3.IS8000による課題解決(Solution)
4. IS8000による提案(Detailed description)
4.1 波形測定器と電力計の異なる2つの機器の測定
値を同一ソフトウェア上で表示
波形データによるデバッグと電力測定においては、波形測定器と電力計(パワーアナライザ)をそれぞれ使用することになるが、ユーザーは1つのソフトウェアプラットフォームであるIS8000上で両者を個別に設定、データ収集などを行うことができるため作業効率の向上につながる。
ディスプレイ上に表示させるデータは複数のウィンドウに割り当てることができ、ウィンドウの数や大きさ、レイアウトは自由に設定できる。こうしたディスプレイ設定は保存され、次回のソフトウェア起動時に反映される。
プレシジョンパワーアナライザWT5000は10MS/sの高速サンプリングで電圧・電流・電力値などを位相や力率情報をもって計測するため、消費電力・回生電力の両者を観測することが出来る。
図1 波形・電力データのモニター(別ウィンドウ表示)
図2 電力データと波形データの同期計測例
4.2 測定信号にあわせて入力モジュールを選択することで最適な帯域や分解能で測定
ロボットコントローラおよびマニピュレータに関する測定ではモーター回転速度・角度、加速度、制御値であるシリアル信号や電源といったさまざまな信号を扱うことになる。スコープコーダDL950は、最大200MHz/14ビットモジュール、最大直接入力電圧が200Vのモジュール、加速度や歪みセンサーに対応したモジュール、スキャナ方式で多チャネルの温度測定ができるモジュールなどが用意されている。測定信号にあわせて入力モジュールを使い分けることで最適な帯域、分解能にて測定が可能となっている。また、DL950の新機能としてサンプリング速度はモジュール単位ではなくチャネルごとに個別に設定できる。
4.3 高速データロギング機能により高速サンプリングを維持しつつ、PC側で長時間データを記録
DL950は最大8Gポイントのロングメモリーを搭載することが出来る。これによって200MS/s、16チャネルの入力に対して2.5秒間の長時間記録が可能となっている。
また200MS/sでの高速転送レートは実現できないものの、IS8000と組み合わせて使用することでPCにリアルタイムでロギングすることができる。これにより本体メモリーサイズに依存せずに、さらなる長時間記録を実現する。10Gイーサネットインタフェース機能(/C60)を用いた場合、8chで20MS/sのリアルタイムロギングを実現する。
図3 DL850EとDL950のデータ転送比較
4.4 相関関係を把握する信号群別にグループ分けし、グループ単位で波形を表示
ロボット制御には数多くの信号をモニターする必要があるが、限られた波形表示エリアではすべてを同時に観測することが難しい。よって関連性する信号のグループに分けて観測する必要がある。IS8000による波形観測であれば、波形表示ウィンドウを自由に配置することができ、また複数のグループに関連する信号はそれぞれの波形ウィンドウに重複させて表示させることもできる。
図4 DL950波形データ表示と2ズーム画面例
図5 グループ分け(Group1, 2, 3)の設定画面例
4.5 カメラによる映像と波形データの同期測定
アーク溶接ではアーク、溶融池、溶接ワイヤ挙動などの状態を高速度カメラで撮影し、DL950で測定する波形データを時刻で紐づけが可能。マニピュレータの動きを制御する電気信号測定に使用するサンプリング速度と比べると溶接状態の撮影はハイスピードカメラを用いた場合でもフレームレートは遅い。波形データと映像によるデバッグ作業を行う場合、更新レートが異なる両者が同期して観測できることが重要となる。DL950はサンプリングレートを分周したクロックを外部に出力することが出来る。これをPhotron社のハイスピードカメラFASTCOMシリーズカメラのフレームレートに使用することで映像フレームレートとサンプリングレートの関係は一定となり、両者の相関を維持しつつデバッグ作業が行うことが出来る。
*カメラ同期は、高速度カメラ同期オプション(/FS1)が必要
図6 Photron社製高速度カメラと波形の同期測定イメージ
4.6 オンラインモニターによるデータ確認と操作
オンラインモニター操作は、通信インタフェース経由で計測器をPCからリモートコントロールできる。
スコープコーダDL950あるいは電力計WT5000本体のタッチパネルスクリーン(コントロール画面)がPC画面に表示される。計測器本体の操作と同じように離れた場所にあるPC上で設定を自由に変更でき、測定波形や電力計データも確認できる。したがって、製品本体と異なるソフトウェアの操作を新たに覚える必要はない*。
2台接続したときも同時に2画面、PC上に表示できる。設定に問題がないようであれば、その後、波形データあるいは電力計データを収集できる。
コントロール室から離れた場所にあるDL950の波形をPC上で確認できるので、実験室とコントロール室を往復しながら波形データの保存や設定条件を変更するなどの手間を減らすことができ、効率的なデータ収集が可能になる。
*本体のハードキー操作は除く
図7 DL950のリモートコントロール画面
4.7 リンクファイル/分割ファイルによるデータ管理
IS8000は、測定したデータを1つのリンクファイルとして管理できる。従来のように別々に測定した波形データファイルと電力データファイルを関連づけるために同じ名前をつけて保存する、あるいは測定データごとにフォルダーを作成し、その中に波形ファイルと電力データファイルを入れて管理するなどの作業は不要となる。IS8000を使って同時に測定することで波形データも電力データも1つの統合ファイルとして管理できる。
また、便利なファイル分割機能もある。ファイルを分割する時間やサイズを設定することで、分割ファイルを作りながら全時間のデータファイルを一元管理できる。測定の途中で解析をしたい場合は、分割ボタンを押すことでファイルを分割させて解析することもできる。たとえば、24時間の測定を行っているときに1時間ごとのファイル分割時間を設定することで測定しながら測定終了した時間分のデータを解析できる。測定終了後は分割ファイルのみでは扱いにくいため、1つのリンクファイルとして管理することができる。
図8 リンクファイルと分割ファイル統合イメージ
図9 リンクファイルと分割ファイルの表示例(画面左側)
*掲載されている画像等は実際の製品とは一部異なる場合があります。
*本アプリケーションの仕様は測定チャネル数や測定条件などにより制限されることがあります。
詳細についてはお問い合わせください。
*本文中に使われている会社名および商品名称は各社の登録商標または商標です。
DL950は、DL850E/EVの機能・仕様を大幅に改善し、タッチパネルによる直観的操作を可能した新時代のスコープコーダです。
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