統合計測ソフトウェアプラットフォーム IS8000
1. 背景(Introduction)
CO2削減、燃費向上を目的として自動車の動力部を電動化する動きが加速しているが、電動車には価格、充電時間の長さ、航続距離の短さ、といった問題が存在する。
一方、ガソリン車に代表される内燃機関の自動車においても熱効率を向上させ、Well-to-Wheel*の視点で電動車に匹敵するCO2削減を目指す開発が進んでいる。
電気のみをエネルギーとする電気自動車であっても発電所で電気を作る際にはCO2が発生する。現在、市販化されているガソリンエンジンの熱効率が40%を達成しているものもあるが、この熱効率を50%以上にすることで火力発電効率に近づき、電気自動車と比べても遜色ないCO2排出を実現することになる。
内燃機関であるエンジンの熱効率を向上させるために、空気に対して極めて少ない燃料で燃料させる超希薄燃焼が研究されている。超希薄燃焼では着火が難しく、着火しても火炎がきちんと伝搬する場合と消炎してしまう場合があり、消炎してしまうと燃焼が安定せず、ノッキングが発生する。
安定した燃焼を得るための開発ではエンジンの筒内圧、燃料噴射量、点火時期、回転速度・トルクの計測と同時に高速度カメラによる点火、燃焼に至る過程の観測が必要とされる。
*CO2排出量は2つの考え方がある。1つはTank-to-Wheelであり、燃料タンクに燃料が入っている状態から走行時までを考える。もう1つはWell-to-Wheel であり、油田から燃料を採掘し燃料タンクに入れるまでを考慮する。電気自動車でも同様に発電してからバッテリーに充電する段階も含めた総排出量になる。
2. 課題(Challenges)
超希薄燃焼技術の主な課題は以下のものがある。
・着火しない
・燃えにくい、消炎する
・ノッキング
・熱損失
こうした課題に対する解決手法を研究するために、高速度カメラによる燃焼状態の映像と測定器による各種センサ信号データの相関関係を知る必要がある。
測定器は一般的に横軸を時間として、測定値の時間変化を波形として表示する。これに対して高速度カメラの映像は、フレーム画像のひとつひとつがいわゆる瞬時値であり、基本的に横軸を時間とした変化をグラフで表現するものではない。
また、測定器とカメラの組み合わせる際、多くはトリガ信号のみを共通にしており、それぞれの機器は独立したクロックで動作するため両者は完全な形では同期していない。低速な現象であれば、トリガ信号のみの同期であっても大きな影響はないが、高速現象に対してはクロック信号による同期が大変重要になる。センサ信号データと筒内画像を同期させて一緒に表示させることで相関関係を把握できる。
3. IS8000による課題解決(Solution)
4. IS8000による提案(Detailed description)
4.1 DL950にて回転速度、トルク、燃料噴射量、筒内圧などの信号測定と高速度カメラで燃焼状態撮影
アナログ電圧信号、パルス信号などの異なるセンサ出力信号に対してスコープコーダDL950は適した分解能、サンプリング速度を用いて測定できる。
異なるサンプリング速度で測定した各信号も同一時間軸で表示される。
DL950は10Gイーサネットインタフェースオプション(/C60)により10Gbpsのデータ転送を実現している。この機能により8チャネルを20MS/sのサンプルレートで測定*し、PC上にリアルタイム表示できる。
燃焼状態は高速度カメラによって可視化される。IS8000ではPhotron社の高速度カメラFASTCAM SA、Mini、Novaに対応している。
* DL950 10Gbpsイーサネット(/C60オプション)が必要
* カメラ同期は、高速度カメラ同期オプション(/FS1)が必要
図1 DL950と高速度カメラの接続図
図2 IS8000 リアルタイムモニター表示例
4.2 映像とアナログ測定データの完全同期測定
波形測定器とカメラを組み合わせて使用する測定の多くはトリガ信号のみを共通にした同期測定であり、この方法はスタート位置のみを合わせるものである。しかしこの手法ではそれぞれの機器は異なる内部クロックで動作するため、測定データと映像データは完全には同期されない。
これに対してIS8000の高速度カメラ同期オプションを用いたシステム構成では、DL950がカメラに対してフレーム同期用クロックを出力する。このフレーム同期クロックに従ってカメラのフレームレートが制御される。また、このフレーム同期用クロックはDL950のサンプルレートを分周したものとなる。つまり、 1つの動画フレームに該当するサンプリングデータの数が一定であり、アナログ信号のサンプルレートと動画フレームレートが同期する。トリガ信号だけの同期と異なり、どのような瞬間でデータを切り出しても両者の関係は崩れていない。
図3 エンジンの動きとアナログ測定データイメージ
4.3 波形データと映像を組み合わせてオンライン観測
サンプルレートと動画フレームレートの関係が常に一定に保たれた状態で測定過程をIS8000上でオンラインにて確認することが出来る。波形データと映像データはIS8000上で生成するファイルにて統合管理される。このファイルによって測定終了後のオフライン解析でも波形データと映像データを別々に呼び出す必要がなく、統合されたファイルの操作だけでオンライン測定と同様の観測が可能で、動画を再生しながら、カーソル位置で該当する波形データを連続的に確認することができる。
ユーザーが同時に個別に生成されるファイルを管理する必要がなく、利便性が向上している。
図4 波形データと映像データのオンライン観測例
4.4 MDFファイル保存
IS8000はCSVに加えMDFファイルフォーマットでのデータ保存に対応している。自動車業界のデファクトスタンダードとなっているこのバイナリーファイルフォーマットによって、より効率的なデータ活用を実現する。
図5 MDFファイルフォーマットへのファイル変換画面
4.5 分割ファイルによるデータ管理
統合計測ソフトウェアプラットフォームIS8000には、便利なファイル分割機能がある。ファイルを分割する時間やサイズを設定することで、分割ファイルを作りながら全時間のデータファイルを一元管理できる。測定の途中で解析をしたい場合は、分割ボタンを押すことでファイルを分割させて解析することもできる。
たとえば、24時間の測定を行っているときに1時間ごとのファイル分割時間を設定することで測定しながら測定終了した時間のデータを解析できる。測定終了後は分割ファイルのみでは扱いにくいため、ファイルを1つのリンクファイルとして管理できる。
図6 リンクファイルと分割ファイルの統合イメージ
図7 リンクファイルと分割ファイル表示例(画面左側)
4.6 オンラインモニターによるデータ確認と操作
オンラインモニター操作は、通信インタフェース経由で計測器をPCからリモートコントロールできる。
スコープコーダDL950のタッチパネルスクリーン(コントロール画面)がPC画面に表示される。計測器本体の操作と同じように離れた場所にあるPC上で設定を自由に変更でき、測定波形や電力計データも確認できる。したがって、製品本体と異なるソフトウェアの操作を新たに覚える必要はない*。
コントロール室から離れた場所にあるDL950の波形をPC上で確認できるので、実験室とコントロール室を往復しながら波形データの保存や設定条件を変更するなどの手間を減らすことができ、効率的なデータ収集が可能になる。
*本体のハードキー操作は除く
図8 DL950のリモートコントロール画面
4.7 画像を用いたレポート作成
IS8000では波形データの選択とテキスト入力、表示エリアの設定などが簡単操作で行える。テキスト入力を除き、シンプルなマウス操作だけで測定レポートを作成することが出来る。設定したレポートフォーマットはテンプレートして保存することができ、次回同様の測定を行う際の作業効率を向上することができる。
図9 レポートのテンプレート作成画面
図10 レポート作成中の波形画像の挿入イメージ
*掲載されている画像等は開発中のものです。デザインは変更される場合があります。
*本アプリケーションの仕様は測定チャネル数や測定条件などにより制限されることがあります。
詳細についてはお問い合わせください。
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