高電圧対応が進むOBCの高精度電力計測

高電圧対応が進むOBCの高精度電力計測

背景

SDGsの取り組みの推進や環境保全の観点から自動車の電動化(EV化)が普及しており、高速充電に向けたバッテリと充電器の高電圧化が進んでいます。
EV用の充電器は、大きく分けて普通充電と急速充電の2種類があります。普通充電は家庭用などの単相AC電源により充電する方法で、交流はEV内部のAC/DC変換器(オンボードチャージャー)で直流に変換され車載バッテリを充電します。一般に充電時間は長く、完了するまでには10時間以上が必要になる場合もあります。特にバッテリは大容量化が進んでいることから、普通充電による充電ではより長い時間を要する方向にあります。
一方の急速充電は、系統に接続された充電ステーション(オフボードチャージャー)を設置することで大電流出力に対応でき、短時間でバッテリを充電できます。そのため、オンボードチャージャー側にも短時間で充電できることが求められてきています。さらに近年は、V2Xで表現されるように、災害用あるいはキャンプなどの野外活動の高まりからAC電力の供給源としての新たなニーズも高まっています。

*On Charger(OBC):

AC電源からバッテリを充電するためにxEVに搭載されているシステムです。

*Off Board Charger:

充電ステーション。EVSE(Electric Vehicle Service Equipment)とも呼びます。

 

課題

通常の普通充電器への入力は単相AC100V~240Vで、最大電流・電力も比較的小さいです。バッテリへの充電時間を短縮するために、電流値を大きくするか、バッテリとともに充電器の電圧値をアップさせることが求められています。
そのため、充電器では内部で昇圧され、800V系バッテリに対応できることが必要です。また、電力を効率的に供給するため力率を良くすることが必要で、充電器には力率改善回路(PowerFactorCorrection、PFC)が搭載されています。
一方、入力側は低電圧の系統への接続となるため、高調波電流の流出や電圧変動を起こさないことが求められていて、IEC規格に合致していることが必要です。加えて、EVに搭載されているバッテリにAC電力の供給源としての役割を持たせるためには、双方向の回路設計が不可欠です。
これらEV用充電器の需要はEVの普及に伴い増えており、開発現場では高精度な電力および電流測定が不可欠となります。

 

WT5000 課題解決

  • 電力基本確度±0.03%の高精度電力測定
  • 1500 Vdc、2000 Armsまでの高電圧・大電流測定
  • 力率および他の電力項目の高精度測定
  • AC/DC変換、DC/AC 変換の高精度効率測定
  • 積算電力量、積算電流量の測定
  • IEC 規格に合致した高調波とフリッカ測定
  • 電力値と波形データの連続測定による異常確認
  • その他の計測器による充電器の開発支援

WT5000 よる提案

基本確±0.03%高精度測定

WT5000は世界最高クラスの測定確度となるトータル±0.03%(50/60Hz)を実現しています。EV用充電器の変換効率をより高精度に測定できます。
電力入力エレメントはモジュラー構造を採用し、最大7入力できます。YOKOGAWAが長年蓄積してきた設計技術により、極めて高精度な測定回路をコンパクトな入力エレメント内部に収めました。また、3種類のエレメント(定格入力30A、定格入力5A、電流センサー入力専用)から用途に合わせて選択でき、お客様自ら入れ替えや増設が可能です。

図1 プレシジョンパワーアナライザWT5000

図1 プレシジョンパワーアナライザWT5000

1500Vdc、2000Armsまでの高電圧・大電流測定

EV用普通充電器では100V~240VACの入力のため出力電力は2kW程度からとなっていますが、短時間充電の要求の高まりから年々大きくなっており、11kWあるいは22kWの要求もあります。そのためにバッテリとともに高電圧化が進んでいる状況です。
WT5000は最大電圧入力1500Vdcで、AC/DC電流センサーを利用することにより最大2000Arms(3000Apeak)までの電流測定を1台で測定できます。また、最大7電力モジュールを搭載することで、単相×7システム、あるいは、単相・三相電力の複数システムを同時に測定し、直流電圧、交流電圧、力率、THD、入出力間効率などを高精度に測定できます。

図2 AC/DC電流センサーCT1000A(左)とCT2000A(右)

図2 AC/DC電流センサーCT1000A(左)とCT2000A(右)

 

図3 WT5000とAC/DC電流センサーCT1000A

図3 WT5000とAC/DC電流センサーCT1000A

力率の電高精度測定

EV用のオンボードチャージャーは家庭用のコンセントなどからの50Hz/60Hzの交流電力を、EV内部で直流に変換してバッテリに電力を供給します。交流電力は電圧と電流、および位相差により電力値が変わるため、電力供給量を増加させるためには位相差を極力なくし、また高調波を抑制することで力率を1に近づけることが重要です。
WT5000は、PFC回路を介した電力値を測定し力率を演算します。力率以外の項目となる電圧・電流・有効電力・皮相電力・無効電力も同時に測定、表示できるので、各項目の変化を同時に確認できます。

図4 電圧、電流、力率、THDなどの表示例

図4 電圧、電流、力率、THDなどの表示例

AC/DC変換、DC/AC変換の高精度効率測定

EV用の普通充電器は内部にいくつかの変換回路が搭載されています。そして通常のAC商用電源に接続するため高調波の抑制が重要となり、PFC回路が搭載されています。また、DC電圧レベルをコントロールするDC/DCコンバータなどが内蔵されています。
これらの回路に関しては、電力損失を極力減らすための設計が極めて重要です。そのため多チャネル入力を特長とするWT5000を用いることで、各回路ごとの効率を高精度に測定できます。

図5 オンボードチャージャーの概要

図5 オンボードチャージャーの概要

積算量、積算電流測定

WT5000は、長時間の消費電力量(Wh)や消費電流量(Ah)を測定する積算機能を搭載しています。積算機能は、有効電力の積算(電力量)、電流の積算(電流量)、皮相電力の積算(皮相電力量)、および無効電力の積算(無効電力量)があります。また積算機能には2種類のモードが搭載されており、バッテリなどの充放電を測定するモード、交流電力の売電、買電を測定するためのモードがあります。

図6 積算電力、積算電流の測定画面例

図6 積算電力、積算電流の測定画面例

【積算機能の解説】

充放電モード(Charge/Discharge)

直流(サンプルデータごと)の極性別電力量を測定

売買電モード(Sold/Bought)

交流(データ更新周期ごと)の極性別電力量を測定

積算機能に関係する測定項目

ITime

積算時間

WP

正負両方向の電力量の和

WP+

正方向のPの和(消費した電力量)

WP-

負方向のPの和(電源側に戻した電力量)

q

正負両方向の電流量の和

q+

正方向のIの和(電流量)

q-

負方向のIの和(電流量)

WS

皮相電力量

WQ

無効電力量

IEC規格に合致した高調波/フリッカ測定

WT5000は、PCアプリケーションソフトウェアとなる統合計測ソフトウェアプラットフォームIS8010と一緒に利用することでIEC61000-3-2に沿った高調波試験、あるいはIEC61000-3-3に沿った電圧変動・フリッカ試験を行うことができます。
さらにAC/DC電流センサーCT200の特別モデルを活用することで、IEC61000-3-11およびIEC61000-3-12の相あたり16Aを超える高調波および電圧変動・フリッカ試験にも対応可能です。EV用普通充電器は家庭用のコンセントなどを利用するため、上記の規格を満している必要があります。

図7 IEC 規格に合致した高調波・フリッカ試験システム

図7 IEC 規格に合致した高調波・フリッカ試験システム

*1 株式会社エヌエフ回路設計ブロック製
*2 株式会社エヌエフ回路設計ブロック製品電源を使用する場合は、GP-IBのみ可能。
*3 GP-IB、イーサネット、USB が可能(WT5000 はすべて標準装備)。

連続測異常確認

電圧・電流・電力などのデータを長時間連続で測定する必要がある場合、IS8000を利用することで、リアルタイムに電力パラメータのトレンドを確認し保存できます。さらに、WT5000の/DS(データストリーミング)オプションを用いると、数値データだけでなく、波形データも同時に観測し保存できます。 たとえば、電力値で異常があった箇所を拡大することで、その時点の波形データをWT5000 1台で確認できます。

図8 IS8000による電圧・電流・電力トレンド表示

図8 IS8000による電圧・電流・電力トレンド表示

 

図9 電力値の低下部分の拡大による異常波形確認

図9 電力値の低下部分の拡大による異常波形確認

 

他計測充電器の開発支援

DL950 長時信号異常時の高速測定

多チャネル絶縁型波形観測器となるスコープコーダDL950のデュアルキャプチャ機能は、異なるサンプルレートで波形を捉えることができます。長時間のトレンドを把握するために低速サンプリングでデータ収集を行いながら、突発的な過渡現象を高速サンプリングで波形捕捉できます。
さらに、IS8000を利用すると、得られた波形データとWT5000の電力の数値データをIEEE1588で同期させて表示でき、電力変動時の波形観測がより詳細に行えます。

図10 DL950デュアルキャプチャ機能による測定例

図10 DL950デュアルキャプチャ機能による測定例

DLM3000/DLM5000 PFC回路の波形観測

PFC回路や双方向回路の動作確認には、波形観測用としての性能と操作性に優れたミックスドシグナルオシロスコープDLM3000や8チャネル入力のDLM5000が活用できます。

DLM3000/DLM5000 PFC回路の波形観測

関連業種

関連製品とソリューション

プレシジョンパワーアナライザ WT5000

持続可能な社会の実現に向けて、COP21におけるパリ協定の採択、既存エンジン車の販売停止計画発表など、グローバルで太陽光/風力発電に代表される再生可能エネルギーへのシフトと、EVやPHVおよびそのインフラ網の開発が加速しています。それらの更なる省電力化と高効率化を支援するために、従来機種の性能と機能を格段に向上させた高精度電力計です。

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