背景
脱炭素社会の実現に向けて開発が進む太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーや、環境保全の観点から普及が進む輸送車両の電動化(EVなど)の評価においては、電圧、電流、電力、力率、周波数などの測定値で、ある一部の数値データが急峻に変化したり、あるいは値が上下することがあります。
このような場合、数値演算の元となる波形データに変動や異常があると考えられるため、波形測定器を使って波形データを捕捉し数値変化の要因を究明することになります。
この発生要因は測定対象の変化の他に、電源変動、測定環境あるいは計測器側に変化や問題がある可能性もあり得ます。現象は稀にしか起こらないことも多いですが、異常現象の発生を確実に捉えるために電力計と波形測定器などを同時に使ったり、電力計の波形捕捉機能による数値と波形データの相関から検証を進めることになります。
課題
一般的に電力計が測定するデータ(項目)は数多くあるため、多数の数値を画面上で眺めながら異常データを見つけることは大変困難です。データ収集後、市販の表計算ソフトウェアを用いてトレンドのグラフ作成をすることで異常データを比較的簡単に発見することができますが、再度確認するために再試験を行った場合、前回から外部環境条件(外気温度、湿度、供試体の温度など)が変わってしまい、同様の現象が再現されないことがあります。結果として問題が解決しない状態が長期に及ぶこともあり得ます。
電力計による数値データの変動だけではどのような異常現象であるかを特定できないので、この原因を捉えようと波形測定器を使うことが一般的ですが、その波形データを取り込むためのトリガ条件の設定は困難な場合が多いです。また、電力計と同じタイミングで測定しようとしても個々の計測機器は内部時刻を持っており時間経過による誤差(ずれ)があるため、短時間のある一部のデータ欠落、信号レベル減少など、数値データ変動時の波形データの変化を時間で合わせることは難しいです。
また、電力計による数値データと波形測定器による波形データを同期させて長時間の測定をすることはあまり行われていません。これはオシロスコープのような波形測定器は、MS/sオーダーの高速サンプリングで波形を捕捉し、高速処理が可能な内蔵メモリー(アクイジションメモリー)に一時保存する方法が一般的であるためです。一方、電力計はmsあるいは秒単位の頻度で数値データを収集することが一般的であるため、都度PCに転送して保存するケースが比較的多いです。
このように、長時間にわたり高速サンプリングされた波形データと電力計の数値データを同期させて測定することは難しいです。
課題解決
IS8000を用いたDL950とWT5000の同期測定
PX8000による電力波形データの周期ごとの演算
WT1800Eの高速データ収集機能を用いた短時間の平均値演算
各モデルによる提案
IS8000を用いたDL950とWT5000の同期測定
波形測定器の波形演算機能を使って電力値を表示させる方法で電力値の検証を行うケースがありますが、測定した波形とトレーサビリティのとれた高精度な電力値として結果を得ることはできません。IS8000 統合計測ソフトウェアプラットフォームは、IEEE1588時刻同期を使いDL950とWT5000を同時に接続することで簡単に同期測定を行うことができます。DL950とWT5000の同期誤差は約10 μsです。
DL950で取得できる最速20 MS/s、8 ch同時の連続波形データと共に、WT5000の数値データをPCの同一時間軸上に表示できます。電力データを波形データと共に時系列のトレンド表示ができるため、微妙な電力変動を確認できます。
たとえば、実際に起こっている電力変動から異常波形データを確認し問題を発見することも可能です。
図1 電圧・電力値異常時の波形データ観測例1
図2 電圧・電力値異常時の波形データ観測例2
図3 電圧・電力値異常時の波形データ観測例3
PX8000による電力波形データの周期ごとの演算
PX8000は電圧波形、電流波形の他に、瞬時電力を同時に演算し、波形データとして表示します。瞬時電力は同時にサンプリングされた電圧波形と電流波形の積によって得られます。この瞬時電力の値は、カーソルを使用して読むことができ、またカーソル間の二つの状態の差分測定が可能です。カーソルは水平、垂直、あるいはマーカーから選択でき、時間差、電圧/電流/ 電力差を同時に測定できます。
さらに、最大4 Mポイントのユーザー定義演算(波形演算、MATH)機能を用いることで、1サイクルごとの電力のトレンド波形を演算することができます。得られた波形は、カーソル機能を用いることで、特定のサイクルの値を求めることや、サイクル間の差分を測定することが可能です。
PX8000向けにアプリケーションソフトウェアとして760881 PowerViewerPlusが用意されており、測定データをPCに転送することで、大容量データの波形解析や数値解析がPC 上で可能です。
図4 PX8000 本体の瞬時電力波形の例
図5 PX8000のカーソル間演算の例
図6 PX8000のサイクルごとのトレンド演算例
WT1800Eの高速データ収集機能を用いた短時間の平均値演算
WT1800Eの高速データ収集(High Speed Data Capturing:HS)機能は、直流電力の高速変動あるいは三相モーター起動時の高速変動を捉えることが可能です。一般的に電圧、電流測定では周期ごと、ないしは数周期分の波形データから実効値を演算し表示しますが、HSモードでは三相において1周期分のデータがなくても横河独自の信号処理方式により信号変動を捉え、1周期未満の信号からも値を求めることができます。HSモードでの測定は、3 種類のフィルターの組み合わせによる高速データ収集を実現しています。
図7 高速データ収集のWT1800E 上の表示例
図8 高速データ収集機能で得られたデータを市販の表計算ソフトウェアで表示させた例
確度保証された信頼性の高い電力データの活用
近年は、波形測定器の中に電力データを演算する機能を搭載する機器が増えています。過渡的な現象においてもデータの同時性を確保できるため波形測定器で電力演算を行えることは大変便利であるものの、気をつけなければならない点があります。それは国家標準につながった電力測定値の測定精度です。
波形測定器は電圧プローブ、電流プローブを使って高帯域・高サンプルレートにより測定信号の形状を、より正確に捉えることが主な目的となっています。従って、波形測定器を使って電力演算をした結果は電力計で測定したデータとは異なることがあり、測定精度における信頼性を慎重に検証する必要があります。
一方、横河の電力計は国家標準につながる計測標準を高い精度で確立・維持しており、電力計データの電圧、電流、有効電力などにおいて信頼性の高いデータを提供しています。統合計測ソフトウェアプラットフォームIS8000は、電力トレーサビリティ*の取れたWT5000による電力測定とともにDL950による最速20 MS/s、8 chのデータ転送を可能としており、信頼性の高い電力計データと波形データを、同一時間軸上に同時表示できる点がメリットとなっております。
* 電力のトレーサビリティ:高精度電力計WT5000の性能を支える校正技術について
「高精度電力計を支える横河電機の電力校正技術」
図9 新電力校正システムのトレーサビリティ体系図
持続可能な社会の実現に向けて、COP21におけるパリ協定の採択、既存エンジン車の販売停止計画発表など、グローバルで太陽光/風力発電に代表される再生可能エネルギーへのシフトと、EVやPHVおよびそのインフラ網の開発が加速しています。それらの更なる省電力化と高効率化を支援するために、従来機種の性能と機能を格段に向上させた高精度電力計です。
WT1800Eプレシジョンパワーアナライザは、最先端の研究開発で求められる高い性能と豊富な機能、拡張性を兼ね備えたモデルです。 EV/PHV/FCVなど自動車の電動化や再生可能エネルギー向けパワーコンディショナなどの技術開発や各種規格試験など、 パワーエレクトロニクスに関わる幅広いアプリケーションにお使いいただけます。
WT1800Rプレシジョンパワーアナライザは、最先端の研究開発で求められる高い性能と豊富な機能、拡張性を兼ね備えたモデルです。EV/PHV/FCVなど自動車の電動化や再生可能エネルギー向けパワーコンディショナなどの技術開発や各種規格試験など、パワーエレクトロニクスに関わる幅広いアプリケーションにお使いいただけます。
多くのお客様とともに培った高精度な電力測定技術と、長年オシロスコープの開発を支えた波形測定技術の融合により、電力測定に変革をもたらす新たな高精度電力測定器が誕生しました。PX8000は、電気エネルギーを正確に測定するために、相反する「高精度な電力測定」と「時間軸の分解能を上げた波形測定」の2つの命題を1台で解決へと導きます。