AIデータセンターで消費される電力変動解析

AIデータセンターで消費される電力変動解析

1. 背景

生成AI(Generative AI)は、文章、画像、音声などの新しいコンテンツを生成する人工知能の技術です。この技術は、膨大なデータを学習し、ディープラーニングを用いて新しいアウトプットを生成します。生成AIの普及に伴い、データセンターの役割がますます重要になっています。
AIデータセンターは、生成AIのトレーニングや推論を行うための高性能なコンピューティングリソースを提供します。特に、大規模な生成AIモデルのトレーニングには膨大な計算能力が必要です。これには、高性能なGPUやTPU *が使用され、これらのデバイスは大量の電力を消費します。また、AIデータセンターは、高速ネットワーク、大容量ストレージ、特殊冷却技術なども備えており、電力消費量は膨大になっています。
このような背景から、AIデータセンターのエネルギー効率を向上させるためには、消費電力を詳細に解析することが不可欠です。消費電力の測定は、エネルギー効率を最適化し、運用コストを削減するための重要なステップです。リアルタイムでの監視と効率的な電力管理により、無駄なエネルギー消費を抑え、冷却システムや電力供給システムの改善点を特定することが重要になってきております。
* GPU:Graphics Processing Unit(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)
TPU:Tensor Processing Unit(テンサー・プロセッシング・ユニット)

 

2. 課題

AIデータセンターの電力測定において、すでに稼働している電源ケーブルの電流を測定し、電力計測を行う必要があります。
このようなケースでは、高精度な貫通型電流センサーを取り付けることができません。つまり、取り外しが可能であり、かつ高精度な直流または交流の大電流を測定する必要があります。
この課題を解決するために、AC/DCスプリットコア電流センサーCT1000Sと高精度な電力計WT5000を使用することで、高精度で多チャネルの電力測定が可能になります。
CT1000Sは、取り外しが容易でありながら高精度な電流測定を実現し、WT5000は多チャネルの電力データを高精度に収集・解析することができます。
これにより、AIデータセンターの電力消費を詳細に監視し、エネルギー効率の向上や運用コストの削減に貢献することができます。

 

3. WT5000による課題解決

  • 電力基本確度±0.03%の高精度電力測定
  • AC/DC変換、DC/DC変換の高精度効率測定
  • 設置が容易になるCT1000Sの開閉機構
  • 固定用板金の取り付け可能なCT1000S本体設計
  • 積算電力量、積算電流量の測定
  • 電力計と電流センサーの優れた耐ノイズ性
  • 電力値と波形データの連続測定による異常確認
  • その他測定器による開発・製造支援
    DL950、DLM3000HD、AQ6370E、AQ6150B

3. WT5000による課題解決

 

4. WT5000による提案

4.1 電力基本確度±0.03%の高精度電力測定

プレシジョンパワーアナライザWT5000は世界最高クラスの測定確度となるトータル±0.03%(50/60 Hz)を実現しています。
また、実効値に対して波高値が高い電流を測定する場合、レンジ誤差を減らすことが必要ですが、電力確度±(0.01% of reading + 0.02% of range)(50/60 Hz)とレンジ誤差も小さく、高精度に電力測定が可能です。電力入力はモジュラー構造で、お客様自身で入れ替えや増設が可能です。3種類のエレメント(定格入力30 A/ 定格入力5 A/ 電流センサー入力専用)から選択いただけますので、広範囲の電流振幅に対応する柔軟な測定を1 台で実現できます。

図1 WT5000エレメント搭載(3種類)

図1 WT5000エレメント搭載(3種類)

 

4.2 AC/DC変換、DC/AC変換の高精度効率測定

AIデータセンターの電源は内部にいくつかの変換回路が搭載されています。そして通常のAC商用電源に接続するため高調波の抑制が重要となり、PFC回路が搭載されています。また、DC 電圧レベルをコントロールするDC/DCコンバータなどが内蔵されています。これらの回路に関しては、電力損失を極力減らすための設計が極めて重要です。そのため多チャネル入力を特長とするWT5000を用いることで、各回路ごとの効率を高精度に測定できます。

図2 WT5000とCT1000Sの接続例

図2 WT5000とCT1000Sの接続例

 

4.3 設置が容易になる開閉機構

CT1000Sは開閉機構をもつ、高精度なAC/DC 電流センサーです。これにより、測定対象のケーブルを切断することなく電流センサーを取り外しすることが可能です。
CT1000Sを採用することで、センサーを取り外す際に測定系を分解せず取り外すことができます。

図3 CT1000Sの開閉操作イメージ

図3 CT1000Sの開閉操作イメージ

 

4.4 固定用板金の取り付け可能な本体設計

CT1000Sは、メインユニットにネジ穴(M4)が計6箇所あるため、センサー本体を板金と固定することができます。
開閉機構をもつ電流センサーを採用する際、通常の貫通型電流センサーに比べて固定が難しいことが多いですが、CT1000Sを採用することでこの問題を解決できます。
図4はCT1000Sを1台、壁面に固定したイメージです。本来では配置できない中空領域にも配置可能になります。図5はこの機能を活かした三相電流測定時のラック内での配置イメージです。このように、ネジ穴と本体ロックレバーに容易にアクセスできるよう配置することで、安定した測定と容易なメンテナンス管理を両立できます。

図4 ネジを活用した壁面への固定イメージ

図4 ネジを活用した壁面への固定イメージ

図5 三相電流測定時のラック内配置イメージ

図5 三相電流測定時のラック内配置イメージ

 

4.5 積算電力量、積算電流量の測定

WT5000は、長時間の消費電力量(Wh)や消費電流量(Ah)を測定する積算機能を搭載しています。
積算機能は、有効電力の積算(電力量)、電流の積算(電流量)、皮相電力の積算(皮相電力量)、および無効電力の積算(無効電力量)があります。

図6 積算電力、積算電流の測定画面例

図6 積算電力、積算電流の測定画面例

 

4.6 電力計と電流センサーの優れた耐ノイズ性

AIデータセンターでは、多くの電源が使用されています。特にスイッチング電源は、効率的な電力供給を実現する一方で、多くのノイズを発生させることがあります。このノイズは、高精度な電力測定において障害となることがあるため、優れた耐ノイズ性能が求められます。つまり、高精度測定を行うためには、ノイズの影響を最小限に抑える電力計測およびセンサーでのノイズ対策技術が必要です。これにより、正確なデータ収集と解析が可能となり、AIデータセンターのエネルギー効率の向上や運用コストの削減に貢献することができます。
したがって、DC/DCコンバータやインバータなどでは、高周波スイッチングによる動作制御を行う機器を安定して高精度に測定するために、高帯域まで測定可能な電流センサーと、厳しいノイズ環境下でも高精度測定を実現できる高性能かつ高精度な電力計が必要です。

図7 厳しいノイズ環境下でも高精度測定を実現

図7 厳しいノイズ環境下でも高精度測定を実現

 

4.7 電力値と波形データの連続測定による異常確認

電圧・電流・電力などのデータを長時間連続で測定する必要がある場合、統合計測ソフトウェアプラットフォームIS8000を利用することで、リアルタイムに電力パラメータのトレンドを確認し保存できます。さらに、WT5000のデータストリーミング機能(/DSオプション)を用いることで、数値データだけでなく波形データも同時に観測し保存できます。
たとえば、電力値で異常があった箇所を拡大することで、その時点の波形データをWT5000 1台で確認できます。

図8 IS8000による電圧・電流・電力トレンド表示

図8 IS8000による電圧・電流・電力トレンド表示

図9 電力値の低下部分の拡大による異常波形確認

図9 電力値の低下部分の拡大による異常波形確認

 

4.8 その他測定器による複合機の開発支援

DL950
長時間データ記録と信号異常時の高速測定

多チャネル絶縁型波形観測器となるスコープコーダDL950のデュアルキャプチャ機能は、異なるサンプルレートで波形を捉えられます。長時間のトレンドを把握するために低速サンプリングでデータ収集を行いながら、突発的な過渡現象を高速サンプリングで波形捕捉できます。
さらにIS8000を利用することで、得られた波形データをWT5000の電力の数値データとIEEE1588で同期させて表示でき、電力変動時の波形観測がより詳細に行えます。

図10 DL950 デュアルキャプチャ機能による測定例

図10 DL950 デュアルキャプチャ機能による測定例

 

DLM3000HD/DLM5000HD
PFC回路の波形観測

電源やPFC回路の動作確認には、波形観測用として性能と操作性に優れた高分解能オシロスコープDLM3000HDや8チャネル入力のDLM5000HDが活用できます。

図11 DLM3000HD 2 台同期接続

図11 DLM3000HD 2 台同期接続

 

AQ6370E/AQ6150B
AIデータセンターにおける光トランシーバ試験

生成AIデータセンターでは、大量のデータを高速かつ効率的に処理するために、光ネットワーク機器が重要な役割を果たします。光ネットワーク機器は、電気信号を光信号に変換し、光ファイバーを通じてデータを伝送します。これにより、データセンター内外での高速通信が可能となり、生成AIのトレーニングや推論に必要な膨大なデータのやり取りが効率化されます。
光ネットワーク機器の中で電気信号を光信号に変換する役割を果たしているのが光トランシーバです。光トランシーバは、電気信号と光信号の相互変換を行うデバイスで、光ネットワーク機器の一部として機能します。これにより、データを光ファイバーを通じて高速で伝送することが可能になります。
光トランシーバの試験では、横河計測の光スペクトラムアナライザ(OSA)、波長計が使われています。OSAは光信号のスペクトル解析を行い、波長、パワーレベル、SMSRなどの重要なパラメータを測定します。一方、波長計は光信号の正確な波長を測定します。これらの機器を組み合わせることで、光トランシーバーの性能を高精度に評価し、品質向上に貢献します。

図12 光スペクトラムアナライザ AQ6370E

図12 光スペクトラムアナライザ AQ6370E

図13 光波長計 AQ6150B

図13 光波長計 AQ6150B

関連業種

関連製品とソリューション

プレシジョンパワーアナライザ WT5000

持続可能な社会の実現に向けて、COP21におけるパリ協定の採択、既存エンジン車の販売停止計画発表など、グローバルで太陽光/風力発電に代表される再生可能エネルギーへのシフトと、EVやPHVおよびそのインフラ網の開発が加速しています。それらの更なる省電力化と高効率化を支援するために、従来機種の性能と機能を格段に向上させた高精度電力計です。

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