電力計測 -基礎編-

電力計測 -基礎編- (THE T&M LINK(Vol.12)2003年10月10日掲載)
通信測定器事業本部
第1開発本部
プラットフォーム技術部
大村久英

 

はじめに

電力測定器は、電気機器の消費電力を測定する装置であり、家電製品、照明器具、産業用機器などの研究開発、生産ライン等の場面で、幅広く使用されています。
近年の地球環境問題やエネルギー資源の有効活用の観点から電気機器の省エネルギー化の要求が高まっています。そのため、機器の高効率化、小型化による機器内部の電力変換の高周波化が進み、より広い周波数帯域、より高精度での電力計測が求められています。また、高効率化のために、電力変換器は複雑な電力制御を行い、その段階ごとに消費される電力を細かく測定する必要性が増えてきました。
ここでは、省エネルギーの気運から必要性が高まっている電力計測に関する基礎について解説し、計測ノウハウの一部を紹介します

 

電力計測の基礎

電気エネルギーは、電熱器や電気炉の熱、モータの回転力、蛍光灯や水銀灯の光などの各エネルギーに変換されて利用されます。 このような負荷に対して電気がする仕事(電気エネルギー)を、単位時間当たりの量で表したものが、電力(electric power)です。単位はW(ワット)を用い、1秒間に1ジュールの仕事をするとき、その電気エネルギーは1Wになります。
● 直流の電力
 
直流の電力直流の電力P[W]は、加えられた電圧U[V]と負荷を流れる電流I[A]との積で求められます。

P=UI [W]

毎秒、P[W]の電気エネルギーが電源から取り出され、抵抗R[Ω](負荷)で消費されます。
 

● 交流の電力
 
交流の電力は、容量性負荷(コンデンサ)や誘導性負荷(インダクタンス)が含まれることによって電圧と電流の間に位相差が生じます。電圧の瞬時値がu =Umsinωt、
電流の瞬時値が i =Imsin(ωt-φ) である場合、交流の電力の瞬時値 p は、次のように表します。

p=u×i=Umsinωt×Imsin(ωt-φ)=UIcosφ-UIcos(2ωt-φ)

交流の電力UとI は、それぞれ電圧と電流の実効値を、φは電圧と電流の位相差を表します。
pは時間に無関係の「UIcosφ」と、電圧や電流の2倍の周波数の交流分「-UIcos(2ωt-φ)」の和になります。負荷で消費される単位時間あたりの電力Pは、pの平均値であるため、pの交流分「-UIcos(2ωt-φ)」は0と
なり、電力Pは、P=UIcosφ[W]になります。
同じ電圧と電流でも、その位相差φによって電力が異なります。図2の横軸より上は正の電力(負荷に供給される電力)で、軸より下は負の電力(負荷から逆送される電力)です。この正負の差が負荷で消費される電力になります。
電圧と電流の位相差が大きくなるほど負の電力が増加し、φ=π/2では正負の電力が同じになって、電力を消費しなくなります。
 
 
 
 
 
 
 

● 有効電力と力率

交流では、電圧と電流の積UIすべてが負荷で消費される電力ではありません。
積UIは、皮相電力S(apparent power)といわれ、見かけの電力を表します。
単位はVA(ボルトアンペア)です。
皮相電力は、機器の電気容量を表すのに用いられます。皮相電力のうち、前述の負荷で消費される電力を有効電力P(active powerまたはeffective power)、消費に寄与しない電力を無効電力Q(reactive power)といいます。無効電力の単位はvar(バール)です。

S=UI [VA]  P=UIcosφ [W]  Q=UIsinφ [var]

cosφは、皮相電力が真の電力になる割合を示したもので、これを力率λ(power factor)といいます。 皮相電力S、有効電力P、無効電力Qとの間には、次の関係があります。

S2=P2+Q2

電力計のちょとしたノウハウ

ひずみ波の電力測定と周波数帯域について

有効電力は、瞬時電圧と瞬時電流との積の一周期の平均で示されます。
ひずみ波の電圧、ひずみ波の電流および電力が含まれ る場合には、電圧、電流、有効電力は、次の式で表されます。

式1

ひずみ波電圧とひずみ波電流による有効電力は、同じ高調波成分(周波数)の電圧、電流と力率の積から得られる有効電力の総和であることが分かります。異なる周波数成分による電圧と電流の積の平均値は0 となり、有効電力にならないことを表しています。
有効電力を測定する場合には、電圧あるいは電流の一方が高い周波数成分を持っていたとしても、低い方の周波数帯域の特性をもつ測定器を使用すれば良いことになります。

 

入力形式について

電力測定器の電圧入力方式には、抵抗分圧方式、VT(変圧器)方式などがあり、電流入力方式には、シャント入力方式、CT(変流器)方式、DC-CT(直流変成器)方式などがあります。
VT(変圧器)方式やCT(変流器)方式は、測定対象が交流信号であり、直流成分は測定できません。半波整流波のように直流成分が含まれる波形では、VT(変圧器)方式やCT(変流器)方式は適していません。測定対象に合わせて、適切な入力形式をもつ測定器を選択する必要があります。

 

電力測定器の計器損失の影響を小さくする結線方法

電力計測を行うとき、電力測定器の電圧入力回路および電流入力回路にも電流が流れるために、電力損失が生じます。電力測定器では、仕様で計器損失(入力インピーダンス)として電力損失の影響を表しています。 電力損失の測定確度への影響は、負荷に合わせた結線をすることで小さくすることができます。 直流電源(SOURCE)、抵抗負荷(LOAD)の場合を考えます。

● 測定電流が比較的大きい場合
 
電圧測定回路を電流測定回路より負荷側に接続します。
電流測定回路は、測定回路の負荷に流れる電流ILと電圧測定回路に流れる電流IVの和を測定します。測定回路電流はILですので、IVだけ誤差になります。一般に、電力測定器の電圧測定回路の入力抵抗は、負荷抵抗に比べ大きいので、IVを小さく抑えることができます。
電力測定器の電圧測定回路の入力抵抗が約1MΩで、負荷抵抗が100Ω以下で、1000V入力の例で試算してみます。IVは約 1mA(1000V/1MΩ)になるので、負荷電流ILが10A以上であれば、測定確度への影響は0.01%以下になります。
また、100V、10A入力の場合では、IV=0.1mA(100V/1MΩ)なので、測定確度への影響は0.001%(0.1mA/10A)になります。

図3

参考までに、0.1%、0.01%、および0.001%の影響を与える電圧と電流の関係を図4に示します。

図4

● 測定電流が比較的小さい場合
 
図5電流測定回路が負荷側になるように接続します。
この場合、電圧測定回路は負荷の電圧eLと電流測定回路の電圧降下eI の和を測定し、eI だけ誤差になります。一般に、電力測定器の電流測定回路の入力抵抗は、負荷抵抗より小さいので、eI を小さく抑えることができます。
電力測定器の電流測定回路の入力抵抗が約100mΩ、負荷抵抗1kΩの例で試算すると、測定確度への影響は、約0.01%(100mΩ/1kΩ)になります。
 

おわりに

電力測定器には、指示計器、電力トランスデューサ、ディジタル電力計など動作原理の異なる多くの製品があり、電力計測におい ては、有効電力、無効電力、皮相電力、力率、電力量など、多くの計測パラメータがあります。 ディジタル電力計は、市場ニーズに応えて、待機時消費電力測定に対応したモデルや、高調波測定機能、入力波形解析機能をもったモデルなど様々な製品が販売されています。信頼性の高い電力計測を実現するためには、測定対象、測定目的に合った電力測定器を選択することが重要です。

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