波形観測の場合は、被測定対象の信号を検出し測定器まで伝送する機器を指します。
プローブを使えば正確な測定ができる、とお考えの方も多いと思いますが、プローブ性能を活かし正確な測定をするためには、実は使い方に注意が必要です。
本コンテンツではプローブの内部構成を踏まえ、使用上の注意点を明らかにしていきます。
*ミニチュアパッシブ(高密度基板用)、高温度範囲プローブ(温度試験向け)などもあります。
プローブは用途に応じて使用するため、プローブそれぞれの長所、短所を理解した適切な選択が重要です。
適切なプローブを選択するには、まず、測定対象がどのような信号かを知ることが必要です。
電圧、電流、振幅、周波数、出力インピーダンス値などをはじめに確認しましょう。
オシロスコープになぜ「プローブ」が付属されるのか?
テスタやディジタルマルチメータに付属の、単に電圧信号を導くだけの「テストリード」とは異なり、
オシロスコープには、測定上重要な役割を担う各オシロスコープ専用の「プローブ(10:1パッシブプローブ)」が用意されています。
10:1パッシブプローブを使うメリット
デメリット
パッシブプローブは、単に信号を伝送しているのではなく「測定系の一部」です。
高い周波数まで含めて信号を正確に測定するために、オシロスコープ本体と一体で設計されています。
オシロスコープの性能を完全に発揮させるためには、パッシブプローブを使用して測定する必要があります。
ケーブルが持っている、容量成分の影響により、回路動作が変わってしまっています。
場合によりますが、特に1MHz以上高い周波数の測定に支障が出ます。
ケーブルを使って測定した場合、ケーブルによる容量がつくことで回路の動作自体が変わり、
動作(波形)を正確に再現できない場合があります。
0.1MHz
10MHz
標準付属の10:1プローブは構造がシンプルなため堅牢で使いやすく、一方必要十分な性能を有しており、幅広い信号測定に安心して使用できます。
ディジタルオシロスコープに付属する10:1パッシブプローブは各モデル専用設計です。
例)DLM3000とDLM2000では付属する10:1パッシブプローブが異なります。
- DLM3000:701937(500MHz帯域)
- DLM2000:701939(500MHz帯域)/ 701938(200MHz帯域)
他機種用のプローブを接続しても壊れません。
容量調整できれば、どの組み合わせで使っても数MHzまでの周波数であれば流用可能です。
(容量調整できない場合は使用できません)
しかし、特に高い周波数領域は波形品位が悪化しますので、本来の組み合わせ以外でのご使用はお勧めできません。
プローブヘッドの9MΩとオシロスコープの1MGで1/10の分圧
プローブヘッドの10pFと「ケーブル容量50~60pF+トリマコンデンサ10~30pF+オシロスコープの入力容量20pF=90pF」で1/10の分圧
※ 数10MHzまでの周波数では、トリマーコンデンサ(容量調整)で容量比9:1に調整出来れば、調整できたプローブは、調整に使ったオシロスコープと「組み合わせて使える」と言えます。
※ 数10MHz以上では、指定外のプローブを使うと周波数特性は保証できないため、実質的には使えません。
専用プローブ以外で高速な信号を測定した場合には下図のように測定結果が変化してしまいます。
専用プローブで測定
専用ではないプローブで測定
比較すると、オーバーシュートのピークの大きさやアンダーシュートの様子が若干違っています。
下の画面波形は、時間軸設定を変えて波形全体を大きく見たものです。
高周波成分が見えない領域であれば、どのプローブを使っても違いはありません。
Q 10:1パッシブプローブで高速な立ち上がり波形を観測した場合、かなり大きなオーバーシュートとリンギングが観測されることがあります。
これは正しい波形なのでしょうか?
A 正しい波形です。
しかし、波形に影響がある(オーバーシュートとリンギングが発生する)原因は、プローブの「接続方法」による可能性があります。
プローブの接続時のグランドリードのインダクタンスによる共振によって、波形に影響を与えます。(オーバーシュートやリンギングが起きます)
図:測定する回路にプローブをつけた状態 |
プローブの入力抵抗・入力容量だけでなく、インダクタンスが付加されます。 |
図:プローブの等価回路 |
LC共振回路を形成し、高速信号の立ち上がり波形観測に影響を与えます。 |
オーバーシュートとリンギング防止対策の一つとして付属のスプリンググランド(アースアタッチメント)を使用する方法があります。
下記比較したように、測定方法によって結果が違ってきます。
グランドリードのインダクタンスと入力容量で、かなり大きなオーバーシュートとリンギングが観測されています。
グランドをバネで測定点の近くにとることによって、リンギング、オーバーシュートも少なく、きれいに波形を再現できるようになります。
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DLM3000と標準プローブ701937を組み合わせたときの帯域が500MHzなので、グランドリードを使用したときは性能を十分に活かすことができません。
波形観測をするときは、スプリンググランドの使用をお勧めします。
信号が高速で、10:1パッシブプローブ+スプリンググランドでも厳しい場合にはアクティブプローブ(FETプローブ)を使用します。
アクティブプローブ(FETプローブ)の構成
グランドリード
オーバーシュート大、リンギング大
スプリンググランド
オーバーシュート小、リンギング小
ソルダインアダプタ
オーバーシュート小、リンギング小
スプリンググランドとソルダインアダプタの波形を比べると、ソルダインアダプタの方が立ち上がり直後の部分が若干盛り上がった形状に見えます。
これはソルダインアダプタの方が、高周波のゲインが若干高いためです。
グランドリード
オーバーシュート大、リンギング小
スプリンググランド
オーバーシュート小、リンギング小
ソルダインアダプタ
オーバーシュート小、リンギング小
グランドリードを使ったときにリンギングが見えなくなるのは、共振が起き、共振周波数より高い周波数ではゲインが減少するため帯域が他の測定方法と比較して狭くなっているためと考えられます。
ソルダインアダプタでは、スプリンググラントと比較して高周波領域のゲインが若干大きいため、オーバーシュートとリンギングが少し大きく現れます。
プローブを回路に接続することで測定対象に与える影響を負荷効果といいます。
負荷効果が大きいと、正しい波形観測ができない場合があります。
負荷効果(プローブに流れ込む電流)を小さくするには、
測定系の入力インピーダンス(入力抵抗)は大きい方が良く、入力容量は小さい方が良いです。
Probe |
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Input R |
10 MΩ |
2.2 MΩ |
500Ω |
Input C(pF) |
14pF |
1.8pF |
0.25pF |
レジスティブプローブは低容量のプローブなので、広い帯域にわたって同じインピーダンスを確保できます。
プローブを回路に接続すると、信号源インピーダンスとプローブの入力容量でローパスフィルタが形成され、プローブの入力端で信号が減衰することがあります。
50Ω系回路の例
等価回路
Probe |
pF |
MHz |
---|---|---|
Passive |
Cin=14pF |
fc≒450MHz |
FET |
Cin=2.2pF |
fc≒2.5GHz |
Resistive |
Cin=0.25pF |
fc≒25GHz |
プローブ容量による帯域制限は、信号源インピーダンスに依存するため、 |
一般的オシロスコープは各入力チャネルBNC端子の外側(シェル)と筐体(シャシー)が電気的に共通であり、電源ケーブルのアース端子ともつながった構造になっています。
したがって、オシロスコープのBNC端子に一般のパッシブプローブを接続している状態では、プローブのグランドリード側は、
各入力チャネルBNC外側、筐体(シャシー)、電源アース端子(---接地電位)と電気的につながります。
このような入力形式はシングルエンド入力と呼ばれます。
シングルエンド入力では、片線接地信号(対地信号)以外は測定できません。
オシロスコープはシングルエンド入力なので接地基準以外の信号は測定できません。
片線接地信号(対地信号)
⇒シングルエンド測定可能
(ただし、極性がはっきりしていることが条件)
非接地の2点間の信号
⇒シングルエンド測定不可
もしも誤った接続をしてしまうと、信号源の-側からプローブのグランドリード、
本体シャシーを介しアースに対して大きな電流が流れ、以下のような現象を引き起こしてしまいます。
非接地の2点間の信号
非接地信号を測定する場合に「オシロスコープの接地を取らずに浮かせる」ことは誤った対策です。
オシロスコープの故障の原因になりますし、感電などによって作業者が重大な怪我をするおそれがありますので絶対におやめください。
オシロスコープの接地を取らずに浮かせる必要があるときは、「差動プローブ」を使います。
標準付属の10:1パッシブプローブの代わりに、「差動プローブ」を組み合わせることで、
シングルエンド入力のオシロスコープによる非接地の2点間の測定を安全に行うことが可能になります。
横河製品(例) |
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*小振幅信号測定用で、より広帯域の差動プローブもご用意しています。
差動プローブは+/-入力間の差電圧を増幅する
差動プローブは同相電圧を相殺する
項目 | 仕様 | |
周波数帯域*1*2 | DC ~ 150 MHz (–3 dB)*6 延長リード使用時(Typical*3):DC ~ 100 MHz (–3 dB)*7 |
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入力形式 | 平衡差動入力 | |
減衰比 | 50:1、500:1 切り替え | |
入力抵抗/ 容量(Typical*3) | 4 MΩ +5 pF( 接地に対して) | |
① | 差動入力電圧範囲 (+/– 端子間) |
50:1 のとき、± 140 V(DC+ACpeak) 500:1 のとき、± 1400 V(DC+ACpeak) |
② | 同相入力電圧範囲 | ± 1400 V(DC+ACpeak) または1000 Vrms |
③ | 最大入力電圧( 対グランド間)*4 | ± 1400 V(DC+ACpeak) または1000 Vrms |
CMRR (Typical*3)*1 | –80 dB (60 Hz)、–50 dB (1 MHz) | |
出力電圧範囲*1 | ± 2.8 V(DC+ACpeak) 入力抵抗50 kΩ以上のオシロスコープとの組み合わせにおいて |
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出力インピーダンス | 1 MΩ入力システムのオシロスコープで使用 | |
ノイズ( 入力換算、Typical*3) | 50:1 のとき、50 mVrms 500:1 のとき、300 mVrms |
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伝搬遅延(Typical*3) | 50:1 のとき、13 ns 500:1 のとき、12 ns |
|
直流ゲイン確度*1 *5 | 同相入力電圧が± 400 V 以内のとき、± 2% 同相入力電圧が± 1000 V 以内のとき、± 3% |
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定格電源電圧 | ±(12.3 V ± 0.3)V 専用プローブインタフェースから供給 |
|
消費電流(Typical*3) | typ30 mA | |
*1 周囲温度23 ℃± 5 ℃、湿度55%± 10% RH、電源投入後30 分 *2 オシロスコープと組み合わせたときの周波数帯域です。 *3 Typical 項目の仕様は、代表的または平均的な値です。厳密に保証するものではありません。 *4 周波数に対するディレーティング(軽減)が適用されます。 |
周波数に対する入力電圧のディレーティング
Current Transformers | Hall Sensors | Flux gate Sensors | Closed loop(zero flux) | |
---|---|---|---|---|
概要 | 1次電流を巻線比に応じた2次電流に変換するトランスの原理に基づく方法。 例)巻線が100ターンなら、出力は1次電流の1/100 |
ホール効果を利用したセンサ。磁気コアギャップ内にホールセンサを配置し、被測定電流によって発生した磁束を磁気コアで集磁し、ホールセンサで検出する方式。 | 被測定電流によって発生する磁束によるインダクタンス変化を検出することで電流を検出する方式。 フラックスゲートセンサをホールセンサの代わりに磁気コアギャップ内に配置する。 |
磁気コア内の磁束がゼロになるように帰還をかける方式。被測定電流が作る磁束を打ち消す電流が2次側に発生している。 カレントトランスとホールセンサ、又はフラックスゲートとの組み合わせ方式。 |
特長 | ・安価 ・AC電流のみ測定可能 |
・DC/AC電流測定可能 ・温度ドリフトは小さくない |
・DC/AC電流測定可能 ・高感度 ・サイズが比較的大きい |
・高精度 ・消費電流大 |
弊社採用 | 電流プローブ | CTシリーズ | CTシリーズ 電流プローブ |
DC/AC電流プローブ(クランプ)の原理
周波数帯域:DC~100MHz(機種による)
ホール素子・磁気センサ
*注意点
常に定格電流を入れられるわけではありません。
直流から低周波では、定格電流を入れても問題はありませんが、ある周波数以上になると、入れてもいい電流は次第に下がっていきます。
そのまま使い続けると、煙がでたり、電流プローブの場合、熱が発生して溶けることがあります。
第一部 プローブを安全に使用するために、プローブ技術(基礎知識編)
炭素排出量削減に貢献
いま世界は急速な変化にさらされており、エネルギー問題もその一つです。たとえば、自動車などの移動手段は、炭素排出量の削減のため今後より一層化石燃料からの脱却が進み、再生可能エネルギーにシフトしていきます。
よりクリーンでより環境に優しい世界へ。YOKOGAWAは持続可能なエネルギー供給の実現に向けて、高精度計測で貢献しています。
信号の周波数やレベルに対応した電圧プローブや電流プローブ、広い温度環境で使用可能なプローブなど、多様化する今日の測定対象を幅広くカバーする豊富なオシロスコープ用アクセサリ群をご用意しており、正確な波形測定をサポートします。
オシロスコープは、高速な電気信号を波形として表示するエレクトロニクス技術者必須の測定器です。
ユニークな縦型コンパクトモデルや多チャネルモデルのオシロスコープに加え、オシロスコープとデータロガーの機能を兼ね備えたスコープコーダなど、特長ある製品ラインアップをご用意しています。
また、様々な測定に対応する電圧プローブ、電流プローブ、ロジックプローブを取りそろえ、数々の先進機能を搭載し、日々の測定業務を強力に支援します。
電圧、絶縁電圧、電流、ディジタル信号、エンコーダ出力、車載ネットワーク通信、ひずみや温度など、幅広い測定対象をカバーするスコープコーダ用アクセサリを豊富にご用意しております。
高速信号の観測に最適なアクティブプローブ、各種パッシブプローブ、パワーエレクトロニ クスでのフローティング信号に適した高電圧差動プローブ、高速から大電流まで対応する 電流プローブなど、幅広い測定用途をカバーする豊富な製品ラインナップをご用意しています。
電圧プローブを使用して、オシロスコープと被測定回路を接続し、電圧を正確に表示、測定します。様々な測定対象に対応するため、高圧プローブ、絶縁型BNC用プローブ、高電圧差動プローブ、高速差動プローブや広温度環境用、高速信号用などのプローブをご用意しております。
オシロスコープで電流を測定するためには、電流を電圧に変換する電流プローブが必要になります。大電流用、微小電流用に加え、高速電流用と幅広いラインアップで取り揃え、様々な電流波形測定に対応しています。