第2回 単相電力計での実測【電力計構造解説/ 結線/ 設定/ 配線】

目次

第1回 単相電力計と電力基礎知識【電力とは/ 単相、三相/ 基本用語】

第2回 単相電力計での実測【電力計構造解説/ 結線/ 設定/ 配線】

第3回 電力測定応用編【待機電力測定/ D/A出力/ ノイズ対策】

 

単相電力計WT310Eの構造

WT310Eのブロック図

現在、横河計測の電力測定器には、機器や装置の安定した状態の電力を正確に測定するWTで始まる形名のパワーアナライザ/パワーメーターと、瞬時的に変化する電力を測定するPXで始まる形名のプレシジョンパワースコープがある。
WT310EはWTシリーズの最もベーシックな単相電力計という位置付けにある。WT310Eのブロック図は下図の通りとなる。

図27.単相電力計WT310Eのブロック図

図27.単相電力計WT310Eのブロック図

 

WT310Eでは電圧と電流の波形をA/D変換器で取り込んでFPGAの中に組込まれた演算回路で電圧、電流、電力を求めるようになっている。
ノイズを含む波形の場合は500Hzローパスフィルターを挿入して安定した測定ができるようになっている。
ゼロクロス検出器は電圧や電流の波形からサンプリングする1周期の区間を決めたり、周波数を測定したりするために使われる。
ピーク検出器はオートレンジ設定時に電圧信号および電流信号のピーク値を超えているかを検出する回路となっている。

 

WT310Eの基本仕様

WT310Eは1995年に発売されたWT110からデザインと操作性を継承している。但し測定確度や周波数帯域などの性能は世代が進むに従って向上している。
また電力計をPCと組み合わせて使うことが多くなってきたので、さまざまな通信インタフェースにも対応できるように進化してきた。
下表にWT110からWT310Eまでの基本仕様の比較を示す。

表5.単相小型電力計の履歴と仕様比較

  WT100
WT100
WT200
WT200
WT300
WT300
WT300E
WT300E
発売年 1995年 2002年 2012年 2015年
入力レンジ 電圧 15/ 30/ 60/ 150/ 300/ 600 V
電流 0.5/ 1/ 2/ 5/
10/ 20 A
5 m/ 10 m/ 20 m/ 50 m/ 100 m/
200 m/ 0.5/ 1/ 2/ 5/ 10/ 20 A
基本確度 電圧/電流 0.15%+0.1% 0.1%+0.1% 0.1%+0.05%
電力 0.2%+0.1% 0.1%+0.1% 0.1%+0.05%
周波数帯域 DC, 10 Hz ~ 50 kHz DC, 0.5 Hz ~ 100 kHz DC, 0.1 Hz ~ 100 kHz
クレストファクター 3 3 および 6A 3, 6 および 6A
表示更新周期 250 ms(固定) 100 m/ 250 m/ 500 m/1 /2 /5 s 100 m/ 250 m/ 500 m/ 1/ 2/ 5/ 10/ 20 s
およびAuto
積算時間 1,000時間 10,000時間
通信
インタフェース
USB × 
GPIB ○(オプション)
RS-232 ○(オプション) ○(オプション)
Ethernet ×  ○(オプション)

(注)WT200とWT210/WT230は仕様が若干異なる。詳細は各仕様を確認して欲しい。

 

WT310Eの前面パネルと背面パネル

単相電力計WT310Eはコンパクトな筐体にキースイッチ、入力端子やコネクタ、LED表示器が取り付けられている。
基本機能はパネルから容易に操作できるようになっているが、高度な機能はメニューから設定するようになっている。
本体からの操作は煩雑になるが、WT310Eでは高度な機能は無料PCソフト「WTViewerFreePlus」によって容易に使える環境を用意している。
WT310Eの前面パネルと背面パネルは下図の通りである。

図28.WT310Eの前面パネルと背面パネル_左

図28.WT310Eの前面パネルと背面パネル_右

図28.WT310Eの前面パネルと背面パネル

 

WT310Eの背面に記載された注意事項

WT310Eの背面パネルには電圧と電流を測るための入力端子と通信制御を行うための端子が取り付けられている。
電圧と電流を測定する端子の周りには下図に示すような注意を喚起する記述があるので配線を接続する前に確認しておくことが必要である。

図29.WT310Eの背面パネルの入力端子に示された注意事項

図29.WT310Eの背面パネルの入力端子に示された注意事項

 

【測定カテゴリについての解説】
ディジタルマルチメーターなど商用電源の状態を測定するための測定器には測定カテゴリの表示がされている。測定カテゴリは配電された商用電源を安全に測れる範囲を示すものである。

測定カテゴリ 説  明 備  考
0
(None、Other)
主電源に直接接続しないその他の回路 主電源から供給されない
その他の回路
CAT Ⅱ 低電圧設備に直接接続された回路上で実施する測定のためのもの 家電機器、携帯工具など
CAT Ⅲ 建造物設備内で実施する測定のためのもの 配電盤、回路遮断器など
CAT Ⅳ 低電圧設備への供給源で実施する測定のためのもの 架空線、ケーブル系統など
図30.測定カテゴリの分類

図30.測定カテゴリの分類

測定カテゴリの解説はJIS規格のJIS C1010-2-30の附属書AAに記載されている。

 

単相電力を測定するための結線

測定対象との直接結線

一般的な家電機器や事務機器などの電気機器の消費電力などを測定する場合は電圧端子と電流端子に配線する。
その結線には下図に示すように4つの方法がある。厳密な測定ではない場合はいずれを選んでも大きな差は生じない。

図31.単相交流の電力を測定するための4つの結線

図31.単相交流の電力を測定するための4つの結線

 

理想的には電流端子の入力抵抗はゼロとなり、測定電流による電流端子間に電圧は発生しない。
また電圧端子の入力抵抗は無限大となり、印加される電圧によって電圧測定端子間に電流は流れない。
WT310Eではクレストファクター3(初期状態)の時、0.5Aレンジから20Aレンジ設定時はシャント抵抗の入力抵抗は「約6mΩ+10mΩ(max)」となり、5mAレンジから200mAレンジ設定時は「約500mΩ」となっているため、測定電流による電圧降下が生じる。
WT310Eの電圧端子の入力抵抗は約2MΩのため電圧端子間に印加された電圧によって電流は流れる。
実際の測定では下図に示すように測定電流が流れることによって電流端子間に電圧が発生し測定電圧に加算される。
また電圧端子間を流れる電流が発生し測定電流に加算される。
このため精密な測定をする場合は測定電流が小さい場合と測定電流が大きい場合では結線を変える必要がある。

電圧入力端子の入力抵抗を流れる
電流が電流測定に影響する場合

電流が電流測定に影響する場合

電流入力端子の入力抵抗を流れる
電流が電圧測定に影響する場合

電流が電圧測定に影響する場合

図32.入力の電力損失による電力測定への影響

 

通常の場合の実測

60W白熱電球と同じ明るさのLED電球の有効電力と力率を測定してみる。この場合は電圧端子と電流端子の入力抵抗による影響を考慮しなくてよい。
正確な消費電力を測定する場合は波形品位がよく、安定した交流電源が必要となるので、今回の実測ではエヌエフ回路設計ブロックの交流電源装置EC1000SAを利用した。

60Wの白熱電球の消費電力測定

60Wの白熱電球の消費電力測定

LED電球の消費電力測定

LED電球の消費電力測定

図33.60W白熱球とLED電球の有効電力と力率の測定

 

実際の測定は下図のように行った。
60Wの白熱電球に対して同じ明るさのLED電球のほうが有効電力は少ないことが判る。
またLED電球はコンデンサインプット型整流回路を内部に持つため抵抗負荷の白熱電球に比べて力率は悪くなっていることも判る。

白熱電球の消費電力測定

LED電球の消費電力測定

図34.60W白熱電球とLED電球の有効電力測定

 

測定電流が小さい場合の実測

家電機器や情報機器は利用していないときも、短時間で再起動ができるように待機モードが設定されている。
待機モードの時の消費電力は極めて小さくなるようになっている。そのほかにも消費電力が極めて小さい電子機器やLED照明もある。
消費電力の少ない機器を測定する場合は接続の違いによって、測定結果に多少の違いが生じるので注意が必要となる。
今回は0.2Wのナツメ球の電力測定を下図に示した2つの結線で実測した結果を示す。

測定電流が大きい場合の結線

測定電流が大きい場合の結線

測定電流が小さい場合の結線

測定電流が小さい場合の結線

図35.異なる結線での0.2W LEDナツメ球の消費電力測定の構成

 

LEDナツメ球は消費電流が10mA程度であるため、電圧端子間を流れる電流が加わると誤差要因になる。
下図の実測結果に示すように電圧端子の接続位置を電流入力端子の前後で変えると、差が生じている。
また、LEDナツメ球の場合は力率改善の対策が取られていないため、大きなLEDランプに比べて力率は悪くなっていることが判る。

電圧端子の
入力抵抗の
影響を含む結線
(非推奨の結線)

電圧端子の入力抵抗の影響を含む結線(非推奨の結線)

電圧端子の
入力抵抗の
影響を含まない結線
(推奨の結線)

電圧端子の入力抵抗の影響を含まない結線(推奨の結線)
  非推奨 推奨
印加電圧 100.00 V 100.00 V
消費電流(実効値) 9.997 mA 9.987 mA
消費有効電力 0.1701 W 0.1652 W
力率 0.1702 0.1654

図36.LEDナツメ球の電力測定での結線の違い

 

測定電流が大きい場合の実測

住宅やオフィスで使われるコンセントからは最大15Aまでしか電流を流すことができないので、結線による誤差を気にするようなことは少ない。
今回はヘアドライヤーを2台使って実測を行った。交流電源装置はエヌエフ回路設計ブロックのDP030Sを利用した。

測定電流が大きい場合の結線

測定電流が大きい場合の結線

測定電流が小さい場合の結線

測定電流が小さい場合の結線

図37.異なる結線でのヘアドライヤー2台の消費電力測定

 

2台のヘアドライヤーを動作させた時の消費電流は17A程度となるため、電流端子間を流れる電流の影響が結線によって多少生じる。
下図の実測結果に示すように電圧端子の接続位置を電流入力端子の前後で変えると、差が生じている。
WT310Eでは大きな測定結果の差は生じないが、精密な測定が求められた場合は電流端子の影響を受けない結線をする必要がある。

電流端子の入力抵抗の
影響を含む結線
(非推奨の結線)

非推奨の結線

電流端子の入力抵抗の
影響を含まない結線
(推奨の結線)

推奨の結線

  非推奨 推奨
印加電圧 96.43 V 96.07 V
消費電流(実効値) 17.110 A 17.099 A
消費有効電力 1.6499 kW 1.6428 kW
力率 1.0000 1.0000

図38.ヘアドライヤー(2台)の消費電力測定での結線の違いによる差異

 

電流端子の浮遊容量の影響を少なくする結線

シャント抵抗によって構成された電流センサーは絶縁回路となっており、ケースとは直流的には接続されていないが、WT310Eでは約40pFの浮遊容量を介して交流的には接続されている。
このため電流端子の結線によっては高周波領域で誤差要因となる。
一般的な消費電流測定では影響はあまりない。

浮遊容量が影響を受けやすい結線

浮遊容量が影響を受けやすい結線

浮遊容量が影響を受けにくい結線

浮遊容量が影響を受けにくい結線

図39.浮遊容量の影響を少なくする結線

 

外部シャント抵抗を用いた時の結線

WT310Eの電流レンジを超える電流測定をする場合は外部に電流センサーを用いて測定することになる。
シャント抵抗(分流器)は古くから大電流測定をする場合に利用される。
精密なシャント抵抗は過去に横河計測でも販売していたが、現在は東京精電が製造販売を継承している。

表6.横河計測が販売していた主なシャント抵抗と現在販売する東京精電製品の対応表

横河計測(株)が過去に販売していた製品 東京精電(株)が販売している代替製品
形名 定格
電流
許容差 定格
電圧降下
形名 定格
電流
確度 電圧降下
2215 08 15 A ±0.2% 50 mV TS25-15 15 A 0.2% 50 mV
09 20 A TS25-20 20 A
10 30 A TS25-30 30 A
11 50 A TS25-50 50 A
12 75 A TS25-75 75 A
13 100 A TS25-100 100 A
14 150 A TS25-150 150 A
14 200 A TS25-200 200 A
16 300 A TS25-300 300 A
2216 01 500 A TS25-500 500 A
02 750 A TS25-750 750 A
03 1000 A TS25-1000 1000 A
2217 01 1500 A TS25-1500 1500 A
02 2000 A TS25-2000 2000 A
03 3000 A TS25-3000 3000 A
04 5000 A TS25-5000 5000 A

 

シャント抵抗はもともと直流電流を測定するためのセンサーであるため周波数帯域は広くないが、商用周波数帯域でも利用はできる。
なお、最近はSiCやGaNを使ったインバータを評価するための高い周波数帯域まで特性を保証した同軸シャント抵抗が販売されている。
WT310Eにシャント抵抗器を接続する場合は下図の通りとなる。

図40.シャント抵抗を用いた電流検出とWT310Eへの接続

図40.シャント抵抗を用いた電流検出とWT310Eへの接続

 

【シャント抵抗の周波数特性を知りたい方へ】
シャント抵抗は棒状の抵抗を有する金属によって作られている。群馬大学の以下のホームページに遠坂俊昭氏によるシャント抵抗の周波数特性をエヌエフ回路設計ブロックのFRA(周波数特性分析器:Frequency Response Analyzer)を用いて測定する方法と測定結果を掲載している。シャント抵抗の周波数特性を知る必要がある場合は参考になる。

群馬大学「高度人材養成のための社会人学び直し大学院プログラム」
グリーン・ヘルスケアエレクトロニクスを支えるエグゼクティブエンジニア養成プログラム
アナログお役立ち実験室
第1回 インピーダンス測定
https://yumilab.ei.st.gunma-u.ac.jp/AnalogKnowledge/Laboratory/Chapter001/index.html

 

電圧出力型ACクランプオンプローブを用いた電流検出

横河計測には電圧出力型の40Hz~3.5kHzまでの50Armsと200Armsの2種類の外部電流センサーがある。
簡易的な測定を行う際には便利に使える外部電流センサーである。
WT310Eとは下図に示すような接続を行う。

図41.電圧出力型ACクランプオンプローブのWT310Eへの接続

図41.電圧出力型ACクランプオンプローブのWT310Eへの接続

 

電流出力型ACクランプオンプローブを用いた電流検出

横河計測には電流出力型の30Hz~5kHzまでの1000Armsの外部電流センサーがある。
簡易的な測定を行う際には便利に使える外部電流センサーである。
電流出力であるため、WT310Eの電流端子に接続を行う。
WT310Eとは下図に示すような接続を行う。
センサーからWT310Eまで接続するケーブルは外部からのノイズの影響を避けるために2本の電線を撚り合わせて使うことが望ましい。

図42.電流出力型ACクランプオンプローブのWT310Eへの接続

図42.電流出力型ACクランプオンプローブのWT310Eへの接続

 

ゼロ・フラックス型AC/DC電流センサーを用いた電流検出

横河計測では広帯域なゼロ・フラックス型AC/DC電流センサーを電力測定用として販売している。
自動車駆動用のインバータなど大電流を測定する場合に使われる。
このセンサーを利用する場合は外部に電源装置を用意する必要がある。
WT310Eとの接続は下図のようになる。負荷抵抗値は電流センサーの種類によって異なるのでセンサーの仕様を確認する必要がある。

図43.ゼロ・フラックス型AC/DC電流センサーのWT310Eへの接続

図43.ゼロ・フラックス型AC/DC電流センサーのWT310Eへの接続

 

ゼロ・フラックス型AC/DC電流センサーは広帯域まで測定できる特長はあるが、下図に示すように周波数が高くなると利用できる電流範囲は狭くなる。
高い周波数で許容上限を超える電流を測定すると電流センサーが過熱して破損するリスクがあるので注意が必要となる。

図44.ゼロ・フラックス型AC/DC 電流センサーの周波数によるディレーティング

CT200

CT200
電流:200 Apeak
基本確度:±(0.05% of reading + 30 μA)
測定帯域:DC 〜 500 kHz

 

CT1000

CT1000
電流:1000 Apeak
基本確度:±(0.05% of reading + 30 μA)
測定帯域:DC 〜 300 kHz

 

図44.ゼロ・フラックス型AC/DC 電流センサーの周波数によるディレーティング

 

CT/VTと組み合わせた結線

電力制御盤などではCT(Current Transformer、変流器)やVT(Voltage Transformer、計器用変圧器)が組み込まれている場合がある。
市販されている標準用及び一般計測用のCTはJIS C1731-1、VTはJIS C1731-2に従って作られている。
また、横河計測では2019年末まで精密計測用、計器校正用に下表のCTやVTを販売していた。
現在は東京精電が同じ仕様のCTやVTの販売を継承している。

表7.計器用精密変成器

計器用精密用変流器

横河計測(株)が過去に販売していた製品 東京精電(株)が販売している代替製品
形名 階級 1次側
電流
2次側
電流
定格
負担
最高回路
電圧
形名 階級 1次側
電流
2次側
電流
定格
負担
最高回路
電圧
2241 0.2 10/ 15/ 30/ 50/ 100/ 250/ 300/ 500/ 750/ 1500 A 5 A 15 VA 3450 V CTL
2-1
0.1 10/ 15/ 30/ 50/ 100/ 250/ 300/ 500/ 750/ 1500 A 5 A 15 VA 3450 V
0.2
2242 0.2 10/ 15/ 30/ 50/ 100/ 250/ 300/ 500/ 750/ 1500 A 5 A 15 VA 6900 V CTL
3-1
0.1 10/ 15/ 30/ 50/ 100/ 250/ 300/ 500/ 750/ 1500 A 5 A 15 VA 6900 V
0.2

計器用精密用変圧器

横河計測(株)が過去に販売していた製品 東京精電(株)が販売している代替製品
形名 階級 1次側
電圧
2次側
電圧
定格
負担
形名 階級 1次側
電流
2次側
電流
定格
負担
2261 01 0.2 220/ 440/ 2200/ 3300 V 110 V 15 VA VTL
2-1
0.1 220/ 440/ 2200/ 3300 V 110 V 15 VA
0.2

変流器CTLシリーズ

変流器CTLシリーズ

計器用変圧器VTLシリーズ

計器用変圧器VTLシリーズ

CTやVTをWT310Eに接続する場合は下図のようになる。安全のために必ず二次側の1本の配線は接地に接続して使う。

図45.CTやVTをWT310Eに接続

図45.CTやVTをWT310Eに接続

 

WT310Eの内部状態の設定

ここではWT310Eを設定する手順について説明する。
ただしWT310Eは高機能であるためすべての設定についての解説は行わず、基本的な設定のみの解説を行う。
WT310Eの操作を始める前に内部状態の初期化をするため、全面パネルのUTILITYメニューにある初期化(init)を選択したのちにYesを選択して初期化を実行する。
初期化されることによってすべての設定が工場出荷時の設定になる。工場出荷の状態は取扱説明書に記載されている。
初期化しない場合は過去の設定が本体に残っているので、確実な設定をする際には初期することが望ましい。

測定モードの設定

WT310Eには3つの測定モードが用意されている。通常は初期状態の電圧と電流の真の実効値を求めるモードで測定を行う。
PWMインバータの二次側の電圧値測定では平均値を利用する場合がある。

図46.測定モードの設定

図46.測定モードの設定

 

電圧レンジの設定

測定対象に印加される電圧範囲が判っていれば固定レンジが選択されるが、不明な場合は入力電圧に合わせて最適なレンジが決められるオートレンジでの設定になる。
固定レンジを設定した場合はレンジ間誤差が生じなくなる。

図47.電圧レンジの設定

図47.電圧レンジの設定

 

電流レンジの設定

電流入力は直接入力と外部センサーを使う場合がある。
直接入力では測定対象に流れる電流の範囲が判っている場合は固定レンジ、判らない場合はオートレンジが使われる。
省エネのために待機モードを持った機器や装置の場合、運転時は大きな電流が流れて、待機時には小さな電流しか流れないのでオートレンジを使って測定する場合がある。
外部センサーを利用する場合はスケーリングが必要となるので、取扱説明書に従って設定を行う必要がある。

図48.電流レンジの設定

図48.電流レンジの設定

 

その他の設定

WT310Eで電力を測定する場合は電圧レンジと電流レンジを設定すれば多くの場合は問題なく電力の測定ができる。
測定する電圧や電流の信号にノイズが重畳しているような場合は入力フィルターの設定を行うと安定した測定が可能となる。
入力フィルターには2種類用意されており、測定信号の帯域を500Hzまでに制限するラインフィルターと測定区間を検出するための周波数フィルターによる帯域制限がある。
ラインフィルターは測定結果に影響するので注意が必要となる。

図49.入力フィルターの設定

図49.入力フィルターの設定

 

入力される電圧や電流の信号が安定しない場合はアベレージングが設定される。
アベレージングのタイプには指数化平均と移動平均が用意されている。
アベレージングの設定によって測定結果に影響があるので注意が必要である。

図50.アベレージングの設定

図50.アベレージングの設定

 

積算電力の設定

WT310Eを使って機器や装置が駆動している時間の積算電力(=電力量)を測定する場合の設定を下図に示す。
積算電力は主に機器や装置が消費したエネルギー量を測るために用いられる。

図51.積算電力測定の設定

図51.積算電力測定の設定

 

WT310Eには、マニュアル、標準、連続の3つの積算があり、用途に応じて使い分ける。

表8.WT310Eの積算モード

積算モード スタート ストップ 繰り返し動作
マニュアル キー操作 キー操作
標準 キー操作 タイマー時間でストップ
連続(繰り返し) キー操作 キー操作 タイマー時間で繰り返し

WT310Eの測定結果表示

WT310Eでの電力測定では、測定結果は本体のパネルにある7セグメントLED表示器に数値として示される。
もっともよく使われるのが電圧値、電流値、有効電力値、力率となり、初期化時の設定となっている。
そのほかの測定値を表示する場合は表示設定を変更する必要がある。

表9.測定結果の表示(高調波測定時を除く)

  ディスプレイ
A
ディスプレイ
B
ディスプレイ
C
ディスプレイ
D
電圧 〇(初期化時)
電流 〇(初期化時)
有効電力 〇(初期化時)
皮相電力      
無効電力      
力率     〇(初期化時)
位相角      
電圧の周波数      
電流の周波数      
電圧のピーク値      
電流のピーク値      
電力のピーク値      
積算値      
積算時間      
積算電力      
積算電流      

高調波測定時の設定(オプション)

WT310Eには取り込んだ電圧波形、電流波形と演算によって得た電力の50次までの高調波解析や電圧波形と電流波形のひずみ率の測定を行う機能が通常の測定モード以外にオプションとしてある。
グラフィック画面を持ったパワーアナライザではすべての次数の高調波をグラフ表示させることができるが、数字表示しかないWT310Eでは次数を設定してレベルを数値で見ることになる。
高調波測定を行うための設定は下図の通りとなる。

図52.高調波測定時の設定

図52.高調波測定時の設定

 

高調波解析やひずみ率測定をした結果は本体の7セグメントLEDに数値として表示される。表示する測定項目は予め設定しておく。
高調波解析をWT310Eだけで行うのは操作性が悪いので、無料のPCソフトウェア「WTViewerFreePlus」と組み合わせて使うことが望ましい。

表10.高調波解析の結果表示

  ディスプレイ
A
ディスプレイ
B
ディスプレイ
C
ディスプレイ
D
1~50次成分までの全実効値電圧  
1~50次成分までの全実効値電流  
1~50次成分までの全実効値電力  
指定した次数の電圧実効値      
指定した次数の電流実効値      
指定した次数の有効電力実効値      
指定した次数の電圧の含有率      
指定した次数の電流の含有率      
指定した次数の有効電力の含有率      
1次の電圧に対する指定した次数の電圧位相角      
1次の電流に対する指定した次数の電流位相角      
基本波(1次波)の力率      
電圧の周波数      
電流の周波数      
電圧のひずみ率      
電流のひずみ率      

 

WT310Eとの配線

一般的な注意事項

パワーエレクトロニクスでは高電圧や大電流を取り扱うことがあるので、測定器に接続する配線には注意が必要となる。
電力計を使って消費電力を正確に測定する場合は交流電源装置との組合せが多いので、下図には交流電源装置と組み合わせた場合の一般的な注意点を示す。
端子台を使う場合は配線材が確実に端子台に取り付くように圧着端子を用いるのがよい。

図53.電力測定での一般的な注意点

図53.電力測定での一般的な注意点

 

大型の装置などでは交流電源装置からの配線はある程度の距離になることがあるので、配線材の抵抗による電圧降下を考慮する必要がある。
例えば交流電源装置と負荷の間の電圧降下を0.5V以内に収めるには下図に示すグラフから配線材の太さを決める。

図54.JIS C3307規格「より線IVケーブル」での電圧降下が0.5Vに収まるケーブル長

出典:ケーブルの特性例(エヌエフ回路設計ブロックのホームページ)

図54.JIS C3307規格「より線IVケーブル」での電圧降下が0.5Vに収まるケーブル長

 

高い周波数での注意点

IH調理器、誘導加熱炉、非接触給電装置では商用周波数より高い周波数の1kHz以上の周波数を利用する。
例えば下図にはIH調理器での加熱コイルに流れる交流電流測定の事例を示す。

図55.IH調理器の過熱コイル駆動電流測定

図55.IH調理器の過熱コイル駆動電流測定

 

周波数の高い交流を配線によって伝送する場合は導線内で生じる表皮効果と導線間で生じる近接効果によって交流抵抗が高くなる。
下図には細い絶縁被膜に覆われた導線(エナメル線)を撚り合わせて作ったリッツ線と銅単線の周波数特性を示す。

図56.リッツ線の交流抵抗測定例

出典:ワイヤレス給電用コイルの最適化検討 (昭和電線レビューVol.62 2016)

図56.リッツ線の交流抵抗測定例

 

リッツ線の利用が有効となる10kHzから1MHzまでは表皮効果の影響を抑えていることが判る。
1MHz以上の場合はリッツ線での近接効果の影響が生じて、銅単線より交流抵抗が高くなっている。

電力測定に使う交流電源装置

正確な電力測定を行うには安定した交流電源が必要となる。
交流電力の測定では交流電源の知識も必要なため、交流電源装置について概要を説明する。

商用交流電源の波形

電力会社から供給される商用交流電源は理想的には周波数が関西では60Hz、関東では50Hzで、電源波形は実効値が100Vの連続した正弦波となっている。
しかし実際にコンセントで得られる交流電源は理想的な波形ではない。
コンセントからの商用交流電源と理想的な交流電源の差を示すために、下図のような項目で電源品質の評価が行われている。目的によっては下図に記されていない項目でも評価が行われる。

図57.単相交流での電源品質

図57.単相交流での電源品質

 

電源品質が規定できない交流電源を使って電力測定した場合は正確な結果を得ることができないので、電源品質が保証された交流電源装置を利用することになる。
またコンセントから得られる交流電源のラインインピーダンスは分電盤からの配線やほかに接続されている機器や装置の影響を受けるため特性を規定できないので、再現性のよい測定をするには安定した低い出力インピーダンスを持つ交流電源装置が必要となる。
計測用に作られた交流電源装置は周波数や電圧を任意に変更できるようになっているため、世界中の電源環境を作り出すことができるので、開発から生産までの現場で使われている。
高機能な交流電源装置では瞬時停電や周波数変動など異常な状態を再現性良く作り出すこともできる。

交流電源装置の種類

交流電源装置には内部がアナログ回路だけで構成されているリニア・アンプ方式とスイッチング素子を使って構成されたスイッチング方式がある。
最近はスイッチング方式が主流となっている。
それぞれの方式の比較を下表に示す。

表11.リニア方式とスイッチング方式の性能比較

 

スイッチング(インバータ)方式

プログラマブル交流電源 DPシリーズ

プログラマブル交流電源 DPシリーズ
(エヌエフ回路設計ブロック)

リニア・アンプ方式

プログラマブル交流電源 ESシリーズ

プログラマブル交流電源 ESシリーズ
(エヌエフ回路設計ブロック)

周波数帯域 狭い(DC ~ 数 kHz程度) 広い(DC ~ 数十 kHz以上も可能)
効率(製品定格) 70 ~ 80%(発熱が少ない) 50%程度(発熱が多い)
体積 小さい(放熱器が小) 大きい(放熱器が大)
質量 軽い 重い
高電圧化・大電力化 容易 難しい
ひずみ(増幅部として) デッドタイムによるひずみがある クロスオーバひずみがある
回路構成 複雑(部品点数が多い) シンプル(部品点数が少ない)

交流電源装置は測定対象に応じた出力容量の製品を選ぶ必要がある。
小型の交流電源装置に供給する商用電源は単相交流であるが、大型の交流電源装置に供給する商用電源は三相交流のみとなるので注意が必要である。
また大型の交流電源装置を設置する場合は電源装置からの廃熱や建物の床の耐荷重も考慮する必要がある。

関連業種

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