波形測定とプロービング

(THE T&M LINK(Vol.14)2004年5月20日掲載)
通信・測定器事業本部
第1開発本部PMK部
金子 春実

はじめに

波形信号を測定する代表的な測定器としてオシロスコープが挙げられます。オシロスコープを使用する場合、プローブとアクセサリを活用することで、より効果的な測定を行うことができます。
オシロスコープと被測定物のインタフェースとなるプローブには、様々な種類があります。プローブの性質を理解して、測定する対象物に合ったプローブを選択することが重要です。

<プローブの種類>
プローブの種類

プローブの種類

プローブの役割

オシロスコープで回路信号を測定する場合、測定対象の回路のポイントにプローブを接続して、信号を取り出します。通常オシロスコープに付属されている10:1パッシブプローブを中心に、プローブの役割を説明します。
プローブを使用することにより、次の効果を得ることができます。

  • 測定電圧レンジが広がる
    10:1パッシブプローブの場合、オシロスコープの測定電圧レンジを10倍に拡大できます。オシロスコープの入力抵抗が1MΩ、プローブ側には9MΩが入っていますので、この分圧比により、プローブ先端ではオシロスコープの電圧レンジの10倍で測定することができます。

  • 最大入力電圧が上がる
    オシロスコープの最大入力電圧をプローブの最大入力電圧まで上げることができます。

  • 負荷効果の影響が少なくなる
    被測定回路にオシロスコープを接続した時に、オシロスコープが負荷となってしまう場合があり、この影響を少なくするのがプローブです。小さな信号を測定する場合、10:1パッシブプローブでは不便ですが、負荷効果を軽減する点では有効です。

負荷効果

被測定回路にオシロスコープを接続した時、オシロスコープの入力インピーダンスが影響して、被測定回路の信号が変化する場合があります。これを負荷効果と呼び、この影響が大きいと正しい波形測定はできません。
負荷効果を小さくするには、オシロスコープ側の入力インピーダンスを高くする必要があります。入力抵抗が大きく、入力容量が小さいほど負荷効果は小さくなります。
プローブを使用すれば、オシロスコープ側の入力インピーダンスは、プローブで規定された入力インピーダンスになりますので、負荷効果が軽減できます。
アクティブプローブであるFETプローブの場合、入力容量が非常に小さいので、負荷効果をより小さくすることができます。

位相補正の必要性

位相補正とは、オシロスコープとプローブを組み合わせて、周波数に対して利得が一定になるように、プローブ内にある可変コンデンサの容量を調整することです(図1)。
オシロスコープの入力抵抗は1MΩですが、それに並列に入る入力容量は、機種によって異なります。
また、同じ機種でもチャネルごとに入力容量のばらつきがあります。そのため、オシロスコープとプローブの組み合わせが変わると、プローブの位相補正が必要になります。この調整が適切でないと、周波数に対して利得が一定にならず、正しい測定ができません。
オシロスコープには、位相補正用の電圧出力端子がついていますので、その出力波形を用いてプローブを調整します。
(図2)にプローブの位相補正による波形の違いを示します。
波形測定の前には、プローブが正しく調整されているかを確認することが大切です。

(図1)

10:1パッシブプローブとオシロスコープを組み合わせた等価回路

調整原理 :
10:1パッシブプローブとオシロスコープを組み合わせた等価回路

(図2)

正しい波形

正しく調整された波形

過補償の波形

過補償で、高周波数領域の利得が上がってしまっている場合

補償不足の波形

補償不足で、高周波数領域の利得が下がってしまっている場合

減衰比1:1で使用する場合の注意

小さな信号を観測する場合、10:1プローブでの減衰はさらに信号を小さくしてしまいます。プローブによっては、減衰比が切り替えられるものがあり、減衰比を1:1にするために、プローブの中の9MΩをショートさせています。そのため、10:1減衰時に比べて次のような注意が必要です。

  1. 周波数帯域が低下する
  2. 入力容量が増大し、負荷効果の影響が大きくなる
  3. 最大入力電圧がオシロスコープで規定される最大入力電圧まで下がる

高周波回路では、低周波回路に比べて負荷効果の影響は大きくなります。そのため、減衰比1:1での使用は、低周波回路の小さな信号を観測するのに適していると言えます。

グランドのとり方

高速信号を観測する場合、波形にオーバーシュートやリンギングが乗ってしまう場合があります。
アースリードの誘導成分がプローブのもつ容量成分などと共振を起こすため、プローブのアースリードは、できるだけ測定ポイントの近くに接続します。また、アースリードが長すぎると、ループ状のアンテナが形成され、放射ノイズを拾ってしまう場合があります。アースリードが影響する場合は、プローブのアクセサリとして付属しているアースアタッチメント(図3)の利用が有効です。

 

アタッチメント装着例
(図3) アースアタッチメント装着例

アースリードの誘導成分を小さくすることができ、また、ループも小さくなり、放射ノイズを拾いにくくなります(図4)。
FETプローブの場合は、入力容量が非常に小さいので、アースリードを用いた場合でもリンギングが起きにくくなります。

 

(図4)

アースリードの場合

アースリードを使用して、リンギングが乗ってしまった場合

アースアタッチメントの場合

アースアタッチメントを使用した場合

おわりに

電子機器の高速化がさらに進むにつれ、測定する信号も高速化、小振幅化しています。それに伴い、測定方法も難しくなります。
測定器やプローブに関する理解を深め、高精度な測定を心がけることが大切です。

関連業種

関連製品とソリューション

オシロスコープ

使いやすい縦型コンパクトのアナログ4ch入力「ミックスドシグナルオシロスコープDLM3000シリーズ」と大画面アナログ 8ch 入力 「ミックスドシグナルオシロスコープDLM5000 シリーズ」に、 電圧軸が12ビット高分解能化した「高分解能オシロスコープ DLM3000HDシリーズ、DLM5000HDシリーズ」がラインアップされました。

オシロスコープ|波形測定器

オシロスコープは、高速な電気信号を波形として表示するエレクトロニクス技術者必須の測定器です。
ユニークな縦型コンパクトモデルや多チャネルモデルのオシロスコープに加え、オシロスコープとデータロガーの機能を兼ね備えたスコープコーダなど、特長ある製品ラインアップをご用意しています。
また、様々な測定に対応する電圧プローブ、電流プローブ、ロジックプローブを取りそろえ、数々の先進機能を搭載し、日々の測定業務を強力に支援します。

プローブ

高速信号の観測に最適なアクティブプローブ、各種パッシブプローブ、パワーエレクトロニ クスでのフローティング信号に適した高電圧差動プローブ、高速から大電流まで対応する 電流プローブなど、幅広い測定用途をカバーする豊富な製品ラインナップをご用意しています。

 

電圧プローブ

電圧プローブを使用して、オシロスコープと被測定回路を接続し、電圧を正確に表示、測定します。様々な測定対象に対応するため、高圧プローブ、絶縁型BNC用プローブ、高電圧差動プローブ、高速差動プローブや広温度環境用、高速信号用などのプローブをご用意しております。

電流プローブ

オシロスコープで電流を測定するためには、電流を電圧に変換する電流プローブが必要になります。大電流用、微小電流用に加え、高速電流用と幅広いラインアップで取り揃え、様々な電流波形測定に対応しています。

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