電力計と電力計測の基礎

近年、家電機器や産業用機器などの電子機器回路はインバータの普及により複雑になっており、多チャネル、広帯域、高精度な測定器の要望が高まってきている。特に、地球環境問題としてCO2排出量の削減は大きなテーマとなっており、エネルギー消費の削減は非常に重要であり、それらを確認するための電力計計測の需要は増えてきている。
そこで、電力を計測する電力計、あるいは電力計測の基礎について説明する。

1.電力技術の動向

パワーエレクトロニクス分野のインバータ制御技術は家電製品、輸送機器などあらゆる分野で活用されている。また、パワー半導体など代替エネルギー分野へのインバータ技術製品も近年増えてきている。2000年以降になると、高効率化の追求が進み、省エネルギーへの関心の高まりやエナジースター、国際的な高調波規格、フリッカ規格などを背景に、さらに最適制御・効率改善・低騒音化のためにさまざまな改良が加えられてきている。

2.電力計の用途

電力計はさまざまな機器の消費電力を測定する製品であり、製品開発、評価、品質保証などの局面で広く使用されている。また、IEC61000-3-2,IEC61000-3-3などの高調波規格、フリッカ規格などにより電力系統に繋がる機器の高調波ひずみの問題などがあり、電力計での高調波測定、高調波規格試験などが重要になってきている。従って、電力計では従来の電圧、電流、電力の一般的なパラメータだけでなく、波形品位の測定を行う機能も電力計に求められている。

3.電力の基礎

電力は大きく分けると、一般家庭に普及している単相電力と、工場など産業用で使用される三相電力があり、三相電力は交流信号でかつ信号ラインが3本あるのでやや難しくなる。したがって、電力を理解するには、まずその物理的意味を把握した上で測定することが重要である。

3.1電力の基礎

一般に有効電力(以下電力)は電圧と電流の瞬時値(各々e(t)、i(t))の積である瞬時電力を積分し、1周期Tで平均したものである。

  式1

 上式において、電圧、電流が正弦波の場合には次のように表される。

   式2

ここで、Pはe(t)の実効値、Iはi(t)の実効値、φはe(t)、i(t)の位相差である。

この式は、電力を演算するために、電圧実効値と電流実効値、および電圧と電流の間の位相差φのパラメータcosΦを含んでいることを示している。このcosΦは力率である。従って、理想的なトランス、キャパシタ等の負荷の場合には力率が0に等しくなり、電圧と電流が0でない場合でも、電力が0に近い力率ゼロの状態となる。つまり、電力計としては位相の影響が重要な要素であることがわかる電圧、電流がひずみ波の場合の電力は、理想的には次のような式になる。

 式3

ここで、E0, I0は直流成分、Ek, Ik, φkはひずみ波成分(高調波成分)

この数式の意味は、任意の波形の電力が“同じ周波数成分をもつ電圧と電流でつくられる電力の総和”であることを示し、“異なる周波数成分は互いに独立しており電力とはならない”ことを意味する。従って、電力は電圧、電流のいずれか低い方の周波数帯域で制限されることがわかる。

3.2電力測定技術の変遷

従来、電力計は商用電源から供給される機器の消費電力の測定向けに指示計器が広く用いられてきた。この指示計器の原理は、コイルに流れる電流によって生じる磁束の力を利用して、電圧と電流の積を求める簡単な構造であった。1990年代、電子回路によるアナログ演算回路により電力値を求めディジタル表示するディジタル電力計が登場したが、2000年以降は、ディジタルオシロスコープの技術を応用したディジタルサンプリングにより電力値を求める製品が発売された。ディジタルサンプリング方式の電力計は、電圧実効値、電流実効値、電力(三相の場合は各相の値や三相電力)だけでなく、位相角、力率、電力積算値、電流積算値、周波数など同時に多くのパラメータを測定できる。また、規格に対応した高調波、フリッカ測定などができる機種(WT3000)などもあり、また、大型のカラー表示を採用する電力計も普及してきた。

プレシジョンパワーアナライザ WT3000

プレシジョンパワーアナライザ WT1800

ディジタルサンプリング方式の電力計
プレシジョンパワーアナライザ WT3000(左)とプレシジョンパワーアナライザ WT1800(右)

4.電力計の原理と使い方

4.1電力計の原理と内部構造

ディジタルサンプリング方式の電力計内部の演算方法は3項にて説明しているが、ディジタルサンプリング方式を採用しているため、以下のように近似できる。

 式4

サンプリング間隔Δtの瞬時電力が1周期分の区間分すべてを加算(総和)し、その周期Tで平均する。
そして、このサンプリングの間隔Δtが小さくなればなるほど演算としてはより正確になる。
電力計の内部構造は入力電圧・電流の波形が入力回路内にてディジタル値に変換される。それらのデータはDSPまたはCPUなどの演算回路にて演算を実施する。一方、旧方式であるアナログ演算式の電力計の場合には、瞬時電力の演算部分をアナログスイッチ回路により実現している。この方法は時分割掛算法と呼び、電圧(または電流)の入力レベルに比例する周期一定のパルス幅変調波形を作成し、電流(または電圧)入力波形をそのパルス波形に重畳させることで電圧波形と電流波形の積を演算している。
現実的には、利用するパルスの周期を先のディジタルサンプリング周波数と同レベルに設計して周波数応答性を確保しようとするが、この掛算回路での瞬時電力データをさらにをアナログのフィルタ回路を用いて平均化して電力値を得るために、ディジタルサンプリング方式よりも応答性が悪い。

4.2電力計の使用上の注意

測定値が正しくない場合、結線が間違っているケースが意外に多い。
従って、結線は十分注意する必要がある。

■ 単相電力
単相電力を測定するときには、電圧は負荷対して並列に、電流は直列に接続する。結線時は取扱説明書に配線例が記載されているのでこれを参考に結線すると良い。

単相電力結線図

■ 三相電力
三相3線の電力は、3台の電力計を用いて測定できるが、電力計を2台使用してその和から求めることもできる。これは2電力計法と呼ばれ、ブロンデルの定理"多相の電力は送っている電線の数がn本の時、n-1台の電力計で測定することができる"にて証明される。

三相電力結線図

特に、3つの相の電圧、電流全てを測定する必要がある場合には、三相3線の3電圧、3電流測定(2電力計法)を用いる。

結線図

三相電力測定の結線の場合、電流については相電流を測定しているが、電圧は各相の間の線間電圧を測定している。したがって、各チャネルの電力値は位相の状態により異なった値を示す場合もある。また、低力率時の評価では電圧・電流間の位相差の関係から電力値が負(マイナス)になる場合もあるが理論的には正しいので、結線ミスではないことに注意したい。 また、ベクトル表示は三相の電圧、電流の位相の状態を簡単に把握できるので便利である。

キーワード

有効電力

負荷の純抵抗分で消費される電力エネルギーで、運動・熱・光エネルギーに変換されて外部に対して仕事を行う電力値を意味する。電力の定義式に示されるように、瞬時の電圧値と電流値の積を平均して求まる。
これに対して、電圧の実効値と電流の実効値との積を皮相電力、また皮相電力と有効電力間の次式の関係からも求まる値を無効電力という。

式:無効電力

力率

入力波形が正弦波の場合、電圧・電流間の位相差をΦとしたときcosΦを力率と言う。
皮相電力に対する有効電力の比で示すこともできる。この場合は、入力されたエネルギーに対して仕事に変換されたエネルギーの比率を意味する。

力率誤差

電力計を用いて電力を求める場合、入力された電圧・電流波形間の位相差の他に、電力計側で生じる電圧・電流間の位相のズレによって起こる誤差を示す(図Aを参照)。
実際には、電圧・電流の各々の入力アナログ回路の入・出力間での位相遅れ(波形の遅れ)に起因し、その遅れの度合いが電圧・電流間各々の入力回路間でズレているために、あたかも入力の位相差が最初から大きくズレているように表示される。
位相遅れの特性は入力周波数に大きく依存するため、電力計にはより広い周波数帯域が求められる。さらに、力率の定義式からも明らかなように、入力波形での位相差が大きく90度に近い状態(力率が悪い)ほど、その影饗が大きくなる。

力率誤差

計器損失

測定器によって消費される電力値のことを意味する。
この値が小さいほど測定系に与える影響が少なく、誤差も小さくなる。一般には電圧側は入力抵抗値で表し、大きいほど望ましく、電流側は入力抵抗値またはその抵抗で消費されるVA値で表すが、小さいほど望ましい。

PT・CT比

PT(Potential Transformer)は変圧器を意味し、l次と2次の巻線比で1次電圧を2次電圧に正確にまた安全に変換する。CT(Current Transformer)は同様に変流器を意味する。
これらの変換器を用いることで.高電圧、大電流を測定し易い値に変換できる。PT比・CT比は使用される変換器のl次と2次の巻線比を示し、その値を測定器に入力することで、PT・CTを介す前の入力値への換算が自動的に計算され、直読が可能となる

クレストファクタ

波高率とも言う。実効値に対する波高値の比を示す。
電力計等の交流波形の測定器では、内部回路のダイナミックレンジを意味していて、この値が大きいほど、ひずみの大きい波形の測定が可能となる。

CMRR

Common Mode Rejection Ratio入力信号源と測定器の接地(アース)間に発生する電圧(コモンモード電圧)によって出力にあらわれる影響をどの程度除去できるかを示す数値。
一般にはdBもしくは% of rangeにて表現される。
図Bに示すように、入力信号源の一端と測定器内の増幅器のアース間にコモンモード電圧Ecmがあるとき、このコモンモード電圧により測定器の対接地インピーダンスを通じて電流が流れ、入力端子間にノーマルモードの電圧Enとなって現れる。この値が増幅され出力に誤差分に生じさせる。

CMRR

電力校正体系

400Hz以下の電力測定については、国家標準が確立していて標準電力変換器を通じてトレーサビリティが確保されている。
しかし、それ以上の測定帯域を持つ機種は国家より直接標準電力の供給が受けられないため、電圧・電流・位相の各国家標準より理論的に電力標準値を求めて校正している(図C)。

電力校正体系


※日刊工業新聞社「電子技術」誌  1995年9月号掲載より一部引用

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