高速波形測定とプロービング

(THE T&M LINK(Vol.16)2005年5月1日掲載)
通信・測定器事業部
第2開発PJTセンター
ハガ ケンイチロウ

はじめに

昨今、デジタル家電をはじめ様々な機器に組み込まれるデバイスや電子回路の高速化にともない、信号波形観測に使用されるオシロスコープやプローブも高速広帯域化しています。ところが、せっかく高速広帯域の測定器を用意しても、思ったような信号波形が観測できなかったり、観測波形の再現性が良くない、ということを時折耳にします。
測定対象の信号が高速化すると、特にプロービングにおいて、それまでは問題にならなかったような原因で正しい測定ができない場合がありますので、ここでは高速信号をプロービングする際のヒントをいくつか紹介します。

電圧プローブの種類

電圧プローブは電圧センサの一種で、測定対象の電圧や出力インピーダンス、周波数成分等に合わせて、最適なプローブを選択する必要があります。プローブにはそれぞれ一長一短があり、プローブの種類によって入力インピーダンス(抵抗値、容量値)や周波数帯域が大きく異なるため、より信頼性の高い測定をするためにそれぞれのプローブの性質を理解することが大切です。一般的な高周波回路の測定によく使用されるプローブには次の3つが挙げられます。  

パッシブプローブ

減衰比10:1のパッシブプローブは、低価格、堅牢・高耐圧、低周波での高い入力インピーダンスにより、最も広く使われています。
弊社の代表的な10:1パッシブプローブの入力インピーダンスは10MΩと約14pFの並列、入力耐圧は600Vと、直流から低周波にかけては高い入力インピーダンスを持っており、一般的な用途では使いやすいプローブです。
一方、14pFの入力容量が高周波信号測定に与える影響が問題になることがあります。

500MHz帯域パッシブプローブPB500
500MHz帯域パッシブプローブPB500(DL9000シリーズ用)

アクティブプローブ/FETプローブ

高周波信号の測定によく使われているのがアクティブプローブ/FETプローブです。
パッシブプローブと違い、プローブ先端に近いところにインピーダンス変換用のバッファアンプを置くことで、パッシブプローブよりも高い周波数帯域と、一桁小さい1pF前後の入力容量を実現しています。電源供給が必要で、耐電圧がパッシブプローブよりも低いため取り扱いには若干注意が必要ですが、信頼性・再現性の高い高周波信号波形の測定には大きな効果があります。

2.5GHz帯域アクティブプローブPBA2500
2.5GHz帯域アクティブプローブPBA2500(DL9000シリーズ用)

低容量プローブ(500Ω抵抗プローブ)

あまり馴染みがないかもしれませんが、50Ω系入力の測定器には比較的古くから使われてきたプローブです。
プローブヘッドに内蔵されている高周波特性を考慮した特殊な450Ωの抵抗体で50Ω系同軸ケーブルを駆動しますが、入力容量が非常に小さいため今でも根強い人気があります。
入力抵抗が500Ωなので測定対象の信号源インピーダンスが高いと、直流バイアスや出力振幅に影響を与えることがありますが、入力容量はアクティブプローブの半分~数分の一程度なので、クロックのエッジ等、高速ディジタル信号の波形品位測定等に最適です。

5GHz帯域低容量プローブPBL5000
5GHz帯域低容量プローブPBL5000

 

高速信号のプロービングにおける問題点

負荷効果

測定対象回路にプローブを接続すると、プローブの入力インピーダンスにより測定対象に何らかの影響を与えます。これを負荷効果と呼びます。
たとえば、帰還回路を測定する場合、接続されるプローブのインピーダンスのために回路の位相マージンが変化して回路の動作が変化したり、発振回路の場合には発振周波数が変化したり、発振が停止してしまうこともあります。
特に静電容量に敏感な回路を測定する場合には、プローブの選定に注意が必要です。

プローブの入力容量による観測帯域の制限

特に100MHz以上の周波数成分を観測すると、信号源インピーダンスとプローブの負荷容量で形成されるローパスフィルタの影響が顕著に出る場合があります。
50Ω系の回路を例にみてみましょう(図1)。この例では、負荷(終端)で信号波形を観測する場合、等価信号源インピーダンスは25Ω(50Ωの並列)に見え、ここにプローブの入力容量が付加されると、プローブの入力ポイントにおけるカットオフ周波数は fc=1/2πRC となります。入力容量14pFのパッシブプローブを使うと fc=455MHzですが、入力容量0.9pFのアクティブプローブを使えば fc=7GHz となります。
出力インピーダンスが高い回路を測定する場合は負荷効果がさらに顕著に出ますので、入力容量の小さいアクティブプローブ/FETプローブのご使用をお勧めします。

50Ω系回路図

インダクタンスによる共振

測定対象とプローブは何らかのピンあるいはワイヤーを使って接続しますが、ある長さのピンやワイヤーがあると必ずインダクタンスが存在し、プローブの入力容量と共振を起こします。この共振周波数がオシロスコープの周波数帯域外にあれば波形観測に支障ありませんが、インダクタンスや容量が大きいと、測定対象の信号波形には本来無いピーキングやリンギングが観測されることがあります。
接続時のインダクタンスを10nH(1~2cm程度の長さ)として前述の3種類のプローブについて共振周波数を比較してみると表1のようになり、意外に共振周波数が低いことがわかります。このインダクタンスはプローブの入力側だけでなく、グラウンド接続のインダクタンスも影響しますので注意が必要です。

(表1)
PB500
パッシブプローブ
PBA2500
アクティブプローブ
PBL5000
低容量プローブ
入力容量
約14pF
約0.9pF
約0.25pF
共振周波数
(L=10nHの場合)
425MHz
1.68GHz
3.18GHz

ケーブルの特性変化

プローブ先端からオシロスコープに信号を伝送するために同軸ケーブルが使用されます。プローブには、実使用での取り回しの良さを考慮して柔軟性と高周波特性を両立したケーブルが選定されていますが、それでも小さい曲率で曲げると誘電体がつぶれ、その部分の特性インピーダンスが変化し、ケーブルの通過/反射特性が悪化して観測波形の高周波成分に影響が出てしまいます。高周波の波形観測において再現性が悪い原因の一つがこれなので、ケーブルをなるべく曲げないようにし、取り回しを一定にすることで測定の再現性を上げることができます。

プローブの性能をフルに活かすプロービング

プローブを使った波形観測における最大の障害はインダクタンスによる共振で、まずはこの共振を抑えこむことが大切です。
簡易的に信号を確認する場合(ブラウジング)、プローブの入力ピン及びグラウンド用リードはなるべく短いものを使用します。信頼性の高い波形観測が必要な場合は、あらかじめプリント基板にプローブを接続するためのスルーホールを用意しておき、プローブの信号入力ピンをパターン等に直接接続します(図2、図3)。グラウンドはインダクタンスを減らすために、なるべく太めの銅線や銅板を加工してプローブに接続します。
都合でどうしても最短で接続できない場合は、信号入力に50~100Ω程度の抵抗を入れて共振をダンピングする方法があります(図4)。この場合、抵抗により測定できる周波数帯域は下がりますが、共振によるピーキング、リンギングを抑えた測定対象本来の波形に近づけることができます。
また、特に立ち上がり付近の高周波信号成分は、前述のとおりケーブルの取り回しに影響されますので、取り回しが変わらないように図5のように作業台にテープで固定する等の工夫をすることで観測波形の再現性を上げることができます。

プロービングの方法

プロービングの方法

プロービングの方法

プロービングの方法

リンギングの波形比較

リンギングの波形比較
■インダクタンスが大きくてリンギングが見えてしまう場合

リンギングの波形比較
■インダクタンスを小さくしてリンギングを抑えた場合

ケーブルの取り回しの工夫

ケーブルの取り回しの工夫

おわりに

高速の信号波形を忠実に観測するためには、適切なプローブを選択し、さらにプローブ本来の性能を引き出すような工夫をすることが大切です。本コラムが、高周波プロービングを行う際のヒントになれば幸いです。

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オシロスコープは、高速な電気信号を波形として表示するエレクトロニクス技術者必須の測定器です。ユニークな縦型コンパクトモデルや多チャネルモデルのオシロスコープに加え、オシロスコープとデータロガーの機能を兼ね備えたスコープコーダなど、特長ある製品ラインアップをご用意しています。また、様々な測定に対応する電圧プローブ、電流プローブ、ロジックプローブを取りそろえ、数々の先進機能を業界に先駆けて搭載することにより、日々の測定業務を強力に支援します。

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