測定器の正しい使い方入門 ディジタル・マルチメータの使い方

横河電機(株) 桑原 孝

* 月刊「トランジスタ技術」1994年3月号掲載原稿を再編集しました。
  一部原稿作成時のままのものもございますが、ご了承ください。

DMMとは

ディジタル・マルチメータ(DMM)は、電圧、電流、抵抗などの基本的な測定機能を1台にまとめた汎用測定器であり、電気測定のあらゆる場面で使用されています。
DMMは従来の指示計器やアナログ式のテスタにくらべ、以下の点で特に優れています。

  1. A-D変換技術の進歩により高精度で高分解能
  2. A-Dコンバータを用いてディジタル値で表示され、読み取り誤差がない
  3. 入力抵抗が直流電圧で10MΩ以上、交流電圧で1MΩ以上と高く、測定対象に影響を与えず、
    多くの測定では∞Ωとみなせる
  4. 入力端子は電源やインターフェースと絶縁されているので、被測定デバイスに対して安全であり、
    精度の良い測定が可能

DMMは、ハンドヘルド・タイプとベンチ・トップ・タイプの二つに大別できます。
ハンドヘルド・タイプは従来の回路計に代わるものであり、実験室、配電工事の現場などあらゆる分野で使用されています。
734シリーズ ディジタルマルチメータ 横河メータ&インスツルメンツ(株)表示は電池駆動のため液晶が採用され、その表示桁数は3ヶ1/2桁~4ヶ1/2桁です。ここで3ヶ1/2桁というのは、たとえば、最大表示が "1999" のように3桁(0~ 999)と4桁(0~9999)の間であることを意味しています。また携帯に適するように小型軽量化されており、導通チェッカ、ダイオード・チェッカなどの機能を備えたものや、バー・グラフ表示を付加したものもあります(写真右 )。 ハンドヘルド・タイプでは電源ラインを測定する場合の安全性を重視し、感電防止や短絡事故防止のため、樹脂カバーの付いた入力プラグや測定リードの先端にカバーの付いたものが採用されています。また耐衝撃性に優れたものや、防塵、防滴処理が施されているものもあります。

ディジタルマルチメータ 7555 横河電機(株)ベンチ・トップ・タイプは実験室の作業台や計測システム、生産ラインなどでよく使用されている4ヶ1/2桁~5ヶ1/2桁の汎用器(写真右)と、研究室、校正室などで使用されている6ヶ1/2桁~8ヶ1/2桁の標準器クラスがあります。
ベンチ・トップ・タイプではアベレージング、スケーリング、デジベル演算、データ・メモリなどの付加機能も充実しています。自動計測装置、生産ラインでの調整検査などではGP-IBインターフェースを介してのリモート制御、コンピュータへの測定データの転送が高速に行えるものが使用されています。

 

DMMの基本構成

図15-1にDMMのブロック図を示します。

DMMのブロック図

■ 入力部
DMMの入力部はケースや電源と絶縁されていて、フローティング入力になっています。
直流の高電圧測定では、入力電圧を抵抗で分圧した後にA-D変換を行います。
抵抗測定では、被測定抵抗に既知の電流を流してそこに発生する電圧から抵抗値を求めています。
直流電流測定では、既知の抵抗(シャント抵抗)に被測定電流を流してそこに発生する電圧から電流値を求めています。
交流電圧測定では、AC用プリアンプでノーマライズした交流信号を直流電圧に変換して求めています。
交流電流測定では、シャント抵抗で電圧に変換した後で交流電圧測定と同様にして求めています。
■ A-D変換部
多くのDMMではノイズ除去効果に優れた積分型A-D変換方式を採用しています。その代表的な例を以下に示します。
 

デュアル・スロープ方式
図15-2に、デュアル・スロープ方式のブロック図を示します。
デュアルスロープ方式のブロック図
被測定電圧Exが負の場合、まずスイッチS1が一定時間tsだけ閉じます。このとき、抵抗Rに流れる電流Iは、

I=Ex/R・・・・(1)
となり、すべてコンデンサCに充電されます。
ここで、ある時間tsだけ充電されたときのコンデンサCの両端の電圧をEtsとすると、Etsは次の式で表されます。
I・ts=-C・Ets
∴Ets=-I・ts/C・・・・(2)
(1)式を(2)式に代入すると、
Ets=-Ex/C・R×ts・・・・(3)
となります。
つぎにスイッチS1を開いてスイッチS2を閉じ、被測定電圧と逆極性の基準電圧Esに入力を切り替えると出力電圧Eoは次式のようになります。
Eo(t)=-Ex/C・R×ts-Es/C・R×t・・(4)
ここで出力電圧Eoがゼロになるまでの時間をtxとすると次式が導かれます。
Ex=-tx/ts・Es・・・・(5)
したがって、積分時間ts、基準電圧Esが一定であれば、被測定電圧Exは、tx(すなわちS2が閉じてから積分器出力Eoがゼロになるまでの時間)をカウンタで測定することによって求められることがわかります。
 デュアル・スロープ方式には以下の利点があります。
  1. 積分定数C、Rが含まれていないので[(5)式]、それらの変動は誤差にならない。
  2. 入力Exをtsの間積分しているので、このtsを商用電源周期の整数倍に選べば電源のハムの影響を除去することができる。
この方式は回路構成がシンプルなので、おもに3ヶ1/2桁~4ヶ1/2桁の低価格DMMに採用されています。また5ヶ1/2桁以上のベンチ・トップ・タイプDMMでは、デュアル・スロープ方式を発展させて高速化、高分解能化したマルチスロープ方式が採用されています。


帰還型パルス幅変調方式
図15-3に帰還型パルス幅変調方式のブロック図を示します。
帰還型パルス幅変調方式A-Dコンバータ
入力電圧Exは、方形波クロック電圧±Ecおよびコンパレータ出力で交互に切り換えられる基準電圧±Esとともに積分器に加えられます。
コンパレータは積分器出力Eoをゼロ・レベルと比較し、Eo>0のとき+Esが、Eo<0のとき-Esが積分器へ負帰還されるようにスイッチSを駆動します。スイッチSが+Es側または-Es側に接している期間は入力電圧の大きさによって決まり、その1周期にわたる平均値がちょうど入力電圧と打ち消し合うところで平衡状態になります。
クロック電圧±Ecはこの系を動作させ繰り返し周期Tを定めるもので、1周期の平均直流電圧はゼロ(デューティ50%)にしてあります。ここでスイッチが+Es側に接している期間をT1、-Es側に接している期間をT2とすれば、平衡状態では次式が成立します。

Ex/C・R1×T+Es/C・R2×T1-Es/C・R2×T2=0
ここでR1=R2とすれば、
Ex・T+Es・T1-Es・T2=0
∴Ex/Es=(T2-T1)/T・・・・(6)
となります。また、T1+T2=T(クロックの周期)なので、
Ex/Es=1-2×T1/T・・・・(7)
となり、T1をカウンタで測定すればExをディジタル化することができます。
この方式はデュアル・スロープ方式と同様の利点があります。さらに負帰還によってパルス幅変調が高精度化、高安定度化されるため、コンパレータのオフセットやヒステリシスなどの影響を受けません。そのためデュアル・スロープ方式にくらべ、より高分解能の測定が可能であり5ヶ1/2桁以上のベンチ・トップ・タイプDMMに採用されています。
 
■ 基準電圧および基準抵抗
DMMの確度を決めるもっとも重要な構成要素は基準電圧と基準抵抗です。
基準電圧には基準電圧用IC(ツェナ・ダイオード)が使用されていますが、これには高い長期安定度と低い温度係数が要求されます。高精度のDMMではエージングして経時変化を確認したものを使用しています。
基準抵抗の中でも抵抗比を必要とする部分には、長期安定度が高く相対温度係数の低い薄膜モジュール抵抗などが使用されています。
 
■ ディジタル部
ディジタル部はマイクロプロセッサやゲート・アレイなどのロジック回路で構成され、表示の制御、測定タイミングの制御、インターフェース(GP-IBまたはRS-232-C)の制御などを行っています。
ベンチ・トップ・タイプのDMMではディジタル部のコモンはケース電位であるので、入力部、A-D変換部などからはフォト・カプラで絶縁されています。
ハンドヘルド・タイプの構成は基本的にはベンチ・トップ・タイプと同じですが、電池駆動なので絶縁が不要であり、アナログ部やロジック部を1~2チップのLSIに集積して小形化、低消費電力化を図っています。

測定法と使用上の注意

■ 直流電圧測定
図15-4に直流電圧測定の入力部を示します。
直流電圧測定の入力部
入力抵抗
低電圧レンジ(通常12V以下)では直接バッファ・アンプで受けるため入力抵抗は1GΩ以上ありますが、OPアンプの入力電圧範囲を越えるような高い電圧を入力した場合は、内部保護回路が働いて入力インピーダンスが低く(100kΩ程度)なってしまいます。
いっぽう高電圧レンジの入力抵抗は分圧抵抗によって決まり、10MΩ程度です。こちらは入力する電圧によって入力インピーダンスは大きく変化しません。
通常、DMMはオート・レンジ機能により最適なレンジが自動的に設定されますが、その過渡期には上記の理由により入力インピーダンスが低くなる可能性があります。
入力抵抗の値は多くの場合∞Ωとみなされますが、実際には被測定電圧の信号源抵抗Rsにより図15-5のような誤差を生じます。信号源抵抗Rsが大きい場合には、この誤差が大きくなるので注意が必要です。
入力抵抗による影響
ブートストラップ・アンプまたベンチ・トップ・タイプのDMMの中には入力バッファ部にブートストラップ・アンプ(図15-6)を採用しているものもあります。
図15-6で、たとえばツェナ電圧を15Vにした場合、OPアンプの電源電圧は出力電圧に追従して、
出力電圧±(15V-トランジスタのVBE)
になります。このブートストラップ回路により通常のOPアンプの入力(±12V程度)を越える電圧に対しても正常に動作し、たとえば±Vccを±40Vにすれば±25V近くまで、高い入力抵抗で受けることができます。


バイアス電流
入力をバッファ・アンプで受ける直流電圧レンジでは、Hi-Lo端子間をショートしてからオープンにすると表示はゼロからゆっくりと増えていきます。これはDMMの入力バイアス電流が入力容量をチャージアップしているために起こります。
高電圧レンジではHi-Lo間に分圧抵抗が入っているため、入力をオープンにしても表示はゼロになります。
 入力バイアス電流はバッファ・アンプの初段に使用している素子によって発生するものであり、周囲温度が上がるとバイアス電流も大きくなる傾向にあります。
バイアス電流の値は数十pA~数百pA程度なので多くの場合は問題になりませんが、信号源抵抗Rsに応じて図15-7のような誤差を生じます。
バイアス電流による影響
あらかじめ信号源抵抗と同じ値の抵抗をHi-Lo端子間に接続してバイアス電流による誤差分を測定し、通常の測定値からその誤差分を引くことによりバイアス電流の影響を除くことができます。このように一定の値を測定値から引いて表示する機能をNull機能といいます。


ノーマル・モード・ノイズ
DMMはさまざまなノイズ環境で使用されます。そのうち図15-8のように入力のHi-Lo端子間に加わるノイズenをノーマル・モード・ノイズといい、その成分はおもに商用電源周波数およびその高調波によって占められています。
ノーマル・モード・ノイズ
それを除去する割合をノーマル・モード除去比(Normal Mode Rejection Ratio:NMRR)といい次式で表します。
NMRR=20log×en/△en
ここでenはノイズ電圧、△enはノイズによる測定誤差です。
積分型A-D変換方式では、積分時間を商用電源周期の整数倍に選ぶことにより、図15-9に示すようにこのノイズを効果的に除去することができます。
商用電源周波数が50Hzの場合は積分時間20msが、60Hzの場合は16.7msが使用され、それらを共用にする場合は100msの積分時間が使用されます。
積分型A-Dコンバータによるノーマル・モード・ノイズの除去効果


コモン・モード・ノイズ
図15-10のように入力のHi-Lo端子に共通に加わるノイズemをコモン・モード・ノイズといい、DMMと被測定電圧のグラウンドが離れている場合や熱電対のように小さい電圧を測る場合に影響がでてきます。
コモン・モード・ノイズ
それを除去する割合をコモン・モード除去比(Common Mode Rejection Ratio:CMRR)といい次式で表します。
CMRR=20log×em/△em
ここでemはノイズ電圧、△emはノイズによる測定誤差です。
通常DMMはケースの中にそれと絶縁された内部シールドをもっています。
内部シールドがLo端子に接続されたDMMを図15-11(a)に示します。
コモン・モード・ノイズemは内部シールドとケース間のインピーダンスZとリード線抵抗r2の比で分圧され、ノーマル・モード・ノイズecmとなって測定に誤差を生じます。
したがって、インピーダンスZが大きいほどCMRRは大きくなります。積分時間をコモン・モード・ノイズemの周期の整数倍に選ぶとNMRRが大きくなる(図15-9参照)ため、結果としてさらに大きいCMRRが得られます。
通常CMRRの仕様は積分時間と周波数が規定されています(例:積分時間100ms、ノイズ周波数50、60HzでCMRRは120dB以上)。
コモン・モード・ノイズによる影響
CMRRをさらに大きくしたい場合にはガード端子の付いたDMMを使用します。これは図15-11(b)のような構造になっています。コモン・モード・ノイズemをインピーダンスZ2とリード線抵抗r3で分圧し、さらにインピーダンスZ1とリード線抵抗r2で分圧しているため、図15-11(b)よりもCMRRは大きくなります(例:積分時間100ms、ノイズ周波数50、60HzでCMRRは140dB以上)。

熱起電力
低レベルの電圧測定では熱起電力も誤差の原因となります。
異なる金属を使用して回路を接続すると金属と金属の接触する箇所で熱電対が形成され、その結果、接触点の温度により電圧が発生します。
表15-1に異なる金属を接続した場合のおよその熱起電力の値を示します。
熱起電力の発生を最小限にするためには、端子および測定対象の接続をしっかりとして温度勾配がなくクリーンな環境が必要です。
およその熱起電力


オート・ゼロ機能
DMMにおいてゼロ点の安定度は重要な特性の一つですが、プリアンプやA-Dコンバータのゼロ点は温度変化や時間経過でドリフトします。
これを補償するために最近のDMMではオート・ゼロ機能を備えています。これはプリアンプの入力にスイッチを設けて(図15-1参照)、まず入力につながるスイッチをONにして入力電圧を測定し、次にゼロ(回路コモン)につながっているスイッチをONにして内部オフセットを測定し、二つのデータの差をとってドリフトを打ち消すものです。
なお、オート・ゼロ機能をOFFにすると測定の確度は落ちますが、測定速度が約2倍になります。
■ 交流電圧測定
AC-DC変換方式
AC-DC変換には、図15-12に示すように真の実効値変換方式と平均値整流方式とがあります。
AC-DC変換
真の実効値変換では対数変換方式(Log-Antilog方式)がおもに採用されています。この方式は交流信号を整流した後、トランジスタのlog特性を利用した回路でアナログ演算を行い、定義にそった実効値に変換するものです。
平均値整流方式は交流信号を整流した後、ローパス・フィルタによって直流分を取り出します。これに正弦波の波形率(表15-2参照)を乗じて実効値換算するものです。したがって、被測定交流電圧波形が正弦波の場合は正確に測定できますが、正弦波以外の場合は波形による誤差を生じます。
ただし波形がはっきりわかっている場合は表15-2に示すように波形率、波高率(クレスト・ファクタ)が明確であり、平均値整流方式を使用したときの測定誤差を算出できます。この方式は回路がシンプルで低コストであるので、ハンドヘルド・タイプのDMMで多く使われています。


クレスト・ファクタ
真の実効値変換方式による交流電圧測定では、平均値整流方式と違い正弦波以外の波形でも正確に測定できますが、その際にクレスト・ファクタの値に注意しなければなりません。
クレスト・ファクタとは実効値とその波形のピーク値との比で定義され(表15-2参照)、クレスト・ファクタの大きい交流電圧の測定には広い入力電圧範囲をもつ実効値変換回路が必要になります。
たとえばフルスケールにおいてクレスト・ファクタ7の真の実効値測定器では、その7倍のピーク値を持つ波形の場合でも応答しなければなりません。
したがって、クレスト・ファクタが機器仕様より大きい交流電圧測定では、レンジを一つ上げて(感度を下げて)測定する必要があります。そうしなければ測定レンジの最大動作範囲をオーバしてしまい、正確な測定ができなくなります。


AC測定とAC+DC測定
AC測定は、AC結合した真の実効値を測定します。これは大きなDCオフセットが存在する中で小さなAC信号を測定する場合に用いられます。
たとえばDC電源に存在するACリップルを測定する場合などが一般的です。
AC+DC測定は、AC測定とDC測定の結果を合計してその値を算出します。したがって交流波形に直流成分が重畳しているような場合でも真の実効値が測定できます。代表的な周期波形の計算値を表15-2に示します。

入力インピーダンス
交流電圧測定の入力インピーダンスは、AC用プリアンプの入力抵抗とDMMの入力容量との並列接続になります。さらに実際の測定では接続するケーブルの容量なども追加されます。
したがって、測定交流電圧の周波数が高くなると、入力インピーダンスの低下により誤差は大きくなります。

低電圧交流測定
低電圧の交流測定(100mV以下)では外部ノイズによる影響に注意しなければなりません。
露出した測定リードがアンテナの役割を果たして電磁波が測定値に誤差を生じる場合があるので、シールド線の使用や測定系全体のシールドが必要になります。
DMMの内部ノイズも測定値に誤差を生じます。Hi-Lo端子間をショートしても内部ノイズにより測定値はゼロになりません。
しかしこれらのノイズが入力電圧レベルに依存しない場合は、図15-13に示すように入力電圧と単純加算ではなく2乗和のルートになります。したがって入力信号レベルが大きくなると、これらのノイズの影響は小さくなります。
なお、交流電圧測定の仕様にはそれを満たす入力の範囲が記されており、ゼロ入力付近での確度仕様はありません。(表15-3参照)。
交流電圧測定におけるノイズの影響
 
■ 抵抗測定
2線抵抗測定と4線抵抗測定
図15-14(a)に2線抵抗測定を示します。
この方式はHi-Lo端子間に接続された被測定抵抗に、Hi端子から既知の電流を流してそこに発生する電圧を測定するもので、ハンドヘルド・タイプのDMMで多く採用されています。しかし測定リードの抵抗分も含まれてしまうため、低抵抗の測定においては誤差が大きくなってしまいます。
Null機能が付いているDMMでは、測定リードの先をショートしてその抵抗分をあらかじめ測定し、その影響を除くことができます。
4線抵抗測定は、図15-14(b)に示すように電流端子(INPUT Hi、Lo)から既知の電流を流し、電圧端子(SENSE Hi、Lo)でそこに発生する電圧を測定するもので、ベンチ・トップ・タイプのDMMで多く採用されています。電圧端子は直流電圧測定と同様に入力抵抗が非常に大きいため(>1GΩ)測定リードの影響がありません。

抵抗測定の方法

ロー・パワー抵抗測定
たとえば図15-15のように、被測定抵抗が回路に実装されていて並列にPNジャンクションが接続されているような場合には、それをONさせないようにして抵抗を測定しなければなりません。
そのためには測定電流により抵抗の両端に発生する電圧を、PNジャンクションがONする電圧よりも低く抑えなければなりません。
温度測定用に設計された抵抗や温度係数が大きい抵抗の測定では、測定電流による発熱をなるべく抑えなければなりません。
抵抗測定の測定電流はレンジによって決められているので(表15-3参照)、測定電流を小さくしたい場合には一つ上の(高い抵抗の)レンジで測定する必要があります。これらのアプリケーションに対応するために、通常抵抗測定より測定電流を1桁小さくしたローパワー抵抗測定機能を備えたものもあります。
回路に実装されている抵抗の測定


高抵抗測定
高抵抗測定では、入力容量やケーブル容量によりRCの時定数が大きくなるためセトリング時間が長くなります。
したがって、抵抗値を正確に測定するためには十分に測定値が安定してからデータを取り込むことが必要です。
高抵抗を測定する場合、図15-16のように測定リードや取り付け具の絶縁抵抗が誤差要因になります。
この絶縁抵抗は湿度や汚れなどの影響で容易に小さくなるので、高抵抗を正確に測定するためにはクリーンな測定環境が必要です。
高抵抗測定における絶縁抵抗の影響

開放端子電圧
抵抗測定ではHi-Lo端子間に被測定抵抗を接続していないとき、そこに開放端子電圧が発生します。これは測定電流を供給する定電流源の負荷が∞Ω(開放状態)であるためです。この開放端子電圧は定電流回路によって決まり、一般の抵抗測定では数V~十数V程度です。
 
■ 電流測定
入力インピーダンス
DMMの電流測定において、その入力抵抗(シャント抵抗)は非常に小さく(表15-3参照)多くの場合0Ωとみなされますが、実際には図15-17のような誤差を生じます。
さらに交流電流測定の場合には、直列インダクタンスや測定対象との接続状態により誤差は入力周波数にともない大きくなります。
入力抵抗による影響(直流電流測定)

誤接続
DMMの入力端子は、Lo側は共通ですがHi側は電圧測定と電流測定とで分かれています。電圧測定と電流測定とでは入力抵抗が極端に違うので、これを誤って接続すると測定対象ばかりでなくDMM自身をも破損する恐れがあります。
測定リードを電流測定端子に接続したままで、パネル設定だけ電圧測定にして電圧測定箇所に接続してしまった場合はとくに問題です。
電源やアンプの出力など電圧測定箇所の多くは出力抵抗が小さいため、入力抵抗が小さい電流測定端子に接続すると過大電流が流れてしまいます。また測定対象が大容量電源のように過大電流を許容してしまう場合には、DMMの入力抵抗(シャント抵抗)が破損してしまいます。
通常DMMではこのような誤接続による火災や人身事故を防ぐために、図15-18に示すように電流端子にヒューズが内蔵されています。
最近のハンドヘルド・タイプのDMMでは、安全性を高めるために爆発と放電を防ぐ消孤材入りのセラミック・ヒューズや速断型高性能・高耐電流ヒューズを内蔵し、さらに電流測定端子にシャッタを付けて電流測定以外のファンクションでは開かないように工夫されたものもあります。
電流端子の過電流保護
■ 許容最大入力
図15-19に代表的なDMMの入力端子部を示します。
入力端子部には許容最大入力が示されており、それ以上の入力はDMMを破損する可能性があります。
入力端子部の表示

DMMの仕様の見方

DMMの仕様の抜粋を表15-3に示します。

■ 積分時間と測定分解能
積分時間と測定分解能
積分型A-D変換方式では入力電圧をそれに比例したパルス幅に変換し、その幅を基準クロックで測ることによりディジタル値を得ています。したがって、基準クロックが一定であるならば積分時間が長いほど測定分解能が高くなります。
ベンチ・トップ・タイプの高分解能DMMでは測定分解能(表示桁数)を任意に変えることができます。高分解能で測定したい場合には積分時間を長くし、高速で測定したい場合には積分時間を短くします。
このようなDMMには、積分時間の設定により測定分解能が決まるタイプと測定分解能の設定により積分時間が決まるタイプとがあります。
■ 安定度と確度および温度係数
確度は、±(% of reading+digits)で記されています。
第1項は読み値に対する誤差で入力の大きさに比例します。第2項は入力によらない一定の値の誤差で表示のディジット数(下一桁)で表されます。
安定度とはある期間内の相対的な変動を示し、確度とは国家標準に対する絶対的な誤差を示します。
DMMを使用する環境が仕様に記されている温度範囲を越える場合には、その温度差に比例して温度係数が確度に加算されます。
確度は積分時間や測定レンジによっても異なります。
具体的な例を 表15-4 に示します。

校正

表15-3で示したようにDMMの国家標準に対する絶対誤差は出荷時に校正されてから時間とともに大きくなります。したがって、正確な測定をするためには定期的に校正することが必要となります。
最近では特にECの統合にともない、各メーカーで品質保証国際規格ISO9000への対応が急ピッチで進んでいます。この規格を取得・継続していくためには使用する測定器が正しく校正管理されていなければなりません。
DMMは電気量の基本測定機能が1台にまとめられており、3ヶ1/2のハンドヘルド・タイプから8ヶ1/2のベンチ・トップ・タイプまでさまざまな用途に対応しています。
したがって、用途に合わせた正しい知識をもってDMMを使用することが必要です。より詳しいことを知りたい方は参考文献をご参照ください。


参考文献

  1. 横河電機;電子計測器総合カタログ,1994年版,PP.175~187。
  2. 杉山卓;アナログ-ディジタル変換器,特許第553437号。
  3. 日本規格協会;計測用語,1993年版,日本規格協会編。
  4. 西村昭義;ディジタル・テスターとその応用,CQ出版株式会社。
  5. WayneC.Goeke;An8ヶ1/2-Digit Integrating Analog-to-Digital Converter with16-Bit,100000-Sample-per-Second Performance,HEWLETT-PACKARD JOURNAL,1989.4.PP.8~15。
  6. 鈴木隆;特集A-D/D-A変換回路技術のすべて,
    トランジスタ技術SPECIAL,No.16,PP.11-13,CQ出版株式会社。
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