待機時電力の測定と高調波電流の規制

第一技術部 塩田 敏昭
「グリーン・エレクトロニクスNo.10」掲載

 

1.概要

微小な電力を正確に測定するためのメカニズムと方法

2.交流電力測定の基礎知識

図1は、交流電圧源に負荷を接続したときの回路です。電圧源から負荷に向かって電流が流れ、このときの瞬時電圧u(t)、 瞬時電流i(t)の波形は、図2 ①、②のようになります。この回路では、負荷が抵抗のみではなく、インダクタも含まれているため、 電流の位相は電圧よりφだけ遅れています。もし、インダクタの代わりにコンデンサが入っていれば、電流の位相は電圧より進みます。
負荷では電力が消費され、この電力のことを有効電力Pと呼びます。電力には、ほかに無効電力Q、皮相電力Sがあります。
無効電力Qは、消費されない電力です。例えば、負荷が理想的なインダクタのみであれば、インダクタに流れた電流はいったん磁気エネルギー として蓄えられますが、また電流として電源に戻っていきますので、インダクタでは電力は消費されません。この消費はされませんが、 負荷に送られる電力のことを無効電力Qと呼びます。
皮相電力Sは、負荷にかかる電圧実効値Urmsと負荷に流れる電流実効値Irmsを掛けた値です。
交流信号の有効電力Pの算出式として、電気工学の本には、式(1)が載っていると思います。

交流電圧源と負荷

図1の回路の波形

P=Urms×Irms×cosφ …………(1)

  • Urms:電圧実効値 [Vrms]
    Irms:電流実効値 [Arms]
    φ:電圧-電流間の位相差 [deg]

式(1)は、電圧波形も電流波形も同一周波数の正弦波であれば成り立ちます。しかし、現実の環境では、電圧源が純粋な正弦波で あることはまずなく、また、たとえ電圧源が正弦波でも、負荷が受動素子(抵抗、インダクタ、コンデンサ)のみで構成されていない場合、 電流波形は正弦波ではなく、ひずんだ波形になることが一般的です。
そこで、電圧波形、電流波形が正弦波でなくても、有効電力Pを正確に計算する式として、式(2)があります。

    式(2)  …………………(2)
   式(3)  ……………(3)

式(2)の瞬時電力p(t)は、瞬時電圧u(t)と瞬時電流i(t)の掛け算ですので、式(3)のように変形できます。式(3)の の部分は、交流信号の1周期の期間Tの平均を求めることを意味しています。 図1の回路の瞬時電力p(t)は図2 ③のようになり、その1周期の平均値Pは、図2 ③の点線のようになります。
広帯域の電力計では、どのような信号波形でも電力を測定できるように、この式(3)に基づいて有効電力を測定しています。

3.電力測定器の仕組み

図3は、ディジタルサンプリング方式の広帯域電力計の内部構成の例です。電圧入力部、電流入力部、演算部、CPU、表示部、操作部、 通信/メモリ・インターフェース部などから構成されています。
電圧入力部では、入力された電圧は、抵抗とオペアンプで分圧され、レベルが正規化されてADC(A/Dコンバータ)へ入力されます。
電流入力部では、入力された電流はシャント抵抗で電圧に変換され、オペアンプでレベルが正規化されてADCへ入力されます。
ADCに入力されたアナログ信号は、サンプリング周期毎にサンプリングされ、ディジタルデータに変換されます。
ディジタルデータは、絶縁回路で絶縁され、演算部に送られます。
演算部では、ディジタルデータを数値化し、数値化された瞬時電圧値、瞬時電流値を掛け算して瞬時電力値を求め、 これを定められたサンプル数だけ加算したあと、そのサンプル数で割って平均値を求め、有効電力を演算しています。
CPUは、演算部での演算結果を表示部に表示したり、外部メモリに保存したり、通信でPC(パーソナル・コンピュータ) に送信したりします。また、操作部からのキー入力で、測定項目を変更したり、電圧入力部・電流入力部に対して、レンジを変更したりします。
次に、電力計で特徴的な部分について詳しく説明します。

電力計の内部構成の例

 3.1.電圧入力部の入力抵抗
 電圧入力部にある入力抵抗は、測定対象の負荷と並列に入るため、ここに流れる電流が測定対象の回路に影響を与えることがあります。 影響をできるだけ小さくするには高抵抗にする必要があります。しかし、この抵抗に並列に浮遊容量が存在するため、抵抗値が高くなるほど 高域の周波数特性が悪化してしまいます。そこで、高域の周波数特性を良好にする回路で補正しています。
 また、数百V以上の高電圧が入力されるので、高抵抗でも電流が流れ、抵抗の自己発熱による抵抗値の変化が起こります。 そのため、温度係数の小さい抵抗を使用しています。

 3.2.電流入力部のシャント抵抗
 電流入力部では、入力された電流を電圧に変換するために、シャント抵抗を使用しています。このシャント抵抗は、 測定対象の回路に直列に入るため、影響を小さくするには低抵抗にする必要があります。また、電流が流れると発熱し、 抵抗値が変化するので発熱を抑えるためにも低抵抗である方が有利です。しかし、抵抗値が低いと測定する電流が小さいときに 変換される電圧が小さくなり、その後の増幅器の倍率を上げなくてはならず、S/N比が悪くなります。また、シャント抵抗内部に インダクタ成分があり、抵抗値が低くなるほど相対的にインダクタ成分の比率が大きくなり、周波数特性が悪くなります。
 電流の検出にシャント抵抗ではなく、CT(カレント・トランス、変流器)を使用した電力計もありますが、CTでは直流が測定できず、 交流のみの測定に限定されます。

 3.3.電圧入力部-電流入力部間の遅延時間
 電圧入力部の入力端子からADCまでのアナログ回路の遅延時間と、電流入力部の入力端子からADCまでの遅延時間が異なると、 電力の測定値に誤差が生じます。
 図4の①、②は、図2の①、②と同じ信号が電力計の電圧入力端子、電流入力端子に入力され、 それぞれのアナログ回路を通って、ADCの入力端子での波形を示したものです。電圧入力部のアナログ回路の遅延時間がΔTu、 電流入力部の遅延時間がΔTiだったとします。このときの瞬時電圧と瞬時電流を掛け合わせた瞬時電力の波形を描くと 図4 ③のp(t)'のようになり、図2 ③のp(t)とは波形の最大、最小レベルが異なり、その平均値の有効電力P'は 図4 ③の点線のようになり、図2 ③の有効電力Pとは値が異なっています。つまり、電力計内部の電圧入力部と 電流入力部のアナログ回路の遅延時間の差によって、測定された有効電力に誤差が含まれることになります。ΔTu=ΔTiであれば、 p(t)'の波形はp(t)の波形をΔTuだけ時間軸方向に平行移動したものなので、その平均値は一致します。そのため、電力計では、 電圧入力部と電流入力部の遅延時間をできる限り一致させる必要があります。特に、広帯域の電力計では、全周波数領域において、 遅延時間の差を小さくする必要があります。
 例えば、トランスなどの測定で、電圧と電流の位相差φが90degに近い場合、有効電力が小さな値になるので、 電力計内部の遅延時間の差による誤差が相対的に大きくなります。電力計のスペックシートには、電圧-電流間の位相差に起因する 精度(ゼロ力率精度)が記載されていますので、この精度が良いものを選ぶと誤差の小さい測定ができます。

ADCの入力端子での波形

ゼロクロス検出器

 3.4.ゼロクロス検出器
 図3の電圧入力部、電流入力部にはゼロクロス検出器があります。これは、入力信号がゼロレベルを交差するタイミングを検出し、 瞬時電力の平均化区間Tを決定したり、入力信号の周波数を測定するために使われます。回路は図5のようなコンパレータで 構成されています。入力信号が正のときLowレベル、入力信号が負の時Highレベルを出力するようになっています。このコンパレータの 出力の立ち下がりエッジから次の立ち下がりエッジまでが信号の周期Tとなります。入力信号に小さなノイズが乗っていても誤動作しないように コンパレータにはヒステリシスが設定されています(図6①、②)。しかし、図6 ③のように、入力信号に大きな高周波成分が 重畳しているような場合は、図6 ④のような出力になってしまい、本来の周期とは異なってしまいます。この場合は、 図3の周波数フィルタを通した信号をゼロクロス検出器に入力することにより、図6 ⑤のように、高周波成分が除去された 波形になり、検出器の出力は図6 ⑥となり、本来の周期を検出できるようになります。

ゼロクロス検出器の出力

 3.5.絶縁回路
 図3に見るように、電圧入力部-演算部間、電流入力部-演算部間は絶縁回路で絶縁されています。このため、 電圧入力部-電流入力部間も絶縁されていることになります。これは電圧入力端子のコモンや電流入力端子のコモンが接地電位と 同電位でなくても測定できるようにするためです。数百Vのコモンモード電圧がかかっている場合でも安全に測定できるように、 電圧入力部、電流入力部、CPU側の回路は、お互いに十分距離を離して配置してあります。
 ADCのサンプリング周期ごとに、ADの分解能分のビット数を絶縁回路を通して演算部へ転送する必要があります。 ADデータをパラレルで転送する場合、ビット数分の絶縁素子が必要になります。しかし、高耐圧の絶縁素子は形状が大きく、 さらに接地側回路とフローティング側回路の境界線上に並べて配置しなくてはならないため、スペースが必要で電力計本体が 大きくなる要因になります。絶縁素子の個数を減らすために、ADデータをシリアルで転送する場合、1サンプリングの時間内に すべてのビットを転送しなければならないので、高速な絶縁素子が必要となり、コストアップにつながります。電力計の設計では、 ADCのサンプリング周期を短く(サンプリング周波数を高く)したいときに、この絶縁素子のスピードとコストが重要なファクターになります。

 3.6.演算部
 演算部はDSP(Digital Signal Processor)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)で構成されています。ここでは、 図7に示すように、サンプリング毎に、数値化された瞬時電圧値、瞬時電流値を乗算器で掛け合わせて瞬時電力値を求め、 これをNサンプル分加算し、この加算値をNで割って平均値を求め、有効電力Pを算出します。このNの数は、ゼロクロス検出器の出力から 求めた入力信号のM周期分の時間のサンプル数です。原理的にはM=1の1周期分でも平均値は求められますが、複数個の周期から求めた方が 測定値が安定します。また、サンプリング周期ΔTsですが、これが小さい方がより急峻な波形でも再現性が上がりますが、 リアルタイムに加算処理を行う場合、この処理時間がネックになります。

瞬時電力値の演算

・DSPよる演算
 汎用のDSPで構成した場合、演算器の個数が1,2個しかないため、図8(a)に示すように、1回のサンプリング毎に、 ①ディジタルデータを数値に変換、②瞬時電圧値と瞬時電流値を乗算し瞬時電力値を算出、③今回の瞬時電力値を前回までの 瞬時電力値の合計値に加算、という処理を順番に行うため、次のサンプリングデータ(データ2)が入力できるのは、データ1の③の処理が 終わった後になります。
・FPGAによる演算
 一方、FPGAの場合、ハードウエアで各処理専用の演算器を構成できます。これにより、図8(b)に示すように、①、②、③の 処理を同時に行うことが可能になり、データ1の①の処理が終われば、次のデータ2を入力することができます。このようにすると、 サンプリング周波数を高くすることが可能になります。FPGAで演算を行っている電力計の例を図9に示します。
 また、演算部ではこのほかに、瞬時電圧値、瞬時電流値を加算した合計値から求める、電圧実効値Urms、電流実効値Irms、 電圧平均値Udc、電流平均値Idcなども演算しています。

 

DSPとFPGAの処理方法

WT1800

4.待機時電力の測定

 4.1.製品動向と規格
 待機時電力測定の規格としては、CEマーキングに必要なErP指令で、IEC 62301が引用されています。
 待機時の消費電力を抑える方法として、図10に示すように、①純粋に電流を減らす方法、②電流の流れる時間を短くする方法、 ③電流を間欠的に流す方法、などがあります。

 4.2.小さな電力の測定技術
・レンジ
 図10 ①のように、測定対象の電流が小さい場合でも、精度よく測定するためには、小さな電流レンジで測定する必要があります。 大電流を測定するシャント抵抗のみが搭載された電力計で微小電流を測定すると、シャント抵抗で変換される電圧が小さく、電力計の内部 ノイズに埋もれて精度良く測定できないことがあります。低電流レンジ専用のシャント抵抗を装備した電力計を使うのが望ましいです。
・CF(クレスト・ファクタ)
 図10 ②のように、電流の実効値は小さくてもピーク値が大きい場合、ある程度までは測定レンジを大きくせずに測定できるように なっている電力計があります。電力計のレンジ定格に対して許容できるピーク値の比(許容ピーク値/レンジ定格)を電力計のCF(クレスト・ファクタ)と呼び、 この比率が3や6などのものがあります。例えば、測定しようとする電流の実効値が80mArmsで、ピーク値が500mAの場合、CF=6の電力計で あれば、100mAレンジでピーク値が6倍の600mAまで測定できるので、500mAレンジではなく、100mAレンジで測定できることになります。
 なお、一般にCFというと、波形のCFとして「ピーク値/実効値」の比と定義されていますので、上記の電力計の入力仕様のCFとは意味が異なります。

待機時の電力波形

・平均有効電力
 図10 ③のように、間欠的に電流が流れる場合、電圧の周期で瞬時電力を平均化しても、平均化区間によって有効電力の測定値が ばらついてしまうことがあります。このような場合、積算電力を測定する方法が有効です。図11のように、瞬時電力をギャップなし で積算していく積算電力WPを測定し、これを積算経過時間Hで割った値を求めると、平均有効電力を求めることができます。 これによりばらつきが抑えられた有効電力を得ることができます。
 また、間欠的に電流が流れる場合、正側と負側でパルスの数が異なったり、正側と負側で振幅が異なったり、間欠の周期が長かったりすると、 直流分が含まれることになるので、交流専用の電力計では正確に測定できないことがあります。 この場合、直流が重畳していても測定できる交直両用の電力計で測定する必要があります。

平均有効電力

 4.3.微小電流測定のポイント
・外来ノイズによる影響
 微小電流を測定する場合、外来ノイズによるノイズ電流の比率が相対的に大きくなるので、影響を受けにくいように配線する必要があります。 ①ノイズを発生している機器から測定対象、配線ケーブル、電力計を離す。 ②配線長をできるだけ短くする。 ③配線ケーブルで作られる電流ループの面積を小さくする。配線ケーブルをツイストペアにする。
 図12(a)に示すように、電流ループに外部から磁界が入ると、右ネジの法則で電流が流れ、これがノイズ電流になります。 図12(b)のように、配線ケーブルをツイストペアにすることにより、磁界が入る電流ループの面積を小さくすることができ、 さらに、隣同士のループで逆方向のノイズ電流になるので打ち消す効果も期待できます。

外部磁界の影響

・電圧入力と電流入力の接続位置
 図13(a)のように電力計を接続した場合、電流測定回路には、負荷に流れる電流と電圧測定回路の入力抵抗に流れる電流の 加算電流が流れ、電流測定値の誤差が大きくなります。この場合、図13(b)のように接続すると、電流測定回路には負荷に流れる 電流のみが流れ影響がなくなります。ただし、逆に電流が大きい場合に図13(b)の接続を行うと、電流測定回路のシャント抵抗に 流れる電流による電圧降下分が、負荷にかかる電圧に加算されて電圧測定回路に入力されるため、電圧測定値の誤差が大きくなります。

電圧入力と電流入力の接続位置

5.インバータ機器の電力測定や効率測定

 5.1.EV(Electric Vehicle:電気自動車)やモータ機器の制御
 モータを回すとき、50Hzや60Hzの交流電源で直接駆動すると、回転スピードが一定で、制御の方法としてはON/OFFしかありません。 消費電力を抑えるなどの理由のため、よりきめ細かく制御するには、回転スピードを可変にする必要があります。
 回転スピードを変化させる場合、50/60Hzの交流電源から一旦直流に変換し、これをPWM(pulse width modulation)波形でスイッチングして 交流に変換し、このパルス波形でモータを駆動させるのが一般的です。交流から直流に変換する機器のことをコンバータ、直流から交流に 変換する機器のことをインバータと呼びます。なお、コンバータとインバータが一体になったものを広義のインバータと呼ぶこともあります。
 EVの場合は、電源がバッテリーで直流となるのでコンバータ部分は不要になり、インバータのみでモータを駆動しています。
 PWM波形とは、図14のように、出力したい周波数の正弦波と、キャリア信号と呼ばれる高周波の三角波をコンパレータに入力したとき のコンパレータの出力として得られます。元の正弦波の振幅がパルスの幅に変換されているのが分かると思います。このパルス信号で スイッチング素子をON/OFFすることで、電源から作られたDC電圧をパルス化できます。
 図15は、三相インバータと三相モータの接続図です。インバータ内で120度ずつ位相がずれた正弦波を生成し、その正弦波を元に PWM信号を作成し、この信号で出力のスイッチング素子をON/OFFすることにより、図16 ①②③のような3相の相電圧を出力します。 線間電圧は、図16 ④⑤⑥のような波形になります。モータの巻き線は、抵抗とインダクタの直列回路なのでLPF(Low Pass Filter)と 等価となり、流れる電流は図16 ⑦⑧⑨のような正弦波に近い波形になります。このようにすると、出力したい周波数、 つまりモータの回転スピードがインバータで生成する正弦波の周波数で可変できます。

PWM波形

インバータとモータの接続図

三相インバータの出力波形

 5.2.インバータ測定のポイント
 モータで消費される電力を測定する場合、平均化区間を決める周期の検出には、キャリア周波数の周期でゼロレベルになる電圧波形 (図16 ④⑤⑥)より、正弦波に近い電流波形(図16 ⑦⑧⑨)を使用した方が安定して得られる傾向があります。 さらに周波数フィルタを通して重畳している高周波分を除去すると、より正弦波に近づき、周期がさらに安定します。
 また、インバータの出力電圧は、接地電位を中心にプラス、マイナスに振れるのではなく、ある電圧レベルを中心に接地電位からは すべてプラス側で振れています(図16 ①②③)。つまり、かなり高いコモンモード電圧がかかった状態での測定となります。 また、インバータから出力される電圧波形は、キャリア周波数でスイッチングされるパルス状の波形のため、高周波成分が多く含まれます。 図17のように電力計の入力端子にコモンモードの電圧Ucomがかかり、電力計内部でHigh側とLow側のインピーダンスに差があると、    の電圧がノーマルモード電圧に変換され、本来測定したいUsignalに加算されて測定されます。そのため、i1,i2を流れにくくするように Z1,Z2が大きく(つまり入力部と接地と間の容量結合が小さく)、さらにZ1とZ2の差、R1とR2の差が小さく設計され、 CMRR(Common Mode Rejection Ratio:同相信号除去比)が高周波まで大きな電力計で測定しないと、測定値の誤差が大きくなってしまいます。
 インバータの効率(=出力電力/入力電力)を測定する場合、インバータの入力電力と出力電力を同時に測定します(図18)。 このとき、入力側の信号の周期と出力側の信号の周期は一般に異なっています。電力が変動している場合、瞬時電力を平均化する区間が 入力側と出力側で異なると、効率が正確に求まらず、効率の測定値が100%を超えてしまうこともあります。電力が変動している場合は、 平均化する区間を入力側と出力側で一致させる必要があります。

コモンモード電圧の影響

インバータの効率測定

 5.3.インバータに関連する測定
 モータのメカニカルな出力は、トルクと回転スピードです。電力計にはトルクセンサの出力を測定する機能が搭載されているものもあります。 図18のように、モータに接続されたトルクセンサからのトルクとスピードの信号を電力計に入力することにより、 トルクとスピードの掛け算から求まるメカニカル出力と、モータへの入力電力からモータの効率を求めることができます。 また、インバータの入力電力とモータのメカニカル出力から、システム全体の効率を求めることも可能です。
 また、EVの場合、減速時にはモータを発電機として使用し、その電力でバッテリーに充電を行います。バッテリーの放電と充電が 頻繁に切り替わる場合でも、電流の向きを判定して、放電時の電力と充電時の電力を別々に積算することが可能な電力計を使えば、 バッテリーの特性の評価に役立ちます。

6.最近の高調波電流

 6.1.なぜ高調波電流規制があるのか
・高調波電流の発生原理
 家庭やオフィスのコンセントには、電圧100Vrmsの50Hzまたは60Hzの交流の正弦波がきています。そこに接続される電気機器が、 白熱電球のような受動素子のみから作られたものだけでなく、内部で交流を直流に変換するスイッチング電源を使用したものや、 インバータを搭載したものが増えています。交流を直流に変換する最も簡単な回路は、図19のようなダイオードブリッジと コンデンサを使ったものです。図20図19の回路の各部の波形を示しました。図20 ①の入力電圧u(t)は ダイオードで全波整流され、図20 ②の点線で示した整流後電圧ud(t)になります。整流後電圧ud(t)の方がコンデンサの 両端電圧uc(t)より高いと、コンデンサは充電され両端電圧uc(t)は上昇します。整流後電圧ud(t)の方がコンデンサの両端電圧uc(t)より 低くなると、負荷にはコンデンサから電流が流れ、コンデンサは放電し両端電圧uc(t)は下がっていきます。そしてまた整流後電圧ud(t)の 方がコンデンサの両端電圧uc(t)より高くなるとコンデンサは充電されます。このとき、電源からの入力電流i(t)は図20 ③の ようになり、コンデンサを充電する時間のみ流れるパルス状のひずみ波になります。

変換回路の例

各部の波形

  

 このような周期的なひずみ波を高調波成分を含んだ波形と言います。図21のように、周期的なひずみ波は、その周期と同じ周波数の 正弦波と、その周波数の整数倍の周波数の正弦波の合成波形で構成されています。ひずみ波の周期と同じ周波数の正弦波を基本波成分 (または基本波)、基本波成分の2倍の周波数の正弦波を2次高調波成分(または2次高調波)、基本波の3倍の周波数の正弦波を3次高調波成分 と呼んでいます。基本波成分と各高調波成分の振幅をバーグラフで表すと、図22のようになります。なお、ここで挙げたひずみ波の 例では、0レベルを境に、正側と負側の波形が線対称なので、偶数次の高調波の成分はすべて0になっています。

ひずみ波

高調波成分

    

・高調波による障害
 図23に、発電所から家庭のコンセントまでの接続を簡略して示しました。送電線には小さいですがインピーダンスがあり、 抵抗とインダクタで置き換えられます。機器1に電流が流れると、送電線のインピーダンスで電圧降下が発生します。 図23 ①のような電流が流れると、この電流は電圧波形のピーク値付近にのみ集中しているので、その部分だけ電圧降下が大きくなり、 柱上トランス1では図23 ②のように電圧のピーク付近がへこんだひずみ波になります。この電圧波形も周期的なひずみ波なので 高調波成分を含んでいます。この高調波を含んだ電圧が別の場所の機器2に供給され(図23 ③)、機器2に障害が発生することがあります。 障害の例を表1に示しました。誤動作や焼損など、大事故につながるものもあります。
 そのため、電圧に高調波が含まれてしまう原因を作っている、機器側で発生する高調波電流を抑制する規格があります。 表2に主な規格を示しました。

発電所から家庭の接続図

高調波障害の例   高調波抑制規格

 

 6.2.高調波規格の内容
 ここでは、家庭やオフィスで使われる電気電子機器が主な対象のIEC 61000-3-2 Ed3.2(2009)について規格の内容を説明します。 日本の規格のJIS C61000-3-2もIEC 61000-3-2を元に、日本特有の部分について変更を行っていますが、基本的な考え方は同じです。 例えば、電源電圧がヨーロッパでは230Vで、日本では100Vなので、JIS規格では、電流の限度値を 230V/100V=2.3倍するなどしています。

クラス分け   クラスAの限度値

・クラス別の限度値
 表3は、対象機器のクラス分けを示しています。各クラスによって、高調波電流の限度値が異なります。クラスAの限度値は表4のように、 電流値で規定されています。クラスBの限度値は、クラスAの限度値の1.5倍です。例えば、3次の高調波の限度値は、 2.30[A]×1.5=3.45[A]となります。クラスCで25Wを超える機器の限度値は表5のように、基本波電流に対する高調波電流の比率で 規定されています。また、3次高調波の限度値は、力率λが係数として掛かっています。力率λとは、有効電力P/皮相電力S の比のことです。 力率λが小さい機器では、3次高調波の限度値が厳しくなります。クラスCで25W以下の機器の限度値は、2種類の限度値のうちどちらかを 満たすことになっています。1つは、表6に示す電力比例限度値を満たすことです。もう1つは、表7の限度値を満たし、 さらに図24の波形の条件を満たすことです。クラスDの限度値は、表8に示すように、1Wあたりの高調波電流で規定される 電力比例限度値と最大許容電流値があり、両方を満たすことになっています。

クラスC 25W超の限度値   クラスC 25W以下の限度値1

 

クラスC 25W以下の波形条件

 

クラスC 25W以下の限度値2   クラスDの限度値

 

・機器の動作設定
 試験時の機器の動作設定は、規格書の付録に個別機器の試験条件が記載されているものはそれに従います。記載されていない一般の機器は、 総合高調波電流(Total Harmonic Current)  が最大になるようなモードに設定して試験を行います。
・観測期間
 観測期間は、機器の動作の違いによって、表9のように4種類に分類されます。準静止の場合の観測期間は、 繰り返し性の要求を満たす十分な時間となっています。繰り返し性の要求とは、図25のように複数回測定し、 その測定値のばらつきが±5%以下になることです。短周期的な場合の観測期間は、その周期の10倍以上の時間とします。 この方法が取れない場合、繰り返し性の要求を満たす十分な時間にするか、繰り返し性の要求を満たす同期化した時間にします。 同期化というのは、機器の動作周期の整数倍の時間にするという意味です。周期性がなくランダムな場合の観測期間は、 繰り返し性の要求を満たす十分な時間となっています。長周期的な場合の観測期間は、機器のプログラムサイクルの全部とします。 この方法が取れない場合、最も高いTHCがあると考えた代表的な2.5分間とします。
 このように定められた観測期間で測定した各次数の高調波電流値に対して、平均値が限度値以下、最大値が限度値×1.5倍以下、 という2つの条件を満たさなくてはなりません。

繰り返し性の要求

 6.3.高調波の測定方法
規格に沿った測定をするには、単相機器の場合は図26(a)のように、三相機器の場合は図26(b)のように電源、測定器、被試験器を接続します。 測定器はIEC 61000-4-7 Ed2.1:2009に定められている高調波解析機能が搭載されているものを使用します。IEC 61000-4-7には、測定器の精度、 アンチエリアシングフィルタの減衰量、高調波解析するときのFFT(Fast Fourier Transform)窓幅、測定値のアベレージングの時定数、 中間高調波のグルーピング方法などの規定があります。
 高調波電流の各次数の平均値や最大値を求め、限度値と比較し、また複数回測定し繰り返し性の確認を行う必要があるため、 測定器から高調波測定値をPCに取り込み、合否の判定を行うアプリソフトを利用するのが便利です(図27)。

測定回路

PCアプリソフトの例

 

 6.4.高調波測定のポイント
IEC 61000-3-2には、図26の供給電源にも表10のような規定がありますので、これを満たす交流安定化電源を使う必要があります。
 また、測定を始める前に、測定器の電流レンジを適切に設定する必要があります。規格では、高調波の測定は、取りこぼしなく連続で行うこと になっていますので、途中でレンジを変更して、測定を不連続にすることはできません。精度良く測定するためには、事前に電流波形のピーク値が ピークオーバーせず測れるレンジで、できるだけ小さいレンジに設定します。

供給電源

参考文献
数見昌弘, 河崎 誠:交流電力の基礎知識と電力測定器のしくみ, トランジスタ技術, 2005年2月号, p.191~200, CQ出版社
IEC 61000-3-2 Ed3.2:2009
IEC 61000-4-7 Ed2.1:2009
JIS C61000-3-2:2011

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