光通信における光パワー測定

(THE T&M LINK(Vol.17)2005年10月10日掲載)
通信・測定器事業部 要素技術開発センター 飯田 力弘

はじめに

近年、FTTH(Fiber To The Home)やADSL (Asymmetric Digital Subscriber Line)などのブロードバンドネットワークを利用したインターネット接続が急増しています。なかでも、光ファイバを使用するFTTHは高速・大容量のインターネット環境を提供する通信手段として増加の一途をたどり、私たちの生活に欠かせないものになっています。

現在の光通信技術では、10Gbit/s(1秒間に100億個のデジタル信号を送る速度)の光通信システムが実用段階に入り、髪の毛1本ほどのガラス繊維である光ファイバを通して毎秒新聞2年分の情報伝送が可能になっています。

このように発展めざましい光ファイバ通信の分野で、“光パワー”は最も重要な物理量測定項目のひとつです。ここでは、特に光ファイバ通信分野に着目した光パワー測定について、測定方法や注意点について解説します。

光ファイバ通信について

通信では、情報となる信号は、搬送波と呼ばれる一定の周波数の電磁波に重畳して伝送路や空間に送り出され、受信側で源信号を再生する方式がとられます。AMラジオの1200kHzなどという周波数が搬送波の周波数にあたります。

ここで、伝送する信号(情報)の量は搬送波の周波数に制限を受けるため、より多くの情報を伝送しようとするときは搬送波の周波数を高くする必要があります。光の速度が約30万km/秒であることはよく知られており、光ファイバ通信で使用される光の波長が1.55μm(1μmは100万分の1m)であることから、搬送波としての光の周波数は約190THz(1THzは1兆Hz)であることが分かります。これは、ラジオ・テレビなどの搬送波に対して比べ物にならないほど高い周波数であり、“光”を搬送波として使用する光ファイバ通信が、従来の通信方式の壁を打ち破る画期的な高速・大容量の通信方式であることが容易に理解できます。

1960年にルビーレーザの発振が報告されて以来、各種のレーザが開発され、超小型で良質な光を発し高速変調が可能な半導体レーザも登場しました。加えて、1970年に光ファイバが出現してからは、各種光デバイスや伝送路となる光ファイバの低損失化を目指した研究開発が活発に行われました。その成果として、私たちは、信号源(半導体レーザ)、伝送路(光ファイバ)、検出器(フォトダイオード)を手にすることができ、この後、光ファイバ通信は急速な発展を遂げることになります。

AM波
 

光パワー測定の基礎

光ファイバ通信に使用される発光デバイスの製造、伝送路となる光ファイバの製造・敷設、光カプラなどの受動光デバイスの製造の際に検査する、光出力、損失、反射などの特性は、光パワーを測定することによって求められます。
半導体発光デバイスは、電流を流すことによって光を発する素子で、製造時に駆動電流と光パワーの関係を全数検査されます。光パワーの単位はW(ワット)、または、1mWを基準とした対数表示のdBmが使用されます。

式

伝送路としての光ファイバは製造・敷設時に損失を検査します。損失は、入口の光パワー(Pin)と出口の光パワー(Pout)の比率によって表され、dBを単位とします。信号が半分に減衰するときの損失が3dBに相当することを覚えておくと理解しやすいと思います。良い伝送路は損失が小さく長い距離を伝送しても信号の減衰が小さいものです。シングルモード光ファイバの損失は約0.2dB/kmと低く、優れた伝送路であると言えます。

光ファイバの損失

受動光デバイスは製造時に損失や反射を検査します。反射は、入力光パワー(Pin)と反射光パワー(Pref)の比率によって表され、dBを単位として反射減衰量と呼ばれます。伝送路内に使用される受動光デバイスの反射が大きいと、戻り光による信号源への悪影響や、デバイス間の多重反射による伝送品質の劣化が起こります。このため、受動光デバイスの反射は極めて小さく抑える必要があります。

受動光デバイスの反射

 

実際の光パワー測定方法

光ファイバ通信の分野では、光検出器としてPD(Photodiode)が広く使用されています。PDは入射した光に比例した電流を発生する素子で、高効率、低雑音でかつ優れた直線性を持つため、測定器(光パワーメータ)にも使用されています。

PDに光が入射して起こる電流発生は、半導体のp-n接合に光が入射して起こるバンド間吸収による光起電力効果で説明されます。図5に示すように、エネルギーEの光(E=hν・・・hはプランク定数、νは光の振動数で波長の逆数)は空乏層内で吸収されて電子-正孔対を生成し、これがPDで発生する電流の素となります。このバンド間吸収は半導体固有の禁止帯幅よりも大きいエネルギーの光が入射したとき起こります。
すなわち、PDの種類によって測定できる波長の範囲が異なるということです。
波長400nm~1000nmではSi、800nm~1700nmではInGaAsのPDがよく使われています。

PDでの電流発生光パワー測定ブロック図

実際の光パワー測定における基本回路を図6に示します。まず、光インタフェースから入力された光はPDで電流となり、トランスインピーダンスアンプで電圧に変換されます。
この際、電流の大小によって利得の切り替えが行われます。次に、A/D変換器でアナログ電圧をデジタル変換し、更に、CPUでデジタル処理されます。デジタル処理では、後述するPDの波長感度やアナログ回路の非直線性などを補正します。そして最後にdBmやWの単位で表示やデータとして出力されます。

写真1は、当社のAQ2200マルチアプリケーションテストシステムです。AQ2200-2**シリーズの光パワーメータは高精度でかつ高速測定が可能で、光デバイスの製造ラインではスループットの改善に威力を発揮します。また、光源、光可変減衰器、光スイッチなどのプラグインモジュールを組み合わせることで、光通信分野の様々な測定要求に応えることができます。

光パワー測定の注意点

次に、光パワー測定の注意点について、PDの波長感度、干渉による影響に着目して説明します。

<PDの波長感度>

PDの種類によって測定できる波長の範囲が異なることは前に述べましたが、波長によって光を電流に変換する割合が異なる“波長感度”があることも知られています。図7は光通信で使用されるSi-PDとInGaAs-PDの代表的な波長感度特性で、波長によって感度が大きく異なることが分かります。単にPDで発生する電流を測定するだけでなく、測定光の波長感度を加味することで、はじめて正しい光パワー測定が可能となります。

光パワーメータは、この波長感度を補正する機能を持っています。測定光の波長を設定することで正確な光パワー測定ができます。

PDの波長感度特性

<干渉の影響>

近年、大容量光通信システムでは、単一波長の光だけを発するDFB LD(Distributed Feedback Laser Diode)が多く使わ れています。光はとても高い周波数の電磁波であり、波の特性を持っています。単一波長であることは、波として純粋な正弦波で あると言え、同位相の波が重なり合ったときに強めあい、逆位相のときに弱めあう“干渉”という現象が起こりやすい光です。光の干渉は、光コネクタや光部品が接続された複数の反射点がある 光ファイバ伝送路を、単一波長の光が伝搬するとき、多重反射によって引き起こされます。少しの波長の揺らぎもなく、光ファイバの長さが全く変わらない状態であれば、安定した光パワー測定ができるはずですが、実際はそうではありません。光源や光ファイバの設置状態、振動、温度変化などで波長や光ファイバの長さはわずかに変化します。このわずかな変化が“干渉ゆらぎ”を呼び 起こし光パワー測定値が不安定になるという悪影響を与えます。 この干渉を避けて安定した光パワー測定を実現する方法として、以下の3点があります。

  1. 光ファイバの設置状態を固定し、振動を避け、安定した温度環境とする。
  2. 光ファイバ伝送路内にある反射点の反射を極力小さく抑える。
    光コネクタの端面クリーニングを十分に行う。
  3. 単一波長の光にわずかな変調を与えて干渉しにくい光にする(コヒーレンス制御機能を使用する)。または、LED(Light Emitting Diode)などの干渉を起こさない光を使う。
光干渉の例

おわりに

近年、FTTHの工事などで一般の人が光パワーメータを目にする機会もでてきました。これだけ身近になってきた光通信の世界ですが、日々、新しい通信方式や光デバイスの研究開発が行わ れています。“光パワー測定”は依然として重要な測定項目であり、“光パワーメータ”は欠くことのできない基本測定器です。多くの種類の光パワーメータが各メーカから販売されていますが、使い方によっては正しい測定値が得られない場合もあります。測定光の波長を正しく設定する、安定した測定環境とする、接続やクリーニングへの配慮、光源の性質を知るなど基本的な注意点に対処したうえで、光パワーメータを正しく使用することが重要です。

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