低周波EMC規格対応の電源試験 高調波測定

1.概要

欧州市場で上市する製品には均一な安全性が要求されており、EU加盟国政府は自国の法令をEC指令に整合しなければなりません。
指令には、
   機械指令(Machinery Directive)、
   EMC指令(Electro-Magnetic Compatibility Directive)、
   低電圧指令(Low Voltage Directive)
があり、EMC指令の項目の中に低周波EMC規格(IEC61000-3-2、-3-12など)が含まれています。

上記の背景から、欧州で上市され一般消費者に販売されるほとんどの電気電子製品は、低周波EMC規格試験を実施し、規格に定められた限度値以内であることを確認する必要があります。低周波EMCとしては、高調波とフリッカ/電圧変動に対して規制されていますが、ここでは、最も対象が広いと考えられる16A以下の機器と16Aを超え75A以下の機器に対して求められている高調波の要求項目と試験方法を中心に説明します。

2.高調波規制の概要

スイッチング電源などのコンデンサインプット型の電源では、対策を行わない場合高調波電流が発生します。 このような電源を搭載した機器の普及により、商用電源に高調波ひずみが生じ、他の機器の誤動作、電力系統向けコンデンサ等の発熱などの問題が起こっています。 そのため、高調波電流を発生させる機器に対して高調波電流の限度値が決められています。そして、その試験では機器の最も高調波が大きくなる試験条件で実施することが求められています。

2.1. IEC61000-3-2  16A以下の限度値

機器によってA、B、C、Dのクラスに分けて、最高40次までの高調波電流の限度値が規定されています。各クラスの限度値は、測定観測期間内の平均値と最大値に適用され、平均値が限度値以内であること、および最大値が限度値の1.5倍以下であることが求められます。

IEC61000-3-2のクラス分けフロー
図1. IEC61000-3-2のクラス分けフロー

 

表1. 限度値の例 クラスDの限度値
限度値の例 クラスDの限度値

規格では限度値の適用以外に緩和処置の条件を設けていますので、その点に注意が必要です。例えば、21次以上の奇数時高調波については、部分奇数高調波電流POHCが限度値以下であれば、各次数の限度値の150%までが緩和処置として許容されます。

式

2.2. IEC61000-3-12 16Aを超え75A以下の限度値

相当たり16Aを超え75A以下の大型の機器の場合には、IEC61000-3-12が適応されます。規格内で用いられる用語とその意味は以下の通りです。

 Ssc  短絡電力(機器を接続する系統の容量で系統の強さを表す)
 Sequ  機器の定格皮相電力(メーカが規定する定格電圧と電流から算出)
 Rsce  短絡比(系統の強さRsceとそこにつなぐ機器定格皮相電力Sequの比)
 THD  総合高調波ひずみ
 PWHD 部分加重高調波ひずみ

この規格では、13次までの各高調波と40次までの高調波電流から算出した、総合高調波ひずみTHDおよび部分加重高調波ひずみPWHDで限度値が決められています。

式

16Aを超える大型機器では、その機器をつなぐ系統の高調波電流に対する強さの指針である短絡比Rsceの大きさごとに限度値のレベルが規定されています。この規格では、たとえ、高調波電流が発生しても、電力系統のインピーダンスが低く電圧ひずみが起こりにくい電源系統につなぐことに限定した場合には、機器で発生する高調波は大きくても構わないとの考え方を採用しています。
もっとも厳しいRsce=33による限度値を満たした場合は、どのような系統にも接続可能です。一方、そのRsce=33の限度値を越えたとしても、短絡比Rsceを大きくすれば限度値に入る場合には、そのRsceを決めて、そこから算出できる短絡電力Ssc値を対象製品の使用環境条件に明記すれば規格に適合させることもできます。なお、この場合でも偶数次高調波は短絡比Rsceによって限度値のレベルが変わらないので注意が必要です。

表2. IEC61000-3-12の限度値例 平衡三相機器以外の機器の限度値
IEC61000-3-12の限度値例 平衡三相機器以外の機器の限度値

 

2.3. IEC61000-4-7 高調波の試験方法

IEC61000-3-2およびIEC61000-3-12はいずれも機器の高調波の限度値を取り決めた規格です。一方、試験方法はIEC61000-4-7で規定されています。
試験方法は1991年版から2002年版で大きく改訂されました。

規格 第1版:1991 第2版:2002
DFT解析ウインドウ幅 16波(50Hz,60Hz) 10波:50Hz
12波:60Hz
中間高調波 測定値に反映させない 測定値に反映させる(グルーピング)
附属書A(参考) 中間高調波グループ化、中間高調波
サブグループ化の演算式

図2と図3で測定原理を説明します。
DFT解析ウインドウ幅はIEC61000-4-7第1版:1991では16波固定で、基本波の整数倍のみの高調波のみを測定します。しかし、第2版:2002から50Hzは10波測定、60Hzは12波測定に変更、中間高調波の測定も必要となりました。
これは消費電流特性が変動する機器やスイッチング制御の多用により、基本波成分の整数倍以外の高調波が無視できなくなってきたためです。

IEC61000-4-7 1991の測定原理
図2. IEC61000-4-7 1991の測定原理


IEC61000-4-7 2002の測定原理
図3. IEC61000-4-7 2002の測定原理

規格試験では、ノーギャップ, ノーオーバーラップが求められているため、高速なフーリエ変換を実現する必要があります。また高調波電流の測定精度も大変厳しい要求となっています。そのため規格試験には専用のアナライザが必要になります。
現在も移行期間中であり、1991年版による方式のアナライザでも、試験結果にその旨を明記すれば使用が認められていますが、いずれ置き換えが必要になります。測定の原理的な違いから測定結果が根本的に異なる可能性が高いため、予備的な試験も含めて2002年版による試験を実施したほうが望ましいと考えられます。

3. 低周波EMC規格試験向けの機器の構成

図4に、IEC試験行う構成例を示します。 IEC試験では、試験用AC電源にも精度および電源ひずみ率の上限などの条件が決められています。そのため、低ひずみ高精度交流電源が必要です。またフリッカ/電圧変動試験では系統のインピーダンスを模擬するリファレンスインピーダンスネットワーク(RIN)が必要です(弊社では、エヌエフ回路設計ブロック社製の電源とRINの使用を推奨しています)。
図4のプレシジョンパワーアナライザWT5000は、IEC61000-4-7 2002年版に対応した高調波測定機能とフリッカ測定機能を持つ高精度電力計です。規格試験だけではなく、機器の消費電力関連の評価に幅広く使うことができます。専用の電流センサー等と組み合わせることで、大電流規格であるIEC61000-3-12にも対応が可能です(近日対応予定)。
前述の通り、規格ではクラス分けや限度値、緩和処置の適用など面倒な設定や規格の理解が不可欠です。専用ソフトウェアは、クラス分け, 限度値判定, 緩和処置の適応から試験レポート(報告書)の作成までをサポートするソフトウェアです。この利用により、規格試験とレポート作成時間の大幅な削減が可能になります。

IEC規格試験の構成

図4. IEC規格試験の構成例

 

4. まとめ

ここで紹介したプレシジョンパワーアナライザWT5000は省エネ機器の開発、設計から完成品検査まで幅広く使用されています。
省エネ機器の消費電力関連の試験で幅広く活用されることを期待します。

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