スコープコーダの基礎知識 第1回|スコープコーダとは?

目次

スコープコーダの基礎知識 第1回|スコープコーダとは?

はじめに

交流電力網の拡大とともに長い送電線や電気系統の現象を知る必要性を背景として、低周波の電気信号の波形を観測したいという要求が起こった。19世紀の末に英国の技術者であるウィリアム・ダッデル(William Duddell)が電磁オシログラフを発明し、これが低周波の波形観測の起源となっている。1970年代になると波形測定に適したA/D変換器が登場したことによって、波形測定のディジタル化が始まった。
さまざまな現象の変化を人の見える形にする計測器には、記録計・データロガー、メモリーレコーダ、オシロスコープがある。それぞれの違いは下表のようになる。

表1.記録計・データロガー、メモリーレコーダ、オシロスコープの違い

  周波数
帯域
最大
入力数
入力
形式
主な入力信号
電気信号 センサー信号
電圧 電流 温度 圧力 流量 振動騒音 トルク ひずみ
記録計
データロガー
DC ~
数 Hz
1000 ch 絶縁    
静ひずみ
メモリーレコーダ DC ~
数 MHz
32ch 絶縁
非絶縁
オシロスコープ DC ~
数百M Hz
8 ch 非絶縁            

注)最大入力数として示したのは、記録計ではSMARTDAC+(横河電機製)、メモリーレコーダではDL950、オシロスコープではDLM5000である。

本記事では、一般的な呼称のメモリーレコーダに分類される弊社のスコープコーダを理解する上で必要な基礎知識を4回に分けて解説する。
スコープコーダはオシロスコープと操作法や外観は似ているが、オシロスコープが主に電圧・電流の波形を観測するのに対して、スコープコーダは電圧・電流に加えさまざまな物理現象を多点で観測するのに用いられる。
低周波の波形測定は、一般の家庭や工場に配置される配電盤やコンセントに供給される交流電源だけではなく、機械の挙動、電気化学現象の観測、生体の観測にも使われている。このため、電磁波など環境ノイズに強い設計が求められる。
スコープコーダが多く使われるメカトロニクス機器やパワーエレクトロニクス機器での利用事例を多く紹介する。

図1.高速データロガー|スコープコーダ DL950

図1.スコープコーダ DL950

本記事では、スコープコーダの構造、測定事例、使用上の注意点などを解説する。記事を読むための特別な事前知識を必要としない、初めてスコープコーダを使用する人が学ぶための内容とした。
今回の記事執筆では、小野測器様、共和電業様、富士セラミックス様のご協力を頂いた。

スコープコーダを使った計測

最初に、スコープコーダが使われる分野の事例を示して説明する。スコープコーダの特長は、機器や装置の挙動をさまざまなセンサーと組み合わせられる点である。

メカトロニクス計測

メカトロニクス(mechatronics)という言葉は、1969年に安川電機の技術者であった森徹郎氏によって作られた「機械装置(mechanism)と電子工学(electronics)の知見を融合させる」という和製英語である。現在では、多くの機械装置が電子制御されているため、海外でも一般的に使われるようになった。ディジタル化した電子機器では、機械やアナログ回路だけではできない高度な制御が行えるようになり、機械の効率的な運転ができるようになった。
例えば、電動アシスト自転車では、人の足の力にモーターの力を加えて坂道でも容易に自転車を使える仕組みが組み込まれている。電動アシスト自転車の評価をする際には、電気とその他の物理量を同時に測定する必要があり、スコープコーダが使われる。

図2.電動アシスト自転車の評価

図2.電動アシスト自転車の評価

パワーエレクトロニクス計測

パワーエレクトロニクスという言葉は1973年にウェスティングハウス社のウイリアム・ニューウェル (William E.Newell)博士が定義したもので、パワー(power)、エレクトロニクス(electronics)、制御(control)の技術が融合した分野とされた。メカトロニクスとパワーエレクトロニクスは重なる部分が多いので、厳密に使い分けられていない。
例えば、スイッチング電源の制御動作やスイッチングトランジスタで生じる損失を温度で観測したい場合は、下図のようになる。温度センサーには一般的に熱電対が使われる。

図3.スイッチング電源動作の観測

図3.スイッチング電源動作の観測

アコースティック・エミッション計測

アコースティック・エミッション(acoustic emission)は、材料の亀裂や摩耗の発生・進展などの破壊により発生する弾性波(振動、音波)であり、超音波領域での測定が必要になる。アコースティック・エミッションは略してAEと呼ばれる。アコースティック・エミッションの測定には、圧電材料のPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)を使ったAEセンサーが使われる。主に材料評価や保守点検、振動解析に用いられる。ここ最近では故障予知に用いられる場面が増えている。
下図にはモーターを構成する主要部品である軸受(ベアリング)の亀裂や摩耗の診断での構成を示した。軸受の評価には、亀裂や摩耗による初期の一時的な現象はAEセンサーで検出され、亀裂や摩耗が進むと振動など二次的な現象が生じて振動センサーで検出されるようになる。より劣化が進むと摩擦により、温度の上昇などが生じる。

図4.AEセンサーによるベアリング試験

図4.AEセンサーによるベアリング試験

【AEセンサーを基礎から学びたい方へ】
富士セラミックス様のホームページにAEセンサーについて判りやすい解説が掲載されている。

AEセンサーの概要
https://www.fujicera.co.jp/wpkanri/wp-content/uploads/2022/02/ 33474c65c79dec9f3a4e5857feae441f.pdf 

AEセンサーの応用分野
https://www.fujicera.co.jp/wpkanri/wp-content/uploads/2022/02/ fbdbe74a9be4cefe973d667580e6c237.pdf 

電気化学計測

電池(一次電池、二次電池、燃料電池)やメッキなどは電気化学の領域である。この分野では、インピーダンス測定によって電気化学現象を観測することがよく行われる。
電池の内部の状態を推定するために、交流インピーダンス法によって測定してコールコールプロット(ナイキストプロット)を描さ、電池の内部を等価回路で表すことがある。インピーダンス測定では発振器と波形測定器が必要になるが、一般には専用の周波数分析器(FRA)が用いられる。
簡単に電池の内部インピーダンスを把握する方法として、電流遮断法がある。
この場合は、下図のような仕組みを構築して、負荷変動による応答を観測してインピーダンスを推定する。

図5.電流遮断法による燃料電池のインピーダンス測定

図5.電流遮断法による燃料電池のインピーダンス測定

生体信号計測

生体信号を測る医療機器の評価にスコープコーダが使われる。生体信号の測定には、微小信号を扱うため、専用の高感度差動増幅器が使われる。
また、測定周波数帯域は、脈拍変動波で0.7 ~ 12 Hz、脳波で0.5 ~ 30 Hz、心電図波形で0.05 ~ 100 Hz、筋電図波形で5 ~ 500 Hzが一般的である。
下図は電子血圧計を評価する際にスコープコーダを利用した事例である。電子血圧計の動作シーケンスと測定値を同時に測定、評価できる。

図6.電子血圧計の評価試験

図6.電子血圧計の評価試験

スコープコーダの種類

スコープコーダには、研究開発・設計から生産や保守の現場まで幅広い分野に応じた製品がある。

ベンチトップ型 DL950

DL950は持ち運びができるベンチトップ型である。センサーの接続部分は測定用途の特長に合わせたモジュール方式になっている。
画面表示部分は大画面の12.1型液晶タッチパネルを搭載する。
最大32チャネル、最高200 MS/s、最長50日の長時間記録が可能だ。
本体に搭載されたDSP演算回路によるリアルタイム演算機能を使い、測定結果と波形演算結果、電力演算結果を同時に表示、保存できる。

図7.ベンチトップ型のスコープコーダ DL950

図7.ベンチトップ型のスコープコーダ DL950

バッテリ駆動ポータブル型 DL350

主に現場や屋外での持ち運びが必要な場面を想定して、A4サイズ、3.9kgの小型サイズ。本体はAC電源に加え外部DC電源やバッテリでも駆動が可能なように作られている。
ノイズ環境に強い8.4型薄膜抵抗方式タッチパネルを採用し、スタイラスペンや手袋をしたままでの操作も可能だ。
最大8チャネル、最高100 MS/s、最長50日の長時間記録が可能になっている。

図8.バッテリ駆動ポータブル型のスコープコーダ DL350

図8.バッテリ駆動ポータブル型のスコープコーダ DL350

システム組み込み型 SL1000

高速データアクイジションユニット SL1000は、実験装置や生産検査装置などシステム製品に組み込むことを目的に作られたスコープコーダシリーズである。
最大16チャネル、最高100 MS/sで、内蔵ストレージに加えて外部から制御するコンピュータのストレージへの連続記録が可能だ。
最大8台を連結同期可能で、最大128チャネルに拡張できる。
計測システムを構築する際にラックマウントに最適な形状であり、システム組み込み型の設計・開発者に向けた製品である。

図9.システム組み込み型の高速データアクイジションユニット SL1000

図9.システム組み込み型の高速データアクイジションユニット SL1000

【ミニ解説】 スコープコーダの歴史

一般的な呼称のメモリーレコーダは、オシロスコープと記録計/データロガーの中間的な位置付けであるため、各計測器メーカーが独自の商品名を付けている。
横河計測は、長年に渡って下図に示すように多くのレコーダを作ってきた。

図10.スコープコーダの歴史

図10.スコープコーダの歴史

初期の頃は「サウンド・バイブレーション・モニタ」や「ウェーブメモライザ」という名称だったが、3655が登場した時に「アナライジングレコーダ」という名称になった。現在は、製品の特長を表すオシロスコープの「スコープ」とレコーダの「コーダ」を組み合わせた「スコープコーダ」という名称になっている。
日本では海外に比べてベンチトップ型の需要が多いことが特長だ。背景には、「すり合わせ」を得意とする日本のモノづくりでは、「現場、現物」を重視して技術者が機器や装置の現象を徹底的に観測する要求が多いためと思われる。

メカトロニクスやパワーエレクトロニクスの分野での測定要求

スコープコーダはさまざまな用途に使われるが、最も活躍の場面が多いのはメカトロニクスやパワーエレクトロニクスの分野である。ここでは、メカトロニクス機器やパワーエレクトロニクス機器の測定における要求を解説する。

多点絶縁入力

メカトロニクス機器やパワーエレクトロニクス機器の信号を観測する箇所は多くなることがある。また、高電圧を測定する事やコモンモード電圧が異なる測定箇所を同時に観測しなければならないことがある。このような測定を行うには、人への安全の確保や計測機器の破損を防がなければならない。そのために、スコープコーダの入力モジュールのほとんどが絶縁されている。入力が絶縁されていない計測器が下図のように接地されていない場合、計測器筐体が電位を持ち、人が感電するリスクがある。大きなコモンモード電流が流れた場合は配線や計測器に損傷を与えることもある。一般的なオシロスコープやスコープコーダの非絶縁入力モジュールは入力が絶縁されていないので、被測定物への配線に注意し、確実に接地することが重要である。

図11.入力が絶縁されていない場合の感電リスク

図11.入力が絶縁されていない場合の感電リスク

スコープコーダは下図のような絶縁構造である。モジュールから本体への信号線とモジュールへ供給する電源線は絶縁がされている。最大入力電圧はモジュールで異なるため、スコープコーダのカタログや取扱説明書で事前に確認が必要である。

図12.絶縁された入力回路を持つ波形測定器のブロック図

図12.絶縁された入力回路を持つ波形測定器のブロック図

電源を絶縁する方法には一般にトランスが用いられる。信号を絶縁するための絶縁方式にはいくつかの種類が存在する。用途に応じて最適な絶縁素子が選ばれている。

図13.さまざまな信号絶縁方式

図13.さまざまな信号絶縁方式

高速200MS/s 14ビット 絶縁モジュールでは、高速に測定データを入力モジュールから本体にシリアル伝送するために、光ファイバーを用いた絶縁素子を使った製品がある。

図14.高速200MS/s 14ビット 絶縁モジュールの信号絶縁

図14.高速200MS/s 14ビット 絶縁モジュールの信号絶縁

高分解能測定

オシロスコープやスコープコーダは、A/D変換器を用いてアナログ波形信号をディジタル波形データに変換する。変換を行う順番は変化する信号を掴んで固定化する標本化、アナログ信号をA/D変換器の分解能に割り振る量子化、最後に量子化された信号をディジタルデータ化する符号化の流れとなる。

図15.A/D変換器の動作過程

図15.A/D変換器の動作過程

スコープコーダでは、機器や装置の振動や信号ノイズをFFT解析する場合や信号を拡大して観察する場合があるため、入力モジュールに使われるA/D変換器のビット分解能は12 ~ 16ビットとオシロスコープより高分解能のA/D変換器を採用している。

高電圧/大電流測定

大型のパワーエレクトロニクス機器には数千Vくらいの高電圧で動作するものがある。スコープコーダでは、パッシブプローブで最大1000 V、高電圧差動プローブ 701977で最大7000 Vの波形観測も可能だ。

図16.パワーエレクトロニクス機器の装置電圧と装置容量

図16.パワーエレクトロニクス機器の装置電圧と装置容量

また、電流も電流プローブでは測定できない1000 Aを超える場合は、電流センサーと外部電源を接続して測定することができる。

センサーとの接続

メカトロニクス機器では機械の動作や状態を測ることが多く、電気量以外の物理量を測るためのさまざまなセンサーが使われる。センサーからの信号は一般的にトランスデューサ(信号変換器)を介してオシロスコープやスコープコーダに接続される。センサーによって接続する端子、コネクタ形状が異なり、スコープコーダのモジュールは、温度、加速度、ひずみなどのセンサーを直接接続できる構造になっている。
また、スコープコーダの演算機能を使い、電圧入力信号から希望する単位への変換が可能で、センサー出力値の直読ができる。

表2.メカトロニクス機器の測定に使われるさまざまなセンサー

測定量 主に使われるセンサーの例
電気量 電圧 分圧器、電圧プローブ
電流 電流プローブ、電流センサー
物理量 温度 熱電対、測温抵抗体、サーミスタ
変位 渦電流変位センサー、超音波変位センサー
速度 レーザードップラ速度センサー
加速度 圧電型加速度センサー
回転角 光学式エンコーダ、レゾルバ
回転速度 磁気式回転検出器
トルク 歯車位相差トルクセンサー、フランジ型トルクセンサー
ひずみ ひずみゲージ
重さ ロードセル
音、振動 計測用マイクロフォン、AEセンサー
圧力 抵抗膜厚力センサー、MEMS圧力センサー
流量 電磁流量センサー、渦流量センサー
その他の量 位置 GPS
個数 光電式センサー、近接センサー

ディジタル信号入力

メカトロニクス機器の多くはマイクロプロセッサを搭載し、ディジタル制御されている。このため、機器や装置の動作を観測する場合は、アナログ信号だけではなくディジタル信号を同時に取り込む必要がある。下図は、洗濯機のモーター駆動パワーモジュールの制御ディジタル信号はロジックプローブを使って取り込む事例である。

図17.スコープコーダを使って洗濯機の動作を観測する事例

図17.スコープコーダを使って洗濯機の動作を観測する事例

耐ノイズ特性

メカトロニクス機器やパワーエレクトロニクス機器は大きなエネルギーの制御を行うため、場合によって、ノイズの発生源となる。一般に電子計測器に影響するノイズは、伝導ノイズ、放射ノイズ、誘導ノイズの3種類に分類することが多い。伝導ノイズはケーブルなどを経由して伝わるノイズを指す。放射ノイズは空間を電波として伝わるノイズを指す。誘導ノイズは他の装置・機器の影響を受け、伝わるノイズを指す。

図18.電子計測器への伝導、放射、誘導によるノイズの伝わり方

図18.電子計測器への伝導、放射、誘導によるノイズの伝わり方

ノイズ対策は電子計測器が置かれた環境によって異なってくるが、スコープコーダでは入力を絶縁してノイズ信号が流れ込まないようにする工夫や、入力に周波数帯域を制限できるフィルター機能などがある。

波形測定器の構造を理解するための基礎知識

A/D変換器とメモリーを組み合わせた波形測定器の構造を理解するための基礎知識について解説する。

繰り返し波形観測と単発波形観測

波形観測をする場合の対象には、発振器の波形のように同じ信号を繰り返し発生する波形と衝突現象のように繰り返しがない波形がある。繰り返し波形はオシロスコープで観測する。衝突現象のように繰り返しがない波形はスコープコーダで観測することが有効である。
それぞれの波形観測では計測器に要求される機能は異なってくる。繰り返し波形の観測では、トリガディレイ機能やトリガホールドオフ機能を使って観測したい波形のみを測定する信号の中から抽出することができる。一方、繰り返しがない単発波形では取り込んだ波形データから観測したい部分を探すことになるので、現象を一括して取り込むための大容量の波形メモリーが必要になる。

表3.繰り返し波形と単発波形の観測事例と要求機能

発生頻度 観測事例 波形測定器への要求機能
トリガ
機能
トリガ
ディレイ
機能
トリガ
ホールド
オフ
機能
波形
メモリー
繰り返し
  • 発振回路の出力波形観測
  • 発電機の出力波形観測
  • ディジタル回路のTr/Tf観測
小容量
単発
  • ノイズ現象の観測
  • 衝撃現象の観測
  • 爆発現象の観測
  • 負荷応答の観測
  • 通信信号の観測
  • 起動時の挙動観測
大容量

〇:有効 △:一部の現象では有効でない場合がある

A/D変換器の分解能

観測する波形をアナログ信号からディジタルデータに変換するのがA/D変換器である。A/D変換器にはビット分解能があり、分解能が高いA/D変換器のほうが同じサンプルレートでもアナログ波形を高い再現性で取り込むことができる。下図に判り易くするために2ビットから4ビットのA/D変換器での正弦波の取り込み事例を示す。

図19.ビット分解能の違いによる波形の再現性

図19.ビット分解能の違いによる波形の再現性

スコープコーダのモジュールに使われるA/D変換器は12ビットから16ビットである。電気信号の観測にはMHz単位の周波数が必要となるので、12ビットから14ビットの高速高分解A/D変換器が使われる。振動や衝撃を測定する場合は16ビットの高分解能A/D変換器が使われる。A/D変換器にはFFTアナライザに使われているより高分解能な24ビットがあるが、広いダイナミックレンジより広い周波数帯域が必要とされるスコープコーダでは使われていない。
下図に示すようにA/D変換器にはさまざまな種類があり、入力モジュールの仕様にあったA/D変換器が選ばれている。

図20.A/D変換器のビット分解能とサンプリング周波数

図20.A/D変換器のビット分解能とサンプリング周波数

波形メモリー長とサンプルレート

A/D変換器によってサンプリングされてディジタルデータ化された波形データは波形メモリーに保存される。波形データを保存するための仕組みで重要になるのが波形メモリー長(レコード長)とサンプルレートになる。波形メモリー長が大きいほど波形を測定できる時間は長くなる。その関係は、次の基本関係式で表される。

測定時間 = レコード長 ÷ サンプルレート

また、単位時間当たりのサンプル数が多い(=サンプルレートが高い)ほど、時間軸上で波形を細かく観測できることになる。
下図は同じ波形を1秒間に10回取り込んだ場合と1秒間に50回取り込んだ場合の違いを示す。

図21.サンプルレートの違いによる波形の再現性

図21.サンプルレートの違いによる波形の再現性

波形観測の起点を決めるトリガ

波形観測をする場合は、波形を取り込む起点を決める必要がある。記録計で観測する温度のようなゆっくりした現象であれば、人が波形の記録を始める起点を手動で設定することができる。しかし、オシロスコープやスコープコーダでは信号の変化が速いため、人が手動で波形観測の起点を決めることはできない。そのため信号波形から測定の起点を決める。
最もよく使われるのはシンプルトリガで、設定したトリガレベルを信号が横切った時を測定の起点とする。下図に示すようにトリガレベルは任意に設定でき、信号が横切る方向も設定が可能となっている。

図22.シンプルトリガの設定と動作

図22.シンプルトリガの設定と動作

スコープコーダではシンプルトリガ以外の拡張トリガが用意されている。例えばDL950では下図のトリガ設定が可能である。拡張トリガを使うと複雑な波形であっても観測したい波形を確実に捉えることができる。

図23.DL950のトリガ機能

図23.DL950のトリガ機能

【コラム】電気学会「でんきの礎」に選ばれた電磁オシログラフ

現在では波形観測はオシロスコープやメモリーレコーダなどディジタル化された計測器が主流となっているが、約100年前の低周波の波形測定器は機械式であった。現在では使われなくなっているが、下図のような指針のないメーター(振動子)の軸に小さな鏡を付けて、強い光を鏡に当てて反射光を感光紙に記録する仕組みであった。振動子はメーターと同じように電流が流れると回転するように作れている。指針がなく軽いため高速の信号にも応答できた。

図24.電磁オシロフラフの構造

図24.電磁オシロフラフの構造

電磁オシログラフは1893年に英国のケンブリッジリサーチ社のW. D. B. Duddelによって考案され、1920年に米国のウェスティングハウス社が発変電所での交流電源波形の観測のための測定器として販売されたのが始まりである。日本では横河電機が1927年に下図の製品を開発し、電気試験所(現:産業技術総合研究所)や各研究教育機関に納入した。電磁オシログラフは当時は電磁型オッシログラフと呼ばれていた。横河電機が開発した電磁オシログラフは日本の産業発展に貢献したとされて、2021年に電気学会から「でんきの礎」として記録に残されることになった。

図25.電気の礎に選ばれた横河電機の電磁型オッシログラフ

図25.でんきの礎に選ばれた横河電機の電磁型オッシログラフ

電磁オシログラフは1980年代くらいまで広く使われており、横河電機は1977年に最後の電磁オシログラフを発売している。電磁オシログラフが使われた分野は現在のメモリーレコーダと同じであり、日本の高度経済成長期に登場した新幹線などの開発に使われた。しかし電磁オシログラフに使う感光紙が高額であったため、ディジタル回路によって構成されたメモリーレコーダやオシログラフィックレコーダに置き換わっていった。

【波形測定器の歴史を学びたい方へ】
元横河電機の松本栄寿氏が2012 年の電気学会誌に寄稿された以下の記事が電磁オシログラフからデジタルオシロスコープまでの歴史を判りやすく解説している。

オシロスコープの技術変遷「電気を眼で見るオシロスコープ」の旅
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieejjournal/ 132/1/132_1_33/_article/-char/ja/ 

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Precision Making

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