スコープコーダの基礎知識 第3回|振動、騒音、トルク、ひずみの計測
スコープコーダの基礎知識 第4回|車載ネットワーク計測(CAN/LIN/SENT)とノイズ対策
第3回では、振動、騒音、回転、トルク、ひずみの測定に使うモジュールについて解説を行う。
メカトロニクス機器ではモーターやエンジンなど動力装置が組み込まれているため、機器や装置から発生する振動を測ることが多い。
振動を測るセンサー
振動は物体が動くことなので、変位、速度、加速度を測ることによって振動の挙動を観測できる。変位、速度、加速度は微分、積分の関係にあるため、いずれかを測ることによってそれぞれが求められる。変位、速度、加速度はそれぞれセンサーがある。
図50.さまざまな振動センサー
出典:「加速度センサの概要」(富士セラミックス社ホームページ)
下図に示すように、振動の周波数によって変位、速度、加速度のセンサーのいずれを選ぶかが決められる。
図51.振動計測での変位、速度、加速度の守備範囲
出典:『基礎からの周波数分析(27) - 「振動計測の基礎―5」』(計測コラム emm176号 小野測器)
振動測定では、圧電素子を使った加速度センサーは安価で取り扱いが簡単なのでよく使われる。圧電型加速度センサーには圧電素子からの検出信号を直接取り出す電荷出力型とチャージアンプを組込んだアンプ内蔵型がある。
図52.代表的なアンプ内蔵圧電型加速度センサー(富士セラミックス)
出典:富士セラミックス社ホームページ
下図に示すように圧電型加速度センサーと測定対象の物体はさまざまな固定方法がある。
図53.測定対象の物体と圧電型加速度センサーの固定方法
出典:「取り扱い方法/用語解説」(富士セラミックス社ホームページ)
それぞれのセンサーの固定方法によって周波数特性が異なるので注意が必要となる。
図54.圧電型加速度センサーの固定方法の違いによる周波数特性
出典:「取り扱い方法/用語解説」(富士セラミックス社ホームページ)
【加速度センサーの使い方について詳しく知りたい方へ】 |
加速度モジュール
DL950には40kHzまでの振動を観測するためのモジュールが用意されている。加速度センサー駆動用電源がモジュールに組込まれているため、アンプ内蔵型加速度センサーを直接接続できる。モジュールの仕様は下表の通りである。
表8.加速度モジュールの仕様概要
区分 | 形名 | 最高 サンプル レート |
分解能 | 周波数 帯域 |
入力 ch 数 |
入力 形式 |
入力 コネクタ |
最大 入力 電圧 |
最大 定格 対地間 電圧 |
DC 確度 | 残留 ノイズ レベル (typ) |
コモン モード 除去比 |
電圧 / 加速度 |
701275 | 100 kS/s | 16 bit | 40 kHz | 2 | 絶縁 | BNC (金属タイプ) |
42 V | 42 V | ±0.25% (電圧) ±0.5% (加速度) |
±100 µV または ±0.01 div |
80 dB 以上 |
加速度モジュールのブロック図は下図の通りである。入力は絶縁されているが対地間の最大電圧は42 Vであるため、電位を持った物体に加速度センサーを取り付ける場合は別途絶縁する必要がある。
図55.加速度モジュール(701275)
電荷出力型の加速度センサーを利用する場合は、外部にチャージアンプもしくはチャージコンバータを用意する必要がある。下図は電圧出力型の加速度センサーを加速度モジュールと電圧モジュールに入力する場合の事例を示したものである。
図56.電荷出力型加速度センサーをDL950に接続する場合の結線
【振動測定について詳しく学びたい方へ】 |
メカトロニクス機器やパワーエレクトロニクス機器からは機械的な振動などさまざまな騒音が発生する。騒音を分類すると下表のようになる。
表9.機器や装置から発生するさまざまな騒音
燃焼騒音 | 燃焼による発熱によって気体の密度変化、圧力変化、エントロピー変化を生ずることから燃焼騒音が発生し、これは爆発音、燃焼音、排気音などに大別される。 |
流体騒音 | 流体の噴出による噴流音、物体に流体があたるときその後方に生ずる流体の乱れによる後流音、流体機械の羽根のように単位時間に一定数の固体と流体の衝撃回数による衝撃音などに分類される。 |
機械的騒音 | 固体と固体の接触や衝突に起因する他励的騒音と、固体自体の振動に起因する自励的騒音に大別され、多くはその両方の要因をともに含んでいる場合が多い。 |
電磁的騒音 | 電気機械の場合には、電磁的な原因すなわち電磁作用に基づく吸引力と反発力の繰り返しが起振力となって各部を振動させ騒音が発生する。 |
出典:福田基一 “機械の騒音防止計画と騒音防止対” 環境技術学会誌 1973年 Vol.2 No.10 P21-26
騒音の測定は、測定対象以外の暗騒音が含まれないようにするため、暗騒音と十分にレベル差を確保できる環境(例えば無響室)で測定することが望ましい。騒音の発生源となる回路や部品の挙動と騒音の関係を明らかにしていくためにスコープコーダは使われる。下図にはEV用の大容量急速充電器の騒音測定の事例を示す。騒音の測定は、騒音計を周波数による重み付けを行っていないZ特性に設定してアナログ出力をスコープコーダに接続して測定する。
図57.EV用の大容量急速充電器の騒音測定
【音の基礎から学びたい方へ】 |
メカトロニクス機器ではモーターやエンジンなどの動力源が使われるため、トルク測定が行われる。トルク測定にはトルク検出器が使われる。トルク計測は回転機器を評価する際には必須となっている。
トルク検出器
トルクとは回転する機械などの回転軸に発生する力を表現したものである。日常生活の中では自動車のタイヤホイールをネジで自動車に取り付ける場合、安全のため規定されたトルクでネジを締め付けることが必要であり、整備工場ではトルクレンチというトルク測定機能を持った工具が使われる。
下図に示すような装置が発生するトルクは、半径R(単位はm(メートル))に加えられた力F(単位はN(ニュートン))の積N(N・m(ニュートンメートル))で示される。
図58.トルクの定義
出典:生命現象を物理的に理解していく(大阪大学 石島秋彦研究室ホームページ)をもとに作成
トルクの値を検出するセンサーがトルク検出器である。トルク検出器には下図に示すようにさまざまなものがある。トルク検出器は制御のためにメカトロニクス機器に組み込まれて使われることが多くある。この中で計測用に使われるのが電磁歯車位相差方式、電磁誘導位相差方式、ひずみゲージ式、磁歪式である。
図59.さまざまな原理を使ったトルク検出器
電磁歯車位相差方式のトルク検出器を事例として下図に基本構造を示す。トルク検出器は駆動装置と負荷装置の間に置かれ、トルク検出軸のねじれを2つの歯車と電磁ピックアップ(電磁式検出器)によって位相差として検出する。その位相差からトルクが導き出される仕組みとなっている。実際の電磁歯車位相差方式のトルク検出器では軸の回転が停止してもトルクが測れるように電磁ピックアップ(電磁式検出器)が回転する仕組みになっている。
図60.電磁歯車位相差方式のトルク検出器の内部構造
出典:トルク検出器の測定原理について(小野測器社ホームページ)
測定用に使われる代表的なトルク検出器は下図のような外観をしている。トルク検出器の種類ごとに特長が異なるので用途に合わせた選定が必要になる。
図61.測定に使われる代表的なトルク検出器
トルク検出器を使う場合は以下の注意が必要となる。
【トルク検出器についてより知りたい方へ】 |
スコープコーダによるトルク測定
トルク検出器からはトルク信号と回転信号が得られる。
下図にEV用のモーター/インバータの試験をする際の事例を示す。この事例ではモーターを駆動するインバータの電気的な挙動とモーターの駆動状態を同時に観測できる。
図62.EV用モーター/インバータの測定
周波数制御やパルス幅制御を行っている機器やモーターやエンジンなどの回転機械の回転数(回転速度)の変化を観測する場合には時間測定ができる周波数測定モジュールが使われる。
回転センサー
電気信号であれば周波数モジュールに直接入力して時間測定が可能になるが、回転する物体の回転数(回転速度)や回転角を知るには回転センサーを使う必要がある。回転センサーには下図に示すような分類がされて、出力形式は電圧値、波形列、ディジタルデータなどさまざまである。周波数モジュールが対象とするのは波形列のみである。
メカトロニクス機器の測定でよく使われるのが光学式と磁気式である。光学式のロータリーエンコーダは高分解能で回転角を測定するのに向いている。磁気式は水、油、ほこりや振動に強い特長を持っている。光学式と磁気式共に波形列が出力されるので、周波数測定モジュールに接続することができる。
図63.さまざまな回転センサー
機械の回転数(回転速度)を検出するのによく使われる電磁ピックアップをDL950で使う際は、電磁ピックアップの出力を下図のように周波数モジュールに接続する。回転軸には電磁ピックアップからの出力波形が最も適切な波形になる形状のインボリュートタイプの検出歯車を取り付ける。
図64.電磁ピックアップを使った回転観測
下図に実際の電磁ピックアップと検出用歯車を示す。
図65.代表的な電磁ピックアップと検出用歯車
周波数モジュール
周波数モジュール(720281)で測れる項目は、周波数、回転数(回転速度)、周期、Duty、パルス幅、パルス積算、速度である。モジュールの電気的な仕様は下表の通りである。入力は電圧信号と接点信号のいずれにも対応している。
表10.周波数モジュール(720281)の仕様概要
区分 | 形名 | 最高 サンプル レート |
分解能 | 周波数 帯域 |
入力 ch 数 |
入力 形式 |
入力 コネクタ |
最大 入力 電圧 |
最大 定格 対地間 電圧 |
DC 確度 |
周波数 | 720281 | 1 MS/s | 16 bit | 500 kHz | 2 | 絶縁 | BNC (絶縁タイプ) |
420 V (DC+ACpeak) |
400 Vrms | ±0.1% (周波数) |
周波数モジュールの構造は下図のようになっている。入力信号は電圧信号と無電圧の接点信号のいずれにも対応している。このモジュールでの信号絶縁は容量絶縁方式ディジタルアイソレータが採用されている。
図66.周波数モジュール(720281)
下図に示すように、物体に力が加わると伸びや縮みの変形が発生するため、変形した量をひずみとして測定することによって物体の状態を知ることができる。
図67.物体に力が加わった時の伸びや縮みの発生
出典:ひずみゲージ・センサーの概要と産業別分野での計測事例(共和電業)
ひずみゲージ
金属は変形すると電気抵抗が変わる。ひずみゲージはこの電気抵抗変化を利用して、ひずみを電気信号として検出するセンサーである。
図68.ひずみゲージの原理
出典:ひずみゲージ入門(共和電業ホームページ)
ひずみゲージは1938年に米国のカリフォルニア工科大学のエドワード・E・シモンズ(Edward E. Simmons)やマサチューセッツ工科大学のアーサー・ルージー(Arthur Ruge)によって発明され、ひずみゲージの基本的な原理は現在も同じである。
現在使われている汎用的なひずみゲージは下図に示すような形状をしている。
図69.現在の汎用的なひずみゲージ
出典:汎用箔ひずみゲージ KFGS(共和技報 No.556、2017年5月)
ひずみゲージは用途や使用環境によってさまざまな種類があり、ひずみゲージを選定する際にはひずみゲージメーカーのカタログに書かれた仕様をよく見る必要がある。また、ひずみゲージを物体に貼り付ける際の接着剤の選定も正しい測定をするために重要になる。
ひずみゲージは伸びや縮みを抵抗値で表すため、スコープコーダに信号として入力するには電圧値に変換する必要がある。そのためには下図のようなブリッジ回路が必要となる。
図70.ひずみ検出回路
出典:ひずみゲージ入門(共和電業ホームページ)
上図ではひずみゲージを1枚使った事例を示しいているが、感度を上げるためには2枚もしくは4枚のひずみゲージを使うことがある。
ひずみゲージはさまざまな物理量を測定するセンサーの中に組み込まれている。もっとも代表的なものは、重さを測るために使われるロードセルである。そのほかにも下図に示すようなセンサーの中にひずみゲージが使われている。
図71.ひずみゲージを使ったさまざまなセンサー(共和電業の製品)
【ひずみ測定を学びたい方へ】 |
ひずみモジュール
ひずみゲージを使ったひずみの測定やひずみゲージを使ったロードセルを使って重さの測定をする場合にひずみモジュールを使う。ひずみ測定には、ほとんど変化しない静ひずみ測定と変化が速く生じる動ひずみ測定がある。スコープコーダはいずれの測定にも対応できる。
ひずみモジュールの仕様は下表のようになる。ひずみモジュールは入力コネクタの形状の異なる2種類がある。
ひずみモジュールとひずみゲージは、ひずみ検出回路(ブリッジ)を内蔵したブリッジヘッド(701955/701956/701957/701958)で接続する。また、ひずみモジュールはフィルター(Full/1 kHz/100 Hz/10 Hzから選択)を内蔵しており、不要なノイズを除去できる。
表11.ひずみモジュールの仕様概要
区分 | 形名 | 最高 サンプル レート |
分解能 | 周波数 帯域 |
入力 ch 数 |
入力 形式 |
入力 コネクタ |
最大 入力 電圧 |
最大 定格 対地間 電圧 |
DC 確度 | コモン モード 除去比 |
ひずみ | 701270 | 100 kS/s | 16 bit | 20 kHz | 2 | 絶縁 | NDIS コネクタ |
10 V | 42 V | ±0.5% (ひずみ) |
80 dB以上 |
701271 | 100 kS/s | 16 bit | 20 kHz | 2 | 絶縁 | D-Sub 9 ピン (メス) |
10 V | 42 V | ±0.5% (ひずみ) |
80 dB以上 |
ひずみモジュールにはブリッジ回路を駆動するための電源が組み込まれているため、ひずみゲージをブリッジヘッドの端子に接続すればよい。このモジュールでの信号絶縁は容量絶縁方式ディジタルアイソレータが採用されている。
図72.ひずみモジュール(701270)
下図はひずみゲージをネジに組み込んだボルト軸力センサーである。これを使うと装置にねじ止めされた部品が十分な力で締め付けられているかを観測することができる。
図73.ボルト軸力センサーの構造
出典:ボルト軸力センサー製作/校正サービス(共和電業のカタログ)
装置に取り付けられたモーターは振動や温度変化などによってネジが緩むことがあるため、ボルト軸力センサーとひずみモジュールを使って装置の状態を観測することができる。
図74.配水ポンプのボルト緩みの影響の観測
DL350は、耐振動性規格JIS D1601準拠の小型軽量ボディーにスコープコーダシリーズと共通の18種類のプラグインモジュールから2つを搭載可能で、電圧、電流、加速度、ひずみ、温度、周波数、ロジックからCAN/ CAN FD/ LIN/ SENT通信データのトレンド計測までの複合計測を一台で行うことができます。
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200MS/s高速サンプルレート、最大8Gポイントメモリー、複数台同期で最大160CHが可能で、お客様の様々なニーズにお応えします。
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